大陸南西、国境の町及び戦場にて:1
丁度いい区切りが思いつかなかったので短めに新話の導入のみを
「まぁたお前か……帰れ!」
重厚な鎧を身に纏った兵士の兄ちゃんは、門の隙間から俺を見るなりうんざりしたようにそう言って閉めようとした門の隙間に無理矢理鞄の端を詰め込んでそれを阻止し、開いたままの隙間に両手を差し込み、歯を食いしばってそいつと逆方向に力を込めながらにこりと引き攣った営業用の笑みを向ける。
「そんな事言わないでさ、ちょっとだけ試してみるつもりでさ! おっちゃん特別に安くしたげるから、ね? 今ならほら、西の国の名匠が鍛えた新品の両刃剣!」
押されそうになって慌てて捻じ込んだ足の脛の部分にげしげしと蹴りを入れられる痛みを堪えながら、隙間から柄にも鞘にも装飾の全く施されていない無骨な剣を差し込む。
「一本で金貨10枚の値打ちはあるこの剣がなんと金貨30枚! 安い!」
「高いわ! そもそも高いしむしろ更に高くなってる!」
「仕方ねーだろ! 俺だってこの剣騙されて金貨20枚で仕入れたんだから!」
「騙されて買った物売ろうとするな! 偽物だったらどうするんだ!」
「大丈夫大丈夫! ちゃんと鑑定して本物だって証拠はあるから! 鑑定料金貨8枚取られたけど!」
「お前それも騙されてるんだよ! 商売向いてない! もう帰れ!」
「うるせー! クッソ高ェ武器買わせるまでは絶対諦めねーからな! 家に帰れば腹を空かせたガキが山盛りなんだ! もう後には引けねーんだよ!」
「だから今でも十分装備は整ってるのに誰がわざわざ糞高い武器を買うんだ諦めろ!」
ついつい口から本音を漏らしてしまいながら、必死に閉まろうとする扉と格闘していると、その向こう側からがしゃがしゃと金音が響いてくる。それとついでに、「交代の時間だ」とか、「なんだ、またか」とか、そんな声も。しかし俺はそんな雑音には全く気を取られずに、微かに力の緩んだ扉を開けるために門の外壁に片足を掛けて息を吸い……その時、丁度良く扉の向こう側から「せーのっ」という声が聞こえたので、それに合わせて……全身の力を込めて、それを引いた。
「うぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
瞬間、今まで感じていた抵抗が消失し、俺の全力は無抵抗になった取っ手をずるりと滑り、幾許かの浮遊感を経て頭部に衝撃、口内に土の味が広がった。
どうやら、俺が力を込めるのに合わせて手を離されたらしい。地面に横たわる俺の前に商売道具の鞄がどさりと投げつけられ、次いでいそいそと扉を閉める音が響いた。
唾を吸って泥になった土を吐き出し、鞄を拾い上げて砂を払う。そしてすっかり締め切られた扉の前まで歩いていき。
「コノヤロー! 下手に出てりゃ舐めやがってよーこの貧乏人がー! いいからさっさと金よこせやコラァー!」
声を張り上げながらどすどすと靴の底で扉を何度も蹴りつけた。向こう側から何か怒ったような声が聞こえる気がするが、構わずに。
「ざっけんじゃねー! 名剣だぞ名剣! 男だったら心躍ってつい財布の紐が緩むのが当然だろ! てめーチン●ついてんのかー! ついてたとしても使った事ねーんだろー! この包●で早●の童●野郎ー! お前のカーチャンデーベーソー!」
と、考え付いた罵倒をそのまま順に吐き出していると不意に扉が開く。どうしたのかと首を捻る俺の前に、さっきの兵士とはまた違う、若い兵士が姿を見せた。……無表情の額に青筋を立て、手には抜き身の剣を下げた姿で。
それを見た俺は、黙って2歩ほど後ろに下がり、ふ、と薄く笑みを漏らす。そして、ちゃ、と鎧同士の擦れる音を立てて剣を構えたその兵士に、すぐさま背を向け地面の鞄を拾いながら全力で逃げ出した。
やっぱりこういう簡単にふざけてくれるキャラのほうが書きやすいような気がする