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戦う彼女とナイト様

あのあと詳しい契約内容を決めた。

契約内容を口外するのはご法度。

口外した時点で契約を解除。

ただし、私はすでに真由羅に言ってしまっている。

絶対他言することのない親友のみに話す事はいいことになった。

健太郎も笹木健吾には言うらしい。

吉倉智樹は?って聞いたら、親友だけどアイツはすぐ態度に出るからということで却下されていた。

次にどこまで許すって話。

手をつなぐのは日常的にする事になって、キスは必要あればするとのこと。

本当は嫌だって言ったけど、見せ付けるためには仕方ないって嫌そうに健太郎がつぶやいたのをみて思わず殴ったのは置いといて。

私は誰とも付き合った経験がないと言ったら、かなり驚いてたけど本当の話。

だから本当はキスもHも本気で好きな人としたい。

一応、私も乙女ですから。

だから当然のごとくHは厳禁。

いくら仕事とは言え、こっちにだってプライドはある。

最後に、互いに別に好きな人ができたらその時点で契約解除。

これは利害一致ですんなりと決まった。


なんだかんだで健太郎と偽恋人になって一週間。

私と付き合っているという噂は瞬く間に広まって。

喫茶店から出てきて健太郎に抱き締められたのも見られていたらしく、その話も同時に噂されているみたい。


彼の人気ぶりは嫌というほど身を持って実感した。


内履を隠されるわ、ロッカーの鍵を無理矢理こじ開けての中を墨汁で真っ黒にされるわ、机に落書きされるわ、もう語り尽くせないほどの古くさい仕打ちを受けている。

精神的にはどうってことないし、気にも止めていないけれど、所有物破損は結構困る。

守銭奴の私からしてみれば破損を伴う持ち物を新しく買わなければいけないというのがつらいのだ。


金を稼ぐ前に赤字になってしまうんじゃないか・・・


別途料金を健太郎に請求するわけにもいかない。

健太郎にはあえてこの一通りの惨事は恋する乙女達の一揆と思って伝えていない。

特に大きな出来事でもないし、自分に直接被害があるわけじゃない。

真由羅は言ったほうがいいと言うけれど、自分が大丈夫だと思う範囲の出来事は言いたくなかったし言う気もさらさらなかった。

心配とか迷惑をかけないのも仕事のひとつだと思ってるし。


そして今日もそれは続く。




ガシャンッ!




「・・・おぉ!古典的に頭上から植木鉢!」


「感心してる場合?!」


真由羅のツッコミに笑いながら頭上を見上げるけれど、人影もなく証拠がないためにどうも動けない。

真由羅が犯人探しをするのに反射的に頭上を向くも、私はあえてそれを止めた。


「だって優花ちゃん!下手したら死んでるかも知れないのよ?!」


「私はそんなヤワじゃないの、真由羅が一番よく知ってるだろ?」


私の言葉に、真由羅はぐっと息を飲んで、納得いかないように私を睨んだ。


小学三年から中学二年までの五年間、私は家庭の事情で鶴来家が治める里で暮らしていたことがある。


里の人は皆、忍者ばかりで私のような一般人がやすやすと入れる場所にはない。


真由羅と出会ったのもちょうどその頃で、私は真由羅の修業の手伝いでよく組み手をしていた。

本格的な修業をしているわけじゃないから、人並み以上に武術ができる程度で、真由羅みたいな忍者とは程遠い。

それなりに護身術も会得しているから人より強くて反射神経もいい自信があった。


「じゃあせめて里見くんに・・・」


「いーって。正体もわからないんだし、健太郎のファンとは限らない」


「・・・優花ちゃん、他に恨み買うような事してるの?」


「うーん。思い当たる節があり過ぎて断定できんのだよ真由羅嬢」


冗談ぽく言っても真由羅の機嫌は直らなかった。


昼休みはせめて人目があるところにいようという真由羅の提案に私はしぶしぶ了承して教室で弁当を広げていた。

もちろん、クラスの中にも健太郎のファンがいるんだけど、彼女達は目の保養や憧れの意識で個人的に見て楽しむという傾向が多く、上級生らしい態度で私を悪く言う人はいない。

