956 卑怯な不意打ち
「アルベドどうかした?」
彼の視線が違う方向へと向く。
鋭い眼光が誰かを射抜いた。いきなり変わった空気に瞬きをすれば、次の瞬間私たちの前に何かしらの魔法が飛んできた。それを、アルベドが素早く短剣で裁いた。
パリン! とガラスの割れるような音が響き、砕け散った魔法の破片が宙を舞う。
本当に一体何が起こったのか理解できずにあたふたしていれば、アルベドがチッと大きく舌打ちを鳴らした。
「いつからテメェは不意打ちしてくるようなクソ野郎になったんだよ。卑怯だぞ。騎士としてどうなんだ?」
「……」
「アルベド、誰に向かって話して……」
雑踏の中から出てきたのはグランツだった。
久しぶりに見た彼の姿は何というか禍々しく、私たちと接していた時の柔らかさのようなものは何もなく危ういという言葉が出てくるような雰囲気になっていた。その瞳には光が宿っておらず、ふらふらとどこか幽霊のようにも見える。
生気の感じられない顔を見ていると、ヒュッと喉が鳴るのがわかった。
(……どういうこと?今の攻撃はグランツが?)
アルベドの言うように、今のは完全に不意打ちだった。あれに当たっていたら最悪死んでいた可能性がある。
グランツは私たちを殺すつもりで魔法を打ったというのだろうか。
(待って、彼って魔法が使えたの?)
腕を見れば、そこには腕輪のようなあまり趣味がいいとは言えない黒い何かが巻き付いていた。そこからほんのかすかに魔力を感じる。ということは、もしかするとあれを介して魔法を使ったのかもしれない。グランツが使える魔法といえば魔法を切ることができる魔法くらいで。
あの魔道具――は、エトワール・ヴィアラッテアが彼にプレゼントしたものなのだろうか。
グランツは剣だけが取り柄だったが、そこに魔法が加わってしまえば向かうところ敵なしだ。とはいえ、彼の繰り出した魔法には魔法を貫通するような卑怯なものはついていない。だからこそ、アルベドは間一髪で防ぐことができたのだろう。もし、彼の魔法も魔法を貫通するものだったら……それこそ私たちにはどうしようもない。不意をつかれたその瞬間に死んでいたに違いない。
卑怯ということもできるだろう。でも、それは計算された行為。私たちに気づかれたら勝ち目がないと彼もまたわかっていたと。
(……ははは……ほんと、洗脳され切っているってわけね)
私たちのことを敵とみなし攻撃してきた時点でわかっていたことじゃないか。
彼の瞳に光は宿っていない。私たちの声なんてきっと届かないのだろう。




