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魔法が使えない魔導師と、霧の大陸の教え子たち【第一部完結】  作者: 稿 累華
第10章:ついてくる少女─後編─

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191話:議論と整理(1)

 宿に戻ると、一階の酒場は、仕切りのある対面座席が空いていた。隅にあるので、話をするのにちょうどよい。腰かけて適当なものを注文する。



「──魔女の騎士だったな」



 イディオンが、口火を切った。運ばれてきた樽杯(ジョッキ)の発泡水を、ごくっと一口呑む。


「ええ」


 シェイラは薄められた葡萄酒を飲んでいた。庶民が、食事によく飲むものだ。それだけで飲むとあまりおいしくない。味を感じないように、喉を濡らすためだけに口にする。


「{希薄}を使ってたのに探知されたのか?」


 あの店に入ってすぐのことだ。シェイラとイディオンは気配を消していたはずなのに、まるで察したように店にいた騎士は、飛び出ていった。

 覚えのある行動だった。


(あの時……)


 三年前に、王都ガルバーンにいた呪了師(しゅりょうし)たち。彼らも、{索敵}の気配を感じたように、シェイラが辿り着く前に逃げ失せた。あの呪了師らが、魔女の騎士だったのかは今でも判然としない。だが、可能性は高いと考えていた。今日のことを考えると、ますますその可能性は高いと踏む。


「魔力なのか、魔法そのものへなのか、そういったものに反応できる術があるのかもしれませんね」

「{拡張}に似ている」

「そうですね。{拡張}ではありませんが」


 シェイラは、ガザンから教わっていたから、断言できた。他者が{拡張}している領域に入ると、薄膜を越えたような感覚を得る。あの店で、それにふれた感覚はなかった。


「魔道具か、呪具か、あるいは、{探索}{索敵}{看破}……このあたりの闇の魔術の応用か」


「そのあたりは、あやしいですね。正直、可能性はいくらでもあるので、痕跡でも見つけない限り、この魔法だと証明するのは難しいです」


「たしかにな」


「巷間にはまだ、ヴェッセンダスの{登録}を受けていない魔法魔術は多くあります。それについて議論するのは、得策ではないです」


「わかった」


 イディオンが、ひとつ肯く。運ばれてきた魚に、突き匙(フォーク)を入れている。塩と香草につけてある魚だ。よい香りが立っている。


「食べる?」

「食べません」


 シェイラがじっと見ていたからだろう。イディオンが尋ねてくるのに、いつものように返した。

 一緒に過ごすようになってから、定番のやり取りだった。なかなかしぶとい。


「ちょっと考えておくよ」


 シェイラは、イディオンの言葉に首をかしげる。運ばれてきた揚げ麦粉焼(パン)を口に含んでいた。口のなかのものを呑み込んでから尋ねる。


「考えておく?」

「魔女の騎士に勘づかれないような魔法」

「……そんなこともできるんですか?」

「うん、できる」


 イディオンは、得意げだった。


「ぼくが、きちんと表象(イメージ)できれば、できるよ」

「できるんですか」


 〈表象魔導〉は、なんてすごい魔法だろう。さっきも思ったが、感心でしかない。


「きちんと修行されたからですね」

「ラムルは厳しかったよ」

「だから、蟲との戦いもあんなに慣れているんですか?」

「まあね」


「いったい、どんな修行をされたんです?」


 三年で鍛錬したとは思えぬ動き。シェイラも、三年で自立したが、蟲が流れ着くヴェッセンダリアで修行をしていたから、というのが大きい。ガルバディアではそこまで湧かないはずだ。


「内緒」


 イディオンが、母女王に似た笑みを浮かべる。有無を言わせない。そんな笑みだった。


「話を戻そうか」


 答えてもらえそうになかった。

 シェイラは致し方なく、揚げ麦粉焼(パン)をもごもごとさせながら、肯く。



「ふたつ、整理したい」



 イディオンは指を二本出す。


「まず、魔女の騎士がまじないと称して呪具を売りさばく理由。次に、やつらの目的そのもの。シェイラは他にある?」


「ひとつ、あります」


 戦斧を振るっていた男を思い出す。


「魔女の騎士とは、そもそもなんなのか、構成員はどうなっているのか、前提となる事柄です」


 シェイラが交戦した男。あの男は、{転移}を使っていた。大地の魔術も用いていた。ただの魔法使いではなく、魔術師の技量がある人間だ。そういう人間が、〈気高き魔女の騎士団〉にいる。


(使われているのは、呪術だけではない)


 通常の魔法、魔術、場合によっては魔導も使うような人間が組織に所属している可能性もある。

 それは、茫漠とした不気味さを途方もなく広げるようで、ここで話しておいてしまいたかった。


「そうだな。それも、整理しておこう」


 イディオンが首肯する。ありがたい話だった。


「まずは、前提の話だな。認識をそろえておいたほうがいいよね?」

「はい、揃えておきたいですし、わたしとイディさんの情報をすり合わせたいです」

「そうしよう」


 料理を食べ終えて、飲み物だけになった卓を挟んで、シェイラとイディオンは向かい合う。


 イディオンが先行する。


「〈気高き魔女の騎士団〉……はじまりは、千年も昔だ。分裂したサージェシアのなかで、迫害されたノザリアンナ呪了国や、ユベーヌの民からはじまったとされている。一般知識だね」


「はい。最初は、魔導師ノザリアンナを崇める宗教結社。それが、大きくなって、呪了国の復興を目指して大きくなり、オルリア聖教との抗争につながっていきました」


「ああ。だが、過激な行動が増え、三百年前には、月ノ斎王国への侵攻を行った。結果、斎王国から返り討ちに遭い、瓦解。残党も聖教側の聖騎士たちによって駆逐された」


「その影響で、斎王国は鎖国をすることになりました」


「それが、表向きの歴史」


 シェイラとイディオンは肯き合う。


「実際は、細々ながら生き残っていますね。三百年間ずっと。どこかしらに彼らの影はあります」


「王家にとっては耳の痛い話だ」

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