むしろ、目の当たりにする私に対してのさまざまな仕打ちに同情すらしてくれているのだ。


そう考えれば、居場所のない私にとって教室が唯一の拠り所であった。


「優花さん居る?」


その拠り所に健太郎が顔を覗かせる。

途端、叫びに近い黄色の声がクラスに響き渡る。


「おー、ここだ」


弁当をつつきながら席に座ったまま手を振る。

私の姿を見つけて健太郎は穏やかに笑った。


「へぇ?あの人が優花さん」


健太郎の横からひょいと覗き込んだ人物がつぶやく。

いつか真由羅に見せてもらった写真に写っていた人物の一人、笹木健吾だ。


「ずいぶん、普通の人選んだなお前」


健太郎の肩に手を置きながら艶っぽい笑顔を覗かせたのは写真に写っていた最後の一人、吉倉智樹だった。


「嘘ぉ!three knights勢揃いよぉ!」


「私、如月さんと同じクラスでよかったぁ!」


「もーマジ死んでもいいわ!」


そんな会話がクラス内のいろんな方向から聞こえてくる。

クラスや廊下のざわめきをものともせず、三人は私の元に歩み寄ってくる。

慣れてるのか気にしていないのかはわからないけれど、三人を囲むオーラは自分とは桁違いみたいで。


健太郎は申し訳なさそうに私を見て、それから自分についてきた二人を紹介してくれた。


「優花さんの所行くって言ったら、興味本位でついてきた俺の悪友。笹木健吾と吉倉智樹」


「見物客連れてきたのか・・・レッサーパンダの風太にでもなった気分だよ」


「何?この人レッサーパンダ並みに芸できるの?」


嫌味っぽく笑う吉倉智樹にたいして、私はにやりとほくそ笑む。


「風太も驚くバック転のスペシャリスト」


「マジ?」


「マジマジ。真由羅なんかもっとすごいぞ」


「真由羅?」


吉倉君が不思議そうに私から視線をずらして真由羅をみる。


「うん、この子。私の親友だよ」


「どーも。優花ちゃんの愛人、鶴来真由羅です」


真由羅は警戒心丸出しに三人に言う。

私が何かと仕打ちを受けているのにたいして、気付きもしない健太郎が許せないらしい。


「愛人?!」


おどけた表情で笹木健吾が尋ねると、私はまた少し悪戯っぽく笑って言った。


「気を付けろよ健太郎。真由羅はお前に私を取られたって恨んでるから。噛み付かれるぞ」


「あら、噛み付くだなんてしないわよ。優花ちゃんは今でも私のだもの」


「おいおい、昨日あんなに君のことは愛せないって説明したじゃないか」


「そうやって私を冷たく突き放す・・・昨日の夜にはたくさん愛を囁いてくれていたじゃない!アレは嘘だったの?!」


「真由羅・・・これ以上私を困らせないでくれ・・・」


「ひ・・・ひどいっ!」


そう言い出すやいなや、真由羅は泣き真似をして顔を両手で覆った。

それを見ていたthree knightsの面々は唖然とした表情を浮かべたかと思うと、爆発したように笑い始めた。


「やっべっ!この人らいいわ!里見、おもしろい人見つけたなぁ!」


「ぶはっ!俺もこれは予想外だって!優花さんこんなキャラだとは・・・」


「真由羅さんと優花さんかなり息合ってるねぇ」


笹木君が発した最後の言葉に真由羅は機嫌を直したのかぱっと顔をあげて語り始めた。


「当たり前よ。優花ちゃんと私は小学生の時からの付き合いなのよ!あれは・・・」


「あーあ。真由羅は私との馴れ初めを語りだしたら止まらないのに・・・」


ため息混じりの私の言葉に、笹木君は本当に困ったような表情で私に助けを求める。


「・・・でね、ちょっと聞いてる笹木君!」


「えっ、ちょっ、聞いてます聞いてますっ」


慌てる笹木君を見て、三人で声を上げて笑う。


「吉倉君も聞きなさいよ!私と優花ちゃんの友情は一日では語り尽くせないほど深いのよ!」


「お、俺ぇ?!ってアンタどれだけ話すつもりだよ!」


「三日三晩語ってあげる!小・中・高の三部作よ!」


「「少し省けよ!」」


笹木君と吉倉君が同時に突っ込めば、真由羅はふんっと鼻を鳴らした。


「省く友情なんかないわ!」


そして真由羅ワールドへと吉倉君も引き込まれていって。

二人を振り回す真由羅の態度に、健太郎は爽やかな笑顔を向けて私を見た。


「あの人すごいな。吉倉はともかく、笹木まで・・・」


「私の親友だから」


「ああ、なるほど」


変に納得した健太郎は、クスクスと口元で笑う。

私もつられて笑えば、周囲からは羨ましそうな視線が注がれた。


