胃の満腹 心の空腹 5
「坊ちゃま。その『マシロ』様というかたに私を会わせる、ということが目的だったのでしょうか?」
「そうなんだよ。でも、僕もわからないことばかりで・・・。」
「おやおや、謙遜ですね坊ちゃま。坊ちゃまは魔都図書館の本を、とてもたくさん読んでいらっしゃるではないですか。
そんな坊ちゃまにわからないことがあれば、それは私にもわからないですよ。」
「いやいや。・・・でも本当に彼女どこ行ったんだろう?
まさか部屋から出て、歩き回っているじゃないだろうな・・・。」
「・・・グゥー、スゥー。」
「はて・・・?坊ちゃま、布団の中から何か音が聞こえますよ。」
「・・・っえ? ほんと?」
僕はベットに近づく。
僕が毎日のように寝ているベットのはずなのに、何故かドキドキしてきた。
相手が人間とはいえ女性で、その彼女が僕のベットで寝ているといのは・・・恥ずかしいし緊張する。
返事がなかったために、どこかに行ったと考えてしまった。
だが部屋から離れる前にベットにいって布団をかぶるのを見た。返事がないという理由でまだ確認していなかったが灯台下暗し。
「マシロ・・・あっ。」
彼女のかぶる布団を捲ると、そこには団子状になった黒い物体が。
いやいや彼女がいた。
遠くからだと聞き取れなかったが、この距離でやっと聞こえるようになった静かな寝息。
「おや、これは・・・人間ですね。気持ちよさそうに寝ていらっしゃる。」
「まったく・・・。」
「それにしても、どうして坊ちゃまのベットに人間がいらっしゃるのですか?」
「それがよくわからないんだけど、実は・・・。」
特に秘密にしておかなければならないこともない。
彼にはすべてを話した。
僕が謁見の間でいつものように夕日を見ていたこと。光や風が起こったこと。急に彼女が現れたこと。
だが僕自身説明していて、よくわからないという『事実』がどんどん膨れ上がった。
どうして人間が?どうやって魔王城に。そして何のために。
「ふむ・・・。疑問点は多々あります。私でも知っていることといえば、まずあの魔法陣です。
あれは先代の魔王様が、数多くのもの、大きなものを転移するために作りました。詠唱転移魔法では、大きさも数も距離も全て制限されてしまいます。
そのために、あのような巨大な魔方陣を常時用意しておいたのです。」
「なるほど。僕には使いこなせないからな・・・。。」
「いえ、坊ちゃまとてルシファーとてそう簡単には使いこなせる代物ではありません。先代の魔王様も力を使いすぎるということで、ほとんど使っておりませんでした。」
「ルシファーでも簡単には使えないんだ・・・。
でもその魔方陣からマシロは出てきたんだけど、マシロにそれだけの力が?」
「あの子にそのような力があるようにも見えませんが、魔法だけは見た目や努力ではなく才能が大きく左右されるところですからね。」
「うーん・・・。ちなみに魔法陣同士じゃないと転移はできないのかな?」
「先代が転移した時にご一緒したのですが、たしかその時は何も無いところに飛んでいきました。」
「そうすると、ゲートのような役割でもないのか・・・。」
「いえ、そうとも限りません。
城から離れたところで転移魔法陣を作って転移する時、着地点としてあの魔法陣が飛びやすいのです。ですので、転移で帰ってくるものはあの魔法陣から出てくるものもいます。
その点はルシファーか魔法長にお伺いしたほうが、私よりわかりやすく教えてくれるでしょう。」
「でも、だいたいの原理はわかった。彼女自分の書いた魔法陣と一緒と言っていたから、たぶん間違いなさそう。」
彼女は自分で書いた魔法陣で転移をして、その着地点に謁見の間の魔方陣を選んだ。
そうだとすれば、彼女があの場に突如として現れた辻褄も合う。
今、彼女が眠っているのも転移魔術で力を使い切ったからかもしれない。
とりあえず、現時点での一番の謎は解けた。
あとは彼女から詳しく話せば送り返せるだろう。




