6話 夜会が終わり
夜会の後、コル、マリア、レイムの3人は揃ってアレクセスの部屋に集まった。
アレクセスは筆頭執事の【ドレイク】も同席させ、昇級祭での課題などを振り返った。
大きな指摘はなかったが、マリアが持つ合成恩恵【熱狂的な剣】の習熟度にだけ不安を感じたようだ。
【剣術】【両断】【会心】の宝玉恩恵を合成で作った熱狂的な剣は、マリアが持つ固有恩恵【狂剣士】と合わせる前提で作られた。
それ故に、魔力の消費も激しく制御が難しい恩恵と言える。
同時に2つの恩恵を発動させるには高度な技術と精神力が必要で、その能力を全て引き出すには日々の鍛錬が不可欠なのだ。
恩恵と一口で言っても、それを得たから存分に力を発揮できるものではなく、そもそも適正が合わないと発動すらしない。
日々の鍛錬は必要だし、それによって恩恵の習熟度が上がっていく。
だからと言ってマリアを責める事はできない。
剣技適正が98でほぼ上限値のマリアだからこそ扱える恩恵だし、怠ける事なく毎日の訓練を欠いた事もないのだから。
これだけは一朝一夕でどうにかなるものではない。
学園に入る前はコルとレイムが練習相手となり存分にマリアも力を揮えたが、学園内ではマリアとの接触は控えなければならなかった。
そんな事情も含め、コルは自分の考えをアレクセスに提案する事にした。
これ以上身分を偽装するメリットがないと判断したからだ。
「少しよろしいでしょうか父上」
「聞こう」
コルは軽く目礼をして続ける。
「夜会の最中に学園生徒会長でウェルネス家の次女ユーノ様と話す機会がありました」
コルはその時に感じた事をアレクセスへ率直に述べ、少なくとも次の昇級祭では自分とレイムもマリアの傍で戦う必要があると提案した。
マリアとの関係を明かせば、ユーノ・ウェルネスから要らぬ詮索をされる手間もなくなる。
そちらに気をとられる方がある意味厄介だろう。
これまでコルがナード家とは無関係と偽っていたのには、コル自身の合成を隠す意図が原因の大半を占めている。
しかしそうも言っていられない状況になりつつあるし、何よりコルはナード家の重圧をマリアだけに背負わせている事に罪悪感を抱いていた。
昇級祭を3連覇しているとは言え、負けられないプレッシャーは生半可な精神力では乗り越えられなかっただろう。
そのように胸中を吐露すると、マリアは嬉しそうにコルを見つめ、レイムは同調するように何度も頷いて見せた。
アレクセスはしばし目を瞑り考える。
安楽椅子に腰かけるその巨体が前後に揺れるたび、小気味よく軋む音だけが室内に響く。
しばらく沈黙が続くと、それを破ったのは筆頭執事のドレイクだった。
「畏れながら旦那様。わたくしめの意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」
恭しく頭を垂れるドレイクは委縮する素振りもなく、アレクセスの許可を待つ。
「聞かせてくれドレイク」
「はっ、ありがとうございます」
そう言うとドレイクは頭を上げて一歩前に進み出た。
「わたくしもコル様のご提案に賛成でございます。今回ご活躍されたコル様はどの道注目を集めると存じ上げますし、いっそのことナード家の一員であると明かしたほうがマリア様をお守りするうえでは最適かと。それにコル様の能力はそうそう見破れるものではないと愚考いたします」
言い終えると再度頭を垂れて元いた位置に戻る。
ドレイクの老獪で穏やかな口調は、聞く者の耳にすんなりと入ってくる。
アレクセスの信頼が厚いからこそ、ドレイクの言葉は説得力を持つ。それにコルはこれが歳の功か、と改めてドレイクに尊敬の念を抱いた。
「コルの提案は最もだ。それにドレイクの意見もその通りだと思う」
アレクセスはおもむろに顎をさすりながら考えている。
目を閉じながらサイドテーブルに置いたグラスを手に取り、琥珀色の蒸留酒を一気に流し込む。
続いて目を見開き3人の子を順に見つめた。
「よし分かった。学園には明日にでも届出を持って行かせるとして、学園内での指揮はコルに任せようと思うが異論ないか?」
もう一度順に見つめて異論がない事を確認する。
「よかろう。ナード家を担う者としてお前達3人で学園の覇権を握って来い。もちろん手に余る事態が起きればいつでも相談に来るがいい」
威厳を込めて言い放ったアレクセスではあるが、その表情は嬉しさと寂しさが混ざり合った父親のものであった。
子離れする時期を見誤る事は当主として失格であるし、とは言え子の成長は親離れを自覚させる。
アレクセスは遠い昔に自分もこのように自立したのだと、懐かしみながら腰を上げて寝室へと消えていった。
そして翌日、コルとレイムの家名がナードに変更されると発表され、冒険者学園に留まらず王都にまで衝撃がはしる事となった。
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