「そういえば何の用で来たんだ?」


「忘れてた。今日さ、部活でレギュラー決める紅白試合あって遅くなるから先帰っていいよって伝えに」


「あー、了解」


一言そう答えて、弁当箱に残った最後の唐揚げを口に放り込みながら弁当箱をしまっていると、健太郎が不思議そうな顔で私を見ているのに気付いた。


「ん?らに(なに)?」


「いや、見にこないの?」


私は健太郎の顔を凝視しながら唐揚げを飲み込む。


「見にきて欲しいのか?」


「いや、見に行くーって言う女ばっかだったし」


「レギュラー決める大事な試合なんだろ?見に行って気が散らないか?」


きょとんと聞き返せば、健太郎はうれしそうに笑って私に言った。


「付き合い始めた時も思ったんだけど、優花さんみたいに気を使ってくれる人は初めてだよ。なんか思われてるなぁ俺って」


「彼女本人に惚気るなよお前・・・」


「あははっ!・・・やっぱり見にきてよ。優花さんの応援あると俺、頑張れそう」


私は笑って頷くと、そろそろ真由羅に捕まった二人を助けてやることにした。


「真由羅、昨日の課題は?次の時間お前当たるぞ?」


「えっ?きゃー!こんな時間!まだ終わってないのにぃ!」


私の言葉に真由羅は慌てて弁当をしまって、次の授業に使う教科書にかじりつくように勉強を始める。

真由羅に捕まっていた二人は助かったと言うように盛大なため息をついていた。


「二人でいちゃついてんじゃねぇよ里見」


自分が真由羅の餌食になっているときに、二人で話していたのが気に入らないらしく、吉倉君が健太郎に八つ当りするようにつぶやく。


「何?自分が前原さんといちゃつけないからって人の幸せ妬まないでくれる?」


「ね、妬んでねぇよ!」


「前原さんに相手にされてないもんな、お前」


「やかましい!俺は攻めてるよ!」


顔を真っ赤にして怒る吉倉君に、真由羅は机に向かいながらボソリとトドメをさした。


「なんだ童貞君なのね・・・」


これには私も唖然として言葉を失いながら、真由羅を見る。

健太郎は涙を浮かべて口元と腹を押さえてるし、笹木君は私たちに背を向けてしゃがみこんで肩を震わせている。

言われた当の本人、吉倉君に関しては茫然としたまま硬直し、せっせと勉強をする真由羅を見ていた。


「こ・・・このアマァ!」


「真由羅様とお呼びなさい童貞君」


「誰が童貞だ!」


「あら違うの?」


「がっ・・・ぐっ・・・」


「ほらそうじゃない」


「なっ、てめぇはどうなんだよ!」


「私?私は純粋よ」


「一緒じゃねぇか!」


「一緒にしないでくれる?女の純粋は今や天然記念物。重宝される存在なの。生娘よ、KI・MU・SU・ME!君とは大違い。噂だとアナタは幼なじみの彼女がいるって?相手がいるのにまだ童貞だなんて。あら嫌だ。どうせ避けられてるんでしょ?そうよね、アナタ、がっつきそうだもの。それで叱られてお預け食らってるタイプ。言わばヘタレね!Mr.HETARE!」


「がっ・・・」


真由羅のマシンガントークでまたもや吉倉君が絶句する。


「人前で濃厚なキスする娘が純粋語っていらっしゃる。世も末・・・」


「優花ちゃん、口はさまなーい!」


「はいはい。真由羅の勝ちぃ」


勝敗を告げると、真由羅は満足そうに吉倉君をニンマリと見つめ、吉倉君は落胆して肩を落とす。

あとの二人だけじゃなく、周囲からも笑い声が漏れて。

和やかな雰囲気の中、落胆する吉倉君に健太郎がちょっかいを出しにいく。

入れ代わりに笹木君が私の元へ逃げるようにやってきた。


「もーあの人最高で最強ですね!」


「最強の親友だよ」


「・・・死にそうになった時に何度も助けたって?」


その言葉に私は一瞬だけ動きを止め、笹木君を見る。

笹木君はあどけない悪意のない笑顔で私を見ていた。

それにつられるように私もほほ笑みかえす。


「なんだ、真由羅の話聞いてるの嫌そうだったのに、ちゃんと聞いてたんだな」


「まぁね。仲いいんだなーって」


「・・・本当はね、初めて会ったとき、真由羅の事大嫌いだったんだ」


「えっ?意外!」


本当に驚いたように表情を変える。

面白いくらいコロコロと変わる彼の表情に思わず笑みがこぼれた。


「私が持っていないもの、何でも持ってたからね。嫌味ない性格も、笑顔も・・・それが大嫌いだった・・・けどそれに救われたから。私が、真由羅の優しさに助けられたから・・・。ただの友情なんかで片づかないぐらい、私たちは信頼し合ってる」


