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英雄の祭典

「佐野クン、どうしたらいいと思う?」


 委員長が俺に聞いた。

 この場所は知っている。俺が通っている高校の下駄箱だ。

 自分の上履きにのった手紙を見つけて、委員長が困った顔をしている。

 セピア色の世界だから、夢なんだろう。たぶんずっと前の記憶だ。


「どうせまた、ラブレターだろう。良かったじゃないか」


「3組の山田君だよ。私ちょっと苦手なんだ。どうしよう。佐野クン、断ってもいいかな」


「なんで俺に聞くんだよ。好きすればいいんじゃんか」


「……私は佐野クンに聞いてるんだよ。佐野クンは私の好きにしていいの?」


「なんだよそれ、意味不明だろ。自分のことは自分で決めろよ」


 このヘタレ野郎!

 俺は自分をののしった。言葉の意味をもっと考えろ。


 今ならわかる。

 向こうの世界にいた頃、俺にもちょっとくらいは脈があった。

 それを俺は無視し続けてきた。委員長の気持ちなんか考えてもいない。

 どうせ住む世界が違う。そう思って逃げ続けてきた。


「わかったわよ。断ることにするから、何かあったら責任取ってね」


「知らねえよ。さっき、好きにしろって言ったじゃんか」


「だから、放置した責任取ってもらうことにしたの。いいでしょ。佐野クン。怒られたら、私の代わりに殴られて。それでもしケガをしたら、看病してあげる」


 そうだったんだ。

 向こうにいた頃にも、俺にはいろんな可能性があった。

 それを自分で勝手にあきらめていたんだ。傷つきたくないから、自分で殻を作って身を守っていた。ちょっとした勇気さえあれば、未来は変わっていたはずだった。


「ごめん、委員長……」



 ※  ※  ※



 ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ。

 体が揺れる。俺を誰かが揺すっている。


「ショウヘイ、ショウヘイ、朝だよ。ショウヘイ……」

 ああ、そうか。ソラか。


 同室じゃなくなっても、こうやって毎日起こしに来てくれる。


「今日はお祭りだよ。『えいゆうさい』なんだよ。早くご飯を食べて遊びに行こう。

 カティアが教えてくれたよ。『だいどうげいにん』って人が来て、ドラゴンみたいに火を吹くんだって。屋台とかがあって、おいしい物を売ってるんだよ」


 気がつくと、もう全員が俺のベッドの前にそろっていた。どうやら寝坊をしたのは俺だけらしい。

 いま何時だ? 魔力を色々といじくったせいで、この頃、目が覚めるのが遅い。


「ショウヘイ。今まではあまり興味がなかったんだが……おまえと一緒なら行ってみたい。その……服も買ってみたんだ。似合うだろうか」


 シルフィは白いワンピースを着ていた。腰のところをキュッと締めている。

 ああ……いい。本当にいい。


「ふん、オジサンを殺した奴のお祭りなんて嫌だけど、ショウヘイのためなら行ってあげてもいいわ」


「お祭りの日に寝坊する人間は最低だ。死ねばいい」


 おおっ、久しぶりのラジョアだ。

 お約束の反応が、むしろ懐かしい。


「よしっ、顔だけ洗ったらすぐ出かけよう。いつも寝坊で悪いな。今日はめいっぱいお祭りを楽しもう」



 お祭りのメイン会場は中央広場だった。

 どこもかしこも、白いスカーフを首に巻いた人間であふれている。


「あそこ、裸のオジサンが火を吹いてるよ。すごいすごい。あっちには、ハシゴに登ってる人もいるよ」


「ソラ、気にいったらお金を投げてやるんだ。帽子とかカバンとかが置いてあるから、その中にうまく入れろよ」


 俺はソラに何枚かの銅貨を渡した。

 ソラはそれを少しの間、じっと見つめている。

 そうか……こいつ、スラム街にいたんだよな。お祭りの小遣いなんて、今までもらったことがないんだろう。


「うん、わかった。ありがとう」


 ソラはコインを握りしめて、大道芸人の方に向かった。

 くそっ、人間が多すぎる。人ごみが邪魔で身動きが取れない。


「おいっ、ひとりで先に行くな。迷子になるぞ!」


「私がついていく。子どもを見失うような間抜けは死ねばいい」


 ラジョアが追いかけていった。

 小柄な体を利用して、人と人の間をすり抜けていく。


「ありがとな。頼む!」


 ソラたちはすぐに見えなくなった。

 まあ、ラジョアがついていれば大丈夫だろう。あれでかなり、しっかりしている。


「ショウヘイ、アッチでパレードがあるらしいぞ」


「現代の英雄の行進だって。行きましょう。ドラゴンを倒せそうな奴がいるか、顔をおがんでやりたいわ」


「早く行こう。パレードの方に人が流れてる」


「そうよ、こっちこっち」


 俺は、シルフィとリーリアに両腕をつかまれて連れて行かれた。

 人通りが多いから、体が密着する。むにゅう。ふたりの胸があちこちに当たる。


 パレードの行われる場所には、すでにロープが張られていた。

 もう、前の方の列には入れなかった。人の肩の間から見るしかない。


 何分か待っていると、盛大なファンファーレが鳴り響いた。


「さあ、いよいよ王国の英雄の登場です! 異世界からやって来た戦士たちの行進をご覧ください。

 彼らは、いずれも信じられないほど高いステータスを持っています。厳しい訓練を受け、偉大な戦士として成長した姿を、今ここにご披露します」


「異世界……今、そう言ったよな」


「ショウヘイも、そっちの出身なんだろう。知っている人間もいるかもしれないぞ」


 く、くそっ。よく見えない。前の男の頭が邪魔だ。

 先頭には長い槍と旗を持った男たち。ラッパを吹く軍楽隊。そして、輝くような鎧を身につけた戦士たちが続く。


「あ、あれ。委員長じゃないか……」


「なに、なにか偉い人でもいるの? もっとよく見たいなら、私がそのへんにいる人間を焼き払ってあげてもいいのよ。そうしたら目の前がスッキリするわ」


 俺は、何のリアクションもできなかった。

 間違いない。委員長、山口詩織だ。先頭にいるってことは、かなり期待されているんだろう。

 でも、俺には委員長の鎧が、まるで無理に着せられたコスプレ衣装みたいに見える。委員長に戦士の姿は似合わない。犬や猫が好きな普通の女子高校生だったはずだ。


「さあ、現代の勇者たちに拍手をお願いします。この戦士たちは、これから東の帝国との戦いに向かいます。

 皆さんは、ゼルダルクスの虐殺を覚えているでしょうか。2年前のあの日、平和で豊かだった都市で数万人もの女性や子どもがむごたらしく殺されました。我々はそのことを決して忘れてはいけません。

 今こそ残虐な帝国の息を止める時です。彼らの活躍で、戦局は必ずや大きく動くことでしょう」


 割れんばかりの拍手が起こった。


「いいぞ、いいぞ!」


「帝国のブタどもを殺っちまえ!」


「私の夫のカタキを討ってください。お願いします!」


 まさか……。

 俺は勇者候補生たちの運命を知って戦慄した。

 モンスターとの戦いじゃない。人間同士の戦争に使われるんだ。


 委員長は人間を殺せるほど非情じゃない。戦場の報道写真を見て泣くような、心の優しい女性ひとだ。そんなことは近くにいた俺が、一番よく知っている。


 俺は遠ざかっていく委員長の姿を、見えなくなるまで目で追った。

 その顔は、俺にはどうしても悲しそうにしか見えなかった。



   〈第一部 パーティー結成編 【完】〉


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