4-41 孫娘と祖父
眠れない夜でも例外無く朝を迎える。精彩を欠いた表情を浮かべるレイだったが、周りにそうだと悟られないように表面上は平静を保つ。
身支度を済まし、世話になった小屋の清掃を行い、迎えに来たクリュネと一緒に朝食を済ますと、初日訪れた集会所へと案内された。
中にはすでに里長のブーリンを始めとして、サファやロテュス、それに幾人かのエルフたちが集まっていた。レイ達は初日と同じ並びに座った。口火を切ったのはブーリンだ。
「本来の刻限は昨日だったが、サファ殿から頼まれた故、この刻限まで伸ばしたが……エスリンの娘、エトネよ。身の振り方は決まったか。……確認しておくが、里に残るという選択はありえん」
まったく表情を緩ませる事なく、ブーリンは感情を排して尋ねた。レイは背中に視線を感じていた。まるでレーザー光線のような視線を送っていたのはリザとシアラだった。レイが初日と同じ愚行に出るのではないかと警戒されていた。
(信用無くしてるなー)
自業自得ではあるが、改めて自覚すると心にくるものがある。信用とは積み上げるのは難しく、崩れる時は一瞬だ。
ブーリンの冷たい眼光に怯むことなく、エトネは背筋を伸ばして答えた。
「こきょうの……おとうさん、おかあさんとくらしていた山にかえります」
「ふむ。……しかし、そこは人間に燃やされ、住むに難しい場所と文にはあったぞ。そんな場所でどうやって暮らしていくのだ?」
「それは山にかえってから、きめます。すくなくとも……エトネのいばしょはここじゃないです」
それは、本当の意味でエトネとエルフたちの繋がりが断たれた瞬間だったのかもしれない。ブーリンの瞳が一瞬揺らぐも、すぐに元に戻る。
「では、其方はどうやって故郷まで帰るのだ。其方の故郷はカプリコル。陸路からの入国を許さぬ鉄の国。向かうには南方大陸を一度経由する長旅となろう。よもや一人で帰るとは申すまい」
すると、エトネはレイの方を伺った。合わせるように室内の視線がレイに集まる。レイは一度咳払いをするとまず頭を下げた。
「説明をする前に、エルフの里長であるブーリンさんに謝罪を。ここに来たばかりの時、貴方に飛びかかった時の事。本当に申し訳ありませんでした」
レイは畳を見つめたまま謝罪を続けた。
「あのような行動をとったのは偏に自分の未熟さからです。今回、幸運にもサファさんのご厚意により心身を鍛える機会を頂きました。……自戒の意味を込めて剣を振る内に、自分の心の弱さと向き合うと同時に、あの時の事を深く反省しました。本当に申し訳ありませんでした!」
後ろではリザ達も同じく頭を下げていた。主一人頭を下げさせるのを善しとしなかった。
ブーリンは顎に手を当てしばし瞑想するかのように深く目を瞑った。そして、嘆息すると告げる。
「謝罪を受け取ろう。……非がこちらに無い訳でも無いしのう」
「……いま何か仰いましたか」
レイが目線だけ上を向いて尋ねると、ブーリンは慌てて首を振った。そして四人に対して頭を上げるように声を掛けた。
レイは言葉に甘えて頭を上げると、エトネからの依頼を受けたことを説明する。
「元々、僕らは学術都市に向かうつもりでいました。奇しくも、南方大陸を経由する南回りです。ゆえに彼女をカプリコルまで連れ行く依頼を受けました」
「相分かった」
短く返答すると、ブーリンは背後に控えるエルフのお偉方と言葉を二、三交わした。そして、レイ達に向きなおるとエトネに尋ねた。
「では、最後に尋ねよう。これからの旅路に置いて、何か必要な物は有るか? 路銀、装備、稀有な薬草。餞別代りに与える事もできるが……」
エトネはその返事に首を横に振り、しかし、すぐに思い直したかのように口を開いた。
「ひとつだけ、あります」
「何だ? 申してみよ」
ブーリンに促されるとエトネはおじおじと、「おはか」と言う。
「おかあさんのおはかが湖のちかくにあります。……できれば、エルフのやりかたでまいそうしなおしてください」