「そっかぁ・・・ねぇ、如月先輩」


「優花でいいよ」


「じゃあ俺、健吾で♪優花さん。里見の事、見捨てないでやってね。バイトでいいから、そばにいてあげて。笑ってる里見見るの久しぶりだからさ」


「なんかあったのか?」


私の質問に、健吾は困ったような笑い方をして私を見る。


「あいつ今、なんだかんだいって情緒不安定だから」


「ん?答えになってないような・・・」


私がつぶやくと、健吾は誤魔化すように微笑んで言った。


「本人から聞いたほうがいいよ」


「じゃあそうするよ」


私が素直に答えると、健吾はほほ笑みながらうなずく。

なんとなくだけどその笑顔がぎこちなく見えて。

いつもはぼーっとしてる私だけど、それなりに人を見る力はあるつもりだ。


「精神不安定なのは健太郎だけじゃないか・・・」


「え?何?」


ため息混じりにボソリとつぶやいた言葉に、健吾が反応するけれど、私は笑って首を横に振った。




放課後になって体育館へ向かうと、ギャラリーにはすでに多くの女子生徒が居て、私たちはその間を抜けるようにして場所の確保に成功した。

まわりから痛いほどの視線を浴びているがこの際、気にしない。


ギャラリーから見下ろすと、選手はすでにピリピリとした空気が感じられる。

体育館の中央で、ホイッスルとともにジャンプボールが行われる。


ボールの弾く音、シューズが床に擦れる音が次々に生まれる。


バスケなんて体育の授業ぐらいでしかしたことがないからルールはしっかり理解していない。

だけど上から試合を見ているかぎり、健太郎がずば抜けてうまいというのは素人の私にもわかった。


うーん。なるほど。


格好いいと言うのかはわからないけど、スポーツのできる男はやはり違うな。


「ファール!5番!」


笛の音とともに審判の声が響く。

それにはっと我に返り改めてコート内を見れば健太郎が渋い顔をして床をにらんでいる。

健太郎の傍を一人の選手が横切ったとき、私は初めて理解する。



なんとなく・・・。



この前感じた違和感がよみがえる。



付き合いはじめたあの日、練習試合をしていた健太郎の動きになんとなく違和感を感じていた。

動きが悪いなぁっとしか思ってなかったけど。


「ちょっとアンタ、里見くんの気が散るからここから出ていきなさいよ」


突然の台詞に、顔をあげてそちらを見る。

綺麗なお姉様系の生徒が腕組をしてこちらをにらんでいた。

彼女の後ろには似たり寄ったりな女性軍が構えている。


ああ、健太郎のファンだ。


そう考えただけでげんなりする。


「アンタみたいなちんちくりんが里見くんの彼女ですって?どうやって言い寄ったのか知らないけど、里見くんは皆のものよ!独り占めなんかしないでよブス!」


うわーそこまで言うか?


あえて冷静に彼女の意見を聞いていると、その態度が気に食わなかったのか後ろの女性陣も口々に私の容姿をバカにしはじめる。


「自分の姿を鏡で見たら?里見君とアナタがつりあうわけないじゃない!身の程わきまえなさいよ!わかったならさっさとここから出ていきなさい!」


人のことが言えない部分もあるんじゃないかいレディ達?

