表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か、ミライ地図  作者: もりたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/45

[5日目 - 午前] 田中家 - 大切なものを守るために ①

 夢を見た。

 とても、とても昔の夢だ。


 小学生くらいの、まだ僕が小さい時のことだ。

 その時から、僕はよくドジをする子だった。


 その時もそうだった。僕はクラスでヘマをしてしまったんだ。

 ヘマをした瞬間、僕はクラス中から沢山責められた。


「せんせー、はるがこわしたぁーー!」

「はるがあいをなかせた!」

「はるがわるいんだ!!!」


 でも、どうしてかは覚えていないけど、この事はクラスで大きな問題にはならなかった。

 誰かが僕のことを守ってくれたような気がする。

 そして、すぐに皆が元通り関わってくれるようになったから。

 だから、その時は僕は気にしていなかったんだ。


 でもある夜、その時の失敗した瞬間、皆から悪者扱いされたことが、フラッシュバックした。

 そして急に、どうしても怖くなったんだ。


 ……本当は皆、僕のことが嫌いなんじゃないか?


 人間関係、それが怖くて仕方なくなくなった。

 あの時、僕に投げかけられた言葉、視線を思い出してしまって、溜まらなく苦しくなった。

 あの時の皆の感情が、言葉が。

 皆の思っている、僕への正直な思いなのではないか、と……


 お母さんの寝るベッドに行った。

 怖い、と涙ながらに訴えた。


 おいで、とお母さんの布団の中に誘ってくれた。

 僕は布団に飛び込んで、お母さんに抱き着いた。


 お母さんは僕の手を握ってくれた。

 たまらなく、温かい気持ちになれた。

 心のモヤモヤが晴れていく。


 何か、お母さんが僕にアドバイスをしてくれた気がする。

 それが何だったか、僕はもう思い出せない。

 でも、それに勇気をもらって、この暖かさに包まれて、僕は怖さに打ち勝つことができた。


 怖いものはもうなかった。

 僕の安心できる場所は、ここにある。

 その温かさを、僕は今、感じている。



 手にぬくもりを感じた。

 なんて安心できる心地よさなのだろうか。


 幼い僕はそのまま、深い、深い眠りに落ちていった。



―――――――



 目が覚めた。


 部屋に明かりが差し込んでいる。

 時刻は8時過ぎ、いつもよりちょっとだけ早起きだ。


(……変な夢を見たなぁ)


 鮮明に今朝の夢を覚えていた。

 あれは、確かに昔の僕だ。

 最近忘れていたけど、そういえばそんなこともあったな、と思った。


 ちょっとだけ自己嫌悪に陥る。

 友達関係で最近失敗したけど、そういえば僕は昔からドジをよくする子だったか。

 ……まぁ、どうしようもない。



 うーん、と腕を伸ばして伸びをする。

 寝起きは悪くない。心地よい朝を迎えることが出来た。


 横を見ると、やっぱりミライはもう起きているようだ。

 でも、布団が敷きっぱなしになっている。


「仕方ないなぁ」


 僕の分とミライの分、2つとも畳んで隅に寄せておく。

 誰もいない部屋で着替えて、顔を洗って、台所へと向かった。


「……あれ?」


 ミライはもういなかった。


「どこにいるんだろう」


 ふいに、玄関のドアの開く音がした。

 ミライかな?

 僕は玄関先の方に向かう。


「よっこらしょ」

「ふぅ、わしも何往復もするのはしんどいのう」


 玄関先に、段ボールが幾つか積まれていた。

 ミライと、おじいちゃん、それに宅配の人の3人で、いくつかの箱を運んでいたようだ。


「おじいちゃん、手伝うよ」


 僕は急いで靴を履く。


「おぉ、晴。おはよう。頼めるかの?」


「おじいちゃんはゆっくりしててね」


「では少し休ませてもらうの」


 そういって、ミライと僕と業者さんで小道の下まで歩いて行った。

 残念なことにこの小道は車が通れないので、宅配が来た時はこうやって受け取りに行かないといけない様だ。


「ハル、おはよう!」


 ミライが汗をかきながら、小道を小走りで降りていく。


「おはよう、ミライ。あとどれくらい?」


「あと3つ!これで最後だね」


「起こしてくれたら手伝ったのに」


「……まさか、こんなに荷物があるなんて思わなかったからさ」


 確かに、玄関先に既に7箱置かれていた。

 という事は10箱分も荷物があったのか……


 話しながら、道に横付けされた軽トラックにたどり着く。

 ミライが、いけるいける!と言って2箱、僕が1箱担いで、家の方へ戻った。

 僕が2箱持とうかとも思ったが、僕のパワーでは難しかった。

 筋トレ、しようかなぁ……



 上に運び終わったら、おじいちゃんが朝ご飯を作ってくれていた。

 ミライが汗だくだったので、シャワーを浴びてから、3人で食卓を囲んだ。


「今日はおじいちゃんはお休みなの?」


「そうじゃな。ちょっと家で用事をするかの」


 ……そういやおじいちゃんって何歳だろう。

 平然と毎日役場に何かをしに行っているけど、この年まで仕事をするものなのか?

