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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第十章 誰もが欠けないハッピーエンドを

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45 sideアルベド




「すっごく、ぼろっぼろ。まだやるの?」

「は……これからだって言ってんだろ。クソ愚弟が」




 滴る鮮血。


 血の匂いは、これでもかというくらい鼻の中に入り込んでくる。一度吸い込んだら、その鉄の匂いは取れないだろうな。

 何故、自分が押されてる? 理解できなかった。いや、きっと、心の何処かで手を抜いていたのかも知れない。

 エトワールが言うとおり、結局の所、弟に弱いのかも知れないと。

 目の前で、自分の勝利を確信して、ニヤニヤと笑っているラヴァインを見ると、これ以上無いほど苛立ちが押さえられなくなるって言うのに、何故か、強くなったなあ何て感心している自分がいるから不思議だ。

 負けたら此奴は、俺を殺すだろうが。




「……テメェの目的は何だ」

「何って、エトワールを混沌の元に送り届けること?」

「なら、そのノルマは達成しただろうが。何故、俺に構う?」

「だって、兄さんをここで逃がしたら、エトワールの元に向かうでしょ?そしたら、数的不利になるじゃん」




と、ラヴァインはハンと鼻で笑った。


 まあ、そうなるだろうなとは思うが、俺をここで足止めする理由が他にもあるのではないかと探ってしまう。此奴のことだから、そこまで計算していないのだろうが。俺にとっては、早く合流することは大切なことだとも思う。だが、此奴を野放しにはしておけない。




(……この間戦ったときとは明らかに違うな……何かあったのか?)




 でなければ、俺が押されるはずがない。と、何処か傲慢に思っているところはあった。俺は、自分が負けるなんて事一度も考えたことなかった。どれだけ強敵と戦っても、最後は自分が勝つと。じゃなきゃ、命なんて幾らあっても足りないと思っていた。

 だから、悔しいのか。

 俺は、膝をつく。ボタボタと流れる血は、何処の傷口から流れている物か分からなかった。無数に出来た傷。そこから流れ出る血液。

 自分の髪よりも汚い色のそれを見て、まるでラヴァインの髪色みたいだなと思った。兄弟なのに、若干髪の色が違うんだよな。前々から思っていたが。だが、俺達は、正真正銘の血を分けた兄弟で。




「何考えてんの。兄さん」

「く……ハハ、いや、お前と兄弟だって言う事実に今更ながら、笑いが込み上げてきただけだよ」




 失礼だな。何て顔をしやがって、ラヴァインは頬を膨らませていた。不服なのか。それとも、俺が否定したことに対しての怒りか。此奴のことは、よく知っているようで、よく知らない。

 だが、女の趣味は似ているんだろうなとは思っている。




「兄さん、何でそんなにエトワールに構うの?」

「テメェには関係ねえだろうが」

「だって、兄さんが人に執着するなんて初めてじゃない?だから、凄く気になったんだ」

「気になって、人のもんとろうとしたのかよ」




 俺がそういえば、ラヴァインはピタリと止ってしまった。図星か。あるいは、俺がそんな風にラヴァインを見ていると思っていなかったのか。いずれにせよ、ラヴァインも何処かしら、エトワールに何か思うところはあるのだろう。でなければ、こんな反応をするはずがない。

 最も、エトワールにちょっかいを出している時点で、それは照明されたも同然なのだが。




「悪いの?」

「悪いだろ。つか、俺のものでもねえけどな。彼奴は、人のものにならねえよ」

「……兄さんの物を奪いたい。それが、俺の気持ちなんだけど」

「最低だな」

「どっちが」




 どれにたいして言っている言葉なのか俺には理解できなかったし、するつもりもなかった。

 此奴が何を考えて、俺の前に立ちふさがっているのかも興味が無い。ただ、俺は此奴に勝たなきゃ死ぬ。それだけが、俺と此奴の現実だ。




「俺を殺したいか?」

「何その質問。つまらなすぎる」

「殺したくないなら、道を空けろ。俺はエトワールの元に行く」

「……何で?」




と、ラヴァインは俺に聞いた。捨てられた子供のようなかおをして俺を見ている。いつだったか、そんなかおをされた日があった。だから、一瞬だけ、俺は目を見開いた。お前がそんなかおをするから。


 何で?