そんな事を心の中で毒づいて。


ふと横目でコートの中を見ると健太郎がチラチラとこちらの様子をうかがっているのがわかる。


ああ、まいった。


大事な試合に集中させてあげなきゃ。

本当はあの違和感の正体も気になるけど、それ以上に自分の存在が彼の集中力を散漫させていると思うと胸が痛い。


私は彼女達の暴言を無視して団体に背を向ける。

彼女達の誇った顔が一瞬見えたが、あえて振り返らないまま彼女達に言った。


「ここは健太郎が戦っている場所だから問題は起こさないけど・・・」


少し間を置いて、ゆっくりと振り返る。

それからギッと力強く睨めば、彼女達はゾクリと身を縮こまらせ、先程まで煩く私を罵倒していた言葉を詰まらせた。


「健太郎の邪魔になるようなことしたら、女だろうがファンだろうが許さないから」


それだけを伝えて、体育館を出る。


なんだか馬鹿らしくなって渡り廊下から空をみあげて。

大きなため息をついて、それからカバンを取りに教室へ向かうことにした。


放課後の廊下は誰一人いなくて、自分の足音だけがやけに耳に残る。

頭の中で健太郎の部活の様子やファンの子達にどう対処するかを思いふけって歩いていた。


途端、横から自分の体を引き寄せられ、大きな音を立てて扉が閉まる。

最後には鍵の閉まる音まで聞こえてきて。

状況を判断した時、ヤバイと直感した。

周りのものを見れば化学室と理解する。

カーテンも締め切って暗闇に近いこの部屋に無理矢理連れ込まれ、自分の視界で理解できるのは3人ほどの男子生徒。


顔は知らない。


口と両手両足を押さえられ、一人の男子生徒が私の上にまたがりながら気味悪い笑みを漏らした。


「アンタだろ?里見健太郎の女って」


「悪いね。アンタには恨みはないんだけど、俺達にも少しぐらい、あの里見を落とした体拝ませてよ」


荒く声を上げようとするも、手で押さえられた口からは私の声にならないうめき声と、ヒューヒューと息の漏れる音しかしない。

有無を言わさずその上にまたがった男が私の首筋に唇を寄せてきた。


思わずビクッと反応する。


感じたとかそんなんじゃなくて、気持ち悪いのただそれだけ。


まずった。


敵は女だけだと思ってたけど、案外健太郎にも敵は居たらしい。

健太郎本人はスポーツ万能で頭も良くてそりゃもう才色兼備なもんだから、自分達には手が出せないと思ったんだろう。

どうせのことだ、傷つけるなら弱い立場の私を・・・って魂胆だ。


ネクタイを無理矢理解かれ、制服を力づくで引き裂く。

ブチブチとボタンが取れてコロコロと床に転がる。


いくら真由羅から武術を学んでたからって侮りすぎた。


「見ろよコイツ。意外に胸でけぇ!」


「里見もこれに落ちたのか!?」


触らせてねぇよ!


心の中で毒を吐くけれど、三人はお構いなしに私の胸を観賞し始めた。

胸を円をかくようにゆっくりともまれる。


やべっ、マジ気持ち悪っ・・・


男達の行為はどんどんエスカレートしていき、やがてブラをずらされ生で揉まれて、体中を唇でなぞられて。

ビクビクと反応してしまう自分が悔しい。


でもこっちだってタダで自分の体を触らせてやる気はさらさらない。

犯されようが何しようが後から絶対倍返ししてやる。


そう心に決めて抵抗をゆっくりとやめた。


私のその行為が観念したように見えたのか男達は顔を見合わせてニヤリと笑みを漏らした。

私の口を押さえていた手が緩まり苦しかった鼻呼吸が終了する。

大きく息をついた瞬間、別の男の唇で自分の唇を塞がれた。


ヌルリと嫌な感じが口に広がる。


乙女のファーストキス返せ!


このヘタクソめ!!


ギリッと舌を噛めば男はひるんで唇を離す。

と同時にものすごい形相で私を見るなり、勢いよく頬を殴られた。


「っ!」


いったーい・・・んじゃこのボケェ!!