 ……というかそもそも仕事をしに行ってるんだっけ?


 あんまりおじいちゃんの事を知らない自分に気が付いた。


 その後は客間でゆったり。


「ミライ、いこうか」


 そろそろ時間だと、ミライに声を掛ける。

 ミライは眠たそうに目を擦りながら、立ち上がった。


「あれ、ミライ。大丈夫?」


「ん?大丈夫だよ!」


 やっぱり寝れてないって言ってたから、寝不足なのかな?

 慎重にミライの顔色をうかがう。

 ……いつも通りのミライだ。まぁ本人が大丈夫というなら、それを信じるほかあるまい。


 そう思って、僕は玄関に向かう。ミライと共に家を出る。

 僕たちは、皆と待ち合わせしているバス停へと向かうのだった。



―――――――



 なんと、僕たちより先にカイがバス停に着いていた。

 もちろん千夏は既に待合室の中である。


「うそだぁ」


 ミライが驚く。


「俺だっていつも遅刻してるわけじゃないんだぞ」


 えっへん、と胸を張るカイ。

 毎日遅刻すな、と千夏がカイをチョップ。


「さて、今日何するか覚えてるか?」


「田中さんの所で、材料を貰いに行くんですよね」


 僕は答える。

 カイのお父さんの勇輔さんから、今日の午前中に田中さんの所でお手伝いをして、材料を貰うように言われていた。


「そうだ!だから、遊び場寄らずに直接たなじいの所に行こうと思うんだが、良いか?」


「それが良いですね。そうしましょう」


 千夏が同意する。

 早速、田中さんの家の方に僕たちは向かうことになった。



―――――――


 道を下って、橋を渡って少し進むと、目立つ鉄塔の下に田中さんの家が見えてくる。

 しかし……


「うわぁ、人が集まってる!」


 ミライが驚きの声を上げた。

 田中さんの家の前に、10人ほどの人だかりができていた。

 その中に田中さんも混じっているのが見える。


「たなじい!手伝いに来たぞ!」


 カイが声を上げて、手を振る。


「おぉ、よく来たね。勇輔さんから、手伝いに来てくれると聞いていたよ」


 眼鏡をかけた田中さんが、前も見た作業着を着て立っていた。

 田中さんが、既に集まっている人たちのことを紹介してくれる。


「ここにいる皆さんは、水ヶ谷村の見守り隊の人たちだよ」


 男女混じって、お年寄りの方7割、若い人が3割くらいで構成された10人程の人たちだった。

 僕たちは、よろしくお願いします。と口々に言って、挨拶をする。

 皆さん優しく挨拶を返してくださった。


「さてと、これで全員だ。今日のお仕事の内容を説明するかな」


 そう言って、田中さんは人の輪から外れて、全員と向かい合う位置に立った。

 僕たちも田中さんのことを注目する。


「今日は、町内無線の試験放送を行います。晴、快、千夏、ミライ、君たちにも試験の手伝いをしてもらいますよ」


 説明が始まった。

 まず、村には防災対策の為に、町内無線が敷かれている。

 この町内無線を通して、村中に放送を行えるようになっているわけだ。


 この町内無線を正しく受信して、スピーカーから放送をできているかを確認するのが、今日の試験放送の役目だそうだ。

 1人1人が担当のスピーカーや鉄塔を受け持って、そのスピーカーから正しく放送が流れているかを確認する。


 確認方法はシンプルだ。

 合図と同時に、田中さんが町内放送を流す。

 僕たちは、スピーカーから正しく音が流れていることを確認するだけ。

 鉄塔のように、複数個スピーカーが付いている物は、それぞれ1つずつ、ちゃんと流れているかを確認するように、と注意があった。


「それでは、持ち場に向かってください。皆さん、よろしくお願いします」


 田中さんがそう締めくくると同時に、見守り隊の人たちが各々の持ち場に移動しだす。



「4人とも、こちらにおいで」


 僕たちは何をすればよいかと思っていたら、田中さんが手招きしてくれた。


「君たちにも、持ち場を持って確認してもらいたい。お願いできるかな?」


「お安い御用だ!」


 快がグッドサインを出す。

 ミライもそれに倣ってグッドサイン。

 ぼくと千夏は頷いた。


「本当に助かるよ。見守り隊も高齢化で、人が減ってきていてね……」


 そう言いながら、田中さんは地面に置いた箱からトランシーバーを4つ取りだした。

 何やら、ダイヤルを操作しながら僕たちに1つずつ手渡しする。


「お、おぉぉぉ!!」


 カイのテンションがぶち上っていた。

 正直僕もワクワクしていた。こういうの、男心がくすぐられる。

 トランシーバー。一度触ってみたいと夢見た物が、この手の中に!


