192話:議論と整理(2)
イディオンは、はあ、と溜息をついて背の仕切りに寄りかかる。
「査問院とも学園や学院と協力して対策をしても、どこかしらで彼らの話や呪いの話は聞く。ぼくたちも、呪殺による暗殺には注意を要さなければいけない」
「そうですね。雑草みたいにしぶとい組織です」
「彼らの組織体制がどうなっているか、シェイラが知っていることは?」
雑草のようにしぶとい組織とは、どのようなものなのか、イディオンは訊いている。
「組織の長は、団長と呼ばれる人間。さらに副団長が二名。さらに上級騎士が数名……そして主として実働を担う下級騎士と、見習いである従士によって構成されている……そう聞いています」
「知らなかった。だれから聞いたの?」
「魔導師仲間に。民間の秘密結社について研究する人間がいるんですよ。参与観察や聞き取りもしたそうですよ」
「危なくないか?」
「深入りしすぎない程度に、だそうです。契約魔術を結んで調査をしたそうですから、物好きなものです」
「……なるほどな」
理解はしたが、意味はわからない。イディオンの顔は、そう言っていた。
「その魔導師から他に聞いていることは?」
「符牒があるそうです。それで仲間を認識する」
「どんな符牒?」
シェイラはイディオンの問いに、声を低める。なるべく小さく、つぶやくように言った。
「──〝闇より気高さを〟それが最初の合図です」
「それから?」
「〝気高き魔女の名にかけて〟と返す。そうして、左手の甲を見せると、団員であれば、〈荊棘の剣〉の紋章が浮かぶそうです。茨は、魔導師ノザリアンナの象徴ですから」
「へえ」
イディオンが少し、面白そうな顔をする。
「手っ取り早く、そのへんの人間に声かけてみる?」
「やめてくださいよ」
悪戯心をあらわにするイディオンに、シェイラは真面目に注意する。
「呪われますよ」
「跳ね返せばいい」
「できちゃうだけに冗談に聞こえないです」
「だって、さがし当てるのは面倒だろう?」
イディオンは笑っている。ちょっとわくわくしていそうな顔は、年頃らしくて、なんだかシェイラは力が抜けてしまう。
(もう……)
向こう見ずな弟がいたら、こんな気持ちになるのだろうか。
シェイラは、そんなことを思いながらも、イディオンが年頃らしい言動を見せると、ほっこりする。張っていた気が、少しだけ抜ける気がした。イディオンは気づかい屋だから、もしかしたら、シェイラの気持ちを見透かして、ふざけているのかもしれなかった。
自分だけで考えなくてすむ、隣にイディオンがいてくれる、思わぬありがたさだった。
「……戻しますけれど、わたしが気になったのは彼らのなかに、技量のある魔術師がいることです」
「そうだね」
シェイラの言葉に、イディオンもすぐに切り替える。
「シェイラが戦っていたのは、大地の魔術師だった。今までああいうやつと交戦したことは?」
「ないです。だから、少し反応が遅れました」
一瞬の隙で逃がしてしまった。
「変な話だな」
イディオンは言う。
「〈気高き魔女の騎士団〉の大目的は、ノザリアンナ呪了国の再興にある。そう、今話したよね?」
「はい」
「だったら、魔術師が構成員にいるのはおかしい……というよりは、不審だな。〈導脈〉を持たず、迫害されてきた歴史のある呪了師たちが作ったのが、騎士団。なのに、〈導脈〉を持つ魔術師が構成員にいる。大目的とそぐわない」
「そうなんです」
シェイラも、それが違和感だった。
「彼らは、〈導脈〉を持っている者たちを憎んでいるはずなんです」
「魔導大戦で、自分たちの国を滅ぼされたからね」
「そうです」
「なんなら、彼らの国の大地を焼き払って、こちら側と隔絶するような大山脈を築いたのは、ぼくの祖先だ」
「魔導師ガルバーンですね。山脈を築くなんて、どれだけの魔力を行使したのか……」
「理解不能だよ。できる気がしない」
「そうですか?」
シェイラは、イディオンの皮膚の下を観る。
青銀の力強い〈導脈〉。──魔力の流れは、光が強すぎてまともに観ていると、目が潰れるのではないかと思う。
「イディさんなら、できちゃう気がしますけどね?」
「……ありがとう」
イディオンが少しだけ照れる。
「シェイラのおかげだけどね」
「苦しうないです」
「なにそれ」
「一度言ってみたかったんです」
シェイラは、笑ってから、脱線してばかりの話題を戻す。
「だから、そもそも魔女の騎士たちの目的そのものを、疑ってかからねばなりません」
「そうだな。ぼくが話したかったふたつ目だ」
飲み物が追加された。イディオンは発泡水を、シェイラは麦酒を頼む。ついでに、つまみになるものも、イディオンは頼んでいた。
「彼らが目的としているのは、呪了国の復活ではない」