思わずレイは息を呑んだ。レイだけでは無い、その場に居たリザや、里の重鎮。あのサファやロテュスでさえも息を呑み、言葉を無くしていた。
一番衝撃を受けたのはブーリンだろう。彼は先程まで完璧に近かった無表情が崩れた。唇を噛みしめ、泣くまいと感情を押さえつけた。
「―――っ!! ……分かった。手厚く埋葬しよう。……骨や遺髪はどうする?」
「いらない、です」
エトネは言うと、ぎゅっと自分の胸元に手を当てる。
「おとうさんとおかあさんはここに居ます。この体の一つ一つに、ちゃんと居ます。だから、どこにいってもエトネは一人じゃない」
はっきりと告げたエトネの横顔は穏やかながらも覚悟を宿しており、美しくさえあった。こんな幼い少女のどこにこんな胆力が秘めていたのかレイには見当もつかなかった。
ブーリンは重々しく頷くと、了承した、と短く告げる。
そして、今度はレイ達に向けて視線を滑らした。萌黄色の鋭い瞳に見つめられてレイは委縮してしまう。すると、ブーリンは思いがけない行動に出た。
頭を下げたのだ。先程のレイと同じく、深々と首を垂れる。驚いてしまったレイに向けてブーリンは口を開いた。
「冒険者レイに、エスリンの父にして……エトネの祖父として依頼する。……無事に孫娘を故郷まで送り届けて欲しい」
それは初めて見せる祖父としての姿だった。里長という重責を脱ぎ去り、一人の祖父としてレイに頼んでいた。彼の意志を汲んでか、エルフたちはあらぬ方向を向いている。ただ、全員が横目でレイを睨んでいた。返事をしろ、と。無言で告げている。
「分かりました。エトネのお爺さんの依頼、確かに引き受けます」
「……すまん、ありがとう!」
ブーリンは力強く礼を言うと、顔を上げた。そこにはもう、厳格な里長としての表情が張り付けてあった。
「依頼には報酬が必要であろう。其方は何か欲しい物は有るか。少ないが金が、道具などでもいいぞ」
レイはブーリンの申し出に悩む。金に関しては不必要なほど持っている。装備などに対する欲も無かった。かといって向うからの申し出を断るのはブーリンの顔を潰す行為でもある。
どうすればいいのか悩むレイにリザが近づくと耳打ちした。
「ご主人様、馬車は如何でしょうか?」
長旅に馬車は必需品だ。無くても不便ではあるが、どうにでもできるが、あればやはり便利である。なにしろ、アマツマラでは馬車が高騰している。手に入る可能性は限りなく低い。
「ああ、それがあったか。……でも、こんな所で暮らしていると必要には思えない。持っているかな?」
切り立った壁面にしがみ付くように暮らしているエルフたちに馬車があるかどうかは不明だ。だが、それ以外に欲しい物は思いつかなかったのは事実。
レイはダメもとで尋ねる事にした。
「でしたら、馬車か何かは有りませんか? 長旅に必要なのですが、僕らは持っていなくて」
すると、ブーリンは膝を打った。
「それは好都合。……実は持て余している馬車があってな。それを其方らに報酬として前払いしよう」
言うなり、ブーリンは背後に控えていたエルフの一人に幾つか指示を出した。彼は頷くとすぐに集会所を出た。
「里の入り口に馬車を用意しよう。不服なら、突っ返してもよいぞ。その場合は金銭を報酬として用意しよう」
ブーリンは一方的に言うと、エトネの方をじいと見つめた。祖父に見つめられたエトネは背筋を伸ばした。
「エトネよ。今生で会うのはこれが最後だろう。……其方の行く先には困難が待つやもしれん。……体に気を付けろ」
それは不器用ながらも、祖父からの別れの挨拶だった。受け止めたエトネは頷いた。
「……お、おじいちゃんも体にはきをつけてね」
エトネが言うと、ブーリンは目頭をきつく瞑る。これもまた、孫から祖父への別れの挨拶だった。二人は互いを祖父と孫と思い、言葉を交わした。千切れそうなくらい細いが、確かに絆はあった。
「これを……僕らにくれるんですか?」
レイは驚きのあまり、口を開けてしまう。
