憑身、飛縁魔 VSワーラプチャー
【ダンジョンの秘密①】
日本がダンジョン化して5年経つが未だ未開拓の場所は多い。
「ひ、飛縁魔?」
「知らないよね、私って…あんまり有名じゃないから」
「いや…知ってるよ。母さんが妖怪好きでね。よく妖怪図鑑とかを一緒に読んでたから…」
「本当!嬉しいわ!」
飛縁魔は自分の名を知ってくれた嬉しさで春明に抱きつく。
「そ、そうか…だったは……頼みがある」
「……何?」
「回復…緑色の文字が書かれた符をくれ……首からの出血がそろそろヤバい」
「あっ、ごめん忘れてたァ!」
折角フレイムサキュバスを止める事が出来たのに危うく失血死しそうになる春明だった。
「ハアッ、ハアッ…よし、視界のぼやけはまだあるがこれで何とか動ける」
回復の符で首と腕の傷口を治し、なんとか立ち上がる事ができた春明は割座の座り方で彼の傷が癒えるのを待っていた飛縁魔に手を伸ばす。
「そう言えば名乗ってなかったな、俺は導寺春明。お前も一緒にここを出ようぜ。このままここにいても危ないからな」
「良いの?私、こんな羽あるからみんなに怖がられない?」
「大丈夫だって、その時は衣装だって誤魔化しとくからさ」
「やっぱり優しいのねあなた…でも大丈夫!」
「え?」
春明の驚きをよそに飛縁魔が指をパチンと鳴らすと彼女の背中の翼が途端に消えていった。
「わ!消えた!」
「これでも私、人間とそっくりの姿にもなれるんだから!さっきのはちょっとからかっただけ」
「全く…」
イタズラに舌を出す飛縁魔に呆れの言葉が春明から漏れる。
「そうだ、なんでお前はあんな…」
春明がフレイムサキュバスについて聞こうとした瞬間…ドガァン!と地面を破壊する音が辺りに響きわたった。
「今の音は!?」
「あいつらが逃げた方向からだ!俺は行かせてもらうぞ。あいつらは助ける気はないが利亜が心配だ!あんたはここで待っていろ!」
「何言ってるの?私も力になるわ!助けてくれた礼はいっぱい返さないと!」
「ッ!そうか、ありがとう!」
「ええ」
飛縁魔の助力に春明は礼を言いながら音のした方に向けて走り出した。
「pigyuaaaa!」
「ハアッ、ハアッ、嫌!来ないで!」
利亜はただ一人、巨大な鳥人のモンスターから逃げていた。
モンスターの力はフレイムサキュバスの比ではなかった。岸破を殴り飛ばすとモンスターは腕を力強く振るって全員を吹き飛ばし、その中で体勢を大きく崩したあき子に拳を叩きつけ、それに怖気付いて逃げようとした残りの二人を見つけると今度は彼らには何発も拳を振り下ろした。その隙に利亜は慌ててモンスターから距離を取り続けたがモンスターは満足したのか彼らを殴り終えると今度は利亜に雄叫びをあげながら拳を力いっぱい振り下ろしたのが見えた彼女は咄嗟に重たい盾を投げ捨てて避けると、モンスターの拳はドガァンという音を立てて地面を砕き、利亜が投げ捨てた盾は粉々に砕け散っていた。
「そんな…私ここで死んじゃうの?」
その光景に彼女は腰を抜かし、慌てて後ずさる姿を見たモンスターはまるで獲物を弄ぶかのようにゆっくりと彼女との距離を縮めていく。
「pigyurrrr…」
「待って…私、まだ……」
刻一刻と迫り来る死に怯える彼女の脳裏には短い間だが自身と行動を共にしたあの符術師との思い出が走馬灯のようによぎっていく。
凶悪なモンスターでも元の姿に戻していた優しい姿とフレイムサキュバスに噛まれているあき子を救おうとしたあの凛々しい姿を思い出しながら利亜は一縷の望みをかけて声の限り叫ぶ。
「助けて!春明さん!!」
「pigyuaaaa!」
その望みを無惨にも打ち壊さんとモンスターは利亜に拳を振り下ろす………
瞬間だった。
「『大岩槍符』!!!」
「ッ!」
「pi?pigyaaaa!!」
利亜の足元の地面から巨大な岩の槍がモンスターの左脚を貫き、モンスターが雄叫びをあげる。
「今のって……」
「利亜っ!」
