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151.パンデフラデ領主ソラの災難

花の都と名高い大陸の都市、パンデフラデ。


そのパンデフラデの領主、ソラが世話人に喚いていた。

「おい! あのクソ馬鹿息子はどこ行った! あの馬鹿、ガラクタ置きっぱなしてどこ行きやがった! 見つけてさっさと片付けさせろ! 昼には教皇の息子が来るって言うのに散らかしやがって!!」


ソラの執務室は貴賓をもてなす応接室にもなる。

が、彼の息子のイズマが昨晩この部屋に木材その他を持ちこみ、故意に天井にキズをつけつつ、ソファーにそれらを置きっぱなしにしてどこかに姿をくらましたのである。

一言で言うとものすごく迷惑である。


経緯の詳細を言うならば、イズマはこの執務室に木材を持ちこんだまま酒を飲み、この部屋で眠りこけた。

そして、ソラが朝にバタバタしているうち、ハッと気がついた時には、馬鹿息子イズマはいつのまにかどこかに行ってしまいやがったのである。


「クソ、この忙しい日にアイツ本当に碌でもねぇな!」


子ども三人の中で、ソラはイズマを一番可愛がっている、と周囲は実は察っしているのにも関わらず、ソラは息子イズマに関しては相当口が悪い。

単に愛情の裏返しというやつか、または馬鹿な子ほど可愛いという結果でなのか。


ほぼ八つ当たりでソラに怒鳴られた世話人が、イズマを探しにバタバタと廊下を駆けていく。

その音を聞きながら、ソラは

「チッ」

と舌を打った。


「ソラ様、お止めください。お客様にもうっかりそんな態度を取られては外交に支障が出ますから」

ソラの傍に残る執務補佐の二人のうち、一人がソラの口の悪さをたしなめる。


フンッ。

ソラはそれをまた態度悪く鼻息で応えて言う。

「そう言ってもお前な。っていうか、なぜこんな日に教皇の息子なんぞがウチに来るんだよ!」


それは、教皇の息子の訪問は半年前からの決定事項であるからだ。むしろこんな日に、イズマが執務室を散らかし・・・。

いやそんな事は全く大した問題ではない。

問題なのは、今日、よりによって、『風車の塔』が落雷によって崩れ落ちてしまった事だ。


昨晩の事。イズマが木材を持って執務室に現れ、ソラとイズマは少し二人で酒を飲んだ。ほんの少しだけ、イズマに、気にかかっていた事を話した。それはいい。

ただ、そんな深夜に、雷がどこか近くに激しく落ちた。


翌朝にすぐ報告が来て判明した。雷は、ソラの兄、パンデフラデ=トータロス=プラムが、40年近くも隔離されていた塔に落ちていた。

そして、相当運の無い事に、雷はその古い塔を破壊していた。塔は黒く焼け、壊れ落ちてしまっているという。そして、中にいるはずの兄はそこに見つからなかったのだ。


雨でぬかるんでいる地面に、馬車のわだちが深く残っていた。そのわだちは教会へと続いているという。

つまり、兄はどうやら教会に連れて行かれたようなのだ。


なぜだ。なぜ、わざわざ教会に連れて行った? 俺に報告に来るのがスジだろうが。


チッ。

ソラは再び舌を打った。


領主の敷地内にある塔の崩壊。

本来気が付くのは、領主の敷地内の者のはずだ。なのに、領主の敷地内の者が動いた時にはもう遅かった。

なぜだ。


誰が。


そして、なぜ教会に連れて行った。


兄を。


自分が物心つく前には、もう病を発症し、塔に隔離された兄。

隔離され続けた、兄。


・・・。



「どうぞ落ちつかれますよう」

もう一人の執務補佐役がソラに助言をした。


フン

口に出せば確実に咎められるので、ソラは鼻息で返答するだけに留め、心で毒を吐く。


俺は、こんな時に落ちつけるような高尚な人間じゃないんだよ、馬鹿野郎が。



「ソラ様」

「落ちつかれますよう」

咎める声に、ソラは息をはく。


あぁ、知っている。分かっている。


誰よりも愚かなのは自分自身だってことを。


人を馬鹿と罵る時ほど、自分が無能で手が回らない時なんだって知ってるさ!


あぁ、チキショウ、あの馬鹿息子、本当に一体どこ行きやがった。


早く来てこの部屋片付けやがれ!


***


花の都パンデフラデには図書館が複数あって、領主の館には立派な図書室が備わっている。

そして今、パンデフラデ領主の息子の一人、イズマはその図書室の書庫にいた。


というのは、調べ物をしたかったからである。


昨晩、領主であり父であるソラの執務室を訪れ、そこで眠りこけてしまったイズマは、しかし早朝のバタバタした気配で目を覚ました。

父は、深刻そうにその報告を聞いていた。

そして、その報告は、驚きと緊張の為なのか、やや上ずった大きな声で、なされていた。だからイズマもその内容を知った。


叔父が幽閉されている塔が、落雷によって壊れたという事。

そして、叔父は、どうやら教会に連れていかれたようだという事。


イズマは興味を持った。

叔父を閉じ込めていた塔が壊れた事に。

叔父を閉じ込めていたものが崩れた事に。


だから、父の執務室から抜け出して、すぐに落雷で崩れたという塔の様子を見に行った。

向かう途中で、妹のラトに見つかり、ラトも連れていく事になったけれど。


そして、イズマとラトは、本当に塔が崩れ落ちているのを目にした。

黒く焼けて、ありえないと思うほどに崩壊していた。


イズマはラトが怯えて止めるのも意に介さずに、塔の『内部』だった部分に足を踏み入れた。


そして、気になって拾い上げたのだ。

最近彫ったと思われる、木の、少女の姿の像。

台座の裏に、文字―大陸共通言語ではない、けれどどこかで見たはずの文字が書かれていた。


気になった。

それが叔父の持ち物であろうと思ったから。


気になったから、調べてみる事にしたのだ。


「イズマ様。お待たせいたしました。この文字は、イシュデンというかなり辺境の町で使われているものです」

白と灰色のまだらの長いひげをのばした博士が、イズマに、例の少女の像を返しながら教えた。


「イシュデン・・・? へぇ~?」

返してもらった像の台座の文字を見詰めて、イズマは呟く。


ちなみに、自分で調べようと思って図書館に来たのだが、書庫に博士たちがいるから、博士たちに聞いた方が早いやと思って、博士にこの像を渡して『どこの文字か』を調べてもらったイズマである。


博士は、イズマがイシュデンという都市名にピンと来ていないのを察して説明を加えようとした。

「イシュデンというのは、霧の都とも呼ばれている都で」

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