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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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46 sideアルバ




 私にとってエトワール様は、命に代えても守るべき大切な人だ。




「グロリアス。どういうつもりですか。エトワール様を裏切って」

「裏切って……ですか、俺は本当の意味で裏切ったつもりはないですけど」




 言い訳に、言い訳を重ねる、自分の同僚にカチンときたのは間違いない。でも、その感情を彼にぶつけたところで、私の気が晴れることはないだろうし、最も、感情にまかせて剣を振るえばどうなるかぐらい分かっている。


 冷静でなければ、彼には勝てないだろう。


 私は、エトワール様から護衛を頼むと言われたときから、彼女に誠心誠意尽くすつもりだった。いや、尽くすと誓った。だからこそ、彼女の悲しみは、自分の悲しみのように受け止めて、そうして、彼女の役に立とうと思った。

 自分は女だから。騎士にはなれないと。未だに、女が騎士だなんてと馬鹿にする輩は数多くいる。だが、エトワール様の護衛になってからは、女性も立ち上がることが出来、少しずつ、胸をはるまではいかずとも棋士を志す人が増えてきた。

 エトワール様は知らないだろうけれど、彼女に影響された人は多いだろう。

 どれだけ、エトワール様が偽物だと非難され、彼女の功績が認められなかったとしても。彼女のした事は、ある一定数の人に勇気と希望を与えた。


 彼女は、私達の星だった。


 綺麗な銀髪に、夕焼けの瞳。少女のようにあどけなく笑う姿や、深く考え込み悩む姿はどんな名画にも増さるだろう。そして、焦って顔を赤くする様子も可愛らしかった。

 そして、何より強くてたくましい人だった。

 今回のこの作戦、私はエトワール様の元をはなれず、護衛するという算段だったのだが、エトワール様がいきなり軍から外れてしまい、帰ってくることがなくなったとき、目の前が真っ暗になった。エトワール様を守れなかった自分に腹が立ったのは勿論のこと、エトワール様に何も説明を聞かされていなかったのだ。彼女は、しばし、一人で抱え込む癖があるのだ。だから、私に言わなかった。


 私を巻き込まないためか。それとも、私が力不足だからか。

 どれだけ悔いても、自分の主が決めたことだからと割り切って、私は今目の前にいる同僚に剣を向けていた。本来なら、手合わせ以外でこんなことをしたくなかった。それに、何度か、エトワール様を一緒に守った身。だからこそ、彼と戦うのは嫌だった。

 もしかしたら、私は怖かったのかも知れない。




(隙が無い……こっちには、ブリリアント卿もいるのに。グロリアスは何でそんなに冷静でいられる?)




 数的には、グロリアスが振りだ。なのにもかかわらず、彼の顔色は一切変わる様子がなかった。彼はいたって落ち着いていたのだ。怖いぐらいに。それこそ、感情がない人形のように。

 元から、彼のことはよく分からなかった。何を考えているのか、口にもしなければ言葉にもしないのだから。何も分からないのだ。

 一緒に剣を振るって、エトワール様を守ってきたはずなのに、彼のことを、私はイマイチ理解できていない。




(イマイチ?いや、違うな、全然理解できていないんだ。だから、おびえている)




 少しだけ、自分が震えているのに気づいた。それは得体の知れない恐怖に怯える、人間の本能的なものだ。可笑しいことではないのだが、少し情けなくも思う。私は、同い年の騎士に恐怖で、その圧倒的な力差で負けているのかと。

 ここで勝たなければ、彼の目は覚めないだろうに。




「グロリアス、目を覚まして下さい。こんなことしても、エトワール様は喜びません。貴方の、目的は何なのですか」

「アルバ……勘違いしてませんか?」

「何を」




 グロリアスは、濁った翡翠の瞳を向ける。その瞳を見てゾゾゾッと肩が震える。身体に、虫が這っているような気持ち悪さだ。




「俺は、エトワール様が幸せになる為に動いているんですが」

「何処が……」




 ふつふつとわき出る怒りを押さえるために、拳を握る。何が、エトワール様のためだ。勝手にいなくなって、エトワール様ではなく、混沌の手に染まったトワイライト様の元に行って、何が違うというのだ。

