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145.試す事には価値がある

アルゲドが怒って言った。

「キロン! セレスティンを巻き込むな!」

クリスティンはアルゲドをきょとんと見た。


キロンは、怒られたのに押し黙っていた。クリスティンは、それも不思議に思った。


アルゲドは怒ってさらに言った。

「常識ってものを考えろよ! いつまで駄々こねてるんだ、いい加減にしろ!」

キロンが呻くように反論した。

「・・・俺は本当の事を言ってる。信じないくせに」


アルゲドは信じられないという顔をしながらまじまじとキロンを見詰める。

キロンは声を抑えながら言った。

「常識と、本当の事って、一緒じゃないんだな。そもそもアルゲドの言う常識って何なんだ?」


アルゲドは非難の眼差しでキロンを見た。

「キロン、冷静に考えろ。モリジュおばあちゃんが、町にいなくて、石見の鏡でお年寄りの死体が見つかった。町の誰も、他に行方不明の人なんていない。死体がモリジュおばあちゃんじゃないっていうなら、じゃあ、誰が亡くなったんだよ」


二人の傍で話を聞いていたクリスティンも、アルゲドの話はきちんとしているように思った。

クリスティンもキロンを見上げた。

キロンは苦々しそうな顔をした。


「・・・一緒に見たじゃないか! 死体の後で、モリジュおばあちゃんの姿を見たのに! 誰が亡くなったかなんて知らない、でも、モリジュお婆ちゃんじゃない。一緒に見たのに・・・なんでアルゲドが、『何も知らない人が勝手に決めたような話』をしてる」


アルゲドは辛そうな顔をして、それでも言った。

「だから、モリジュお婆ちゃんを見た順番とか・・・本当にそうかよ? 俺はそんな記憶ないぞ? 信じられないよ、他にいなくなった人なんて居ないんだぞ。・・・チクショー、なんでだよ」

アルゲドは頭を抱えた。

「キロンが嘘つくようなヤツじゃないって分かる、真面目に言い張ってんだってのも思うけどさ、なんだよ、これ、だって明らかにキロンの言ってる事はおかしいぞ」


傍にいたクリスティンは、二人ともが、本当の事を言っているように思えた。誰も嘘なんかついていない。

でも、言っている事は違うんだ。


どうしてだろう。そして・・・。

「ねぇ、キロン。どうして、もう一度、石見の鏡にいったりしないの? モリジュお婆ちゃんを探さないの? 僕、ダロンを探したいんだ。一緒に探そうよ。僕、石見の塔の老婆様に会いたいんだ」


「お前はバカか。セレスティン」

アルゲドが顔をしかめた。

「石見の塔の老婆様には、一生に一度しか会えない。セレスティンはもう運命の日を迎えて、会った事あるだろ」


「でも、会いたいんだ」

「老婆様には会えないけど、探しに行くのは、大賛成だ」

今度はキロンがクリスティンに言った。少しなだめるような優しい口調で。

「それに・・・」

キロンは目を伏せた。

「石見の鏡の死体を、もう一度探そう・・・。死体さえ見つけられれば・・・それが誰だか分かる・・・」


「バカかお前は」

今度はキロンに向かって、アルゲドがビシっと言う。

「石見の鏡なんて、どうやって探すんだよ。俺たち誰も泳げないし、泳げたって、泳いで良い場所じゃない」


キロンは少し投げやりに諦めたような顔をした。

「常識だからって、正しいとは限らないんだ。誰かから非常識だと言われても、それが正しい時があると思う」


キロンのその言葉は、クリスティンに、クリスティンの父・ロバートが自分に聞かせてくれた、運命の話を思い出させた。

パパの秘密の運命は、約束を破る事を、考えさせてみる事、だったのだ。


キロンはクリスティンに向き直って言った。

「セレスティンの言うとおり、石見の鏡あたりを探しに行こう」


アルゲドがため息をついた。そうしてから、

「俺も行く」

付け加えた。

「モリジュお婆ちゃんは亡くなってる。でも、お前が嘘を言い張るヤツじゃないのは知ってる。だから俺もつきあってやるよ」


ヤレヤレとアルゲドはため息をついて、キロンはなんだか微妙な顔をした。


・・・石見の塔の老婆様に、会えますように。そう、クリスティンは、心で祈った。昨晩、『祭壇』を通じて助言をくれた人の言葉を思い出しながら。


***


昨晩の事だ。クリスティンは祭壇を使って必死にダロンを探す方法を調べていた。

ずっと呼びかけていた。


ダロンを探すにはどうしたらいいんだろう。

自分が、聖域に入るにはどうしたらいいんだろう?


けれど、誰からも答えは無かった。連絡も無かった。


明け方近くに、声は入った。


<こちら SU7787 ガデギュッフ。イシュデンのクリスティンくんへ>


それは、昨日も、『個人情報だだ漏れだから注意しろ』なんて連絡を入れてきた人だった。

その人は、本当は放っておきたいんだけどクリスティンがあんまりにも一生懸命で気になって口を出しに来た、と言った。

加えて、こう言った。

まったく、司祭ってヤツらは、うだうだした話し合いばっかで、肝心の本人のフォローを怠りやがる。


そして、少し情報のやりとりをした後、ガデギュッフという人は言った。

<クリスティンくん、キミさ、その祭壇をくれた、キミの町の『石見の塔の老婆様』ってのに、助けてもらえば良いんじゃねーの?>


老婆様には一度しか会えないと、クリスティンは答えた。すると、ガデギュッフという人は、鼻でその答えを笑い飛ばした。


<クリスティンくん。初めから無理だと決めてるのと、もしかして行けるかもしれないと動くのとでは、状況は全然違うんだけどね。てか、誰が決めたルール、それ? 誰が一生に一度しか会えないって?>

「うーん・・・」


<確かめてみろよ。何もしないでじっとしているより、ずっと良い>

「・・・うん!」


あはははははは、と、会話相手のガデギュッフという人は笑った。

<クリスティンくん、キミ、素直だね>

「・・・ありがとう、ガデギュッフ、さん」

その御礼には、動くアドバイスをくれた事も含まれている。


ガデギュッフは言った。

<キミみたいなのが、本当に、神の御子ってやつなのかもしれないなぁ。なんか、司祭どもが良いようにつけた呼び名っぽくて好きじゃねーけどさ>


<もし、いつかハルンザクトに来る事があったら、連絡くれよ。たいしたもてなしはできねーと思うけど、俺が美味いと思うもの、たくさん食わしてやるよ>


「えっと・・・うん」


ガデギュッフという人は、皇帝のいる町、ハルンザクトに住んでいるらしい。大陸のやや東よりの中央にある大きな町のはずだ。


<知ってるか、クリスティンくん。世の中にはたくさん『絶対にできない』と思われてる事があってだな。でも、それは昔の人ができなかっただけなんだよな。俺たちなら、できることがめちゃくちゃいっぱいあったりすると思うね>

「そうなのかな?」


ガデギュッフという人は、また、鼻で笑った。

<試す前からできないと信じてるなんて、俺には信じられないね>

「・・・うん」


アハハハハ、と、また笑い声がした。

<ダロンを、探すんだろ。本名、ツォルセティーナ、女の子、な>

「うん」


<司祭どもは、初めから、助けるなんて無理だと思ってる。でも、騙されんな>

「・・・うん」


<できないと思う事も、できるかもしれないと、全て疑ってみろ。試す事には価値がある。全力で試せ>


石見の塔の老婆に、もう一度会おう。クリスティンは強く思った。


***


そして、今。キロンとアルゲドと共に、向かう。

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