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プロローグ


「時給九百円で俺の彼女しない?」



突然舞い込んできた高額バイト



そして私は彼女になった





[時給九百円の彼女]





「はぁ・・・」


ため息をつかずにはいられない。


三年生になって10日がたった。

さすがに10日も経てば普通の授業を開始されるんだけれど、今の私はそれどころじゃない。


誰もいない焼却炉の近くで座り込み、私は通帳を眺めながら盛大なため息をついた。


通帳に記入されている金額を何度見なおしても、自分の望んでいる金額には到底及ばない。

昨日まで長年お世話になっていた雑貨屋の店長が、結婚するとかで店をたたむと聞いたのがつい昨日の事。

店長は急に決まったことだし、申し訳ないからって給料を少し多めにくれたのはいいけれど、一番の稼ぎ所を失った私は途方に暮れるしかなかった。


世の中は金で動いてる。


汚い言い方かも知れないけれど事実だから仕方ない。

何だかんだ綺麗事を並べたって最後には金が絡んでくる。

世の中ってそういうもん。

新しいバイトを探してはいるものの、いい条件がなかなかない。


雑貨屋のバイトは楽しかったし条件もよかった。

夕方四時から夜十時まで、時給八百五十円。

休日は朝の九時から夜の十時までぎっちり働いて。

商品並べたりプレゼント用に包んだり、ディスプレイを考えたり楽しかったのに・・・


「おのれぇ!松島店長(25)!自分だけ幸せになりやがって!許せんっ!」


当たりどころのない腹立たしさを一人で虚しく叫びながら、私はまた途方に暮れてため息をついた。


「・・・です。好きですっ!付き合ってくださいっ!」


突然聞こえてきた可愛らしい声に私はハッと顔をあげて焼却炉からは死角になっている裏庭へと続く道に人の気配を感じ取る。

一瞬、腰を浮かべてそちらを覗こうと試みる。



はっ!



いかんいかん。



つい野次馬根性が・・・



そう自分の失態を恥じて、その場から立ち去ろうとし、立ち合がった瞬間、反対側からぐいっと腕がひっぱられてそのままの勢いで告白の修羅場に私の体が立ち入った。


「悪い、俺、こいつと付き合ってるから」


突然の恋人宣言。

見れば女の子はカッと顔を赤くして泣きそうな表情にで私を睨むとバタバタと立ち去っていく。

その後ろ姿を見送った後、私の二の腕をつかんだままの男を見上げた。


見ればそいつは整った顔立ちに、すらりと高い身長、かっこいいというより綺麗という言葉が似合うようなやつ。


いるんだよねー。

こういう綺麗顔の男。


サラサラの少し長めの青みかかった髪、すっとした切れ目、落ち着いた雰囲気は本当に高校生か?!って疑いたくなる。

見上げていた私の視線に気が付いたのか、男は慌てて私の腕から手を離して申し訳なさそうな顔をした。


「私はアンタと付き合ってるのか。ほほぉ、そりゃ初耳だ」


「あっ・・・それはっ・・・」


「冗談だよ。場逃れに使われたのは正直ムカつくけど、わかってるから心配しなさんな」


「ご・・・ごめん」


あまりにも謙虚な姿に、私は唖然としてしまった。


綺麗顔の男って大抵自分の容姿をフル活用して女を口説いたり遊んだりして、クールぶって俺様な嫌なイメージなのに、彼は自分の容姿を鼻に掛けることなくむしろ謙虚な男だ。

なんか告白を受ける理由が分かる気もする。

クラスの女子が後輩にスリーなんとかっていう美形三人組がいるって騒いでいたのを耳にしたことはあるけれど、彼の事なのかな?


見ればネクタイは青色で靴のラインは赤。

うちの学校は学年によってネクタイの色が違い、靴のラインは学科を差す。


二年の情報処理科か・・・。


そんな事を考えていると、彼は私の顔をまじまじと見て尋ねてきた。


「あのさ・・・」


「あん?」


あ、返事の仕方が悪かった。

ちょっと驚いてる。

私は口が悪いと言うか、話し方自体男っぽくてたまに人を不愉快にさせてしまうらしい。


「あ、悪い。考え事してたわ・・・何?」


改めて返事をすれば彼は無表情なまま私を見下ろして小さくつぶやいた。


「あのさ、アンタしばらく俺の彼女してくれない?」


「うん、いいよ・・・・・・ってはぁ?」


突然の申し出に、開いた口がふさがらない。


彼は考えるように片手で口元を覆って、その肘に開いた片手を添えて。

うーん、とあからぬ方向を見つめながら自分の意図を伝えた。


「いや・・・俺あんまり自覚ないんだけど・・・モテる部類に入るらしくて・・・告白を頻繁に受けるんだ・・・。それで・・・」


ははぁ、なるほど。


ってか自覚あるんじゃねぇか。

謙虚だなんて前言撤回。


「告白避けに私を彼女に見立てておきたいと?」


加えるようにつぶやいた私の言葉に、彼はコクリと深く頷いた。

私はそれに答えるようににっこりと微笑みかえす。


「お断わり」


「なっ!」


予想に反したのか彼の表情が一瞬にして強ばる。


あー、綺麗顔の男の怒った表情ってなんて綺麗なのかしら。

そんな事を考えられる私はまだまだ余裕だな。


「なんで?」


「私だって忙しいのよ。昨日バイトをクビになっちゃったもんだから新しいバイト探さなきゃならないし、アンタの恋愛ごっこに付き合ってる暇はない!」


ビシッと指をさして熱弁する。



ふっ・・・



決まった・・・



「でもさっき告白してきた子にアンタと付き合ってるって言っちゃったし・・・」


ま、まだ言うか!?


「し、知らないわよ。アンタが勝手に言ったんじゃない。変なことに巻き込まないでほしいわ」


「そこをなんとか」


し・・・しつこいっ!


「嫌っつってんだろーが!」


とうとうキレた私を見て、彼は唇に弧を書くと、冷たい視線で私を見た。

それはまるで、逃がしてなるものか・・・と。


「・・・わかった。じゃあバイトとして雇わせて」



「・・・・・・はぁ?」


「時給九百円で俺の彼女しない?」


くはっ!


好条件に思わずめまいが生じる。

じ、時給九百円!

人を雇えるほどコイツは金持ちなのか?!


突然、彼が輝いて見えるのはなぜだ畜生っ!!

彼女を演じるだけなら学校にいる間だけだから?!


「・・・ち、ちなみにいつまで?」


「とりあえず半年間でどう?」


頭の中で勢い良く電卓をたたく。

金が絡まれば計算にも強くなれるのが私の(さが)


「・・・っ喜んでやらせて頂きますわ♪」


キラキラとさせた瞳で彼の手を握り締めれば、彼は少し口の端をひくっとさせて、人選誤ったみたいな表情で私を見てから、見るからに作り笑顔で私に言った。


「よろしく彼女さん」


こうして私は彼の彼女になった。

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