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「憲法で定められている婚姻について少子化を解消に向けた社会福祉環境を整備するための多夫多妻改正法案が王宮議会で採決され、ヤマト大臣とタリナ大臣などの賛成多数で可決……」
各家庭に取り付けられた通信魔道具のニュースでそれが流れた時、タイチは目と耳でしっかりと聞いていた。
(へー……。本当に可決されたんだ。無理だと思ってたけど、よほど少子化が深刻なんだな)
タイチはそう思った。タイチのいるこのエーデル国は、国民全員が、他国に比べて美でも知力でも秀でていることで有名だ。
(エーデル民はもはや世界中から絶滅危惧種みたいな扱いをされ始めてるからな)
だが、そのせいか、国民の結婚相手への要求水準が上がってしまい、既に美があるのに更なる美を求めて魔法や化粧で顔を変える者たちや、知力を更に高めて魔法をいくつも覚えようと、自身の学びを優先しすぎて周囲のためや今後の子孫のために知識の伝達を行わない者たちが増えすぎてしまったのだ。
上を見過ぎた人間の欲望は止まることを知らない。
しかも、平均寿命の半分を超えてもそれを続ける者が多くなっていったから困ってしまう。
流石にその年齢までいくと、子を作る機能は男女ともに衰えてしまうからだ。
しかも、子を作る機能を回復させたりその機能の若さを維持し続けたり長寿で居続ける魔法だけは、何故か何百年経っても発明されなかったものだから、少子化は止まらなかった。
でも、彼らエーデル民の多くは自身の存在意義を美や知力が周囲より優れていることだと定義付けしていたから、盲目的にそれを続けていた。
(結婚相手が1人しか選べないんじゃ、そりゃあ、より良い相手を見つけたいと思うもんな)
しかも、一度離婚するとなると場合によっては煩雑な手続きや裁判、財産分与まで必要な上、次の婚姻だってすぐに結ぶことはできない。子どもまでいたら最悪だった。親権問題や遺産問題まで考えなくてはいけなくなるからだ。
(自分や自分の子は、もっと美を身につけて欲しい、知力を身につけて欲しい、って思いすぎて過度な教育をするやつらまでいるしなあ……)
魔法で外見を整えたり資産を手に入れ、そのおかげで親になれた者たちは、自身の子の容姿や能力を嫌うことまであった。そんな彼らは、まだ幼い子に本人の意思を無視した魔法まで掛けさせることまであったから、魔法使いたちは大繁盛である。
流石の魔法使いも、多くは遺伝子改造までは出来なかったし、魔法もピンキリだったのだ。
そのせいで魔法の知識だけを身につけ、それを使って悪事を行う魔法使いも増えていたのだが、魔法使いほどの知力はないエーデル民はそんなことには殆ど気付いてもいなかった。
知識の吸収速度は明らかに個人差があったし、魔法使いたちは大体がそれに長けていたからだ。
どんなに平等を叫んでも、環境を整えても、遺伝子による土台の差だけはどうすることも出来ない。だが、そのせいで遺伝子改造の領域にまで手を出そうとする魔法使いもいて、他の魔法使いたちが必死にそれを止めようとしているのが現状だった。
科学の発展とは案外恐ろしいものかもしれない。
……そもそも、知的水準が魔法使いたちの求める基準に到達していない者までも"魔法使い"と呼び始めた民衆が悪いのだが、彼らはそれにすらも気づいていなかった。
本物の魔法使いたちはこれ幸いとそれに紛れて魔法使いでない風を装いやすくなり、見つけることがかなり難しくなってしまったのである。
まあ、本物同士ならそれでも問題はないのだろうか。分からないが。
タイチがその日学園に行くと、周囲はその話題で持ちきりだった。
「おい!聞いたか!?多夫多妻!1年後からだって!」
「聞いた聞いた!これでエーデル国も繁栄するだろ!」
「少子化は解消だな!」
「俺もハーレムを作れるってことかあ。夢が広がるな」
「おまえはまだ1人も相手がいないだろ」
「確かに……。でも7人も選ばれるなら、俺だって1人ぐらいは選んでくれるだろ」
「まあ、まずは最初の1人からだよな」
「でも結婚には金がいるだろ?子育てだってさあ……」
「だよなあ……」
「でも、多夫多妻ならさ、まず最初に金持ちの女と結婚すれば……」
「……!おまえ、頭いいな!」
「だろ!?」
でも、考えることは皆同じだった。1週間後のニュースでは、こんな報道が流れるようになってきたのだ。
「女優のナンヤさんに結婚の申し込みが殺到しており……舞台挨拶でご本人からの声明が発表され……」
「あの……私はまだどなたとも結婚する気はなくて……」
