第十七話 ただいま
ものっっっすごく久しぶりの投稿です。この展開が全く思い浮かばず、かなりお待たせしてしまいました。すみません。
私が由梨ちゃんに見とれていると、彼女は突然私の元へ倒れこんだ。
「由梨ちゃん!?」
「安心せえ。大丈夫やから」
いきなりのことで慌てていると、その言葉と共に頭上から黒い羽根が何枚か落ちてきた。
「デネブ……」
「長月。無事やったんやな」
見上げると、彼は普段の寝癖頭をさらに乱れさせて息を切らしていた。カササギの姿になってここまで来たのだろう、まだ両腕が黒い羽に覆われている。
「……ごめん」
「俺こそごめんな。……友達裏切るなんて、簡単に出来ることちゃうよな」
私の膝で眠る由梨ちゃんの寝息がやけによく聞こえた。幸せそうな寝顔だ。
「ねぇ、由梨ちゃん本当に大丈夫なの?」
「寝てるだけや。あと、校内の時間を止めておいた。ただしもう少ししか続かん、今のうちに鈴村サンを元の場所に戻すんや」
そう言ってデネブは由梨ちゃんをお姫様抱っこする体勢になったので、私は咄嗟に彼女を庇う姿勢になった。
「……いや、気持ちは分かるけどな?じゃあお前運べるんか?」
「運べる!そんなに非力じゃないから!」
ムキになって言ったものの誰かをお姫様抱っこなんてしたことが無かったので勝手が分からず、全く持ち上がらなかった。「ほらな」とでも言いたそうにこちらを見ているデネブを睨み付け、お姫様抱っこからおんぶにシフトチェンジした。これなら三階の一年生教室まで運べそうだ。
「本当に止まってるんだよね?」
「あともう少しの間だけ、な。鈴村サンも屋上での出来事は全部夢やと思うやろ」
その言葉を聞いて、私は複雑な気持ちになった。彼女を悲しませてしまったことが夢になるのは良いが、私が彼女に「親友」と言われたあの数分の出来事まで夢として扱われてしまうのは少し悔しかったのだ。
屋上から由梨ちゃんの教室は案外近く、すぐに彼女を席に戻せた。先程と変わらず、幸せそうにすやすやと眠っている。
「……由梨ちゃん、ありがとう。大好き」
私はそう呟いて教室を去り、自分の教室へ戻った。黒板には「自習」と書いてあり、見慣れたクラスメイトが様々な格好をしたまま一枚の写真のように止まっていた。私の席にもハルちゃんの席にも菊の花は置かれていない。ふとハルちゃんの席に目をやると、彼女はひどくうなだれたまま止まっていた。後で時間が動き出したら謝らなくては。
「もうそろそろや。大丈夫か?」
隣の席のデネブが私に言った。
──例えあなたがどんな人になろうとも、どんなことをしようとも、どんなことを言われようとも私は一緒にいる。
由梨ちゃんは私にそう言ってくれた。例え世界中が洗脳されて私の敵になろうと、彼女が私の側にいてくれるなら私はそれでいい。
「大丈夫。もう死なない」
覚悟を決めた。時間が、動いた。
それから数日、呪いが解けたようにほとんどの問題が解決に向かった。私へのいじめは無くなりはしなかったものの、私やハルちゃんの席に菊の花が置かれたり、突然の暴力に怯える日々を過ごすことは無くなった。デネブ曰く、「洗脳されていた奴らが正気に戻ったから」らしい。由梨ちゃんやハルちゃんと一緒にお弁当を食べる時間も取り戻した。全てが元通り、とまではいかなかったが、由梨ちゃんの笑顔が見られるならそれで充分だ。
帰って来た平穏な日常。もうこのままがずっと続けば良い。そんなことを考えていた私にとんでもない爆弾が投下されたのは、近所で行われる七夕祭りの開催の3日前、7月4日のことだった。




