その3・絶対順位に抗う心
リュウ「はぁ…はぁ…走ってばっかかよ…」
スーツを着た男を連れて逃げてきた。
スーツ男「あ…ありがとう…誰だか分からないけど…」
リュウ「いいってことよ…」
その場に座り込む。
ブラック「バカ!こっのバカ!」
いきなりブラックに怒られる。
リュウ「誰がバカだ!」
ブラック「あんたがだよこのバカ!何人助けしてんの⁉︎」
リュウ「悪いかよ!」
ブラック「悪いよ!」
スーツ男「あの…」
訝しげな顔をされる。
リュウ「あ、いや…ここに俺の…」
スーツ男「あぁ、案内人だっけ。君も参加者ってこと…なんだよね。」
リュウ「えぇ、まぁ…」
男の顔を見る。
リュウ「…会社員?」
スーツ男「まぁね。君は…高校生かい?」
リュウ「あ、はい…」
スーツ男「高校生なのにこんな所にいるってことは…余程の願いがあるってことなのかな…」
スーツの男も座り込む。
リュウ「そういうあなたこそ…」
スーツ男「なんで僕を助けたんだい?」
リュウ「え?」
スーツ男「ここは、他の参加者を殺して自分の願いを叶えるって場所だよ。僕を襲っていたあいつから横取り、っていうならともかく、助けられちゃって…」
ブラック「ほら見ろ。他の奴はちゃんと分かってる。」
リュウ「……だって、おかしいじゃん。」
スーツ男「え?」
リュウ「あんなさ、自分勝手のワガママに勝手に殺されるっておかしいじゃん。そんなのに殺されるなんて可哀想だよ。」
ブラック「アホだ…」
大きく頭を抱え始める。
スーツ男「君…ここに来るべきじゃなかったんじゃないかい?」
リュウ「でも…どうしても叶えたい願いがあって…」
スーツ男「でもそれじゃあ矛盾になっちゃうよ。」
リュウ「うっ…」
このままでは、リュウは一生願いが叶えられないままこの世界にいる羽目になる。
リュウ「でも…」
スーツ男「まぁいいや。とにかく、助けてくれてありがとう。僕はコウだ。」
リュウ「俺はリュウって言います。」
コウ「リュウくんか。本当にあり」
その時、遠くから怒号が響いてくる。
ハサミ男「見つけたぞクソどもがァ‼︎」
リュウ「げっ、アイツ!」
コウ「ゲンゴロウのやつ、また来た!」
リュウ「ゲンゴロウ?」
コウ「あの人、ゲンゴロウって名前らしい。自分で名乗ってた。」
リュウ「ゲンゴロウか…」
コウ「取り敢えず逃げないと…」
(いや、無理だ。さすがに走り疲れたし、これ以上逃げてもし追いつかれたら、絶対無理だ。)
リュウ「コウさん。」
コウ「なんだい⁉︎早く逃げないと!」
リュウ「コウさんもあるんですよね。文房具の武器。」
コウ「え?いや、あるけど…」
胸の内ポケットから付箋紙の束を取り出す。
コウ「これが僕の武器だよ。」
リュウ「付箋紙?」
コウ「こんなんだから、戦ったりはできないんだ。」
ブラック「なーるほどね。」
ブラックが1人で分かったように頷く。
リュウ「ブラック?」
ブラック「そりゃこんな武器しか持ってないんじゃ、ヘタにあんたに襲いかかれねぇな。返り討ちに遭うかもしれねぇし。」
リュウ「はぁ⁉︎」
ブラック「いやいやいや、ありえる話だって。特にあんたみたいな甘ちゃん、カモだし。」
リュウ「何言って」
ブラック「んじゃあたしはそろそろ消えるぜー。頑張りなー。」
ブラックが妖精か何かのように姿を消す。
リュウ「あ、ちょ!」
コウ「あぁ、来た来た来た!」
ゲンゴロウ「死ねゴミカスがぁぁぁ‼︎」
ハサミを振り上げて走ってくる。
リュウ「ちぃっ‼︎」
振り下ろされたハサミを鉛筆で防ぐ。
ゲンゴロウ「鬱陶しいんじゃあ‼︎」
ゲンゴロウが放ったひざ蹴りが腹に入る。
リュウ「ぎぃっ‼︎」
ゲンゴロウ「うらぁ‼︎」
背中の丁度心臓のあたりに肘を入れられる。
リュウ「がぁっ‼︎」
地面に倒れ伏す。
コウ「リュウくん!」
武器を持たないコウは近づけず、離れた所から見るだけになる。
ゲンゴロウ「青臭いガキのくせに、俺の邪魔しやがって。」
背中をグリグリと踏みつける。
ゲンゴロウ「自分が何したか分かってんのか?年上に逆らうなんて、許されるとでも思ってんのか?」
