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私の知らない世界のページ  3

「俺がまだ幼く子供の頃に、俺の住んでいた町を訪れたんだ。王都の城下町のはずれでひっそりくらしていたんだ。

父は大戦で魔族にやられて亡くなった。母は体調を崩していて、俺が代わりに買い物に行ったんだ。」


 彼は昔話を始めた。

 そういえば私は、この世界で誰かの過去の話ってあまり聞いていなかったかもしれない。


 「急いで帰ろうと街中を走っていたら、あの方とぶつかってしまったんだ。周りの魔族が怒りながら『なにやってるんだ!』って俺を捕まえようとしてた。人間は見て見ぬふりして誰も助けてくれなくて、死んじゃうのかなって正直思ったんだよ。

そしたら、あの方は怒ることなく『通行の邪魔をしてすまなかったね。これで足りるかな?』といってそのお金を渡してくれたんだ。」


「アドルフさん・・・。」


「なのに俺ときたら、お礼も謝罪もせずに泣きながら『父さんを返せ』って言っちまったんだよ。

 そのあとすぐに王国軍が来て魔族を連れて行ったけど、その時のあの方の顔が寂しそうですごく後悔たんだ。」


「だから『魔族が現れた』って聞いたときに、もしかしたらその人が来たのかもしれないって思ってすぐに見に行ったんだ。その時、お礼言わなかったくせに失礼なこと言ったから・・・。

でも、見に行ったけど違った。彼より小柄で服装も全然違った。俺は戻ろうとしたけど気が遠のいていったよ。そのあとここで餓死した。もう一年くらいになるんじゃないかな。」


私の世界でも『霊』と呼ばれるものは存在すると思われている。

 オカルト研究会にもそういった類が好きな人はいた。悪霊、生霊、心霊写真、心霊現象など。

そして、この世界にも似たようなものがいた。

 こんな姿になっても、アドルフさんが昔してくれたことを覚えている。

 生きているのか死んでいるのか。死んだはずなのに未だに生きている・・・それはどういったものなのか。到底、私にはわからない。

でも彼曰く、いつか自我が無くなってしまう。


「いくら探してもこの洞窟には入口が無いんだ。ここは、アンデットモンスターを作るようなところだからな。

 アンデットモンスターになったら外に連れて行かれるらしいが、その頃にはもう自我はない。その光を見る限り、お前は魔法が使えるんだろう?あの穴から外に逃げろ。」


「だったらあなたも・・・」


「わかるだろ?・・・この身体だ。人間が受け入れてくれるわけはない。お前さんみたいにアンデットモンスターと怖がらずに話すやつなんてそうそういない。

 アンデットモンスターは太陽の光を浴びたら消えてしまうんだ。普通の生活はもうできないんだ。」


彼には、皮膚も肉も臓器も何もない。

 彼にあるのは自我と思い出くらいだ。

なのに彼の言葉は寂しそうで、泣いているはずはあるわけがないのに、私には涙を流しているように見えた。


「もし・・・もしお前が生きてここを出て、あの時俺があった近衛兵長に会ったら俺の代わりにお礼だけでも言ってくれないか?」


「・・・わかった。約束する。」


私は彼のお願いを聞き入れた。

 こんな姿になっても魔族を憎まず、アドルフさんにお礼だけ言いたくてそれだけが心残りで。

誰がこんなことをしたのかわからない。

 私をここに連れてきたのも、彼をここに連れてきたのもたぶん同一犯の仕業だろう。

 戻ったらピエロとアドルフさんにこのことを伝えよう。そしてアドルフさんをここに連れてきて、彼からお礼を言わせてあげよう。彼も喜ぶはずだ。


「・・・すまない。もう少し、このままいられると思ったが限界みたいだ。」


「・・・え?限界って?」


「一回死んでるからわかるんだよ。・・・もう自我が、保てなく・・・な、る。」


「待って! アドルフさん連れてくるから!ここに近衛兵長を連れてくるから・・・それまでは頑張ってよ!」


「あの方は・・・アドルフさんて、言う・・のか。

・・・ふふッ。いい名、前だ・・・。」


「ねえ、ねえってば!」


彼から返答が無くなった。

最初に見たガイコツのままだが、そのガイコツにはもう先ほどまでの彼はいないようだ。

 人が死ぬのも、魂が無くなるのも意外なまでにあっけない。

あんなに楽しそうに、思い出話に花を咲かせていろいろ話してくれたのに。

どうすることもできない私の無力さ。

 両手を彼の前で合わせる。

彼のお願いを叶えてあげたい。

 でも叶えるには、どうにかしてこの洞窟を出なくてはならない。

 先ほど書いてあった『肉体に精霊を宿し力を借りる魔法』ならば、もしかしたら出れるかもしれない。

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