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漸くの旅立ち

 冷泉は膝から崩れ落ちる。下を向き、瞳から直接下へと落ちる涙は類家の転がる頭部の頬を濡らした。


「……うぅ……類さん……」


 子供のように泣きじゃくり、少し落ち着いた冷泉は頭を抱き抱える。


「にゃー。頭も後で食べるから返して欲しいにゃ」


 シトリーは類家の頭をふっ飛ばした、巨大な純白の氷のハンマーから手を離すと粉々に粉砕した。




「……にゃ?お仲間達がぞろぞろと……?」


 生徒達が大量に到着した。シトリーが六島と生徒達に目をやり、『秘密』を行使すると驚いたかのように目を見開く。


「……『今回も』全滅させてやろうと思ってたんだけどにゃ。


 無理そうにゃ」


 人差し指の爪で頬をポリポリ掻くとシトリーは冷泉を無視し生徒達の方を向く。




『何でお前が此処に居るにゃ?』




 シトリーは口を動かしておらず、その声は冷泉には届いていない。


 ――『念話』。


 声には出さず、口も動かさず、特定の相手の脳内へと直接語り掛ける事が出来る、悪魔を始めとする特定の種族や能力者に呑み使えるスキルだった。


 シトリーは相手からの念話を受信したのか、何かを考え込んでいた。




『そんな事の為に態々(わざわざ)そんな回りくどい事をしてるにゃ?』




『……まぁ良いにゃ。


 それなら全滅させるのは止めておいてやるにゃ』




 シトリーは念話を切断すると手で合図を出して、きゅうくんを下がらせる。


「……サイクロプスが……」


 しかしシトリーが未だ残っている。綺更はシトリーの動きに警戒し睨みつけるように戦闘態勢を維持している。


「冷泉先生!其処から逃げて下さい!」


 『境内(けいだい) 桂馬(けいま)』は叫ぶ。


「ポーン!!先生を守れ!!」


 8体のポーンが冷泉を守るように顕現した。


「……境内くん、大丈夫です。


 私は未だ戦えます……ッ!!」


 冷泉の瞳には再び生気が宿り、打倒シトリーに燃えている。


 両片想いをしていた類の仇、生徒達を守らないといけない教師としての使命、それらが彼女の力を呼び起こす――




「いや、そういうのはもう要らないのにゃ」


 シトリーは指をパッチン♡と鳴らした。


「な――ッ!?」


「せんせ――ッ!!!!!」


 境内は盛大に鼻血を噴き出し倒れる。


 冷泉の服が消え全裸になっていた。即座に身体を隠すも手遅れだった。


「うわっ。境内……きっしょ」


 痙攣している境内に浴びせられる綺更達女子生徒の蔑むような視線……。


「ちょっと!!他の男子も見んなし!!サイテーやぞ!!」


 綺更のギャル仲間、『矢坂(やさか) 矢江(やえ)』はブチギレていた。




「にゃは。うちの『剥奪』にゃ。相手を全裸に剥くにゃ。鎧も能力の効果も無効化出来るにゃ。


 その格好で戦えるのかにゃ?」


「……ッ!!私は、やらなければならないのです!!」


 隠すのを止め、空気中の水分を冷やして氷を創造すると氷の(つるぎ)を生み出す。


「にゃー。見事な覚悟にゃ。


 でも残念ながら、うちはこれ以上ブス達と遊ぶつもりは無いにゃ」


「……ッ!!逃げるつも――」


「――うちが『見逃してあげる』んだにゃ。


 じゃあにゃ」




 音もなくシトリーは消えていた。類家の胴体と頭部も共に……。


「先生、これを!!」


 冷泉が光を纏うと新たな服を着ていた。それは服というよりも、軽装の鎧だった。


「……君の能力ですか?感謝します、『絵川』くん」


 『絵川(えがわ) 栄治(えいじ)』。細身で地味な見るからに陰キャな彼の能力は『絵』。自身で描いたイラストを具現化する能力だった。


「い、いえ……僕に出来るのはこの程度なので」


「……皆!!取り敢えずシトリー……今の猫のような耳の女性は消え、巨大な怪物も眠りにつきました!!今が絶好の機会!!早く旅立ちましょう!!」


 冷泉が先頭を行き、皆が後を追って駆ける。


「はよ起きんかーい!!」


「グエッ!?」


 矢江が境内の腹を蹴り飛ばし無理矢理叩き起こす。




 ――此処からが彼ら、彼女らの真の冒険の始まりなのだ。






「――集団行動なんざクソ喰らえッ!!俺は、一人で魔王とやらをブッ殺してやんよ」


 最初の村の敷地の直ぐ外。冷泉達がいる場所からは離れた場所に裂人は立っていた。


「そう思うよなァ?裏切り者のクソゴミ運転手」


「うぅ……た、たずげ……」


 血塗れの鰐淵が倒れていた。鰐淵は囮にされる前に、と最後尾に居て、バレないように一人道を逸れて逃げ出していた。


 しかし更に後ろに居た裂人に見付かり、敷地を出た瞬間に能力で一方的にボコボコにされていたのだ。


「助ける訳ねーだろ、バーカ」




 五十音順の一覧から、鰐淵の『わ』が抜け落ちた。5人目の犠牲者である。

 設定


 絵川(えがわ) 栄治(えいじ) エイジ・エガワ

 出席番号04。裸眼の陰キャ。

 能力は『イラスト』。描いたイラストの具現化。根倉の『夢想』に似ているが、的確に対処出来る反面、即効性に欠ける。


 境内(けいだい) 桂馬(けいま) ケイマ・ケイダイ

 出席番号09。寺の息子だがツーブロックの短髪。

 能力は『チェス』。寺の息子なのに、名前は桂馬なのに、将棋は出来ずチェス派。当たり前に強くないが好き。駒を呼び出し戦う。


 矢坂(やさか) 矢江(やえ) ヤエ・ヤサカ

 出席番号36。綺更のギャル仲間。見た目も喋り方もギャルだが育ちがよく常識人。色白の黒髪。クラスで一番サラサラの髪をアレンジするのにハマっている。今は三つ編みハーフアップ。


 冷泉 礼華の鎧

 銀の鎧部分の他は青い布地。騎士や剣士を思わせる装い。絵川目線、最初に氷の剣を顕現させた為、其処からのインスピレーション。


 鰐淵 恒の能力

 能力『(バイト)』。鰐から連想された能力。あらゆるモノを食い千切る。一度も使う暇もなく、裂人の初撃の不意打ちが顔面にヒットし歯が駄目になっていた為一度も行使する事無く絶命した。

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