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25 何度でも言って

朝起きたらハンター協会の通知が来ていて、先輩のWARが500億になっていた。

どうやら私が寝ている間に先輩はS級ダンジョンを一つ攻略したらしい。


長いゴールデンウィークが終わってしまいました。

今日から久しぶりの学校です。

一時間目は世界史、二時間目は数学で、三時間目と四時間目は三年生との合同体育です。

何をするんだろうなと思っていたら、うちのクラスは皐月先輩のクラスと演習場で氷鬼をするそうです。

一年生が鬼で、三年生が逃げます。

氷にした人数に応じて、一年生に素晴らしいご褒美が出るそうです。

ちなみにS級ハンターの皐月先輩とA級ハンターの奥村先輩と千早先輩を凍らせることができたら更なるボーナスが。

氷にされた三年生にはペナルティが課せられるので、真剣にやらなければなりません。

魔法は今日は使っていいことになっています。

ただし三年生は一回だけです。

三年生は演習場の裏門からスタートして、一年生は表門からスタート、広い演習場では三年生を探すのからして困難と思われましたが、スタートしてすぐ進路方向に学院指定黒ジャージ姿のとんでもない金髪イケメンが出現しました。


「かーえでー」


「皐月先輩」


皐月先輩は崖の上に立ち、こちらに手を振っている。

先輩裏門スタートだよね?

何でここにいるの?

今始まったとこだよね?

先輩ひょっとして時間も弾き飛ばせるの?


演習場は大木の枝が行手を阻む様に張り巡らされ、人を隠すには十分すぎる大きさの巨大な岩などがあちこちに配置され楽に進める道はありません。

三年生がそれもラスボスといえる最強ボーナスがわざわざ顔を出してくれたけれど、皆皐月先輩だから、捕まえにはいかず、その麗しい姿を拝むだけにして、進路を変えてバラバラにはけていきました。


さて、残されたのは私だけです。

先輩は一体何をしに来たのでしょうか?

崖の下まで来て見上げていたら、皐月先輩の方から降りてきてくれました。


「捕まえないの?」


皐月先輩が笑う。

今日もかっこいいな。

先輩大変だよね。

かっこいいのが当たり前になってるから、百点満点じゃ許してもらえないんだもんね。

あ、でも一昨日の先輩もかっこよかったけど、今日の先輩はもっとかっこいい。

日々かっこいいを更新していく先輩。

この人いつカンストするんだろ。

一生全盛期、魅力の天才。


「楓?」


「あ、すみません」


私は両手で先輩の両腕にそうっと触れる。

世界一の腕なんだから丁重に扱わないと。


「凍っちゃった」


先輩、美しい。

なんか昨日一日会わなかっただけなのに、ずっと長いこと会えていなかった気がする。

顔を見れるだけで凄く嬉しい。

なんかじーんとする。

あぁ、もう泣いちゃうかも。

私先輩のこと毎日見たい。

見ていたい、この距離で。


「じゃあ、行こ」


「え、どこにですか?」


「うーん、静かに寝れるとこ」


「え?」


「俺昨日、あ、今日か、三時にたたき起こされてさ」


「あ、ダンジョンですか?」


「そうそう、鳥取にさS級ダンジョンが出たからって起こされて、いつもダンジョン経由で移動すんだけど、鳥取でさ行ったことあるダンジョンみんな消えててさ、しょうがないから神戸のダンジョンまで行って、そこから走ったから時間かかってさ」


「神戸から鳥取まで走ったんですか?」


それってどんな距離?

走っていける距離だったっけ?


