風に乗せて歌おう 19
「クローズ、クローズ。早く来て見ろよ」
声のした方へ目をやると、ニューゼルが煤で真っ黒になった煙突を指さしていた。
「あったかいのが、みんなここから逃げてるぞ」
私は歩み寄って、頭をかいた。
「どうりで部屋がどんどん寒くなるわけだ……」そう言ってニューゼルと二人で暖炉の前にしゃがみ込む。「どこに行っちゃうんだろうな」
それからの日々、暖炉が掃除されると、私と隣の家のニューゼルは決まってその中に潜り込もうとした。
けれどすぐにわかったのは、あの狭い煙道は私たちの体などまるで通さないということだ。結局、毎回顔じゅう灰だらけになって、母に叱られ、風呂に追いやられた。
それでも、私たちは気になって仕方がなかった。部屋をあたたかくしてくれたあの熱が、いったい煙突を伝ってどこへ消えていくのか。
そうしてある日、ニューゼルは私をこっそり屋根の上へ連れていった。
「これ、俺がせっかく見つけたんだからな。メセリンおばさんに言うなよ」
私は何度も頷きながら、冷たい瓦に腹這いになって、細く立ちのぼる白い煙が煙突から昇り、やがて白々とした空にゆっくりと溶けていくのを見つめていた。
あのときニューゼルが教えてくれた。「冬ってのはな、このあったかいのが空まで届けられるから、いつか終わるんだ」
そうか、あの熱たちは少しずつ雪を融かし、少しずつ冷たい風を追い払い、そうしてようやく、骨まで凍るような冬を春に変えているんだな。
私はどこまでも続く白さを眺めながら、目の奥からゆっくりと色が失くなっていくのを感じていた。
それから私は、母の目を盗んでは薪を長く焚べ続け、春がもっと早く訪れるのを待ち望んだ。
けれど、残念なことに、私はその春を待てなかった。
その冬のうちに、暖炉の前で、まるで口癖のように「生きてさえいればいい」と繰り返されながら育った幼い日々も、とうとう終わりを迎えた。
それまでずっと私を育ててくれた母が、突然、母ではなくなった。
いや、むしろ。
母は、本当は私の叔母だった。
彼女はもともと、私がもう少し大きくなったら、貴族のところへ陪読として売るつもりでいた。だからこそ、ああもしつこく私に字を覚えさせていたのだ。
貴族が差し向けた馬車がやってくる前日、私はもう、何も知らないふりを続けることができなくなった。
その日の夕暮れ、彼女は暖炉のそばにしゃがんで、私の荷造りをしていた。
私は後ろに立ち、せわしなく動くその背中を見つめていた。長い沈黙の末、ようやく勇気を振り絞って尋ねた。
「私の、本当の両親はどこにいるの?」
彼女は顔も上げなかった。
まるで、それまでに何度も聞かされた質問を、また耳にしたかのように。
「もう何度も言ったでしょう。あの男はたくさん借金をこしらえて、どこへ逃げたのかわからないのよ」
彼女は衣類を畳み続ける。
まるで、それがどこまでも事実であるかのように。
私は俯いて、小さな声で呼んだ。
「母さん」
「ん?」
彼女は思わず返事をした。
手の動きさえも止めなかった。
私はその背中を見つめ続けた。喉の奥に何かが詰まったようだった。そして長い長い時間をかけて、もう答えを知っているその問いを、ようやく口に出した。
「叔母さん」
今度は。
彼女は何も応えなかった。
暖炉の薪が小さく爆ぜる音だけがして、部屋の中が急にしんと静まりかえる。
彼女の手も、ぴたりと止まった。
翌日、彼女は吹雪のなかで、立ち止まったままの馬車の前に立っていた。いつまでも何も言えず、口を開くたびに、ため息が言葉を押し戻した。私が馬車に乗り込む直前になって、彼女は、何年も着続けてきた、奉公先で主人から下げ渡された分厚い上着を、私の肩にかけた。あたり一面を埋め尽くす白い雪が、視界のすべてを占めている。その痩せこけた女の顔に浮かんだ黒い目もとを、私はそのとき初めてまじまじと見た気がした。白のなかで、それがひどくくっきりと浮かび上がっていた。
「生きてさえいれば、それでいいんだよ」
別れ間際、私は一枚の紙をくしゃくしゃに丸めて服の背中に押し込み、その上から再び上着を彼女の肩に掛けた。そして、ゆっくりと動き出す馬車の荷台に身を隠した。あたりを包む死んだような静けさのなかで、私は我が家をあとにした。
両親の消息については、その前の晩に、彼女の口から聞かされていた。今思い返してみても、そのときの、ほとんど冷酷といっていいほど冷たい口調で語られた言葉は、何一つ思い出せない。ただ後に残ったのは、それを聞いてからの数えきれない夜に、私が何度も何度も思い描いた光景だった。まるでめくられた、でたらめな寝物語の本のように。
それはずっとずっと昔のこと……崩れかけた軒下にうずくまった彼らは、春が訪れるのを待っていた。
「春になりさえすれば、なんとかなる」
だんだんと小さくなっていくパン、いつまでも湿り気を帯びた部屋、そして——少しずつ数を減らしていく人々。
積み上げられた死体は、厳冬のなかのほのかな火となり、長く列を成す人々の前では香ばしい匂いへと変わった。立ち昇る熱は冬を融かさず、寒風は砂を混ぜたかのように肌を引き裂く。「びゅうびゅう」と吹きすぎる風の音が、まるで嘲笑っているようだった。火がまだ足りない、死んだ人間がまだ足りないと……
私の両親は、あの「春を待つなか」に取り残されたのだ。
「もう少し待てば。もう少し待てば」
生きている者は皆、そう言い続けていた。
「あたたかくなればなんとかなる。最初の麦が実ればなんとかなる。隊商が来ればなんとかなる。領主様が蔵を開けてくれればなんとかなる……」
そして、あの「生きていろ」という言葉は、いったい両親の遺言だったのか、それとも叔母が私に掛けた言葉だったのか。今となっては、もう私にはわからない。
彼女が差し出したあの上着のなかには、私を売った金が入っていた。
そして、私が服の背中に押し込んだ紙切れには、ただこう書かれていた。
「ありがとう、さよなら」