あえて口にはいたしません。

だってレディだもん。


「このアマァ!手こずらせやがって!」


そういってもう一度男が手を振り上げた瞬間だった。



すさまじいミシミシと木の割れるような音がして、廊下側から太陽の光が入ってくる。

バッとそちらを振り向けば、ふざけた笑顔で私達を見た奴が2人。


「「ナイト参上!」」


「里見じゃなくてごめんねバージョン!」


そう言った私のナイト様は慌てて体制を取れないままの男達を容赦なく殴りつけ私から離れさせる。


「遅くなってごめんね!」


「大丈夫か!?」


そういいながらも攻撃はやめない。

一人の男が目の前でよろけたところを、私は力いっぱいそいつの股間を蹴り上げた。


「うっわ痛そー!」


「再起不能だなありゃ」


後の二人を一人ずつ担当するように胸倉を掴んで殴り続けながら平然と彼らは言う。

私は肌蹴た胸を自分の手で閉めながら立ち上がり、崩れ落ちた三人を上から見下ろした。

二人は終わりを告げるように手をパンパンと払って私を見る。

やっぱ運動神経あるだけのことはあって喧嘩も半端なく強い事がココに証明できた。

二人のナイトは私の姿を見て心配そうな表情を浮かべた。


「悪いな、助けるの遅れて」


「大丈夫?」


「ダイジョーブですよナイト達」


そう言ってチラリと天井を見上げる。


よし、よかった。


それから彼らに向き直ってもう一度お礼を言った。


「本当にありがとう。ファーストキスは奪われちゃったけど、処女は守ったわ」


気を使ったつもりで言った言葉に、二人は罰悪そうな顔をして顔を見合わせる。

吉倉君は自分のブレザーを脱いで、私の肩にそっと掛けてくれる。

健吾君は私の頭をポンポンと撫でて「ごめんね」と何度も謝った。


「頬、殴られた?赤くなってる」


「んー、まあ熱いけど痛みはほとんど」


そう言ってるのにも関わらず吉倉君が私の頬を撫でる。

吉倉君の手はいくらか冷たくて心地よかった。


「本当にいいってば、君達のせいじゃないんだし」


「・・・だね・・・で、こいつらどうする?」


健吾君は気を取り直して、完全に失神している三人の男を見下ろして言う。

吉倉君も健吾君もニヤリとほくそ笑んだのを見て、私もニヤリと彼らを見て声を合わせた。


『目には目を・・・歯には歯を・・・byハンムラビ法典!』


そう言って吉倉君たちは楽しそうに彼らの服をひん剥き始める。

ま、とりあえずトランクスだけは残してやろうと私の最後の優しさで、彼らはパンツ一枚の姿で放置しておく事にした。

ちなみに彼らの制服は化学室の準備室にぶち込み、鍵を閉めてその鍵は吉倉君が部活へ行くときに職員室へ返しておく事になった。


「写メ撮っとこーっと」


吉倉君が居なくなった後、健吾君が一人で楽しそうにまだ目を覚まさない彼らの写メをパシャパシャと撮る。

それから私を教室まで連れて行ってくれて、私は本来の目的だったカバンを取りに行くというミッションを終了した。


「ありがとね健吾君」


「いえいえ、どういたしまして。ホント、驚いた。声かけようかと思ったら急に消えちゃってさ。なんかガサガサ音すると思って聞き耳立ててたら吉倉が通って・・・」


で、冒頭に・・・とのこと。


ふと、思い立ったように健吾君を見れば健吾君はきょとんとした表情で私を見ていた。

さっき気付けばよかったのに、彼は陸上部専用のジャージを着ていて、私は慌てて彼に言った。


「あ、健吾君ごめん!部活の最中だったんじゃ・・・」


「んー、今日はコーチ居ないし自主練だったから気にしないでいいよ!」


ニパッと花が咲いたように笑う。

ああ、この子は何となく好かれる理由がわかるなと思った。

平気そうなフリをしているけれど、私だってアレは結構参ってる。

私も一応女だからね。

それを分かって、彼はあえて私の傍を離れようとしないのだ。

無意識に出来る優しさが彼らの魅力なんだと思う。

吉倉君も俺様な奴のクセにこうやって気を利かせて何も言わない私にブレザーを貸してくれた。

ホント、いい人たちだなぁと微笑み合っていると遠くからバタバタと足音がして、健吾君はとっさに私を自分の後ろに隠してくれた。

破けた制服を誰か知らない人に見られると私が困ると思って無意識にやった行為だろう。


「優花さっ!だ、大丈夫!?」


姿を見せたのは意外にも健太郎だった。

ユニフォームのまま肩で息をしている姿は、今までに見たことがないくらい慌ててきた様子で。


「え?健太郎?」


ひょいと健吾君の影から覗けば、健太郎は私の姿を見て愕然とした表情を浮かべた。

私と健太郎の顔を交互に見て、健吾君はにっこりと健太郎に微笑みかける。


「里見」


「あ、悪い笹木・・・。今吉倉から聞いて・・・」


「うん、それはいいんだけどね・・・」


健吾君は慌てて詫びる健太郎にゆっくりと歩み寄り、肩をポンと叩く。

それから今まで笑っていたことが嘘みたいに冷たい表情を見せた。


これがあの笹木健吾?


いつも笑っていて明るくて、人懐っこいので人気の彼がやけに恐ろしく見える。

誰が三人の中で一番温厚だって?


誰がモテてることを自覚していないんだって?