「うん、まぁ大した距離じゃないんだけど、でもダンジョンにさ、子供が連れ込まれたらしくて、急がなきゃならなかったから、最速で走った」


「そうだったんですか、あ、お疲れ様です」


「ありがと」


「あ、寝ちゃうなら先輩見つからないように隠れていただいてもいいですか?」


「え?」


「あ、すみません。あの、先輩隠れていただかないと、氷鬼なので先輩がタッチされちゃったら、元に戻っちゃうので」


「ああー、心配しなくても大丈夫だよ、この学院で俺に触れられる人間なんていると思う?」


「あ、そうですね、いませんね」


学院どころか、世界中何処を探してもいない。

何心配してるんだろう、私。

先輩は私達と一緒じゃないのに。

何で同じ感覚で話しちゃうんだろう。


「行こ、楓」


「あ、はい、あの、子供さん大丈夫だったんですか?」


「えー、大丈夫に決まってるでしょ、楓俺が世界最強だって忘れてる?」


「あ、いえ、あ、でも、先輩が余りに普通なので、世界一強いって忘れてるわけじゃないんですけど、あ、私、先輩に本当に慣れちゃったのかもしれないです」


「そうなの?それなら俺は嬉しいけど」


「あ、違うんです、慣れたといっても、ホントには慣れてなくて、毎日先輩のことかっこいいって思ってますし、先輩の美貌に驚いてます、毎日先輩かっこいいを更新していくから、昨日の先輩より今日の先輩がかっこいいですし、明日はきっともっとかっこいいです、だから、慣れてるわけじゃなくて、でも、先輩がいるの当たり前になっちゃってて、あれ、何いってるんでしょうね」


