第十二話 狂い
今回は春川愛華ことハルちゃん視点です。ヒロインのはずの由梨ちゃんが影薄くなってるのはご愛嬌です。最終的には全員平等に目立つ予定なので許してください。
明らかにおかしい。
私、春川愛華はお弁当のアジフライを咀嚼しながら今朝からのクラスの様子について考えていた。いや、正確には昨日の夜からのクラスの様子について。
昨夜、「新・1-6」というLINEグループに私は招待された。前までのグループに何かあったのかと思ってLINEを見てみたが、これと言って変わりはなかった。私は若干の疑問を抱きつつもそのグループに入り、その日はそのまま携帯を開くことなく終わった。しかし、朝起きるとそのグループから途方もない量の通知が来ていた。
『え、このグループ何?笑』
『みんなー!長月さんっているじゃん』
『おう』
『ああ、あの地味な子?』
『それがどうしたの?』
『あいつレズらしいよ笑笑』
『マジかよ…』
『え、嘘』
『いやマジ』
『ああ、だからこのグループに入れてないのね』
『そうそう』
『ねえみんな、明日からあいつハブろう?』
『いいね笑笑』
『賛成!!』
──もうすぐ7月だというのに身体中が震えた。そのやり取りは昨日のうちに完結していて、もはや私にはどうしようも出来なかった。
真帆を守らないと。朝食もろくにとらず慌てて家を出たが、もう遅かった。教室に入ると、憔悴しきった真帆が机の上の菊を眺めていた。
…私があの時花瓶を持っていったのは、せめてもの罪滅ぼしだ。止められる立場にあったのに、自分の中でそれらしい理由を付けて正当化して「どうしようも出来ない」ものにしてしまったから。
「…ハルちゃん?」
由梨の声で私は我に返った。私の目の前にいる彼女は、いつの間にお弁当を食べ終わったのかデザートのリンゴを咀嚼している。
「ねえ、どうしたのハルちゃん。さっきからずっとボーッとしてるけど…」
「ううん、何でもないよ」
私は慌ててもう味もしなくなったおかずを飲み込んだ。
「本当に?なんか今日みんなおかしいよ。真帆ちゃんはどっか行っちゃうし、それに何で今日はこっちの教室で食べてるの?」
…普段は鈍感なくせに、昔から由梨はこういう時だけ鋭い。6組に居場所がなくなったので、私はしばらくの間7組に行ってお昼を食べようと提案した。しかし何故か真帆はそれを拒否し、お弁当を持ってどこかへ行ってしまったのだ。
「…おかしいよね」
私だって分からない。真帆は本当にレズビアンなのか。だとしてもなぜ真帆がこんな目に遭わなければならないのか。誰かを愛することの何が悪いのか。なぜ真帆は自分まで避けるのか。
何があったのか分からない。そもそも真帆が誰かを愛していたとして─それが異性でも同性でも─私には何の手助けも出来ないのだ。
私は恋をしたことが無い。16年生きていて、胸がときめいたことなんて一度もないのだ。
「分かんないよ」
少なくとも私だけじゃ分からない。…でも。
『春川!お前は大丈夫なんか!?』
笠木君はあの時、大慌てで私を追いかけてそう言った。
『落ち着いて聞いてほしい。…クラスの奴ら、ほとんどが天界に洗脳されとるんや。長月が狙われとるんはそのせいなんや!』
彼なら、真帆を助けられる何かを知っている。その確信があった。
「…由梨、今日は先に帰ってて」