集会所を後にしたレイ達は鉄製の扉を潜り、螺旋階段を昇りエルフの隠れ里の入り口まで戻ってきた。見送りに来たのはサファとクリュネ、それにロテュス。彼女ら以外にも、数人のエルフが見送りに来ていた。彼らの目当てはリザ達だった。レイの知らないエルフたちはリザらが五日間の間に世話になった人たちだ。見送りに来てくれた。
そして、それらとは別に目を引く物があった。幌馬車だ。どうやって螺旋階段を通せたのか分からないが、高さが三メートル、縦が五メートル、横幅が二メートル半とそれなりに大きい馬車がでんと置かれていた。
「戯け。あげるのではなく、報酬として支払うだけだ。きっちりと娘御を故郷まで連れて行けよ」
サファが呆れながら訂正を入れた。そして彼はレイに対して、後方の幕を開けて見せた。レイが覗くとそこは普通の馬車の中だった。ただし、面積がいささか広かった。少なくとも、パーティーが五人と、それに見合った物資を積み込んでもまだ余裕があるはずだ。
「あれ? 僕の見間違いですか? なんか、中と外見の広さが違う様な」
「いや、童の見間違いでは無い」
困惑したレイに対してサファは幌馬車の秘密を説明する。
「床板に仕掛けがあってな。エルフの魔法陣が刻まれている。効果は《拡張》だ。外見よりもいささか広くなっている。微量の魔力で十分だから、大地を走る限り、効果が切れる事は無い。そして、これが重要だ」
言うなりサファは幌馬車に触れた。
「《リダクション》」
すると、馬車は輝き、あっという間に大きさを縮めてしまう。それこそ片手に収まるサイズになった幌馬車をサファは摘まむとレイに渡した。
「な、何なんですか、これは!?」
掌に乗っかったミニュチュアは確かに先程の幌馬車だった。サファは説明を続ける。
「見ての通り、魔道具だ。名を雛馬車。もっとも、大したことには使えんぞ。見ての通り大きさを変える程度だ。小さくしたければ、《リダクション》。大きくしたければ、地面に置いてどこでもいいから触りながら唱えろ。《エクスペンジェン》とな」
レイは言われた通り、ミニュチュアサイズの馬車を地面に置くと詠唱した。
「《エクスペンジェン》!」
今度は先程の逆再生を見ているかのように馬車が拡大した。どうやってこのサイズの馬車が狭い螺旋階段をすり抜けたのかの謎は解けた。
「こんな便利な物を頂いていいんですか」
「構わんぞ。元は千年前の大移動で使った物の一つだ。……行く当てのないエルフにとって、これは既に不要な物だ。……注意すべきなのは二つ。一つは、縮小される際、中の物も同じく縮小される。だが、魔法の効果が適用されるのは馬車の中のみ。縮小された物が吐き出されたら、入れ直す必要がある。それと、生き物を入れたまま大きさの変更は出来ない」
「それじゃ、水や食料はいちいち出す必要は無いんですね」
サファはレイの確認に肯定すると、クリュネを呼んだ。彼女は呼ばれた理由を察すると胸元に提げていた笛を吹いた。ピィーと、甲高い音が森に響く。
「あれは、何をしてるんですか」
「馬車なら、引くための動物が必要だろ?」
「え? そんな、それぐらい自分で用意しま……何だ、この音?」
慌てて断ろうとしたレイだが、聞こえてくる音に言葉を中断する。森のどこかから、どたどたと足音が響く。
「キュー、キュー!」
甲高い鳴き声を出しながら、木々をすり抜けて姿を見せた。
背の高さは、二メートルはあるだろう。一見すると鳥のような羽毛が全身を覆うが、短くとも太い足が四本ある。黄色の体毛に所々紺色が混じる、不思議な生命体が居た。
「うわぁぁ! ニチョウだ!」
最初に反応を示したのはレティだった。彼女は歓声を上げると、躊躇うことなく四本足の鳥へと飛びついた。羽毛は量が豊富なのか、レティの小さな体が沈んでいく。おずおずとエトネも続いて、柔らかそうな羽毛に飛び込んだ。
「な、何ですかあれは!? モンスターなんですか?」
「あれはニチョウ。一応、動物だ」
サファは太めの鳥を指差しながら説明を続けた。
