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買い付け

 商船団の帰還の翌日。

 リーブロ商会の所有する、いくつもの倉庫内で仕入れた商品の買い付けが行われた。

 ヴァーゴはゲンナル商会の商人たちと買い付けに訪れていた。


「ずいぶん大規模なんですね」

「そりゃあもう! 南の大陸の商品はめずらしいものが多いですからね!」

「だなぁ。人によっちゃ二年に一度の仕入れで食ってる商人もいるからなぁ」

「商人ごとに重要度が変わってくるんですよ。我々、ゲンナル商会はこれに依存しない体制でやっていますが決して無視できるものではありません」


 最後に商会の姿勢について説明してくれた商人はゲンナル会長のそばに仕えていた中年の男だ。

 名前はキナド。

 元々、個人で商売をしていたところをその腕を見込まれてゲンナルに雇われたという。

 今はヴァーゴとの取引の窓口係としての任を負っている。

 ゲンナルが見込んだ男がついたということは裏返せばそれだけヴァーゴの能力を高く買っているとも言える。


「それでは皆さん、各自で分かれて良い商品を仕入れましょう」


 キナドのひと声で商人たちは得意とする分野の商品が売りに出されている倉庫に散っていった。


「キナドさんは私についてくるのですね」

「お目付け役と誤解しないでくださいね。レオさんの実力はこの数ヶ月で理解しています。今回は会長の命令というより私自身の勉強もかねてレオさんの買い付けを見学させていただこうと思っています」

「キナドさんほどのベテラン商人の参考になればいいのですが」

「少なからず勉強になると期待していますよ。なにせ、魔導具の正確な買い付けなんてめったに見られない場面ですからね」


 キナドは普段の落ち着いた態度の中に商人としての好奇心を見せた。

 長年の経験を積んでなお向上心を持っているキナドにヴァーゴは感心した。

 ゲンナルが見込んだだけの商人としての素質を持つ男だった。




「このあたりのはずですね」


 キナドに案内されて倉庫の片隅にやってきた。

 リーブロ商会の商人が数人、魔導具を買い付けに来た商人が数人。

 他の商品区画に比べたら驚くほど人気がない。

 並べられた魔導具の数も少なくはなかったが、とても大航海をして仕入れてきたとは呼べない程度の規模だった。


「これは何というか……」

「拍子抜けしましたか?」

「正直に言うと、そうですね」

「まあ、それだけ魔導具の取り扱いは難しいということです」


 キナドは腕を組んで立ち止まった。

 ここからはヴァーゴの買い付けの時間だ。

 ヴァーゴはまずリーブロ商会の商人に軽い挨拶をした。


「こんにちは。今回の仕入れで目ぼしい商品はありますか?」

「いらっしゃい。そうだな……。この画材なんかは価値が高いと思ってるよ」

「どれどれ……」


 紹介された絵の具のセットを手に取って中身を確認した。

 赤、青、黄色、様々な色の絵の具の粉末が仕切りで分けた木箱に詰め込まれていた。

 ヴァーゴはスキル『魔導具の知識』を発動させた。

 商品である粉末はたしかに加工された魔導具だった。

 加工技術はそこそこ、魔導具としての効果は水をくわえて使用する際に乾燥しづらくするというものだった。

 価値としては……。


「ふむ、おいくらですか?」

「金貨五枚だな」

「うーん、高いですねぇ」


 絵の具が消耗品であること。

 魔導具としての効果が乾燥しづらくするということ。

 それらを踏まえると高いにも程がある。


「安くはなりませんか?」

「こいつはめずらしい魔導具だ。悪いが値引きはできないな」

「うーん……」


 ヴァーゴの見立てでは通常の絵の具に毛が生えた程度の価値しかない。

 高級品として売るにしても銀貨五枚がいいところだ。

 金貨一枚が銀貨十枚と計算すると実際の価値の十倍、ぼったくりと言っていい。

 こんな商品に仕入れる価値はない。

 ヴァーゴが木箱を置くと横から別の商人が手に取った。


「金貨五枚だって?」

「ああ。値引きはできないよ」

「ちょっと高いが、売れる気はするんだよな……。よし、買った!」

「まいどあり」


 目利きのできない商人がぼったくり価格の絵の具を購入した。

 魔導具としての効果は度外視し、希少性を謳って売りに出すこともできなくはないだろうが明らかに損な仕入れだ。

 ヴァーゴはギャンブルをする商人のことは気にも留めず、他の魔導具に目を向けた。

 このブルーカフスでは見慣れない商品の数々は加工されたものから純粋に魔導具として作られたものまで様々だった。


「ん、これは……」


 ヴァーゴの目に留まった商品は薄い水色の羽ペンだった。


「これはおいくらで?」

「んー、それは金貨一枚だな」

「買いましょう」

「お、まいどあり!」


 リーブロ商会の商人がどういう基準で値付けしたのかは分からないが、ヴァーゴの『魔導具の知識』に照らし合わせれば水色の羽ペンは貴重な魔導具だった。

 加工されたものではあるが精度が高い。

 その効果は持ち手の思い描いた文字をほぼイメージ通りに記すことができるというもの。

 字の上手い下手はなかなか矯正できるものではない。

 金持ちには見栄を気にするものも多いため、字が下手な金持ちなら喉から手が出るほど欲しい逸品だ。

 客は選ぶが欲しがる買い手は必ずいる。

 金貨五枚なら即売れるだろうし、やや高めに金貨十枚に売値を設定しても買い手がつくと判断した。

 ヴァーゴは魔導具のペンを『アイテムボックス』にしまい、次に売れそうな魔導具を物色した。

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