第14話.みんなにブラッシング……ってシーシャもご所望ですか!?
森林の素材や洞窟の結晶を換金したおかげで、そこそこ貯金が貯まったぞ!
まだとても左うちわなんて呼べる状況じゃないけど、それでも収入が安定してきたのは嬉しい。
『というわけで、地上に出たついでに、皆にお土産を買ってきたんだ』
『キュ~!』
円卓でくつろいでいた皆の前に、モンスター用品専門店で買ったアイテムを広げる。
『すごーい! これって、ぜんぶ水の外の世界のもの?』
『ブモーン』
『主様……! なんと優しい!』
シーシャ、ツルギちゃん、ケルピィが三者三様にお土産に食い付いている。
『色々買ってきたんだ。これはみんなで食べられそうなお菓子』
透明な瓶に詰められたキャンディの包装を解く。
少量の魔素が含まれていて、人間でもモンスターでも幅広い種族が食べられると言われたので色んな味を買ってきた。
『透き通っててきれいだね。食べ物っていうより、宝石みたい』
『舐めてゆっくり食べるんだぞ。まあ、噛む派もいるけど……』
次のお土産のパッケージも剥いていく。
『それから、ブラッシング用のリラックスブラシ』
『ブラッシング……!? というのはあの! 毛並みを整えてもらう行為のことか!?』
『そうそれ』
『ヒヒーンッ!!』
ケルピィは前脚を大きく上げてひっくり返った。
ブラッシングにそんなに感動したのか? なら買ってきた甲斐があるというものだ。
『全員分あるから、試してみていいか?』
『私もしてみたい! ツルギちゃんのは、私がやってあげるね』
『ブモ!』
ういろうとツルギちゃん用のリラックスブラシは、シリコンで出来たシャンプーブラシのような形状のもの。
皮膚を心地良く刺激する用途らしい。人間でもこれ、頭皮とかに使ったらめっちゃ気持ちよさそう。
『どんな感じなんだろうな。おいで、ういろう』
『キュイー!』
ういろうがちょこんと俺の膝の上に座る。そのもちっとした不思議な触り心地の皮膚を撫でて、ブラシを当てた。
『ピ……キュ~……ピ~……』
『おお、めちゃくちゃリラックスしてる』
リラックスブラシの効果はてき面だったようだ。
ういろうは膝の上でふにゃりと溶けている。とてもかわいい。
『ツルギちゃん、痛くない?』
『……モ……ブモ……』
シーシャにブラッシングされているツルギちゃんも、尻尾がふにゃりと垂れ下がって完全に脱力している。
『我も……! 次は我だぞ……!』
そんな様子を見て、ケルピィが俺たちの周りをそわそわと小走りで駆け回っている。
なんだろう、ケルピィはこの状態でほっとくのも可愛いかも。
とは言えケルピィ用のブラシももちろん買ってきている。
デッキブラシの先端のような形状のブラシを手に取って、ケルピィを落ち着かせた。
『じゃあ、次はケルピィな』
『ヒヒーン!』
青いたてがみにブラシを入れて、梳く。
それを繰り返していると、だんだんと毛並みが整ってきたように思う。
『なんと……なんという……極楽……』
そわそわと落ち着きのなかったケルピィも、ブラシでひと撫でされると瞳を細めてリラックスモードに突入する。
たてがみ、背中、腹と、ブラシを動かしていく。
やがてケルピィの毛並みは美しく流れ、凛々しい印象を増した。
『ぬ、主様……最高……だ……!』
ケルピィはふらふらと円卓にもたれかかった。
動きが大きいからツヤツヤの毛並みもまたすぐに元に戻りそうだなと思う。その時はその時だ。
『良かった、気に入ってくれて』
『ピキュ…………』
ういろうは俺の頭の上でまだ蕩けたままくつろいでいる。
ふと、視線を感じたので振り向くと、そこには瞳をキラキラに輝かせたシーシャの顔があった。
『ふふ~~、次は私だね』
『……えっ?』
『私もミズキのブラッシング、たのしみ』
…………いやいやいやいやいや!
シーシャをブラッシングするなんて発想は出て来なかったんだが!?
『いや、えっ!?』
『え?』
『あの……だから、女の子の体に触るっていうのは段階があるというかその』
『……私のぶんだけ、ブラッシングないの……?』
輝いていた瞳がしゅんと伏せられる。
ああー!! そんな顔をさせたいわけじゃないのにこの場合どうしたらいいんだ!?
『どうしたんだ主様。シーシャ殿を相手にすると様子が変だぞ』
『キュイ~』
ケルピィが痛いところをついてくる。
俺はケルピィの肩を組むと、その耳元に小声で答えた。
『し……仕方ないだろ! 相手は女の子なんだから』
『女の子だと、対応が異なるのか?』
うう、この感覚をどう説明したらいいんだ!?