「基本的には卵を産んだり、羽を素材として使ったりと荷引き以外に使われているが、見ての通りの巨体。あれだけで馬二頭分の力を持つ。ゆえにニチョウと呼ばれている。臆病な性格だが、四本の足を巧みに使う事でどんな悪路も踏破する優れ者だ。いまだって、洞窟内から垂直の崖を駆けのぼって此処に来た」
「へぇー。なんだか抜けたような顔をしているのに、大したもんですね」
感心しつつレイがふわふわの羽毛に触れようと手を伸ばした。それに気づいた周囲の者達は彼を止めようとする。しかし、遅かった。
「キュィー!」
ニチョウはつぶらな瞳を吊り上げると、レイの手をはたき落した。それだけでなく、尖ったくちばしでつつこうとさえする。たまらずレイは距離を取った。
「な! こいつ、攻撃してきましたよ。どこが臆病なんですか!」
「……こいつが食用として使われている最大の理由はな。男嫌いにある」
「……どういう事なんですか?」
レイは思わず聞き返してしまう。
「つまりだ。この動物は女にしか世話されたくないし、言う事も聞かない。それに先程の笛。あれはニチョウが成長した際に落とす嘴を加工した笛だが、男が吹いても反応しない」
「それはまた、扱いにくい動物ですね」
ずんぐりとした鳥はリザやシアラが触れる事には何の抵抗も示さない。それどころか、どこか嬉しそうに喉を鳴らす。だが、時折威嚇するようにレイを睨んだ。どうやら敵として認識されてしまった。
「食事は雑食だ。肉も喰うし、草も食う。どうだ、連れて行く気になったか」
サファに言われてレイは悩んでしまう。昨晩は思いつかなかったが、馬車の数が足りていないアマツマラで果たして馬の確保が可能なのか。馬車だけあっても意味は無い。
幸いと言っていいのか分からないがレイのパーティーは女性が多い。レイは羽毛に埋もれているリザ達に声を掛けた。
「皆はどう思う? 世話とか全部皆に頼むことになっちゃうけど」
「あたしは問題ないよー」「だいじょうぶ」
レティとエトネは直ぐに返事をした。リザとシアラも判断はレイに任せると返す。
「今のアマツマラで馬車と馬が両方揃うかどうか分かりませんので、助かります。ですけど、どうしてこれほど良くしてくれるんですか? 僕は里長にあんなことをしたのに」
彼には自分がここまでしてもらう理由が思いつかなかった。すると、サファが困った風に頬を掻く。今までの泰然とした態度からでは想像できない程困っている。
「正直に話そう。……実はあの日。貴様が里長と初めて会ったあの時、一つ罠を仕掛けたのだ」
「……罠ですか」
怪訝な顔をするレイにサファは自白剤として使われる植物を香として使った事を話した。
「じゃ、じゃあ僕のあの行動は……」
「……こちらの罠に掛かった事になるな」
レイは開いた口が塞がらなかった。あれほど、軽率な行動をとった事を恥ずかしいと思っていたら、まさか薬を嗅がされていたとは。
怒りは込み上げなかったが、疑問は湧いてきた。
「何でそんな事をしたんですか、里長は?」
「母を亡くしてしまった雑種の孫娘を置いておけない事は、最初から分かっていた。かといって孫娘に何もしてやれないのも不憫と考えたブーリンは、お前に白羽の矢を立てた」
レイは思わず自分を指差した。
「そう。どう見てもお人好しにすぎん貴様の本性を暴き、問題が無くなおかつ、孫娘と行動を共にするなら支援する腹積もりだった。それがまさか飛びかかるは弟子入りを志願するは。何だ貴様、虫か何かなのか?」
揶揄するようなサファに対してレイは何も言えないでいた。確かに薬のせいで理性が緩んでいたかもしれないが、レイの側にも問題があったのは違いない。虫呼ばわりされても否定はできなかった。
代わりにニチョウを指差して告げた。
「それじゃ、ありがたくあのデブ鳥を頂きます」
「キュ、キュィー!」
レイの言葉を理解したのか、ニチョウはけたたましく鳴いた。
「この鳥って名前はあるんですか?」
レティがクリュネから笛を貰う際に尋ねると、彼女は首を横に振った。食用目的で飼育されていたのだ。名前は無い。
「ねえねえ。名前を決めても良い?」
