変わり果てた世界と他称役立たず符術師 VSフレイムサキュバス
現代ダンジョン×妖怪ものを新たに書いてみました。
よかったら見てってください!
「千年以上先の未来、どこかでお主たちに辛い試練が待ち受けているのが見えた」
1005年10月31日、ある老人が寝間にさまざまな異形の存在を集め、そう言った。
「だったらどうするっていうんだ!まさか俺たちにそのまま死ねというのではないだろうな!」
それに対して異形の一体が放った一言を皮切りに次々と異形の集団が老人に向けて不安や怒りを垂れ始めるが老人は冷静に右手を前に出すと、異形たちは一斉に口を噤む。
「その時に必ず私の力を継ぐものがお主たちを救ってくれるはずだ。化性の者、いや、妖怪たちよ、この事を全国にいる同胞に伝え、先の未来まで残してくれ。これが…私がお主たちに伝えられる最後の言葉だ」
その言葉を聞いた妖怪たちは思い思いに老人の目の前から去っていった。
「………必ず彼らの力となってくれ。この私、安倍晴明の術を継ぐものよ」
小さくそう言い残した言葉を最期に老人、安倍晴明は静かに息を引き取った。
時は現代、この日本にある異常事態が発生した。突如虚空に開いた穴から漏れ出た霧は日本の一部の地形や日本の生き物の生態系に多大な変化をもたらし、人間以外の生き物はその霧を吸う事でRPGに出てくるようなモンスターへと肉体を変質させ、霧に覆われた一部の地域は日々その姿を変えるダンジョンへと変わっていき、人間が住める地帯が4分の3にまで減っていった。
ここまで聞けば日本にとっては大災害とも言うべき悲惨な出来事に聞こえるだろう、だがそのダンジョンがもたらす金などの鉱物やモンスターが落とす魔石という未知の物質、そしてダンジョンでのみ取れる作物などの恵みは日本にとっては大きなビジネスチャンスとなった。
だがダンジョン内は動物が変質したり、自然発生したモンスターやトラップが大量にあり、おいそれと入れば2度と帰ってこれない危険地帯となっており、ならばどうやってその資源を取りに行くか、その答えは人間の体内に入った霧が教えてくれた。
その霧は魔力というものを宿し、それに適応した者は常人を超えた力や魔法といった非科学的なものを生み出す力となった。
それに目をつけた日本政府はすぐさまダンジョンや魔力、そしてそれにより得られる職業などに関する法整備を行う事でダンジョン攻略を一種のビジネスとすることに成功した。
「…とこれが5年前の霧の発生から現在までのダンジョンについての歴史をまとめたものだ」
キーンコーンカーンコーン
「おっと、もう時間か。それでは今回は先ほど紹介した中からダンジョンや魔力などの興味を持ったものをピックアップした400字以上のレポートを専用のサイトから提出するように」
中年の教授の言葉を聞き終えた大学生たちが荷物をまとめていく中、茶髪の中に前髪を赤髪のメッシュにしている青年、導寺春明はすでにまとめ上げたレポートを提出し終えていた。
「フアー、ん?」
あくびをしながら帰り支度を進める春明のスマホに一件の着信が入り、その画面を確認する。
『可愛い新人が入った、挨拶がてら件のユニークモンスター狩りにいくからお前も来い荷物持ち』
「こんなところに入る奴もいるんだな。ま、今日は符もたくさん用意してるし、さっさと終わらせるか」
春明が通っている大学近くのダンジョンに六人の男女が集まっていた。
「は、初めまして!私、和彩利亜って言います!職業はパラディンです!」
「いいね〜!あ、俺は岸破幹人、この攻略サークルの部長だよ。職業はかっこよく魔法戦士ってところかな!」
「間違ってもこいつの名前繋げて読むなよ。あ、俺は浦桐竹志、武闘家だぜ」
「魔法使いをやってる芝木あき子でーす」
「戦士を担当している葛原嘉彦だ。よろしく頼む」
「おい、俺たちも名乗ったんだから早く名乗れよ出来損ない」
「………2年の導寺春明、符術師だ」
浦桐の言い方に少しムッとしながらも波風を立てないように春明は淡々と自己紹介をこなす。
「符術師?聞いた事ないですね。どんな職なんですか?」
「あぁそれは…」
「そんなことも知らないのあなた?符術師ってのはね。魔力だけじゃなくてお札がないとなーんにもできない魔術師以下の職業ってこと」
「ま、そんなやつでも荷物持ちぐらいはできるからな。ほら、さっさと待てよ役立たず」
「……ま、そのくらいの役には立つよ…こいつがね、来い、『絡繰召符』!」