 トワイライト様は、エトワール様の妹のような存在で、私は嫌いじゃないし、エトワール様がトワイライト様に向ける笑顔は好きだった。その笑顔が私に向けられることはないと分かっていても、その笑顔を見ているだけで救われるような気がした。

 なのに、どうしてグロリアスは。




(言っていることが分からない。本当に頭でもぶつけたのか……)




 それだけだったらいい。ただ、頭をぶつけて、頭のねじが飛んだぐらいなら、どうにでもなっただろう。だが、最も恐ろしいのは、グロリアスも混沌の息がかかっているという可能性だ。この場合、私達の言葉はまず届かないだろう。




「トワイライト様が語った、エトワール様との幸せな未来について。理想郷。トワイライト様の夢について聞いて、俺は感激したんですよ。彼女なら、エトワール様を幸せに出来ると」

「だから、トワイライト様に近付いたと?彼女についたと言いたいんですか」




 私がそういえば、グロリアスは、少し考え込むような仕草をとる。何か、まだ言いたいのかと思っていれば、グロリアスの瞳が横に動いた。違うな……と小さく呟いてから目を伏せる。




「確かに、今のトワイライト様なら、エトワール様を幸せに出来るでしょう。幸せに埋もれさせて、その幸せから抜け出せないようにすることも。甘い蜜をたらし続けて、エトワール様を惑わし続けることも出来るでしょう……けれど、俺はそんな洗脳のようなエトワール様を見たいわけじゃ無い」

「は?」




 何を言っているか理解できなかった。

 此の男は、私が思っている以上に欲の深い人間なのかも知れないと。狂っているように見える。嫉妬を飼い慣らせていないような、そんな感覚に。




(だから、何が言いたいんですか。意味が分からない)




 私の頭では理解できない。それは、隣にいるブリリアント卿も同じようで、ブリリアント卿も険しい顔をしている。

 それほどまでに、グロリアスの言っていることは矛盾と狂気に染まっているのだ。




「俺は、俺の方法でエトワール様を手に入れたいんです。エトワール様の目に映るのは俺だけでいいと思っている。だから、トワイライト様を利用している」

「……本当にいっている意味が分かりません。結局それは、貴方の理想でしょう。その理想をエトワール様に押しつけようとしているだけ」

「なら、貴方も同じじゃないですか。俺みたいな、汚い欲望を心の奥に秘めている。俺と同じだと思いますけど?」




と、グランツは見透かしたように言った。


 確かにそうなのかも知れない。と、思ってしまう自分もいるわけで、私は何も言い返せなかった。話すだけ無駄だと分かっている。それに、これ以上話してしまうと、グロリアスにペースを持っていかれそうで怖かった。それは、何としてでも防がなければならないことなのに。




「まあ、これ以上話すことはないので。さっさと、始めましょう。どうせ、貴方も、俺の事を殺そうと思っているんでしょう?」

「……本来ならそうしたいところですが、それは、エトワール様の望むことではないでしょうし」

「……」




 エトワール様の名前を出せば、グランツはその表情を少しだけ変える。本の一瞬変わっただけで、何を思ったかまでは読み取れないけれど、まだ彼の中に善良な心が残っているとするなら。




(いいや、話すだけ無駄なのだから、変なことは言わない方が良い)




 私は、剣を構え直した。




「ブリリアント卿」

「何ですか、アルバさん」

「グロリアスを捕縛するの手伝って頂けますか」

「良いんですか?」




 ブリリアント卿は、首を傾げる。

 彼とて、別にグロリアスを殺そうとはしていないだろう。けれど、彼を絶命まで追い詰めなければ、しつこい彼のことだから、這い上がってくるだろうと。そういうことを言いたいのだろう。


 分かっている。


 私は、グロリアスへの怒りで爆発しそうだが、エトワール様のため、彼は生け捕りにしないといけない。

 彼が死んだら、幾ら裏切ったからと言っても悲しむだろうから。




「容赦はしませんから。グロリアス」




 私はそう言って、グロリアスに剣先を向けた。





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