若手の美しい女優は、舞台挨拶にて困った顔でそう話した。女優のファンは多くが大盛り上がりであったが、結婚の申し込みをしていた本格的なファンたちは逆に落ち込んでいた。
彼らもまたエーデル国民だったから、一様に美しく賢かったのだが。それに、その本格的なファンの中には資産が多い者だって何人もいたのだ。
「投資家として有名なテルオさんも自身のファンクラブに向けて発信を行われ……」
「僕がファン全員と結婚出来ればいいのですが、7人までとなっていますからね……。全員の気持ちにお応え出来ない以上、今の形が1番……」
有名な男たちも例外ではなかった。既に交際している者たちや関係がある者たちの期待は勿論だったし、それ以上にファンからの熱心な申し込みが殺到したのである。
大体、若い女と肌を重ねられれば満足なのだから、結婚など彼らには興味がなかった。それに、自分から働きかけなくとも勝手に若い女が次から次に群がってくるのだ。わざわざ自分の自由に制限をかける必要がどこにあるのだろう。
子育てしたくなれば、きちんと契約を交わして遺伝子提供してやるか、更に気が向けば、その時関係がある若い女と結婚すればいいのだから。
自分が特別だと思い込むファンは、不思議なことに今も昔も多い。お金を注ぎ込んでいるからかもしれない。
でも、金で人の心は買えぬのだ。
心さえ金で買えると思っている人間は、大馬鹿者か、拝金主義で金さえ貰えればいくらでも股を開く女しか見てこなかった者たちだけである。
そんな拝金主義・権威主義の者たちから逃れるために、わざわざ化粧で醜く身を窶す者までいたが、彼女たちはエーデル民にしてはかなり珍しい変人だった。
まあでも、魔法使いは他者の欲望で自身の能力を求められることを極端に嫌うため、彼女たちをよく観察した方が本物が見つかるような気もするが。
ただ変人なのは確かである。
「報道されてないけど、金持ちの女も競争が激化してるらしい」
「そりゃそうなるよな」
「しかも、金持ちの女が選ぶ相手は見た目が良いイケメンばかりだってよ」
「チッ。あいつらも結局は顔かよ」
「でも、鍛えてたらそんなに見た目が良くなくても若いだけで選ばれることもあるらしいぜ!」
「よしっ!俺、今日から筋トレするわ!」
「俺は部活で鍛えてるからいけるかなー」
「筋肉が好きな金持ち女に会えたらありじゃね?」
「だけど、そんな女とどうやって会えるんだよ」
「それが問題だよなー」
学園の男達もそんな話をしていたが、タイチだけは少し違った。彼は黒髪黒目だが顔の彫りが深く、初対面の相手に生きている人間かすら疑われる程には、容姿が更に際立っていたのだ。
美と知のエーデル国とはいえ、美の中でも更に上がいる。そして、まだ学園に通う若い生徒の中に、有名でもないのに容姿端麗でタイチのように異常に目立つ存在がいるのも不思議なことではなかった。
つまり、タイチはエーデル国の中でも、所謂極上のイケメンであった。しかも彼は社長の次男で、幼い頃からその会社の役員候補、あるいは御曹司として育てられていた。
跡継ぎではないから、御曹司と言うのは少し誤っているかもしれないが、つまりはボンボンだったのである。
タイチはそのおかげか人当たりも良く、賢かった。そのため、周囲には機会さえあれば多くの人間が寄ってきていたのだ。
「タイチは御曹司だからもう相手がいるんだろ?」
「まあな」
「タイチは見た目もかっこいいもんなー。運動神経も抜群だしさ」
「おまえだってこの間の試合で活躍したんだろ?先週末だったか?」
「タイチまでそんなこと知ってるのかよ!言ったやつ誰だよ!」
「たぶんみんな知ってるよ。すげえよな、おまえ」
「ルウヤ、そんな活躍したのか!?すげーな!」
「何々?どんな活躍だったんだ?」
大抵は男だったが、タイチが1人で行動すると、隙あらばと目敏い女が近寄ってくるのだ。
「タ、タイチさん……っ!今帰りですか?」
「ん?うん。君も?」
「はいっ……!あの、私、ずっとタイチさんに憧れてて……」
「へー……。こんな可愛い子にそう思って貰えてたなんて、嬉しいな。連絡先、教えてくれる?」
「えっ!あの、はいっ!」
(ふーん。この子ウブそうだな。部屋に連れ込めるのは3日後かなー)
女は集団行動が多いせいか、大概は遠くから黄色い歓声を浴びせられたり差し出し人名のない手紙を貰うだけで、何故か直接接触は稀であったが、機会が少なくとも女1人に接触されたらほぼ全ての機会を性的行為に繋げられるほどには、タイチへの誘惑は多かったのである。
(この子が初めてなら1ヶ月は遊んでもいいかなー。生も許してくれそうだし、見た目もまあまあ悪くない。慣れてそうなら2回目はなしかな)
こんな具合に。