春明がお札を取り出して掲げると、虚空から彼の身長ほどの絡繰人形が現れ、岸破たちの荷物を自身の体内へと入れていく。
「持てる総重量は1t、魔力次第だけど3時間は持つ代物だから」
「へぇ、すごい人形ですね!」
「…チッ、楽しくねぇ」
春明と利亜が仲良くしている様を不愉快そうに見ていた4人はスマホのページを黒いロングヘアの受付の人へと見せ、それに遅れるように2人も金髪ボブの受付にスマホのページを見せる。
「はい、フレイムサキュバスの討伐ですね。承りました。それと只今冒険者たちに警告をしているんですが…このダンジョンに正体不明の魔物の目撃情報が相次いでおりますのでくれぐれもご注意を」
「ん?それってどんな…」
「はいはいわかりましたよ。おいサボってねえで早く来い!」
「はい!すいません!」
「あ、ごめんごめん、君に言ったわけじゃないから、そこの役立たずに言っただけだからね」
「そ、そうですか…」
「ハァ、おちおち情報収集もできないな」
金髪ボブの受付から先ほどの魔物の情報を聞こうとしていた春明は諦めた顔で5人の後ろへとついていった。
ダンジョンの中は元の日本の地形に合わせて様々な特徴がある。例えば都市部に現れたこのダンジョンの特徴はモンスターの隠れ家になるような廃墟が多い。この一言に尽きる。
「オラァァ!」
「デリャアア!」
「「グギャアア!」」
岸破と葛原が剣を振るい、そこから襲いかかるゴブリンたちを切り伏せる。
「ハァァァ!」
「『フレイム』!」
「「グギュア!」」
それに負けじと浦桐と芝木の武術と魔術がゴブリンたちをあっという間に倒していく。
「す、すごいです皆さん!」
「まぁ、みんな強さだけは優れているからね」
その様を水を飲みながら見ていた2人は思い思いに感想を述べる。
「………来る!」
「え?」
利亜が反応する間もなく春明の頬を何かが掠め、2人の前に姿を現した魔物は鋭い爪と翼を生やした獣であった。
「フシャアアア!」
「ベレト!猫が魔物になった姿です!」
「だったら任せとけ、1枚で片をつけれる」
そう言うと春明は右手に、ある符を貼り付け、ベレトの前に立つ。
「フシャアアア!」
「キャア!」
「そこだ、セイ!」
そこに攻撃しようとしたベレトの身体に春明は右手の符を発勁で貼り付け、唱える。
「『悪鬼調伏』急急如律令!」
「ミャアアアア!」
その瞬間、符が光り輝き、そこに書かれた文字がベレトの身体を包むとその中から先ほどまであった爪と翼をすっかり無くした猫が姿を表した。
「ミャオォォ」
「ね、猫さんに戻りました!」
「本来、野良の動物がこうしてモンスターになってしまうこともあるからな。ほらさっさといきな。また化け物になっちまうぜ」
「…‥.ミャオォ」
春明が猫を地面に置くと、猫は2人の方をチラッと見て、彼らが入ってきたダンジョンの入り口へと走っていった。
「優しいんですね」
「…そう見えるか?」
「おい!なに報酬を逃してんだ!」
その光景を見ていた葛原が春明の服を掴みながら行動を咎め始める。
「俺が見つけたんだから俺の好きにしていいだろ。それがこのサークルの掟だろ」
「てめぇ、口答えしてんじゃ…」
「待て葛原!見つけたぞ奴を」
「あのビルの中ね!だったら炙り出してあげる『ギガフレイム』!」
「協力するぜあき子!『サンダーランス』!」
芝木と岸破がそれぞれ巨大な火球と槍状の雷をビルの一室に放つとその中から焔を纏った翼を羽ばたかせながら全身に紋様のようなものを刻んだ淫美な格好の赤目の女悪魔が姿を現した。
「ッ!」
「見つけたぜ!フレイムサキュバスだ!」
「しかも周りに人はいないわ、報酬は5人で分配よ!」
「5人……ね、早く助力したらどうだ?」
「…チッ」
流石にお目当てのモンスターの前で揉めている場合ではないと判断した葛原は剣を握り直し、その先をフレイムサキュバスへと向ける。
「落ちやがれ!『サンダーランス』!」
岸破が再び雷の槍を放つがフレイムサキュバスが翼を羽ばたかせて熱風を巻き起こすと、それは雷の槍の勢いを失くしながら6人を襲う。
「キャッ!」
「クッ!厄介だなこれは」
「暑っ!だったらこれよ『アイスロック』!」
「フウッ、アァッ!」
芝木の放った巨大な氷塊を前にフレイムサキュバスが再び熱風を巻き起こすが、氷塊の勢いは止まることなく直撃した。
「グアッ!」
「落ちるぞお前ら、畳みかけろ!」
「アァ!」
「おうよ!」
それを好機と見た岸破の命令で他の2人がフレイムサキュバスへと走り出す。
「アァッ、タス…ケ……」
(え?今….)
