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アイテムドロップには夢がある

「で? 勇者は大陸に渡ったか?」

「……問題なく」

 振り向いて聞くと、ソヒルは嫌そうな顔をした。入ってきたのに気づかれていないと思っていたのか?

 それはちょっと、俺を甘く見すぎだなあ。侮られていても俺としては構わないが。

「剣は?」

「渡しました」

「うん、それならしばらくは大丈夫だろ」

 俺は機嫌よく、踏みつけた魔物の腕をもいだ。

「ゴアアアアアアア!」

「こらこら、うるさいぞ」

 悲鳴をあげさせたくもないが、外皮の固い魔物だ。外皮っていうかブロックに近い。いわゆるゴーレム系だな、レアモンスターだ。

 頑丈だが動きが悪いので、あんまり人気ないんだよな。縄張りから絶対に動かないという戦略がとれるが、上位の魔物が来たら逃げられもせず魔素を奪われるだけだ。四天にゴーレム系が生まれたらまた増えるかなあ。味わいあって俺はわりと好きだ。

 バキバキ割らなきゃ食えないので大変だけど。

「相変わらず上手いなあソヒル、どうやって渡したんだ?」

「店の商品に紛れ込ませただけっすよ」

「あ、そういや見た目は平凡だったな、あの剣。目立ちたくない冒険者が使ってたらしい」

「はあ」

「はは、目立ちたくないもなにも、振ると派手な雷飛ぶんだけど。人間の気持ちって複雑だよな~」

「勇者も驚いて変な顔してたっす」

「ぶっ、ふふ、それは何より。次もなんかすごい剣を探しておこう」

 魔物にとって人間の作った道具は、魔素を閉じ込めた忌まわしい代物だ。解体に手間がかかるし誰もほしいと思っていないので、俺が声をかければほいほい供出してくる。

 それを勇者に横流しすればいいわけだ。なんて悪い魔王なんだ。

「けどやっぱ良い装備は店売りじゃなくてドロップ品だよなあ。グラウィドゥくん、勇者と戦うときに持っててくれるかな?」

 アンデッド系っていうのがな。何にも取り憑いていないときの奴らはふわっとした存在なので、物を持つということがまず難しかったりする。

 だが人間に取り憑いたときは、その人間が持っていた武器をそのまま使うことがある。グラウィドゥくん、本気出したときはどっちなんだろう。いや最終的にはだいたい本体出ちゃうけどさ。じゃあ結局は持てないか。

「宝箱にでも入れとくかなあ……」

 ちょっとグラウィドゥくんちに行ってみよっか。




「魔王……グォ、オオオオオオ」

「あ、うん、久しぶりグラウィドゥくん」

「カエレ……カァエェレエエエエエエ……」

「歓迎ありがとう。君にお茶は期待してないから大丈夫さ。それより君んちちょっと見せて」

「ユル……サヌ……ワガノロイ、ワガチカラ、ソノミニ、」

 取り憑いてこようとしたので、俺は体の表層に炎をまとった。

「グアアアアアアアアア」

「いや逃げなくていいって。……うーん、だいぶ弱ってるな。配下と死力尽くして戦っちゃった感じかな。お気の毒」

 だいたい戦いのあとは勝った方が相手の魔素を食って力をつける。ところが戦いが長引いてしまうと、消費した魔素の方が多くなる。食ってもプラマイマイになるわけだ。

「それでこんな引きこもってたんだな。いやいや、悪くないぞ。むしろ都合がいい!」

 魔素量が少なくなったなら、静養をかねて目をつけられないよう縄張りに引きこもるに限る。

 体内の魔素量を読みにくく隠蔽することはできるが、グラウィドゥくんはあんまり上手じゃないようだ。ま、そうでなくても、いちかばちかで噛みつかれても嫌なので、魔素溜まりに引きこもって誰も近づけないのが一番である。

