13. 最終話・こんなはずではなかった!
※ 最終話です。
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レッドフォード王子は冷たく輝くバーブラ(梅子)の瞳を、なぜかとても愛おしそうに見つめた。
「今さらそんな怖い顔をしても無駄だ!君は明らかに変わった!」
殿下の碧い瞳がいつものような温かな瞳ではなく、突然妖しげに煌めいてるなとバーブラ(梅子)はふと感じた。
「殿下……」
「君が率直に話したから僕も率直に言おう。僕は昔からバーブラ、君の事は悪いが殆ど関心なかったんだ」
「はぁ……でしたら話は早いです。私との婚約解消するのは願ったり叶ったりなのでは?」
といってバーブラ(梅子)は、王子の手を無理やり振り払った。
そのまま逃れるようにドアへとスタスタと歩きだした。
されどもバーブラ(梅子)の心中は王子から『バーブラに関心がない』と言われて、なぜか『自分に関心がない』と冷たく聞こえてしまい、なんだか無性に悲しみが襲ってきた。
バーブラ(梅子)の目に涙が溢れそうになったので、慌てて目頭をぐっと押さえてドアに手をかけた。
「待て!話はまだ終わっていない」
レッドフォード王子は、バーブラ(梅子)の肩を強く掴み、そのまま無理やりドン!と彼女を壁に押し付けた。
「キャッ!」
思わずバーブラ(梅子)は、突然王子の荒っぽい行動に悲鳴を上げた。
「バーブラ、どうか僕の話を聞いてくれ!」
「か……壁ドン!?」
梅子の声が口から可笑しな言葉が零れれた。
「カ……カベドンって何だ?」王子は聴き返した。
「あ、いえ……何でもありません。殿下、どうか離してください!」
「駄目だ、さっき僕は逃がさないといったろう?」
「ひぃ……殿下……」
「──いいから最後まで僕の話を聞いてくれ!バーブラ、どうか頼むよ!」
レッドフォード王子はバーブラ(梅子)の顔に自分の顔がくっつきそうなくらい寄せて、彼女の耳元に哀願した。
「は、はい……」
バーブラ(梅子)は耳たぶに王子の熱い吐息を感じてとても心臓がドキドキして困った。
王子はいたって真剣だ!
(──はて、こんな王子はん、みたこともないわ)
梅子はびっくりやら怖いやら、体が強張って来るのが分かった。
「確かにバーブラ、君は絶世の美女で麗しかった。だが“氷の公女”の表情は余りにも、僕には冷たすぎて、まるで真冬に寒中水泳するようなものだ。僕は彼女と接するといつも心が凍りついた」
(真冬に寒中水泳とは、王子はん、あんたはんは面白いたとえをするだわね)
またもや、梅子のしわがれ声が聞こえてくる。
とはいえ王子の顔はとても真剣すぎて怖いくらいだった。
これまでバーブラ(梅子)が一度も見た事がないくらい、王子は苦しそうに己の顔を歪めていった。
「わかるかい、僕と会話しても以前のバーブラは『左様ですか』『殿下のご自由に』『私はかまいません』とおざなり程度の返事ばかりだった。あの女は、あいつは何ひとつ僕の事など関心を示してくれなかった。皇太子という地位だけだ。正直、僕はそんなバーブラが大嫌いだったんだ!」
バーブラ(梅子)は『バーブラが大嫌い』と言われて、更に心がズキンズキンと痛んだ。
「だが──君は違う!君は僕の言葉に真っ赤になったり、急に青褪めたり、驚くくらいくるくる表情を変えるじゃないか!ええ、なぜ突然、氷のようなバーブラが僕の言葉ひとつで、顔色が変化するんだい?」
レッドフォード王子はバーブラ(梅子)をじっと見つめて、ワクワクして笑った。
「あ……それは……」
「いや、まだだ。僕の話を聞いてくれ!君は意外かも知れんが僕が笑い上戸だなんてねぇ、バーブラはこれっぽっちも知らないよ。そう僕の事などあの女は何一つ、何一つ知らなかったんだ!」
「⋯⋯殿下」
「分かるかい?──君の前だから僕は思い切りバカ笑いができるんだ! 今のバーブラだから思いっきり笑えるんだ。おかしいんだよ、君の表情は!──目まぐるしいほど生き生きと変って、面白くて、つまり、その……とっても愛らしいんだよ!──僕は君といると楽しいから自然に笑えるんだ! バーブラ、いや梅子!」
「はい……」
「どうやら僕は君を愛してしまったらしい!」
「!?」
バーブラ(梅子)は胸が詰まって何も言葉が発せなかった。
「だから君との婚約は絶対に解消しない!ずっとこれから先も、君は僕のものだ!」
(ひえええ、王子はん、それはどうなのよ!)
と、梅子のしわがれた叫びが木霊した。バーブラ(梅子)は真っ青になった。
「で、でも殿下……私と添い遂げると、それではこの王国は滅びて……」
「は、迷信だ!戯言だ。僕は信じない!」
「けれど……マリリン嬢は偉大なる聖女様です」
「そんなの、別に結婚しなくたって良いではないか──偉大な聖女なら、なおさら王都の聖教会で大いに職務を果たせばいい。本物の聖女ならば、見返りなく民の奉仕に応じてくれるだろう」
「それは……そうですけど……」
バーブラ(梅子)は王子が自分の耳元で、甘く囁くので顔が茹蛸みたいに真っ赤になっていく。
「それに……君の話が正真正銘の話ならば、もう運命は変わった!そうだろう?」
「え?」
「考えても見ろ、君は“老女の梅子”から今は“バーブラ”に転生したんだから!」
「あ、そう言われると確かに……そうですね……」
「ならば、バーブラは既に悪役令嬢ではない。優しく思いやり溢れた令嬢に変身したではないか!」
「殿下……」
バーブラ(梅子)のシルバーグレーの瞳がキラキラと揺れ動いた。
同時にバーブラを見つめるレッドフォードの王子の碧い瞳も煌めく。
「あ……あの殿下……」
「ああ、もう互い黙ろう。僕も喋りすぎた!」
王子は壁ドンから、バーブラ(梅子)の体を自分の体にぐっと引き寄せて抱きしめた。
そのまま有無をいわさずに、王子の唇がバーブラ(梅子)の唇に蓋をした。
「!」
バーブラ(梅子)は息が止まった。
そのままバーブラ(梅子)は無ずすべもなく、レッドフォード王子にされるがままに瞼を閉じるしかなかった。
バーブラ(梅子)はドキドキと胸の鼓動を感じながら観念して思った。
──こんなはずではなかった。
何故だ、どうしていつの間にこんな事になってしまったのか?
ああ駄目だ──多分、もう梅子は殿下からは、二度と逃れることはできないだろう。
梅子は確信した──。
いつしか脳内から、老女梅子のしわがれ声がうっすらと聴こえてくる。
( なんとまあこの異世界という所は、年寄には余りにも“甘美すぎな世界”じゃね〜!)
梅子の異世界物語はここからがスタートだった。
──完──
※ 最後までお読み頂きありがとう御座いました。
※ この物語は2025年4月に短編を連載に大幅修正したものです。
※ 完結編の後、新たに続編も書きたいと思ってます。その時はまた、よろしければ一読くださいませ。
(≧▽≦)
※ キスシーンの画像は交流者のくろくまくんが生成AIで作ってくれました。
くろくまくん、いつもありがとうございます。
(≧▽≦)
※清坂 正吾様、くろくまくん。誤字脱字報告沢山ありがとうございました。