リュウ「………」
ゲンゴロウ「あぁ?何とか言えやおい。」
リュウ「……うっさい…」
ゲンゴロウ「あ?」
リュウ「テメェみたいなクソジジイの方がゴミカスなんだよ…!」
ゲンゴロウ「あ゛ぁ゛⁉︎」
背中を思い切り踏みつける。
ゲンゴロウ「誰に口聞いてんだ‼︎このクソガキがッ‼︎調子に乗るな‼︎年上の言う事はちゃんと聞けって学校で教わらなかったのか⁉︎」
声を荒げて体を何度も何度も蹴り続ける。
コウ「やめろ‼︎」
叫ぶが、それでもゲンゴロウはやめない。
コウ「やめろって言ってるだろ‼︎」
ゲンゴロウ「あぁ?」
ようやく振り向く。
ゲンゴロウ「なんだ?お前も逆らうのか?この俺に?」
コウ「その子は高校生なんだぞ⁉︎そんな暴力振るうなんて…」
ゲンゴロウ「お前だってそれが出来る立場にいるだろうが‼︎お前だってこんなガキ殺してまで自分の願いってやつを叶えるんだろ‼︎自分のこと棚に上げやがって‼︎」
コウ「お前のはただのわがままだ‼︎」
ゲンゴロウ「じゃあかしい‼︎俺は王なんだよ‼︎何しても許されるんだよ‼︎」
コウ「お前なんか王じゃない!お前なんか…」
ゲンゴロウ「誰に口聞いてんだ‼︎」
ここにきて1番大きな声を出す。
ゲンゴロウ「お前…付箋紙だったよな?お前の武器。それで何が出来る?」
コウ「………」
ゲンゴロウ「何もできないよなぁ?俺がこういうことしたってなぁ‼︎」
脚を振り上げ、リュウを思い切り踏み潰す。
リュウ「があっ…ぁぁぁ…」
コウ「………」
ゲンゴロウ「何もできないよなぁ?可哀想になぁ?」
ハサミの片方を振り上げる。
ゲンゴロウ「死んじまうぞ?いいのか?」
コウ「……」
ハサミが振り下ろされる。
ゲンゴロウ「ん?」
体を貫通した感触を感じず、リュウの体を見ると、白い液体のような何かがリュウの服を覆い、遮っていた。
ゲンゴロウ「なっ⁉︎」
コウ「1人じゃあ何もできないさ…1人だったらな‼︎」
ゲンゴロウ「なに⁉︎うおっ‼︎」
後ろから何者かに攻撃されるのを避け、その場から離れる。
リュウ「うぅ…」
女「大丈夫?ほら立って!」
女性の声がするが、立つ体力がもはや残っていない。
既に骨が折れている。
女「ほら!これならどう?」
肩を叩かれると、急に体の痛みが抜ける。
リュウ「⁉︎えっ?えっ?なにこれ?」
女「うわっ、本当に効いた…」
リュウ「効いたって?ってかあんた…」
いつぞやの修正液で襲いかかってきた女性だった。
女「あの時のお返しよ。それよりそれ、あそこの男の付箋紙よ。」
リュウ「付箋紙?」
肩を見る。
肩に付箋紙が貼ってあり、『傷が癒え、体力も元通りになる』と書いてある。
リュウ「なにこれ?」
女「付箋紙に書いて何かに貼ると、書かれている事が起こるって言ってた。だから、それに書いてるままのことが起きてるんだと思う。」
リュウ「傷が消えて…体力全快⁉︎」
コウの方を振り向く。
リュウ「コウさ…」
コウの方を振り向くと、ゲンゴロウのハサミがコウの体を貫通していた。
コウ「あ……ぁ…」
リュウ「コウさん…?」
ハサミが引き抜かれる。
そのまま前のめりになって倒れ、動かなくなる。
ゲンゴロウ「死ね死ねぇ‼︎あと1人だ‼︎あと1人で俺は王になれるんだよ‼︎」
汚く笑いながらコウの体を蹴り飛ばす。
リュウ「てめぇ…‼︎」
女「このクズが‼︎」
修正液を飛ばし、ゲンゴロウの顔を覆って目隠しをする。
ゲンゴロウ「んがあっ‼︎見えない‼︎クソっ‼︎なんなんだ‼︎」
リュウ「ふざけんなクソッタレがぁ‼︎」
修正液の女性が持っていたナイフを奪い取り、ゲンゴロウに向かって走る。
リュウ「死ね‼︎お前が死ね‼︎」
ゲンゴロウを蹴り倒し、地面に伏したゲンゴロウの背中を何度も刺す。
リュウ「このクソが‼︎クソッタレが‼︎」
女「ちょっと!あんた落ち着きなさいって!」
羽交締めにされてようやく動くのをやめる。
リュウ「だって…!こいつ…!」
女「もう死んでるわよ。もう意味ないって。」