「阿保鳥じゃダメなの?」
レティはレイに向けてひどーい、と返した。ニチョウもまた不機嫌そうにないた。すると、その鳴き声を聞いたエトネがポツリと呟いた。
「……キュイはどう?」
「キュイかー。うん、いいと思うよ! ご主人さまはどう思う?」
「何だっていいよ」
興味が無かったレイはぞんざいに返す。不満そうに頬を膨らませるも、レティは機嫌を直してニチョウ―――キュイに飛びついた。
「貴方のお名前はキュイね。よろしく、キュイ」「……よろしく」
「キュ、キュ、キュ。キュィー!!」
レティとエトネにしがみ付かれたキュイは上機嫌に鳴いた。
「後は……ああ、これを忘れていたな。娘御。こっちに来い」
サファは何かを懐から取り出すとエトネを呼ぶ。彼女が警戒しつつも近づくと、首にペンダントを付けた。細い鎖には台座が通してある。そこにはエルフの髪色と同じ緑色の宝石が小さく輝いていた。
「エルフの守りだ。肌身離さず持っていろ。……生活に困った時はこれを売るといい」
「……ありがとうございます。たいせつにします」
エトネは頭を下げると、合わせてペンダントも揺れた。
すると、ロテュスが空を見上げて口を開いた。
「さて、そろそろ行かないかしら」
その言い方にレイは首を傾げた。不思議なのは言葉だけじゃない。何故か、彼女は荷物を持っていた。まるでこれから旅に出るかのような装いだ。
「もしかして、ロテュス様も旅立たれるのですか?」
リザがレイの代わりに尋ねると、そうよ、とロテュスは返した。
「忘れたの? 私はもともと貴方たちを連れて帰るのを依頼されていたのよ。だから、私も一緒に帰るの。それとも、私が一緒だとご不満かしら?」
「そんな! とんでもありません!!」
レイは首が千切れそうなぐらい横に振った。何しろ、この辺りはまだ危険地域。下手に動けば超級モンスターと出くわすリスクがある。エトネの鼻があるとはいえ、強力な助っ人の存在はありがたい。
レイは馬車を小さくするとコートのポケットにしまう。森を突き抜ける街道に出るまでは邪魔なだけだ。
キュイは笛を持ったレティの誘導に従う。鞍でもあれば人の一人や二人乗せる事の出来そうな巨体である。アマツマラに戻ったら探してみる事に決めた。
「それじゃクリュネさん。本当にお世話になりました。ブーリンさんにもよろしくお伝えください」
「気を付けてくださいね、レイさん。それにエトネ。貴女も元気でね」
別れの言葉を告げたクリュネはエトネを力強く抱きしめた。エトネは黙って頷くだけだったが、萌黄色の瞳に涙が浮かぶ。
リザ達も世話になったエルフから別れの言葉を受け取っていた。その輪から少し離れた所でサファがレイを手招く。
「それで、貴様はこの先どうする気なんだ」
何を問われているのかレイは瞬時に悟る。この質問は『七帝』の一体、『守護者』から『招かれた者』であるレイに対する質問だ。
彼は一度呼吸をして心を落ち着かせると応えた。
「まだ、正直なところ分かりません。本当にこの世界が滅びるのかどうか、それが『七帝』のせいなのか。……クロノスの言う事を全てうのみにはできません」
そこでレイは言葉を区切ると、サファを正面から見つめた。
「だけど、もしも、貴方を倒さないと世界が本当に滅びるなら―――その時は全力で貴方を倒します」
「―――っは! 童が一丁前に吼えよる。……その時を楽しみにしているぞ……レイ」
レイは初めて名前を呼ばれた事で驚いてしまう。その隙を突くかのようにサファは里の入口へと向かう。もう用は無いと言わんばかりの態度だ。
「主様! そろそろ行こうかってロテュス様が言ってるわよ!」
「分かった、今行く! ……お世話になりました、サファさん!」
レイは去りゆく背中に向けて深々と頭を下げた。最強のエルフは振り返りもせずに手を上げて応じた。そしてレイは待たせている仲間の元へと走った。
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