自覚してなきゃ・・・こんな風に怒る事もないでしょ・・・



コイツが一番やばいじゃんよ・・・。



「お前、この人巻き込んでどうすんだよ。もっと自覚しろ。でないと、俺がお前を許さない。適当に扱うくらいなら最初から関わるな」


低く鋭い声が健太郎の動きを止める。

ぐっと悔しそうに、でも本意を突かれて何も言い返せない健太郎はぐっと手を握り締め、唇を強くかんだ。


「ま、後は本当のナイトに任せますよ。じゃあ俺部活行ってくるねぇ♪」


ケロッと表情を変えて、健吾君は両手を大きく振りながら私を見る。

すごい違いに健太郎はついていけないらしく、走り去っていく足音を聞きながら呆然と立ち尽くしていた。

しばらくすると静寂が私達二人を包む。

グラウンドから部活の活気溢れた声が聞こえてくるけれど、それも私達の間では何の役にも立たない。

しばらく床を睨んでいた健太郎がゆっくりと私の方に向き直り、それから悔しそうに口を開いた。


「ごめん・・・助けてやれなくて」


「気にするな」


「でも自分がまいた種が優花さんを傷つけて・・・」


「んなもん不可抗力だろ。健太郎は悪くないよ。ってか部活は!?大事な試合じゃなかったの?」


「途中で吉倉に聞いて抜け出してきた。そんな事より・・・」


「そんな事じゃないよ!大事なレギュラーのかかった試合なんだよ!?今からでも一緒に事情説明しにいくから・・・」


「いいんだよ!!!」


突然叫ぶような怒鳴り声に私はビクッと体を震わす。

今日は一体なんて日なんだろう。

ファンの子にはネチネチクドクド文句を言われるわ、犯されそうになるわ、三人の中で一番温厚って言われてた健吾君のキレた瞬間を見ちゃったわ、健太郎に怒鳴られるわで散々だ。

驚いた表情で彼を見れば、彼はまた困ったような表情をして、それから焦るように頭をガシガシとかいた。


「試合のことはいいんだ・・・どうせ頑張ってもレギュラーにはなれないと思うし・・・それに、優花さんをこんな目にあわせておいて・・・」


「・・・気を使わなくてもよかったのに」


そういって私は照れたように頭をかく。

でも、健太郎の顔を見た途端に安心したのも事実だった。

無意識に私の体は小刻みに震えだす。

頭をかいている手もフルフルと震えだしてきて。


「でも・・・ちょっと怖かったかなっ」


弱音を吐いたと同時に涙がボロリとこぼれる。

冷静になってから今一度振り返れば本当、自分は我慢していたんだとおもう。

殴られた頬は未だに熱くてジンジンしているし、涙は止まらなくて。



途端、ぐいっと自分の体が引き寄せられて健太郎の腕の中へと包まれる。

が、いきなりのことだったので勢いあまって崩れ落ち、健太郎は教卓にもたれた状態で座り込んだ。

もちろんその腕の中には私がいるわけで。


「ホントごめん・・・守ってあげられなくて」


私は横に首を振りながらも素直にポロポロと泣く。

誰かの前で泣くなんて久しぶりだなぁなんて思いながら、彼の温もりが心地よくて完全に自分の体重を彼に預けた。

そうすれば彼が私を抱きしめる腕に再び力がこもって、彼の吐息が耳元で聞こえた。


「ごめん・・・ごめん・・・処女だったのに・・・大切な人に出会う時のために、今まで取って置いたんでしょ・・・」




・・・・・・・ん?




「ちょ、チョイ待ち。君は一体私がどこまでされたと思って?」


鼻水と涙でぐちゃぐちゃになりながらも顔を上げて彼に尋ねれば、彼は眉をひそめて疑い深そうに聞いてきた。


「吉倉が、俺達が行った時にはもう遅かったって・・・」


元凶はお前か吉倉ぁぁぁ!!


「それ嘘だよ!!」


「う・・・?・・・・・・・・・あんのクソ男がぁぁ!!!」


ようやく理解したように健太郎が私を抱きしめたまま怒りを爆発させる。

私は私で慌てて健太郎をなだめようとする。


「大丈夫だって!色々変なところ触られたり舐められたりしたけど、ファーストキスだけで済んだし」



・・・あ、迂闊。



すっごい険しい表情で睨まれちゃってますよ自分。

如月優花、高校3年生、火に油を注いでしまいました・・・。


「・・・どこ触れた?」


ごぉおぉ!怒ってらっしゃる怒ってらっしゃる!


殿はご立腹じゃぁ!!