リュウ「コウさん…」
倒れたコウに近づく。
既に息絶えていて、全く動かない。
リュウ「もっとあのおっさんに気を回とけば…」
女「その人…私があなたを助けてる間にアイツの気を引いてたのよ。」
リュウ「え?」
女「私がこのあたりに来たら、あなたがそこのゲンゴロウって人に踏まれてるのを見たの。すぐ側で見ていたこの人に、あなたを助ける為に協力しようって言ったら、この作戦で行こうって…」
リュウ「この作戦って…自分を犠牲にしようって⁉︎」
女「あなたに助けられた恩が返したいって…」
リュウ「そんなの…」
女「そういう目的じゃなかったでしょうに…」
リュウ「そんな…」
女「願いの石は1個しか持ってないから大丈夫だって言ってたわ。だから…」
リュウ「だからなんだよ…俺の代わりに…」
女「あぁもう‼︎」
胸ぐらを掴まれ、無理やり立たされる。
女「男の子でしょ‼︎いつまでもウジウジしてないでこの人の分まで頑張ろうとか思いなさい‼︎」
リュウ「え?え?」
急に怒られて動揺する。
女「別にいいわよ。私はあなたに助けられた借り返したし。」
突き放すように腕から放される。
女「あなたを助けたのは、助けられたからよ。でも次見かけたら何も言わずに殺すから。」
そのまま立ち去ろうとする。
リュウ「あの…」
引き止めようとするが、言葉が浮かばない。
女「弟がいるんだって?」
リュウ「え⁉︎なんでそれを…」
女「私の案内人とあなたの案内人が話してたのよ。あなたが私にその鉛筆向けてた間に。それじゃ。」
そう言って去っていく。
リュウ「………ふざけんなって…」
地面に座り込む。
ブラック「はいはいお疲れさん。」
ブラックがゲンゴロウの上に座る。
ブラック「ほらこれ、このおっさんの願いの石。中見てみろよ。」
石を渡され、中を見る。
リュウ「『地元の王になる』?」
ブラック「あっちの世界でも威張り散らして自由にやってきてたんだろうが、もっとやりたい放題したかったみたいだな。」
リュウ「本当に人間のクズじゃねぇかよ…」
ブラック「まぁ幸か不幸か、こいつ願いの石を9個持ってやがった。そこのコウっていうおじさんの分も含めてな。あと一歩って所で、こいつの大事な大事な王様の夢をぶち壊してやったんだ。さすがだぜ。」
リュウ「もうやだ…」
うなだれる。
リュウ「こんなこと…」
ブラック「おいおい、やる気出せよ。」
リュウ「コウさん…」
ブラック「ちなみに、そのおじさんの願いの石がこれだ。」
もう1つ、コウの願いの石を渡される。
リュウ「『ウザいクレームをこの世から無くすこと』…」
ブラック「そいつ、どうも現実世界ではクレームに対応する部署に勤めてたみたいだけど、毎日毎日クソッタレな客の相手させられてたみたいだぜ。丁度そこおっさんのようなやつとかな。」
リュウ「だからこんな願いを…この人も被害者じゃんか…」
ブラック「ふーん…そうだ‼︎」
手をポンと叩く。
リュウ「なに?」
ブラック「あんた、願い叶えたいよな?」
リュウ「あぁ。」
ブラック「でもさっきの女やコウみたいな、いわゆる良い人は殺したくないんだよな?」
リュウ「あぁ。」
ブラック「でも、ゲンゴロウみたいなおっさんは殺したいよな?」
リュウ「殺したい…かどうかはともかく、願いは叶えさせたくない…ちょ、まさか…」
ブラック「だったらさ。あんたヒーローごっこしようぜ!悪を挫き、善き人を守る!そんな正義のヒーローやればいいんだ!そうすれば、あんたが殺したくない人は守れるし、ちゃんと活動してほしいあたしとしても嬉しいし。」
リュウ「ヒーロー…」
ブラック「悪くねぇだろ?な?決まりだろ。」
頭をポンポンと叩かれる。
ブラック「あんたは甘々の甘ちゃんだったけど、ちゃんと自分らしさを持ってる甘ちゃんだ。そういうのはあたし、大好きだぞ!かわいいし!」
リュウ「なんだそれ…」
ブラック「なんだよ、あたしの方が年上だって忘れてないだろうな。年上のお姉さんには年下の男の子を可愛がっていい権利があるっての覚えとけよ。」




