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ストーリー2

 灰かぶりことラナンキュラは、王子様と結婚できないまま30才になっていました。



 どうして? それは、魔法使いのおばあさんが来てくれなかったからです。

 亡くなったお母さんが助けてくれる、なんてこともありませんでした。

 魔法使いのおばあさんなんて、さらにあり得ないことだったのです。


 これはそんな、魔法のない世界のシンデレラストーリー。



 ラナンキュラは来る日も来る日も継母と継姉達にいびられて、辛い労働の毎日を過ごしていました。20代の時に、お父さんも亡くなっていました。


 ひとつ良い事があったのは、次女の方の継姉が結婚して出て行ったことです。

 長女の方は結婚しても屋敷に住んでいました。

 そしてなにかと夫との幸せを見せつけてきます。

 けれど、ラナンキュラは少しも気になりませんでした。

 ただの金持ちの妻になってこの屋敷で一生暮らすより、お姫様になってお城で暮らす方がどんなに素敵でしょう。

 それに、継姉の夫を少しも魅力的とは思いませんでした。


 ラナンキュラの心には、今も王子様がいたのです。


 けれど、ラナンキュラにはなにもできません。


 身も心も疲れ切っていて、仕事が終わると部屋で休む日々を送っていました。

 そもそも出かけようにも、継母にお前みたいな汚い娘を外には出せないと言われ、屋敷の中だけの暮らしを()いられていました。

 ラナンキュラも思春期から大人になるにつれ、汚い自分を見られたくなくなり、外に出ようとしなくなりました。

 お金があれば服を買えたでしょうが、ラナンキュラはお金を自由に使えませんでした。

 勝手に持ち出すことは、罪深い行いの気がしてできませんでした。


 清らかなラナンキュラはかわいそうな籠の鳥でした。



 屋根裏部屋だけが、ラナンキュラの居場所です。


 継姉達から聞いた王子様の姿を想像しては、ひとりの寂しさと真っ暗な夜を耐えていました。


 ですが、最近は王子様の想像が上手くできません。


 10代で結婚する世界なのです。30才になったラナンキュラは王子様と結婚できると信じられなくなってきて、純粋な心で夢を描くことができなくなってしまっているのでした。


 肝心の王子様はどうしているでしょう。

 まだ舞踏会が開かれている頃に継姉達が結婚してから、王子様の話は聞けなくなってしまっていました。


 もうお姫様は決まっているでしょうか。

 ラナンキュラは諦めようかとため息をつきます。

 今から王子様に会えても遅いのかしらと。


 前は窓からお城を見ると涙が出ていましたが、いつからか涙も枯れていました。それでも心だけは変わらずに痛むので、お城の見える窓は締めきっていました。


 小鳥やねずみがやって来ても、ラナンキュラは眠ったままです。

 小鳥やねずみと遊んでいてなんになるでしょう? 

 優しい心も失われつつあったのです。


 心も幸せも、守らなくては消えてしまうものですから。

 それなのにラナンキュラにはもう、守る力が残されていませんでした。


 ラナンキュラは、ベッドの中で思い悩み苦しみました。


 こんな未来なんて想像していなかったからです。


 この不幸せは、なにか悪いことをした罰でしょうか? 

 いいえ、そうではありません。

 早く死んだお母さん、性格の悪い継母と再婚したお父さん、ふたりの招いた不幸だとわかっていました。


 それでもラナンキュラは両親を責めず、自分を責めていました。

 こんな屋敷から早く逃げなかったことを悔やんでいました。


 逃げようにも、ラナンキュラは色んな物に縛り付けられていたのです。


 恐ろしい継母継姉達、生まれた屋敷に居たい思い、行く宛のない心細さ、そしてなにより、お母さんの残した『いつもいい子でいて、辛くても耐えていればいつか幸せになれる、誰かが見ていて助けてくれる』という、夢いっぱいの甘い希望的観測でしかない言葉が呪縛となって、ラナンキュラを夢も希望も魔法使いのおばあさんも王子様も来ることのない、絶望の屋敷に縛り付けていたのです。



 ラナンキュラに限界がきました。



 ベッドから起きられなくなってしまったのです。

 すぐに継母がやって来て、寝ているだけの役立たずは必要ないと、食事も与えられず部屋に閉じ込められてしまいました。


 このままでは死んでしまうと悟ったラナンキュラは、シーツでロープを作ると窓から抜け出し、ついに屋敷を出ました。


 ラナンキュラは意識を失いそうになりながらも、必死でお城に向かいました。


 やっと自由になれたのだから、死ぬ前に王子様に会いたかったのです。王子様には会えなくても、せめてお城には行きたかったのです。


 ボロボロの灰色のワンピースをきたままのラナンキュラは、お城にたどり着くことができました。


 ここに王子様がいると思うと、ラナンキュラの命は再び生き返ってきました。


 お城を眺めていたラナンキュラを門番が見つけました。

 追い払われそうになりましたが、どうしても王子様に会いたかったので、雑用でもなんでも働きますからどうかお城に入れてくださいと頼みました。



 ラナンキュラはメイドとして働くことになりました。



 ラナンキュラは嬉しさと悲しみを感じていました。

 メイドの身で王子様を一目見てなんになるでしょう?

 あまりにも儚い幸せではありませんか。



 ラナンキュラは廊下のお掃除をすることになりました。



 そこへ、王子様がやって来ました。



 王子様は想像よりも、ずっと美しく逞しく気品があってそれでいて男らしく、言葉では言い表せないくらい素敵でした。


 王子様は結婚相手を探すために、長年舞踏会を開いていましたが、誰と踊っても違うなと思って近頃は()めきっていました。

 しかし、もう30才。一年以内に結婚相手を見つけなければ、親の決めた相手と結婚しなければなりません。


 そんな時に出会ったメイドのラナンキュラ。



 王子様は一目見て、この人だ!と思いました。



 ラナンキュラは過酷な暮らしで痩せ細り、身だしなみも最低限で、地味なメイド服でした。

 それでも、王子様にはわかったのです。

 自分に向けられた、ラナンキュラの輝く瞳と喜びに満ちた笑顔で。



 それになにより、運命の相手ですから。



 王子様は好きな気持ちを抑えきれなくなりました。


 メイドなどさせていられません。

 綺麗なドレスを着せてあげようと思い、連れて行こうと腕を引くと、ラナンキュラはよろよろとふらつきました。

 そこでラナンキュラをお姫様抱っこして連れていき、ラナンキュラのために部屋を用意すると、ベッドに寝かせて看病することにしました。


 王子様が思い描いていた通りの優しい人なので、ラナンキュラ喜びでいっぱいになりました。


 元気になったラナンキュラはドレスを着て夢だった王子様とダンスを、舞踏会とはいきませんが夜の庭でこっそりと踊ることができました。


 ベッドの中まで一緒に過ごすとは思いませんでしたが、王子様の腕に包まれて、やっと訪れた幸せのなかで眠りました。


 王子様はメイドを溺愛する血迷った王子様になってしまいました。

 当然周りは黙っていません。

 そこで王子様はラナンキュラの家を調べ、継姉達が舞踏会に参加していたことを知り、ラナンキュラにも自分と結婚する資格があることを主張しました。


 これには誰も反対できません。



 王子様とラナンキュラはめでたく結ばれました。



 魔法使いのおばあさんがいてくれれば、もっと早く……と思わなくもないですが、こんなハッピーエンドもいいではないですか。

最後まで読んでくださりありがとうございます!

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