だが空中でもフレイムサキュバスは熱風を放ち、3人の行く手を阻む中、春明は敵がカタコトながらも言葉を発した事に気づく。
「オラァ、くたばりやがれ!」
だが4人はそれに気づかないまま、フレイムサキュバスに攻撃を仕掛ける。
「アアァッ!」
だがフレイムサキュバスもそれに抵抗するように熱風を巻き起こす。
「アヂッ!」
「クソ!またか!」
「チ…ヨコセ!」
だが今度はフレイムサキュバスの方からあき子の元へと飛び、彼女の左腕へと牙をたてる!
「痛い!ちょっと何するのよ離して!」
「クソが、あき子が近くにいるんじゃどうにもできねぇ!」
「全くしょうがない奴らだな。目ぇ瞑れ!」
「はい!」
「おい、何する気…」
「『華閃光符』!」
「グガッ!」
「ぎゃああ!」
あき子が近くにいるため行動を取れない仲間を見かねた春明が一枚の符を投げるとそれは眩い閃光と化し、即座に盾の後ろに入った彼と利亜以外の目をくらませ、フレイムサキュバスの牙があき子の腕から離れる。
「グゥッ、目が…大丈夫かあき子!?どこにいる!」
「痛い、血吸われた!」
「おい春明!なんて物投げやがる!」
「てめぇ頭いかれてんのか!」
岸破があき子を心配する中、他の2人はなんとか目を開きながら春明に文句を言う。
「警告はしたぞ!それよりもあいつを助けた礼もないのか!?」
「なんだとテメェ!」
「春明さん!」
「ッ!」
他のメンバーと言い合いをしている春明が声のした方を向くとフレイムサキュバスが春明たちに襲いかかり、利亜が盾で敵の爪を防いでいた。
「早く!今のうちに2人を!」
「わかった、来い!『絡繰召…ッ!」
春明が盾の後ろにいない2人を助けようと絡繰を呼ぼうとした瞬間、ブンッと剣の振られる音と共に自身の背中に一瞬の痛みと鉄の匂いを放つ液体が流れる感覚を覚える。
「………ハ?」
後ろに目を向けると葛原が笑顔で今しがた振り下ろしたのだろう血のついた剣を地面につけていた。
「おい化け物!こいつになら何しても良いぜ!」
葛原が叫びながら春明はフレイムサキュバスの横へと蹴飛ばされる。
「アカイ…チ……」
「てめぇ…」
「おいリーダー、あき子!こいつを囮にして逃げるぞ!」
「待って!彼が…」
「そんなもん放っておけ!」
「そんなのできない!、彼を助けないと……」
「ふざけんな!使える盾役がいなくてどうする!」
「嫌ぁ!離して!!」
利亜は春明を助けようとするも浦桐に腕を掴まれる。
「葛原テメェ!」
「ヨコセ!」
「ガッ!」
春明が文句を振り絞るもフレイムサキュバスは彼の左首に噛み付き、春明の血を吸い始める。
「ああなったらもう助からねぇな、リーダー、あき子、符術師を置いていくぞ」
「わかった、葛原、お前はその絡繰を持て!俺たちの荷物が入ってるんだ!」
「へっ、ザマー見ろよ!あんなのがいなくなって清々するわ!」
「酷い……」
「別に良いんだよ!ダンジョン内での死だなんてざらにあるんだ!お前が黙ってたら証拠なんてねぇ!」
「役立たずが死ぬだけだ!おらお前も来るんだよ!」
「嫌ァ!春明さん、春明さぁん!」
1人助けようとしてた利亜も浦桐に引っ張られながら全員が逃げ出し、その場にはフレイムサキュバスに首を噛まれている春明だけとなってしまう。
「ク……ソがぁ!」
怒りのあまりに叫ぶも状況が変わることなく血がなくなっていった事で視界がぼやけ始める。
(このままじゃ状況は何も変わらねぇ、何か手はないの…か?)