利亜が声のした方を見るとそこには首元の噛み跡が綺麗さっぱり無くなった春明と自分たちが戦ったフレイムサキュバスと雰囲気の似た女性が駆け寄ってきた。
「…あのモンスター、どこかで見た気が……」
「大丈夫か?」
「ええ!春明さんも無事だったんですね!」
「あぁ…そこの彼女のおかげで助かったんだ。名前は…えーと……なんて言えばいい!?」
「え!?そんなの飛…じゃなかった!縁!火羽縁よ!」
痛みに悶えているモンスターのことを思い出そうとする飛縁魔の横で、流れで彼女の妖怪としての名を出そうか迷い始めた春明に呼ばれ飛縁魔が代わりの名を出して場を納める。
「どちらにしても問題はあのデカブツね」
「多分入り口で言ってた正体不明のモンスターだと思う。他の4人もあいつに?」
「うん、私も盾を壊されて…」
「そうか。それだけ聞ければ充分だ。ちょっと失礼するぜ」
「え?ちょっ!?」
春明は未だ立てずにいる利亜を背負うと飛縁魔…縁と共に走り出す。
「どこ行くの!?あのモンスターに追いつかれちゃうよ!」
「場所を変えるんだ!開けた場所で戦うのは不利すぎる!」
「でも狭い建物の中なら瓦礫とか危なくない?」
「……どちらにせよだ。気合いで避ける」
「無茶よぉ!」
「ッ!?春明、上!」
「何っ!」
下の影に気付いた春明が上を向くと先ほどまで痛みに悶えていたモンスターが岩の槍が脚に突き刺さったまま3人へ飛びかかりながら拳を振り上げる。
「マジか!避けきれない!」
「春明!彼女を離さないで!」
咄嗟の事態に縁が羽を広げると春明を掴み、勢いよく飛び立つと同時に先ほどまで3人のいた場所をモンスターの拳が叩き割っていた。
「危なかった…みんな無事?」
「ああっ、ありがとう飛縁魔!」
「え?背中から翼…新しい魔法なの?」
「今説明してる時間はない!早く最適な建物を探さないと…」
「pigyurrr…」
その光景を見ていたモンスターは拳が敵に届かないと判断したのか大きく深呼吸をすると、今度は何かを吸い込むように大きく息を吸い始めた。
「っ!?飛縁魔、そこから離れr…」
モンスターが何かをしているのを横目で見た春明が慌てて縁に話そうとした瞬間、モンスターの口から放たれた巨大な台風が3人を巻き込んだ。
「「キャアアアアァッ!!!」」
「グアアアアアァッ!!」
3人は台風の流れに逆らえずその先にあったショッピングモール跡地の3階の服屋の壁に激突し、春明の持っていた符であったものが辺りへと散らばる。
「カハッ!」
「グフッ!」
「ガッ!」
3人は壁に激突した勢いで空気を思い切り吐き出しながら倒れた。
「ハアッ、ハアッ…ごめんみんな、すぐに気づけなくて……」
「大丈夫よ、ここまでみんな無事だった事が奇跡だったんだから」
「こんな力があったなんて……あのモンスターの情報とかないのかな?」
3人はなんとか倒れた身体を起こし、利亜は専用の端末を開いてモンスターの情報を得ようとする中、春明は持っている符を懐から出すと残りの数を数え始める。
「残り10枚…か。1枚は悪鬼調伏で1枚は全く使えない奴だからそれを除いて8枚か。殆どさっきの風で吹き飛んだかバラバラになっちまったかぁ」
「あのモンスター、どこかで見た記憶があるのに思い出せない!」
「2人とも見て!」
一方の縁は何とかあのモンスターのことを思い出そうと四苦八苦する中、利亜がお目当ての情報を見つけたのか、2人に端末を見せる。
「ついさっき出た情報よ!」
そこに書いてあったのはダンジョンを管理している会社からの発表で先ほど春明たちを吹き飛ばした鳥人のモンスターの名をワーラプチャーと呼称して情報の提供を新たに求めるという記事だった。
「何が情報を求めるだ!今欲しいのはこいつの弱点だってのに!」
「ワー…ラプチャー……」
春明が記事を見て文句を言う中、モンスターの名を聞いたことで縁の脳裏に一つの記憶がよぎる。
『あなたの名はワーラプチャーよ。良い名前でしょ?』