 俺に言わせると魔素は地下から湧いているので、魔素溜まりの下を掘ってそこに隠れるのが一番だ。まあ、まだ試したことないけど。

「まったく立派な城だ。我が魔王城にはちょっと劣るけど、十分十分、グラウィドゥくんにふさわしいと思うよ」

「オアアアアアアア」

「あー、ごめんごめん」

 ちょっと悪役ムーブを楽しみすぎただろうか。

 泣かせちゃったので謝っておいた。

「今のところ君を食べる気はないっていうか、君にいなくなられたら困るので安心してほしい」

「グオッ、グォオオオ」

「あー、また黙らせないとだめかな」

「……」

「黙れるんだ……まあいいや。やってもらいたいことがあってさ、勇者って知ってる?」

 俺はこつこつと石の床を踏んで確かめながら歩いた。うん、しっかりしている。アンデッド系の魔物ってこういう作業が上手いんだよなあ。形のない魔物だから、隙間に入り込んで細かいところまでしっかり仕上げられる。

 俺も今度城の改装をするときは、アンデッド系を作ってやらせてみよう。もっとも俺は細やかな神経なんて持ち合わせがないので、それを持った配下をつくれるかというと心配なところだ。

「グア?」

「知らないか。人間の英雄でさ、まあ、強くて諦めないやつだ。いずれ魔物を滅ぼすと言われている」

「グッハハハハ」

「あ、元気だな。そういうわけだから、その勇者と戦って欲しいんだよな」

 まるで人間など敵ではないという様子だが、ビビって逃げられても困るので良いだろう。最初の中ボスなんてこんなんだろうし。

(いやもっと弱くてもいいけどな~)

 てか、あの縄張りの主たちが最初の強敵だったのかもしれない。勇者の初活躍を見られなかったことが残念でならない。

「ニンゲン……ゴトキ……ウブブ、ウブブブブブ……!」

「どういう反応か謎だけどまあ、期待してるからなー。あ、そんでこの剣、城のどっかに置いといていい? だめ? これあげるからさ」

 魔素を援助してやると快く引き受けてくれた。いいやつだ。せっかくなのでアクセサリーなんかの小物もあちこちに置いといた。一つ呪われたやつもいれといた。楽しみだ。

 ついでに離れるとき、城の中を伺ってるやつがいたので不意打ちして食っておいた。なかなかのカロリーだった。グラウィドゥくんより強かったんじゃないかな、感謝してほしい。




「の、呪われてる……!」

「ぶふーっ!」

 俺は思い切り吹き出してしまい、口を抑えた。呼吸してるわけじゃないんだが、声は声帯から出る。わりと鼻歌も歌う。

「ル、ルカ様、呪いとは……?」

「外せなくて……!」

「ああっ、本当ですね。教会で呪い外しを受け付けているのは知っていましたが、本当にあるんですのね、呪い」

 アンシー中のソヒルが聖職者らしからぬことを言っている。大丈夫だろうか。まあ、ルカくんは気づかないかな。

「ですけれど、外せないと問題ありますか? この装備品、魔力がこもっているようですが……」

「あ、うん、体が軽くなった気がする」

 魔力というのは魔素を力に変えたものだ。魔素は魔物のエネルギーであるが、人間には取り込めないし扱えない。魔力という大きな形に練ることで、炎を起こしたり、雷を呼んだりできるわけだ。

 いま勇者が身につけている呪いのイヤリングは、魔力によって体を動かすことにサポートが入る。魔力となっても人間は体に取り込めないので、体の中から力が発生しているわけではない。あくまで外側からの力だ。

 ちなみに呪いという状態は、これは副作用みたいなものである。魔素が人間の体に入り込めない以上、効果を強めるためにはできるだけ体に密着させる必要がある。その作用を職人が全力で実現すると、体から離れなくなってしまうのだ。

 他に副作用として、魔素を限界超えて体にくっつけるせいで、体力を奪うなんてものもある。人間と魔素はそのくらい相容れないってことだろう。

「これは……いいかも? あ、いいな。すごくいい」

 勇者ルカは飛び跳ねて効果を確かめている。気に入っていただけたようで何よりだ。

 グラヴィドゥくんはアンデッドだから素早さは重要だと思うんだよなあ。出会い即取り憑かれるのは勘弁してほしい。見どころがなさすぎる。


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