視界がどんどんとぼやけていく中、呼吸のために首から牙を抜いたであろうフレイムサキュバスから彼の顔に2つの液体がかかる。
(これ…って?)
一つはおそらく彼女の口から漏れたであろう春明の血だろうが、もうひとつの透明な液体は彼女の目から流れて彼の頬にかかる。
(涙……なのか?じゃあ、このモンスターは…)
「ガアアッ!」
「クッ!」
再び首に噛みつこうとするフレイムサキュバスの牙を右腕で受け止め、力の入らない身体で春明は懐から1枚の符を取り出す。
(いつもモンスターになった動物に使ってたけどもしかしたらこいつにも!)
「頼む!止まれぇぇぇぇぇ!」
一縷の望みをかけ、彼は「悪鬼調伏」の符をフレイムサキュバスの腹部に叩きつけた。
「ハアッ、ハアッ、あいつは追ってきてないな!良い身代わりになってくれたぜ!」
「そのくらい役に立ってもらわなきゃ困るわよ!あの役立たず!」
「あの野郎、荷物持ちのくせに時々偉そうに指図するから大っ嫌いだったんだよ」
「俺は皮肉とか嫌がらせをサラッと受け流すところが嫌いだったぜ!」
春明を身代わりにして逃げていたメンバーの4人はこれ幸いと春明の暴言を漏らしながらフレイムサキュバスと距離をとっていた。
「最低よあなたたち!こんな所なら入るんじゃなかった!」
「なんだとこのクソアマ!」
「きゃあ!」
それを聞いていた利亜の言葉にキレた浦桐は彼女の腕を離すと彼女を殴りつけて吹き飛ばす。
「この野郎、見てくれはいいから仲間にしてやったのに」
「こうなったら力ずくで言う事聞かせてやろうか?」
「良いわね!じゃあ私は脅しで少し魔法でも…」
瞬間、ドゴォンという轟音と共に彼らの近くにあった建物の壁が崩れる。
「な、何だ。一体どんなモンスターが……」
そこから現れたのは人2人分の身長を持ち翼と腕が混ざったような腕を持つ赤いタカの目を持ったモンスターだった。
「何だテメ……」
岸破が剣を構えた瞬間、モンスターの拳が彼に打ち込まれ、彼の身体は200メートルは先の建物まで吹き飛ばされた。
「「「…………は?」」」
「そんな…誰か……助けて」
それは…春明を裏切った4人にとっての悪夢の始まりだった。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……まじかよ」
春明がぼやけた視界の中で見えたのは文字がフレイムサキュバスを包んだかと思うとその中から一人の女性が現れていた。
闘争心に染まった赤い目は黒目となり、全身から紋様を無くした女性の姿だった。ただ一つ、普通の人間と違うのはフレイムサキュバスに何度も熱風を放っていた翼は紋様が消えた以外はそのままだったことである。
「…すまない、戻し損ねちまっt……」
「ううん、これで良いの。私、元の姿に戻れたのね」
「それが…元の姿なのか?」
「ええ、私は飛縁魔。貴方達人間から妖怪って呼ばれている一人よ。助けてくれて本当にありがとね」
自らを飛縁魔と名乗った女性は涙を流しながら春明に礼を告げていた。
次回 憑身、飛縁魔 VSワーラプチャー