そこは暗い檻の中、自分とは違う誰かが作り替えられたであろうモンスターに1人の女性が名をつける記憶だった。
「春明!百鬼調伏の符よ!」
「え?」
「な、何!?」
「思い出したの!あのモンスター、私と同じ妖怪だった!だからその符を使えばきっと元に戻せる!」
「……わかった。だけどチャンスは一回だ。絶対にしくじれないぞ」
「え、妖怪?戻す?どう言うこと?何がいったいどうなっt…」
「pigyuaaaa!」
二人の会話に状況がわからずに利亜が聞こうとした瞬間、3人を追いかけてきたであろうモンスター、ワーラプチャーがショッピングモールの跡地の壁を破壊して雄叫びを上げる。
「キャア!」
「来たわね、私が囮になるわ、春明は悪鬼調伏の準備をして!」
「ああ!」
その雄叫びに驚く利亜をよそに飛縁魔は隙を作るため、近くにあったマネキンを手に取り、落とすように投げ飛ばす。
「pigya!pigyaa?」
そのマネキンはワーラプチャーの頭に綺麗にぶつかり、どこから落ちたか確認しようと上を見ると縁がそこにいた。
「やーい、ここまで来なさいノロマ!」
「pigyu?pigyuaaaa!」
舌を出しながらの発言に自分を挑発していると気付いたワーラプチャーはサーキットモールの廊下を梯子代わりにして吹き抜けを通って縁のいる階へと手が届く。
「させないわよ!」
「pigyu!」
が、そこから顔を覗かせた瞬間、縁の飛ばした炎の羽がワーラプチャーの顔や手にダメージを与える。
「落ちなさい!」
「pigyua!」
トドメとばかりに彼女からのドロップキックを顔面に受けたことでワーラプチャーは態勢を崩したことで音を立てて地面へと落下する。
「今だ!」
それを好機と見て、右手に悪鬼調伏の符をつけた春明は3階の廊下から飛び降り、ワーラプチャー目掛けて右手を伸ばす。
「pigyuaa!」
「なっ!?」
だがワーラプチャーの振り回した右腕が春明に直撃し、春明の身体は大きく吹き飛ぶ。
「春明さん!」
「春明!」
その光景を見ていた2人が同時に叫び、縁の方は慌てて春明の吹き飛んだ食料品売り場へ飛び、春明を起こそうとしている中、ワーラプチャーは再び大きく息を吸い込み始める。
「2人とも!あのブレスが来る!」
「嘘!?」
「やばい!」
利亜の声に気づいて2人が慌ててその場を離れようとした瞬間、再びワーラプチャーの放った台風が2人に直撃した。
「pigyu、pigyu……」
「そんな……嫌ァァァ!」
利亜の悲鳴が辺りに響く中、一陣の風が通り抜けると、ワーラプチャーは力を使いすぎたのか動けずに深呼吸を続ける一方で2人のいた場所は既に原型を保っていなかった。
食品を置く棚だったものは残骸と化し、壁は吹き飛ばされ、地面は激しく抉られる中、2人の姿はまだそこにあった。縁を庇うように立った前には利亜を助けた時に春明が使った岩の槍の残骸が散らばっており、咄嗟の盾代わりに春明が使ったのが間に合ったのである。
「ハアッ、ハアッ…グフッ!」
「ウ…ウウッ」
それでも致命傷を受けずに済むのがやっとで2人は風によって切り裂かれた肌から夥しいほどの血を流していた。
「大丈夫か、飛縁魔?」
「それはこっちのセリフよ。何で不用意に近づいた私なんかを庇ったの?」
「……考えてもなかったことに答えられるか」
「そう………」
「だけど状況はもっと酷いことになっている。これで身を防ぐ奴を無くなったし、残りの符も…あと3枚しか……」
その時、春明が手に取ろうとした符の1枚が滑り落ち、縁の前に落ちる。
「この符は…」
「百鬼憑身符…使った感じ、張り付けたものに魔力を取り込ませる感じのやつだ。まさかそれが残るだなんて…」
「残っちゃ駄目な奴なの?」
「前にこれを使って絡繰にダンジョンの魔力を取り込ませた時に暴走したから使えなかった1枚が残ってただけだ。呼べる絡繰もないのにどう使うっt…」