『ケルピィ。なんて言うか……人間には、”恋愛対象”っていうのがあるんだ』
『レンアイタイショー?』
『しーっ! それに当てはまると対応に身構えちゃうというかたぶんそういう感じで』
俺の場合は、それが人間の女の子で。
シーシャは下半身こそ人魚だけど、俺にとっては「女の子」って認識で。
『ふむ……? 人間は容姿や性別で親しくする対象を決める習性があるということか……?』
『いや、人間がみんなそういうわけじゃないと思うけど……雑に言ったらそうなのか……??』
話がこんがらがってきたぞ……??
とにかく、シーシャにブラッシングなんてのは出来ない! なぜなら俺がヘタレ童貞だから!
以上そういうことだ!
『……ミズキ?』
『えっと、シーシャのぶんのお土産は他に買ってあるんだ』
俺はぎこちない動きで、まだ一つ未開封だった包みを開ける。
そこから銀色の髪留めを取り出した。
シーシャがいま飾っているものに似た色の真珠が嵌められている、星の形の髪留めだ。
『わ』
シーシャの瞳に光が戻る。
『ミズキ、やっぱりブラッシングしてくれるつもりだったんだ。仕上げにそれ、留めてくれるってこと?』
そう捉えたんですか!?
でも、髪を梳くくらいなら、いいのか……? シーシャの期待を壊してがっかりさせるのも嫌だし……。
『キュ~イ?』
『わ、わかった。ここに座ってくれ』
円卓の椅子にシーシャが腰かける。そして、耳や髪につけているアクセサリーを外し始めた。
女の子がアクセサリー外す仕草ってなんか色っぽ……って、じっと見てたらきしょいか、俺!?
『じゃあえっと、髪を梳かすブラシ……は』
……無くないか?
シーシャのラベンダーブルーの豊かな髪を綺麗に梳かせるようなブラシは、持ち合わせていなかった。
一応俺の櫛があるにはあるけど! 100均で買ったプラスチックの折り畳みだし……!
『? 私はいつも、指で整えてるよ』
まさかの指。
それでこの綺麗な髪が成り立ってるの、めちゃくちゃすごい事なんじゃないだろうか。
『えっと、じゃあ、指でブラッシング(?)いきます』
いろいろ動揺しすぎて判断力も低下した俺は、流されるままシーシャの髪に指を滑らせた。
なんだこれ……!? すごく滑らかで柔らかい……!!
指で直に髪に触ってるから、頭皮に触れた時にその体温がほんのり感じられて……「生命」だなっていうのをめっちゃ実感する!?
そして、俺が梳く必要なんてないんじゃないかってくらいサラサラな髪は、指がスッと通り手のひらに滑らかな感触を残していく。
髪なら俺にも生えてるのに全然違う……未知の神秘すぎる……。
『ふふ、くすぐったい』
『あ、え、やっぱヤダか!?』
『ううん。気持ちいい』
終わり! 終わりですブラッシングタイム。これ以上はミジンコ並みのミニマムハートが保たない。
『じゃあ、髪飾りを……って、これどうやって付けるんだ?』
悲しい事に、俺に女の子のアクセサリーをスムーズに着脱する事なんて出来るはずもなかった。
『耳の上がいいな。ミズキの星、一番目立つとこにつけてね』
『こ……こんな感じか?』
シーシャの協力もあって、俺はぎこちない手付きで星と真珠の髪留めを飾ることに成功する。
コミュ障ぼっち童貞にとってはとんでもない偉業を成し遂げたって事だぞこれは……! レベルが100くらい上がったって大袈裟じゃないぞ本当に。
『ブモモ……』
ツルギちゃんだけは何か生温かい目でこちらを見ているような気がした。
ケルピィは相変わらず『我も我ももう一回』と落ち着かない動きで圧をかけていた。頭がいっぱいになってたから今気づいた。
『ありがとうミズキ。ミズキは、私たちのことすごく大事にしてくれるね』
『え……それは逆じゃないか!? みんなが、俺なんかのことを大事にしてくれてるから俺も何かしたい、返さなきゃって思って……』
俺に初めて家という居場所をくれたのはここなのだ。
『ふふ、じゃあ私たち同じこと考え合って、ぐるぐるしてるんだね。気が合うねえ』
『キュイキュイ』
『我が主様を大事に思うのは当然だ!』
みんなの言葉が嬉しい。
シーシャへのドキドキも、ういろうへの好きや信頼も。
ツルギちゃんのシーシャの保護者的な安心感も、ケルピィを微笑ましく思う気持ちも。
全部大事な俺の感情だなあとつくづく実感した。
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