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水中世界のデレリクト  作者: 雪峰
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第12話.団らんと撮影と洞窟のアザラシ

『ミズキ、新しい”端末”ありがとう!』

『ブモー』


 食後の円卓にて。

 シーシャは新しい端末を気に入ってくれて、上機嫌で操作をしている。


『動画アプリ以外にも、色々便利そうなアプリを入れてみたから、ヒマな時に弄ってみてくれ』

『へー! おもしろそう! これはなに?』

『これは写真とか動画が撮れるアプリだ』

 

 俺はシーシャに写真の撮り方を教える。

 

『えっ! すごい! 私がうつってるよ!』


 シーシャは興奮しながらあちこちを写真に収めている。


『ミズキも写って写って』

『ピキュ!』


 俺にもレンズが向けられる。うわ、写真なんて取られ慣れてないからどうポーズすればいいのかわからない!


『キュー!』

『やった! 綺麗に撮れた!』


 シーシャが見せてくれた画面には、ばっちりカメラ目線のういろうと、ぎこちない笑みを浮かべて棒立ちの俺が映っていた。なんだこれ恥ずかしい。


『ホーム画面に設定……ってなに?』

『あ、それは』

『おおー!? ミズキの写真がいつでも見れるってこと?』


 シーシャは思いつきのままに端末を操作して、俺たちの写真をホーム画面に設定したようだった。

 

 今の写真でいいの!? せめて加工……いや取り直し!? というか俺の写真がシーシャのホーム画面って、シーシャは意識してやってないんだろうけどめちゃくちゃ照れる!?


『戻ったぞ。何をしているんだ?』

『ケルピィちゃんもおいでー』


 水棲馬のケルピィが姿を現す。食後の腹ごなしに遺跡の周辺を泳ぎに行っていたようだ。


『そうだ、動画も撮ってみたい! ミズキどうやるの?』

『動画はここをスライドして……』

『ありがとう! それじゃケルピィちゃん、いくよ』

『わ、我!?』


 シーシャがカメラを向けると、ケルピィはぎくしゃくと前脚を動かして固まった。


『……ケルピィ? これは動画だから動かないと』

 

 いつものオーバーリアクションはどこに行ったのかというくらい、カチコチに固まっている。


『ケルピィちゃん、お喋りしてみて』

『は、はいっ!ぼく、いえ……わ、我は、ケルピィといいます!』


 ガチガチになっているケルピィは、緊張のあまり素の喋り方が出ているようだ。


『ケルピィちゃんは、何をしてるのかな?』

『我がここにいるのは、森で主様(ぬしさま)がご飯を採りに来てそこで我もご飯を食べていて、主様が一緒に食べようと言うのでケルピー族として食べるのはいけないことでしたが勇気を出して決断して良かったです!』