「そんなことないわ…」
「え?」
「私が魔力の代わりになる!だからあなた自身にそれを使って!」
縁は百鬼憑身符を手に取ると、両手で春明の右手を握る。
「そ、そんなことして大丈夫なのか!?もし失敗したら……」
「良いの!今の私ならきっとあなたの力になれる、そう確信してる自分がいるの!だから…お願い」
「ッ!………わかった、信じるぞお前の力!力を貸してくれ!飛縁魔ッ!!」
「ええ!」
「行くぞ!『百鬼憑身』!!!」
その瞬間、符の文字が光輝き2人の身体を包み始めた。
「pigyur!?」
その気配に真っ先に気付いたのはワーラプチャーだった。呼吸を整え、上にいる利亜の元へ跳ぼうとした瞬間、先ほど風のブレスを吐いた方から流れてくる何かを感じ、それを警戒して拳を握った瞬間、炎の翼を羽ばたかせた'何か,が自身を蹴り飛ばしていた。
「pigyua!」
「い、今のは誰が!?」
利亜が驚きながら炎の翼を羽ばたかせる人物を見る。
「これが、百鬼憑身の、いや…妖怪の力なのか……」
「は、春明さん……?」
そこにいたのはフレイムサキュバスを思わせる炎の翼を背に生やし、髪全体がメッシュにしかしてなかった赤髪になった春明の姿であった。
その力に驚いていたのは春明自身もだった。
ダンジョンの魔力を妖怪の力に絞っただけでこのような力を得るとは思わず、自身の背から生えた翼を見て驚くことしか出来なかった。
『来るわよ!』
「pigyuaa!」
「ッ!」
身体の中から縁の声が聞こえると同時にワーラプチャーが襲い掛かり、春明は上に避けるとワーラプチャーの身体はモールの店に突っ込む。
「すごい…力が湧き上がる!行くぞ飛縁魔!あいつを止める!」
『もちろんよ!』
「pigyuaaaa!」
「喰らうか!ハアアアアッ!!」
先ほどのことで激昂したワーラプチャーが再び襲い掛かるが、春明は冷静に翼に力を入れて羽ばたかせるとそこから熱風が放たれ、ワーラプチャーに直撃する。
「pigyu!」
「行くぞ!」
ワーラプチャーが熱風に怯んだ隙に春明は再び右手に悪鬼調伏の符を張り付けるとワーラプチャーに向けて飛びだす。
「pigyuaaaa!」
「クッ!」
だがワーラプチャーも近づかせまいと春明に向けて次々と拳を繰り出し、彼もそれを避けるために距離を取る。
「このまま近づいたら拳の餌食だ!」
『だったらどうするの!?』
「こうなったら賭けだ。あのブレスが来るまで時間を稼ぐ!」
『あの風を!?』
縁の驚きをよそに春明たちは翼を羽ばたかせると再び熱風をワーラプチャーに喰らわせる。「pigyua!」
ワーラプチャーは今度は腕を盾代わりにするも熱風の勢いにどんどん後ろへと退いていく。
「クウッ!」
だが春明にもフレイムサキュバスとの連戦が響いたのか疲れが現れ始める。
『無茶よ!限界が来るわ!!』
「それでも良い!あいつが、あのブレスを吐くまで!」
「pi…gyuaaaa!」
その疲れで熱風が弱まった隙を狙い、ワーラプチャーが腕を奮って熱風を払い飛ばすと、今度こそ吹き飛ばそうと再び息を大きく吸い始める。
「今だ!」
「え?何で離れるの!?」
春明はその隙に利亜の驚きをよそにワーラプチャーから大きく距離を取るとそれぞれの靴の裏に2枚の符を貼り付けるとショッピングモールの天井に左足を設置する。
『何する気!?』
「これで…決める!」
「piii…gyuaaaa!」
「行くぜ!『上翔天』!」
ワーラプチャーが風のブレスを吐き出すと左靴に張り付けた符の力で勢いよく飛び出し、そのまま台風の目からその中へと高速回転しながら入り込む。
「そんな!?春明さん!春明さーん!」
「pigyu!」
ワーラプチャーも勝ちを確信したかのようにをブレスを吐き続け、そして風が霧散した瞬間、先ほど風の中へと突っ込んだ春明が符を張り付けた右足を自身へと蹴り込んでいた。
「『悪鬼調伏』!!でりゃああああ!!!」
