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烏渡の里(うわたりのさと)  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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第九話「鈴の音」


 北の社へ戻る道は、来た時よりも、ずっと短く感じられた。


 四体の鬼たちは、社の奥で、じっと待っていた。キミたちが戻ってくると、四つの金色の光が、一斉にこちらを向いた。


「綾様。——どうすれば」


「鈴を、鳴らしてみて」


 キミは、鈴を、そっと振った。


 澄んだ、小さな音が、社の中に響いた。


 その瞬間——四体の鬼たちの輪郭が、わずかに、変化した。


 獣のように四肢で立っていた一体は、徐々に、犬のような——いや、もっと優しい、何か獣めいた姿に変わっていった。輪郭が揺らいでいた一体は、薄く、人の形に近づいていった。


「これは……」


「彼らの、本来の姿」綾の声が言った。「人々が『鬼』として恐れたのは、彼らが、恐怖の中で、自分の姿を保てなくなっていたから」


 四体の鬼は、それぞれ、人や獣に近い、穏やかな姿になっていた。一体は、優しい顔をした、大きな白い獣。一体は、若い男のような姿。一体は、子供のような、小さな姿。最後の一体は——年老いた女性のような、佇まいだった。


 彼らは、ゆっくりと、キミに向かって、頭を下げた。


「ありがとう」


 声にならない声だったが——キミの中に、その想いが、確かに届いた。




 その様子を見ていた志波が、言った。


「キミ様。——残りの灯りについても、同じことを」


「はい。——ただ、一つ、心配なことがあります」


「何でしょうか」


「灯し手が——もう、いません。灯りが消えるたびに、誰かの命が——」


「キミ様」


 颯が、口を開いた。


「もし、鈴の音で、鬼たちの姿が戻るなら——灯りそのものの意味も、変わるんじゃないでしょうか」


「どういうことですか」


「灯りは、鬼を『閉じ込める』ためのものでした。——でも、もう、閉じ込める必要がないなら」


「灯りは——灯し続ける必要が、ない、ということ?」


 綾の声が、答えた。


「その通り。——灯りは、消えていい。鬼たちが、もう、誰かを傷つけることがないなら」


 志波が、深く息を吐いた。


「では——残りの灯りは、消えるに任せて、よいのですね」


「うん。——でも、一つだけ、注意が必要」


「何でしょう」


「七つ目の灯り——最後の灯り。それは、私自身の力に、最も近い場所にある。それが消えるとき」


 綾の声に、わずかな緊張がにじんだ。


「私の力が、完全に、解放される。——その時、キミの中から、私は」


 言葉が、途切れた。


 キミは、その先を、聞かないようにした。




 その夜から、数日かけて、残りの灯りが、一つずつ、自然に消えていった。


 その都度、社の奥から、新しい鬼たちの姿が現れた。それぞれが、鈴の音を聞き、本来の姿に戻り、里の人々に頭を下げた。


 最初は、警戒していた里の人々も——次第に、彼らを受け入れていった。


 子供たちは、白い獣の姿になった鬼に、果物を分けるようになった。老人たちは、年老いた女性の姿の鬼と、縁側で話すようになった。


 颯は、その様子を見て、何度もキミに言った。


「俺の村でも——こんな風に、できたのかもしれません」


「颯……」


「もし、あの時——誰かが、鈴を持っていたら」


 颯の声には、後悔と、わずかな救いが、同時に浮かんでいた。


「キミ様。——綾様のことを、伝えてもいいですか。俺の、村のことを知る人に」


「もちろん」




 六つ目の灯りが消えた夜——キミは、御簾のあった部屋に、一人で座っていた。


 今は、その御簾も、上げられたままだった。誰も、それを咎める者はいなかった。


 窓の外、社の方角から——七つ目の灯りが、わずかに揺れているのが見える。


 最後の灯り。


 キミは、自分の指先を見た。黒い筋——いや、もう、黒くは見えなかった。淡い、金色の光のように、肌の下で、優しく輝いていた。


「綾様」


「うん」


「最後の灯りが消えたら——もう、お別れ、ですか」


「……そうだね」


「もっと——一緒にいたい、です」


 綾の声が、少し笑った。優しい、温かい笑い方だった。


「ありがとう、キミ。——でも、約束したでしょう。最後まで、ちゃんと話す、って」


「はい」


「だから——最後の灯りが消える前に、もう少し、話そう」


 キミは、頷いた。


 窓の外で、七つ目の灯りが、ゆっくりと、その光を弱めていく。



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