と、再び呟いて、ラヴァインは握っていたナイフをフルフルと震えさせていた。


 何でか。いや、俺が聞きたいぐらいなのに。此奴は何で……




「俺は、エトワールも手に入れたいし。兄さんも手に入れたいんだけど。屈服させて、跪かせたいんだけど」

「気持ちの悪い、カミングアウトをどーも。だが、俺は、お前のものにもならねえし、屈服も跪くこともしねえよ。するのは、テメェだ、ラヴァイン」




 俺はそう叫んで、ラヴァインに向かってナイフを投げた。ラヴァインは攻撃するとは思わなかったのか、反応が遅れ、彼の白い頬に赤い線が出来る。




「……ッ」

「テメェは、俺に勝ったつもりでいただろうが、俺が負けだと認めるまで、俺は負けてねえし、そもそも、俺は負けねぇよ。テメェみたいな奴に」

「上だからって偉そうに。そういう態度が気にくわない」




 まだ、勝てると思っているのか、ラヴァインの顔にはすこしだけ余裕が残っているように思えた。どうして、こんなに急激に強くなったのか、聞きたいところだが大凡予想はついているのだ。




「ラヴァイン、混沌と何か契約でもしたのか?」

「はい?」

「お前から違う人間の魔力が漂ってる。臭えし、気持ちが悪い。お前の感情を増幅させてるように思えるんだよ。それ……お前、自分の身を滅ぼしてまで俺に勝ちたいのか?」

「だから、何言って……」

「感情にまかせて俺にぶつかるな。死にたくないなら、体内に受け入れたもん、拒絶しろ」




 俺がそう言うと、ラヴァインの笑顔が消えてしまった。

 わかりきっていたことだが、完全に余裕のよの字もなくなったラヴァインを見て、俺は哀れに思った。何がそこまで彼を突き動かしたかは置いておいて、実の弟を唆して、こんな風にした混沌が許せないと思った。その混沌は、俺の好きな奴に悲しい顔をさせて苦しめもした。

 弟だからとか、そういう慈悲もあるが、このまま弟が異形の者に変わってしまったらと思うと恐ろしい。


 一応、、俺は、此奴の兄だから。




「何で、どうして分かったの?」

「そりゃあ、俺が気づかないわけねえだろうが。俺に対して、いつもより挑戦的で、この俺がお前に押されてんだぜ?不思議だって思うしかねえだろ、こんなもん」

「理由になってない。というか、傲慢すぎ……」




 ラヴァインは、信じられないというように俺を見る。

 いや、信じられないのはお前の方だよ。と俺は言ってやりたかった。その代りに、ため息をつく。

 ラヴァインは、元からこんな性格だ。俺に構って欲しいのか変に目立とうとする癖があった。そして、それがいつしか怒りに変わり、憎悪に変わり、狂った愛を俺に向けるようになった。それは、一人の人間としてか、それとも弟としての感情か、劣等感か。混沌につけ込まれた此奴に、元の感情を問うたところで分からないだろう。もう、自分が分からないほどにぐちゃぐちゃになっているんだろう。

 混沌とは、そうやって人間の醜い感情を引き出して、その人間を壊す理の外にいる存在だから。




(ああ、ほんとに狂っちまったんだな。ラヴァインは)




 此奴に可愛いところ何て一切無かったけれど、それでも俺の後ろをついて回ってきた此奴のことはそれなりに好きだった。弟として可愛がっていたつもりだ。それでも、俺は闇魔法の魔道士で、そういう風に周りから見られて、勿論それに乗っかって、悪人だけを殺してきた。だが、それは言い訳に過ぎないんだ、所詮は。

 俺は人殺しで、それを弟が真似した。俺は、弟にとって見本になれない兄だった。




「俺は、いたって正常だ」

「ハッ、狂ってる奴は、皆そうやって言うんだよ。んで、お前は、どうやって混沌に唆されたんだよ。お前の感情は?何がそこまでお前を突き動かしたんだ?」

「……何、を。いや、俺は、ちがくて……俺は、俺は!」




 ぶわりと広がった嫌な気配に、俺は眉をひそめた。

 以前、エトワールと共にあのクソ強欲皇太子を助けにいったときに感じた気配と一緒だ。完全に混沌がラヴァインの身体を乗っ取ったわけじゃないが、それにちかい。言うなれば、あの肉塊や、狂った神父のような物。

 俺の弟は、本当に異形のものになってしまうのではないかと、冷や汗が流れる。


 そんなわけない、やめてくれ。


 心の何処かでそう叫んでいる自分がいた。

 願ってもきっと、俺の願いなんて届かないんだろうな。俺の夢も、きっと……




「兄さん、助けて」

「今更、命乞いかよ。愚弟」




 ラヴァインの頬を伝って流れた涙は、俺に助けを乞うものだった。





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