草原
目覚めると目の前には白目のない大きな瞳、そしてタコように大きな頭をした銀色の生物が写る。
「うわぁーー!!」
それは今年で七十を迎えたジョンに人生で一番の驚きを与えた。
「大丈夫ですか? 急に動いたら危ないですよ」
「ち、ちかよるなぁー!」
腰を抜かしながら、そんな言葉を発したが、頭は冷静でまともな事をいう化物だとこの時、ジョンは思った。
そんな冷静さも相まってジョンは自分のいる場所を見渡す。
空は澄んでおり、雲は絵に描いたようで、青々とした緑の香りが荒ぶる心を穏やかにする。
「あの~、怪我してるみたいなんであまり動くと危ないですよ」
そう改めて化物は話しかけてくる。
言われて気付き全身を打ったように痛みが走る。
「一体なんだ、お前は」
痛みと恐怖で震える声を押さえながらジョンは気丈に振る舞う。
「私? 私は宇宙人です、あなたは?」
(うちゅうじん?)
確かに全体を見てみると大きな頭に白目の無い瞳、銀色の肌をした人形の生物、我々が考える宇宙人というフォルムである。
(そもそも宇宙人が自ら宇宙人と名乗るのか? 第○惑星の△△星人みたいに名乗るのでは無いか?)
そんな答えの無い問題をひたすらに考える。
「あの~、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ…」
「とても大丈夫には見えませんが」
確かにこの化物がいうとおり全身が痛く大丈夫では無い。
「私のこの光線銃で撃てば治せますよ」
「そんな事、信用出来るか!」
突然出てきたのは、いかにもな光線銃。
先端が丸く銃身に輪っかのような物が三つ付いている。
「じゃあ、どうしますか?」
この質問に対する答えは持ち合わせておらず、疑いながらしぶしぶ質問を返す。
「本当に治るのか?」
「はい」
こんな状態では立ち上がり動くのもままならない為、背に腹は変えられず「…分かったお願いする、お願いするが決して余計な事はするなよ」と強く念を押した。
すると化物は「分かりました」と光線銃を構え、放った。目に見える程の濃い黄色がジョンへ当たり全身に電気が走る感覚に陥った。
(やはり騙された! このまま殺される)
「うわぁーー!! もういいやめてくれーー!!」
大声と共にジョンはまるで駄々をこねる子供のように地面で暴れ回る。
「大丈夫ですよ、もう治ってますから」
「うわぁーー!……、おぉ! 本当だ痛みが無い!」
全身の痛みは嘘のようになくなっており、ジョンは先程の振る舞いを恥ながら立ち上がって、ストレッチをするかのように身体を大きく動かし、その効果を実感していた。
「それは良かったです…えぇっと、そういえば何てお呼びすれば?」
「私は…そう人間だ!」
向こうが宇宙人と名乗るならこちらは人間、そう名乗るのが無難であると考え、ジョンは答える。
「にんげん…、やっぱり! 人間なのですね!」
相手のテンションが高くなり不安になった。
(仮にここが別の星だとして人間と名乗るのは失敗だったか)
「会ってみたかったんですよ! 人間に」
だが興味津々で話しかけてくるこの化物から敵意は一切感じない。むしろその逆で好意的であるとさえ思う態度である。
「みんなもきっと会いたいと思うので良かったら僕の家へ来て下さい」
宇宙人の家、興味がないといえば嘘になる。
だが好奇心で引き際を間違えれば死ぬ事になるだろう。
「私は興味がないので失礼するよ」
「えぇ~、そんなぁ…」
あからさまに落ち込む化物を尻目に私はその場から逃げるように立ち去る。
「いつでも来て下さいね~! 待ってますからね~!」
小さくなっていく化物の言葉を背に私は早足で草原を抜けた。