「これを持って行きなさい。使い方はね……」


 簡単に使い方をレクチャーされた。要はボタンを押して話すだけだ。

 加えて、村の中で話すときのルールをいくつか説明された。


 最後に、それぞれに割り振られた場所を指示される。


「さて、じゃぁ4人とも、行ってらっしゃい」


「おう、じゃぁみんな、後でな!」

「それでは、また」



 4人と別れて、僕たちは担当の場所へと向かった。

 何だか、こんなお手伝いをしていると、村の一員になれている気がして、僕は少し嬉しかった。



―――――――



「ただいま~」


「晴、おかえりなさい」


 僕は家に帰っていた。庭の整備をしていたおじいちゃんに迎え入れられる。

 ぼくに割り振られた場所は、山守家だった。


「……無線なんてあったかな……?」


 当然、我が家に鉄塔なんて立っていない。

 田中さんからは、山守家の中のスピーカー2つを点検するように言われている。


「おじいちゃん」


「なんじゃの?」


「うちに、無線のスピーカーってある?」


「……はて?」


 通じていない気がする。


「何か、村中に流れる放送が聞こえるスピーカーとか」


「……電話から流れはするかの?」


 きっとそれではない。


「あぁ、そうじゃ。蔵の所にスピーカーはあるのう」


 有力情報だ。


「おじいちゃんありがとう!」


「ほい」


 そう言って、蔵の方に向かう。



 確かにスピーカーが付いていた。

 三角屋根のとんがりに1つと、蔵の中に1つ、計2つのスピーカーを見つけた。

 よく見ると屋根の頂上に、「王」みたいな形のしたアンテナが、ニョキッと生えている。

 その上、天井に取り付けられた蔵の中のスピーカーの周りに、よく見たらゴテゴテとした配線と装置が付けられていて、異常なハイテク感を醸し出してる。

 唯でさえ奇妙な見た目の蔵が、より一層奇妙に思えてきた。

 そもそも、蔵にアンテナは生やすものじゃないだろう……誰が作ったんだ、この蔵。


 ともかく、僕は配置に着いた。トランシーバーで報告しよう。


「お手伝い4から田中、準備OKです」


『田中からお手伝い4、了解』


 おぉ、夢の無線通信だ。

 じわじわと、気分が高まってくる。


 トランシーバーから、続々と他の人も配置に着いたことを知らせる音声が聞こえてくる。


『お手伝い2から田中、準備完了です!』


 お、これはミライの声だ。

 僕たちにはお手伝い1~4のコールサインが割り当てられている。

 ちなみに3が千夏、1がカイだ。

 他の人たちは、見回り隊としての担当住所がコールサインとなっている様だった。



『それでは1回目の試験放送を流します』


 全員が配置に着いた所で、試験放送が始まった。



 ピンポンパンポ~ン


【しけんほうそう~。こちらは~、ぼうさい~みずがたに~……】


 田中さんの声が聞こえるかと思ったら、録音された放送音声が流れだした。声に続いて、音楽が流れだす。

 僕は蔵の中でスピーカーからちゃんと音が流れているか、耳を澄ませる。


 蔵の中のスピーカーから、ちゃんと音が流れているように聞こえる。

 念のため、蔵の扉を閉めてみた。

 村中から反響してくる試験放送の音が消え、蔵の中にあるスピーカーからノイズ交じりの音声が流れてくる。


(ちゃんと、蔵の内側のスピーカーからは音が流れていそうだ)


 よし、蔵の外側のスピーカーを確認しにいこう。

 蔵の扉を開けて、今度は蔵の外のスピーカーに耳の焦点を向ける。

 こっちは、蔵の内側より明らかに音量が大きかったから、確実に正しく動いていることが確信できた。


 これで、僕の担当分のスピーカーは確認完了だ。


『1回目の試験放送は、終わりです。2回目は15分後です』


 田中さんが、試験放送の終わりを連絡する。

 それに続いて、順番にチェック結果が報告される。


『川南村本から田中、村本1番塔問題なし。商店に移動します』

『川上平野から田中、平野塔問題なし』

 :

 タイミングを計って、僕も報告しないと。

 スピーカーは住所ごとに管理されているので、住所で田中さんに報告する。

『手伝い4から田中、山上問題なし』

 山守家の住所は、山上というらしい。

 山の上だから、山上。わかりやすい。


 他にも報告が続く。


 ともあれ、僕のお仕事は終わりだ。

 田中家に戻ろう。

 ポケットのトランシーバーから流れる、他の人同士の会話を聞き流しながら、小道を降りていく。



 そう言えば、蔵についていたスピーカー。

 ある意味山守家の為だけに付けられたモノのように思う。

 我が家の為だけに、あんなに立派なモノを設置するんだなぁ、と思った。

 ある意味、放送を全ての村中に届けることを徹底しているともいえる。


 そして思った。

 そういえば、なんで蔵の内側にもスピーカーが付いていたんだろうな?

 ……蔵の中に籠っている人の為?


 多分蔵にスピーカーを付けるついでに、中に居ても聞こえるようにしておいたのかな。


 そんなことを考えながら、田中家の方へ向かっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