 何言ってるかわからなくて、ちょっと可愛いな……。

 でも俺も急に喋れって言われたら絶対こんな感じになるし、なんか親近感湧いてきた。


『ケルピィちゃん、ご飯美味しかった?』

『美味しかったです!』


 こうしてシーシャの端末にケルピィのインタビュー動画(?)が保存された。


『ふふ、楽しいねえ』

『ブモン』

『ふう……どうだったかな、我の動画は』


 カメラから解放されたケルピィはしれっと涼しい顔に戻っている。


『ピイキュ……』

『ういろう、そろそろ眠いか?』


 ういろうは俺の肩に体重を預けてウトウトしていた。

 魔素の消費を回復するためか、ういろうは睡眠時間を多く必要とするようだ。


『そろそろ、俺たち寝る時間だ』

『キュ~……』


 シーシャとツルギちゃん、ケルピィはまだまだ元気そうだった。


『そっか、ゆっくり休んでね。私は眠いのまだ来てないなあ』

『ブモーン』

『我も睡眠周期はまだ先だぞ! 主様がお休みの間、採取でもしてこようか』

『あ、私も行きたーい!』

『む、無理はしないでな!?』


 みんなの睡眠のタイミングはそれぞれ異なるようだった。

 前に全員で雑魚寝したのはたまたま、奇跡みたいなタイミングだったって事か……。


『それじゃおやすみ。本当にムリない範囲で帰って来るんだぞ』

『任せて。ミズキもおやすみ』


 ウキウキと飛び出していったシーシャ達を見送った後、一気に眠気が襲ってきた。





『……え? 洞窟?』

『そう! ケルピィちゃんと泳いでて見つけたの!』

『主様と探検したいと思い、起きるのを待っていたのだ!』


 翌朝、目が覚めた俺を待っていたのはテンションが高いシーシャ達だった。

 なんと、昨夜の散策で洞窟らしきものを見つけたらしい。


『いいけど……危険はないのか?』

『うん。ツルギちゃんの能力で、危険そうな気配がないことは確認済みだよ!』

『ブモモーーン』


 俺が寝てる間に、下調べまでしっかり終わっている……!


『さあさあ。洞窟までの移動の間は、我に乗ってくつろいでいたらいいぞ』

『ピキュ』


 たしかに移動と運搬に優れたケルピィが加わってから、行ける範囲がグッと増えたんだよな。


『ういろう、行けそうか?』

『キュイ!』

『よし、じゃあ行ってみるか。眠かったら移動中、遠慮せず寝るんだぞ』

『キュ~~!』

『ケルピィ、くれぐれも安全遊泳でよろしくな』

『承知!』

『わーい、楽しみだー!!』



 ケルピィが心地良い速度で泳いでくれたので、俺はケルピィの背から流れていく景色をのんびりと眺めることができた。

 崖のように岩が裂けた地形の間を進む。色とりどりの海藻が絡みつく岩壁の風景が背後に流れていく。


『あ! あそこだよ』


 どこまでも続くように思えた岩陰に、ぽっかりと穴が開いている。

 遠くからは小さな点に見えたその穴は、近づけば大きな入り口と化して俺たちの目の前に現れた。


『すごいな。水中洞窟だ』

『キュイ!』

『わくわくするね。中に何があるんだろう?』


 ケルピィの背に乗ったまま、洞窟を泳いでいく。

 洞窟はそれなりの広さがあり、薄暗い。

 奥に進んでいくと何やら蒼い光が漏れている。


 そこには岩壁から生えた蒼い結晶たちが、星に似た瞬きを放っていた。

 小さなプラネタリウムに迷い込んだかのような幻想的な空間が、洞窟の中に広がっているのだった。


『……きれい』


 シーシャがぽつりと言葉を漏らした。その大きな瞳は結晶の蒼に釘付けになっている。

 蒼い幻想の光に照らされるシーシャの横顔は、やっぱり人間離れした美の極致。


 普段は元気で表情豊かなシーシャがじっと佇んでいる姿は、彫刻みたいに神秘的だ。


『……主様?』

『あ……すごいな、綺麗すぎてぼーっとしちゃってたよ』


 景色もだけどシーシャも、なんて言葉を口に出すには俺にはハードルが高すぎた。


 アプリで結晶を調べる。ありふれた魔石みたいだけど、魔石はもっともポピュラーな換金アイテムとも言える。採取できるのはかなり嬉しい。


『この綺麗な景色を壊しちゃうのはもったいないから、必要そうな分だけ採っていこう』

『おっけー!』


 俺たちが結晶を採取していると、ふと、ういろうが洞窟の奥に向かってゆっくりと泳ぎ出した。


『ん? ういろう、どうしたんだ?』

『キュー』


 ういろうがぱたぱたとヒレを振る。まるで、遠くにいる何者かに挨拶しているような動作だ。

 向こうに何かいるのか?


 注意を向けた瞬間、何者かと視線がぶつかったような気がした。


『……! もしかして、地上のひと、なの……?』


 洞窟の奥から小さな影が泳いでくる。

 それはもふもふの金色の毛をしたアザラシだった。


『あの、あたし……迷っちゃったの』


 アザラシは助けを求めるように俺たちを見上げていた。

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