とりあえず機嫌をとるために私は吉倉君のブレザーを少しだけ開いてぼろぼろになった制服から素肌を見せる。

それから鎖骨の辺りを恐る恐る自分で指差せば、健太郎はすっと私を見てそれからそこに顔をうずめた。


「っ!あっ!」


ギュッと目をつぶってもその感覚からは逃れられない。

健太郎はゆっくりと唇を離して私を見上げた。


「他は?」


同じことを繰り返されることに少々抵抗を感じたけれど、彼の目は鋭く射抜かれたようで嘘をつけなくなる。

私は下着のあらわになった胸を指差して遠慮がちに言った。


「ここ・・・その・・・揉まれた挙句・・・少し舐められちゃっ!!」


私が言い終わる前にブラを再び上の方へずらされて強く胸の突起を吸いつけられる。

さっきの男達とは全然違う、少し強引だけれど優しくて心地よい。

脳みそが溶けてしまいそうな感覚に、体の力が少しづつ抜けて健太郎にもたれかかる。

催眠術にかかったように私はその愛撫をやめさせることなく受け入れ、またポロポロと涙を流した。


ふと、顔を覗き込まれ視線が絡み合う。


ゆっくりと、顔が近づいてきて触れるだけのキスをされた。


「ごめん・・・」


何に対しての謝罪かわからない。

情けない表情を浮かべる彼が愛しくて、私はゆっくりと首を横に振って、自分からキスをした。

それに答えるように健太郎は角度を変えてキスを深くしていく。

絡み合う舌も、さっき無理矢理されたキスよりも清らかに感じる。

その時、契約とか偽者の恋人同士という単語は頭にはなくって、ただ本当の恋人のように健太郎は私の頭を引き寄せてキスの雨を降らせる。

ファンの人たちに知られたらそれでこそ殺されかねないな・・・なんて冗談とも言えないことを考えて私はキスをやめて健太郎の胸の中に顔をうずめた。

健太郎も何も言わないまま私を抱きしめる。

汗の匂いが染み込んだ健太郎のユニフォームに耳を当てれば、普通より早い速度で心音が聞こえる。


「・・・本当に試合よかったの?」


長く続いた沈黙に耐えられなくなって私が小さな声で訪ねると、健太郎は耳元で深いため息をついた。


「いいんだって・・・今年レギュラーは諦めてる」


「・・・あの味方チームの4番の人?」


私が聞き返せば、健太郎はバッと私の体を自分から離して私の顔を見る。

その表情はあまりにも驚愕していて、こっちもビックリした。


「なんで・・・」


「え・・・だって、初めて健太郎の部活見てた時からなんか違和感あったんだけどね。あの人、実力ありそうなのにわざと健太郎へのパスをミスしてなかった?」


濡れた目を拭きながら私が答えれば、健太郎は少しだけ視線を外してそれからははっと愛想笑いを浮かべる。

私はめくられた下着を直しながら、彼を見ると健太郎はふっと苦しそうな表情をして私を見た。


「優花さんって・・・ホント、よく人を見てるね」


その言葉の意味が分からず私は首をかしげながら尋ねる。


「あの人見たことある・・・3年でしょ?」


「ん・・・バスケ部のキャプテンなんだ・・・ポジション争いで去年、自分を差し置いて一年生の分際でレギュラー入りした俺が気に食わなくて、それ以来あの先輩は・・・」


「チームプレーもしてくれないってか?」


「元々俺、あんまり好かれてなかったんだ。それ以来部員のほとんどから妬まれてる」


「他の奴らのプレー見る限りは実力がないわけじゃなさそうなのにな?」


私がそういえば、健太郎は再び苦笑いを浮かべて私を起こしながら自分も立ち上がる。

私の制服についたほこりを気を利かせて払いながら私と視線を合わせて言った。


「仕方ないんだ。バスケで大切なのは個人の身体能力じゃなくてチームプレー。俺は要らないんだよ」


「そうか?」


「え?」


私の言葉が意外だったのか健太郎は無意識に聞き返す。

私は腕組みをしながら首をかしげて言った。


「要らない奴なら今頃バスケ部を追い出されてないか?」


そう言えば、健太郎ははっとした表情を浮かべて私を見る。

少し不安そうな、でも希望すら見出す事のできそうな複雑な表情を浮かべる健太郎に私は笑いかけて言った。


「きっと他の部員はお前の実力は認めてるよ。ただ自分達がいなきゃアイツは・・・って見下したいんだよ。実力があるからこその仕打ちだ」


「でも・・・」


「でもじゃない!しっかりしろ里見健太郎!他の部員に認めてもらうよう努力するのが今のお前に課せられた使命だ!」


「そうは言っても、今日の試合でレギュラー入り決定するんだよ?途中で抜け出してきたし無理だって」


「無理なもんか。ちなみにレギュラー決めるのって誰?」


「監督だけど?」


「わかった」


そう言い残して私はカバンを持って教室を出て行こうとする。

私の行動に驚いた健太郎が慌てて私を止めた。


「ちょっ!何するつもりだよ!?」


扉に手をかけたまま私は健太郎に振り返る。

今まで以上に不安そうな表情を浮かべる健太郎に、私はニヤリとほくそ笑んで言った。


「もち、健太郎の実力を認めてもらうのさ。部員の皆様に、キャプテン様に」


「だからどうやって!?」


駆け寄ってくる健太郎を見上げて、私は目の前で人差し指を立ててビシッと言った。


「優花さんに任せなさい!」


「不安だよ!」


誰もいない教室に健太郎の声が響いた。


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