そして春明のキックが決まるとワーラプチャーは大きく後ろに退きながら符に書かれた文字が無数にワーラプチャーを包み始めた。
「春明さん!」
「俺は大丈夫だ!」
上から聞こえた利亜の声に気付き、手を振る春明の中から縁が文句を垂れる。
『とんだ無茶をしてくれたわね、まさか風の中心で風と同じ方向に回って凌ぐなんて、知識で持っててもできる人なんかいないわよ」
「まぁ、下手に近づいて警戒させるより大技に突っ込んで油断したところに決めることしか思いつかなかったのは悪いな。それにしても……まさかこんな妖怪だったとは」
そうぼやく春明の下にいたのは蛇のように長い尾を持った巨大な鳥の妖怪だった。
「……カハッ」
「良かった、生きてたか。よっと」
その妖怪が息を吐き出すのが聞こえた春明は妖怪の身体から飛び降りる。
「グフッ!ガハッ!」
「キャッ!」
だがかなりの無茶が祟り、百鬼憑身で取り込んでいた縁が春明の中から弾き出さた。
「ちょっと!危ないじゃない!」
「ご、ごめんって!」
「え?何が…どうなってるの?」
縁が春明に怒り、利亜が目の前の状況を飲み込めず困惑する中、ワーラプチャーだった妖怪が口を開いた。
「俺は…助かったのか?」
「ッ……そうよ、私と同じね」
その声が聞こえた縁が春明への怒りを収め、妖怪へと話しかける。
「私は飛縁魔、あなたの名は?」
「俺の名は…以津真天……そうか、俺は、元の姿に戻れたんだな」
自身のことを以津真天と名乗った妖怪は自身の姿を取り戻せた喜びからか両目から大粒の涙を流していた。
「だけどこのままじゃ他の人たちにモンスターと勘違いさせられるわ。人間の姿になることはできる?」
「あぁ、少し待ってろ」
そういうと以津真天は涙を流し終えると妖怪らしい特徴をどんどん人間へと変えていき、1人の男の姿になった。
「これで良いか?」
「ええ、それで良い……って良くないわよ!裸じゃない!」
だが元から服を着てなかった妖怪が人間になったからか彼の姿は一糸纏わぬ姿であった。
「何も着てなかったの!?」
「ダンジョン内でも公然わいせつは適用されるんだぞ!」
「ア!?妖怪の時に服なんざ入らねえし、そもそも人間の姿なんざこれが初めてだ!」
「は、早くこれを着てください!」
上から様子を見ていた利亜が慌てて後ろの服屋からなんとか着れそうな服を見繕って以津真天の顔面へと投げつけていた。
「ワプッ!そんな勢いよく投げるかよ!」
「…全く……」
「…フフッ」
急に投げられた服に驚く以津真天に縁は呆れる一方で春明はその光景を見て軽く笑みを漏らしていた。
「へぇ、モンスターが妖怪に戻るだなんて……」
その光景をもう1人、4人から気取られぬまま謎の女性が傍観していた。
建物の陰に隠れ、その全貌は見えないが彼らに興味と警戒が混ざったような視線を覗かせ、そして春明の方に視線を向ける。
「計画の邪魔になりそうなら、今ここで……」
「おーい、無事かぁ?」
謎の女性が春明に掌を向けた瞬間、他の冒険者の声が聞こえ、彼女は諦めたように手を下ろす。
「運が良いね。君たちは」
そう言いのこすと彼女は自身の後ろに人1人入れるほどの穴を開き、その中へ入ると彼女の姿は消え、そして一瞬の間を置いて黒い穴は跡形も残らず霧散した。
「おーい、無事かぁ?」
「何だ、新たな敵か!?」
冒険者の声に慌てて服を着終えた人間の姿の以津真天は警戒し、後ろへと下がる。
「いや、この声なら知っている」
そして先ほどまで戦場と化していたショッピングモール跡地に5人の人影が入ると、リーダーであろう鍛えられた肉体を持った壮年の男が春明の姿を見つけると驚いたように声を上げる。
「春明!お前もいたのか!?」
「あぁ、全部終わったよ。武行さん」
こうして春明の知人がリーダーを務めるパーティーに連れられ、フレイムサキュバスとの戦いから端を発した命を賭けた激闘から春明たちは帰還することとなった。
次回、安寧と暗躍