本当に何言ってんの、この人。

うーん、上手く説明できないよ。

誰か代わりに私の心の中整理して、要点まとめて話して、お願い。


「いいよいいよ、わかったから」


「え、今のでわかりました?」


「うん、大体わかった。かっこいいって楓に言われるの俺一番嬉しいかも」


「そうですか、じゃあいっぱい言いますね」


「うん、何度でも言って」


「先輩かっこいい、先輩かっこいい、先輩かっこいい」


「ははっ、呪文みたい」


「あ、先輩」


「何?」


「あの、先輩捕まっちゃったらペナルティって」


「あぁ、そんなの俺が恐ると思う?」


「あ、そうですよね」


「それより眠いんだよね、寝れそうなとこ探そ」


「あ、はい」


二人で少し歩くと、二本の木が橋のように繋がっている、何ともおあつらえ向きな場所を見つけることができた。

左の木が階段のようになっているので私でも簡単に登れた。


「じゃあ寝るね、おやすみ」


先輩はジャージの上を脱ぐと、頭に敷き、長い足を伸ばして仰向けで寝転がる。


「先輩頭痛くないですか?」


「まぁちょっと固いかな、でも平気」


「私頭持ってましょうか?」


「手でってこと?面白いけど、いいよー」


「でも痛そうで」


「大丈夫だよ」


「あ、膝、膝使ってください」


私はぽんぽんと自分の膝を両手で叩く。


「え?」


先輩が起き上がり、首を傾げる。


「あ、膝良かったらどうぞ、そんなに固くないと思います、本物の枕みたいにはいかないですけど、何もないよりはマシかと」


「いいの?」


「はい、やっぱりこの木痛そうなので」


「ありがと、じゃあ、そうさせてもらうね」


先輩がそうっと私の膝に頭を沈める。


「重くない?大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


「ごめん、もう寝るね、限界、おやすみ」


「おやすみなさい、ゆっくり寝てくださいね」


「楓、ずっといてね」


「はい、ずっといます」


先輩おかしな事言う、よっぽど眠いんだ、先輩の頭乗せてるから、私動けないのに。

あ、先輩ホントに寝ちゃった、早い。

すっごく疲れてたんだなぁ。

先輩でも疲労ってことあるんだ。


それにしても、先輩の寝顔可愛い。


あれ、この状況。

あ、冷静になって考えたら、私とんでもなくない。

皐月先輩に膝枕とか、図々しすぎる。

私ってドがつくほど厚かましい人間だったんだ。

あー、そんなの知りたくなかった。

そうだよね、学年最下位のくせに先輩がいるの当たり前とか言っちゃってるんだもんね、あー、穴掘って埋まりに行きたい。

恥ずかしい。

申し訳ない、先輩に対してもだけど、この先輩が存在する世界に対して。

私は両手で顔を覆う。

それでも世界から隠れられそうもない。

人類の宝に対して馴れ馴れしすぎるという罪で神様から罰を与えられそう。

ひー、許してください、もうしません。

私は思わず両手で口を押さえる。

あ、動いちゃ駄目。

先輩起きちゃう。

私は枕、私は枕。


あぁ、先輩、綺麗。

あ、見ちゃだめ。

寝顔って人に見せるためにあるんじゃないんだから。

私はまた両手で顔を覆う。

見てない、見てない。

それにしても、何で膝使ってなんて言っちゃうかなぁ、私。

あ、でも先輩引いてないよね。

頭ちゃんと預けてくれたし。

そんなに気にすることないのかも、だって先輩くらいかっこよかったら膝枕なんて一億回くらいされてるだろうし。

そうだよ、考えすぎ、先輩がされた膝枕の一億回のうちの一回になっただけだよ。


あー、先輩の寝顔、美しい。

ずっと見てられる。

見ていたい。

本当に王子様みたい。

眠り姫だって先輩には絶対敵わない。

この世で一番綺麗な人。


ジロジロ見てちゃ悪いよね。

空見よ、空。

わー、綺麗な青空。

あぁ、でも見たいな。

先輩の方が見たい。

本当に綺麗。

この世のどんなものより先輩の方がずっと綺麗。

こんなに綺麗だと、ダンジョンでどんな素晴らしいものを見つけたとしても、自分のものにしないの当然だよね。

だって自分の方がずっと価値があるんだもん。

先輩の顔で鏡見たらどんな気分になるんだろ。

一回やってみたい。

一日だけ入れ替われたりしないかな。


先輩ホントに可愛い。

何だろ、なんか今とっても幸せ。


チャイムが鳴り、氷鬼の時間は終わり、先輩が目を覚ます。


「ありがとー楓」


あ、まだ眠そうな声してる。

ぼーっとした顔可愛い。


「よく眠れました?」


「うん、ありがと」


「いえ、眠れたなら良かったです」


先輩が起き上がり、私を見る。

寝起きの先輩だ。

これはS S R。


「あー、ごめんね、頭重かったでしょ」


「あ、いえ、全然大丈夫です」


「でも何もできなくて退屈だったでしょ、動けないし」


「あ、いえ、大丈夫です、ずっと空見てましたから」


ホントはずっと先輩の寝顔見てたんだけど、空もたまに見たから嘘じゃないからいいよね、許される範囲だよね。


「あー、空」


先輩が首を後ろに傾ける。

その瞳の先には間違いなく空がある。

だって空からは私達逃げられないもん。


「確かに青くて綺麗だね」


先輩魔法使ってないはずだよね。

それとも先輩クラスだと使わなくても、勝手に身体から自然と魔法が発生しちゃって、私かかっちゃうのかな。

だってそうじゃなかったら、どうしてこんなにも先輩の言葉は私の身体に残っていくんだろう。

先輩が青くて綺麗と言ったから、空さっきまで見てた青と全然違う、もっともっと青になった。

今まで見た空の中で今日の青空が一番綺麗。

この青、忘れられない、忘れたくない。

先輩といる時は一つも取りこぼさずに全部持って帰りたい。


「じゃあ今日もお昼食べたらダンジョンに行こっか」


「先輩眠そうですけど、大丈夫なんですか?」


「ダンジョン行ったら元気出るから大丈夫」


「そうですか?」


「そうだよ、ダンジョンで魔力を回収できるから」


「魔力を回収?」


「ダンジョンって何でできていると思う?」


「魔力ですか?」


「そうだよ、モンスターも魔力でできている、だから、モンスターを倒すと、魔力が回収できて、体の中に貯め込んでいける、モンスターは強ければ強いほど魔力の量は多いわけだから、倒せば倒すほど魔力が回収できて、ハンターは強くなれる」


「だから先輩は毎日ダンジョンに行きたいんですか?」


「嫌、俺は単純にダンジョンが好きだから、落ち着くし」


「はぁ」


「強くなりたいんだったら、ダンジョンに時間がある限り通うことだよ、毎日毎日ね」


「そうやって先輩は小さい頃から魔力を貯めていって、強くなったんですね」


「嫌、俺は元々の魔力量が人より桁違いに多かったから、俺のケースはあんまり参考にならないかも、そもそも普通の人はそんなに貯め込んでおけないよ、容量には限界があるから、俺はないけど」


「あ、そうですか」


「攻略されたダンジョンでも魔力は回収できるよ、ダンジョンから発生する気配だけで、微力な魔力があるし、スライムやスライム草からもちょっとずつだけど出てるから」


「モンスター倒さなくてもですか?」


「倒さなくてもダンジョンにいるだけでちょっとは回収できるよ、日光浴でビタミンDができる、みたいな」


「あー、なるほど」


先輩にとってダンジョンはお日様なんだ。

植物が太陽がないと生きられないように、先輩にはダンジョンなんだ。


「先輩ダンジョンがないとお花みたいに萎れちゃいますね」


「うん、だから今日もダンジョン行こ」




























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