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よくない街 2

「めんどくせえ。冒険者がたくさんいるなら山賊どもを皆殺しにすればいいだけの話だろうが」

「ですが、それではラッセル殿の身の安全が……」

「山賊が現れてから十年だと聞いた。なぜ今まで山賊を放置していた。妙なごまかしをしたらぶち殺すぞ」


 ヴァーゴの殺気のこもった視線に領主マーブルは身を震わせて縮こまった。

 ゴランが落ち着いた声音でマーブルに語り掛けた。


「過ぎたことを責めようとは思わん。だが、こいつの言っていることも正論だ。わしの弟子が巻き込まれた以上、ぜんぶ話してもらうぞ」

「……はい」


 領主マーブルは視線を落とし、弱々しい声で話し出した。


「元々、この街は小さな街でした」

「知っておる。わしが何十年も前におとずれたころはさびれた街だった」

「おっしゃる通りです。先代も、先々代の当主も、なんとかこの街を盛り上げようと腐心してきました。近辺にモンスターは出るもののその規模は小さく、我が家の私兵で対処できるものでした。山間を渡ってくる潮風もあり、特産物を作ることも難しく、街を盛り立てることに苦労していたのです」


 マーブルはひと呼吸おき、この街の核心について話した。


「そんな時、流れてきた山賊が現れ、荷馬車を襲いました。私は思い付いてしまったのです。この山賊を利用してはどうか、と。山賊討伐ではなく、山賊を追い払うだけの依頼を出し、方々から冒険者を呼び込みました。冒険者が集まり、商売も繁盛し、魔導具師も集まるようになりました。時折、山賊が生きていけるように我が家の私兵を護衛につけた、食料や酒、金品をたくさん積んだ荷馬車の連隊も出しました。山賊を生かし、その山賊を追い払う冒険者が集まることで街は大いに盛り上がりました」


 マーブルは神父に懺悔するかのように一気に吐き出した。

 自分が行ってきた悪行を、抱えてきた罪を。

 ビジーはラッセルの言葉を思い出したのだろう、小さくつぶやいた。


「よくない街……」

「そういうことだ。あのバカモンもこの街の仕組みには気付いていたわけじゃな」


 ゴランはため息をつき、マーブルの罪をとがめるわけでなく、たずねた。


「経緯は理解した。だが問題はここからだ。わしの弟子をその山賊たちにさらわせたのか?」

「それは……その通りです。山賊にウワサが流れるように手配しました。今度の連隊には腕利きの魔導具師の男がいる、そいつを捕まえれば大量の身代金を要求できる、と」

「そういえば変な依頼だった。荷馬車に乗るだけの依頼。護衛の人も師匠だけ守らなかった」

「街ではウワサになってたぜ。女たらしのラッセルがお偉いさんの女に手を出して消されたんじゃねえかってな」

「そのような事実は、ありません……。私の妻が、一方的にラッセル殿に恋をしてしまったのです」


 ゴランの予想は的中していた。

 女癖の悪いラッセルでも手を出していい相手は選ぶということ。

 しかし、マーブルの話を聞いたかぎりでは私怨にも程がある。


「何も山賊にさらわせる必要はなかったのではないか?」

「私も悩みました。ラッセル殿に街を出て行ってもらうよう交渉することも考えました。しかし、それでは妻は納得しなかったでしょう」

「てめえの女房の機嫌も取れねえのか?」

「たしかに夫婦の関係は上手くいっていませんでした。ですが、それだけではないのです。問題は、私が入り婿だということです」


 マーブルは苦しそうに胸の内を語った。


「現当主は私です。しかしその実、マーブル家の実権は直系の妻が握っているのです。マーブル家に仕える者たちもこの家の伝統を理解しています。妻がラッセル殿を追いかけて街を出ることになれば、マーブル家の資産もツテも一切合切を持ち出し、この街を捨てて出て行ったことでしょう」


 込み入った話にヴァーゴは頭を掻きむしった。

 幼いビジーはすべてを飲み込めていないようだった。

 ゴランだけはマーブルの話に同情的に声をあげた。


「それで、ラッセルにさらわれるよう頼んだのか?」

「はい……。ラッセル殿は私の話を聞き、快諾してくれました。自分の身よりも街の事情を優先してくれたのです。私はもちろん、命の危険を感じたらすぐに逃げ出すようにもお願いしました。私はラッセル殿に、一生をかけても返せない恩義を負ったのです」


 赤錆の街テアーズの仕組み、ラッセルがさらわれた事情、そのすべてが明らかになった。

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