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7月7日の憂鬱   作者: 塩ウサギ
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第十九話 七夕祭り

人物紹介でチラッと説明したハルちゃんの「眼鏡を取ったらいきなり美少女」という設定がここで役立ちます。だから何だと言われても困りますが。あと今回はかなり文字数多めです。だから何だと言われても(以下略)

7月7日。私とデネブは七夕祭りの行われる広場の最寄り駅にいた。この日は日曜日だったため、普段は閑静なこの駅にもたくさんの人で溢れかえっていた。クーラーが比較的効いているはずの屋内にも関わらず、窓の外から照りつける真夏の昼間の太陽のせいでTシャツに短パンという格好をしていても暑い。どうやらそれは同じような服装をしたデネブも同じらしく、今日ばかりは好物のカボチャコロッケではなくコンビニで買ったらしいソーダアイスを頬張っていた。

「……あんた、今日がここにいる最後の日なのにそんな格好でいいの?」

「お前こそ。せっかく鈴村サンとデートなのに浴衣ちゃうんやな」

「……別にデートじゃないし」

咄嗟に顔を背けたが、私は浮かれていた。今日の服だって、七夕祭りに行くことが決まってから今日の朝まで考えに考えた自分の中での一番カッコいい組み合わせだ。ただ浴衣を着ていくのでは由梨ちゃんに友達としてしか見られない。いや、何を着ていこうと友達としてしか見られないのだけれど。

「言っとくけど、俺は日没前にはいなくなるからな」

デネブは頭をポリポリ掻きながら言った。ワックスでもつけたのだろうか、普段の寝癖頭が少し落ち着いている。彼も彼なりに楽しみにはしていたのだろう。

「分かってる。それと同時に私もエゴの魔法とおさらば、でしょ?」

「せや。寂しいんか?」

「別に」

ピコン、と携帯の通知音が鳴った。もうそろそろ着くよ、という文字。由梨ちゃんからだ。ハルちゃんと犬飼も同じ電車に乗っているのだろう。その様子を想像して、胸が痛くなった。

「あ、いたいた!真帆ちゃん!それに笠木君も!」

改札を通ってこちらに駆け寄ってきた由梨ちゃんは、いつにも増して可憐だった。普段はポニーテールの茶色の巻き毛は、一本の長い三つ編みにされている。更にその三つ編みには紺や白の花飾りが付いていて、彼女が着ている紺地に向日葵柄の浴衣によく似合っていた。

「可愛い……」

「えへへ、そう?ありがとう!」

浴衣よりも何よりも、そう言ってはにかむ由梨ちゃんが可愛かった。

ふとその横を見ると、ハルちゃんが緊張した面持ちでデネブを見ていた。お団子にされた髪の毛には水色の可愛らしいシュシュが付いている。普段のハルちゃんなら絶対に選ばなさそうな色合いなので、もしかしたら由梨ちゃんに借りたのかもしれない。彼女も彼女で浮かれているのだろう。眼鏡ではなくコンタクトにしていて、一瞬誰か分からなかったほどの美少女に変貌していた。

「……笠木君、これ変じゃない?」

「え?あ、いや、似合っとるで」

心無しかデネブの顔が紅潮している。こいつ織姫に片想いしてなかったっけ。そう思ったが、今の彼女に好意を持たれて快く思わない人はいないだろう。それほどに綺麗だった。

「全員いるよね?じゃあ、行こっか」

すっかり存在を忘れていた犬飼の一声で、私達5人はお祭り会場へ向かった。


それから日没前までは、思っていたよりずっとあっという間だった。わたあめを買って5人で分けあい、「手ぇベトベトやねんけど」とデネブが文句を言い、射的の前を通り、由梨ちゃんが欲しがっていた可愛いぬいぐるみを犬飼が見事に撃ち抜き、かき氷を買い、由梨ちゃんが一気に食べたせいで頭痛を起こし、デネブがチョコバナナを落とし、ハルちゃんが勇気を振り絞って彼に自分のチョコバナナをあげ……いつの間にか、夕暮れが近付いていた。

「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。じゃあな」

人混みの中、デネブはまるで明日もまた会うかのようにそう言って去っていった。

「……うん。じゃあね」

私は自分の横にいるハルちゃんを見た。少し名残惜しそうな、でも幸せそうな顔でデネブに手を振っていた。

デネブはカササギの姿で天界へ帰ると言った。人間の姿で織姫に会うつもりは無い、と。しかし、それならハルちゃんの想いはどうなるのだろうか。

『恋する人間の表情は他の奴らとは明らかに違う。それくらいお前も分かるやろ?』

いつかのデネブの言葉が頭の中にこだまする。デネブの片想いも、勿論彼の過去もハルちゃんは知らないだろう。でも、彼女はデネブの幸せを願っているはずだ。あの表情が何よりの証拠だ。

それならせめて、ハルちゃんの為に私は彼の幸せを願おう。間に合うかどうかは分からないけど。

夕焼け空に一羽のカササギが飛んだ。その瞬間、私は突然誰かに腕を引っ張られ、木陰に連れ去られた。

「騒ぐなよ。静かにしろ」

そう私の耳元で囁いたのは、大柄な男だった。隣を見ると、似たような体格の男に由梨ちゃんも同じ状態にされていた。彼女は酷く怯えていて、今にも泣き出しそうだった。恐らくそれは私も同じだっただろう。騒ぐなよ、と言われてもそもそも恐怖で声が出せなかった。

誰か、せめて由梨ちゃんだけでも助けて。強く願ったが、魔法はもう使えなくなっていた。

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