129.荷物失くした。一方では困惑が起こる
「ありがと、大切にするよ。・・・背中、服に差しとこうかな?」
トートセンクは真顔で言った。
「その場合、お前は確実に、その羽根をどこかに落とす」
「なんでそう、キッパリ、はっきり、なワケ?」
いささかムっとしつつ、しかし信頼の証とやらを落として無くしたとなると今度は信頼失墜である。シャレになりそうにない。
じゃあ荷物にいれとこーっと。絶対落とさないし!
セフィリアオンデスはきょろきょろと周辺を見回し・・・。
「あれ? 荷物、どこやっただろ」
自分の荷物が無いことに気がついた。
ん? いつから持ってないんだったっけ?
ところで、セフィリアオンデスの荷物というのは、単なる荷物ではない。ある意味、この世界に生み出されたもう一つのセフィリアオンデスなのだ。
例えばの話。ライオンのような姿の生き物が、別の世界でヒマワリのような姿で現れるとしたら。
ライオンのたてがみは、ヒマワリの花弁に置き換えても良い。ライオンの目など、情報を仕入れる部分は・・・ヒマワリの産毛などに置き換えても良い。ライオンの体は、ヒマワリの茎にしても良い。
かなり大変な変換を行って、ライオンの姿の生き物は別の世界でヒマワリみたいな生き物になって現れる。
だけど、そんな無茶苦茶な変換でも、フォローしきれない部分がどうしても出てくる。
例えば、ライオンは、動き回る。移動する。
けれど、ヒマワリは地面に根をはっているから場所は変えない。
ライオンの行動力は、無理やりヒマワリの何かに変えようとしても、どうやっても収めきれない。
しかしライオンのような生き物は、行動力も持っていてこその生き物なのだ。収めきれないからって、切り離すわけにもいかない。持って行かない、なんてことはできない。
だから、ライオンのような生き物は、ヒマワリと、そのおまけになる。
例えば、葉っぱには、赤い風船をくくりつける。これならまだ、風が吹いた時に、ヒマワリよりも、もっとたくさん動けるかもしれないから。
・・・例えるならこんな風に。セフィリアオンデスはこの世界に現れた。
つまり、正しく言えば、セフィリアオンデスとその他の荷物、という形で、セフィリアオンデスはこの世界に現れたのだ。
ちなみに大胆でチャレンジ精神溢れる性質をより多く持ってセフィリアオンデスとなり、穏やかで安定した性質をより多く持ってその他荷物となったようだが、それはセフィリアオンデスの自覚に無いところである。
さて、そんな半身とも言えるセフィリアオンデスの荷物だが。
セフィリアオンデスは自分の行動を思い返した。真剣だ。
確実に覚えてるのは、トートセンクがスミカに案内してくれる時は・・・持ってた・・・と思う・・・。
持ってた、よね・・・。走り出すとき、大地から黄土色の袋取り出して・・・かついで・・・・途中で落ちないように結んだし。
で、その後、イロイロあって、スミカに行って・・・。
ん? 待てよ。
待て?
「ギャアアアア!!」
セフィリアオンデスが突然頭を抱えて絶叫した。
あまりに突然で、トートセンクがビクリと身を震わせたがそんな事を気にしている場合じゃない。
荷物! 私の荷物! 水の中に、落としちゃったんじゃないー!?
ガーン・・・
何度考えてもその結論になって落ち込んだセフィリアオンデスに、事情を聞きだしてみたトートセンクがアッサリと言った。
「諦めるがいい。スミカの下のあの場所は、お前にも私にも探索不可能だ」
たしかに、そうなのかもだけど!
アッサリ正論すぎて、セフィリアオンデスはそれはそれは恨めしそうにトートセンクを睨んだ。
***
一方。時間は少しさかのぼる。
ケルベディウロス、サリシュ、イングスたちの方は、トートセンクやセフィリアオンデスからの応答をしばらく待っていた。
が、全く音沙汰が無い。
それでも辛抱強く待ち、
「もしかして、通信が切れたのでは?」
と言ったのは、イングスであった。
「えぇ? そうかしら? そうかしら」
呟いて、サリシュが青く光る祭壇に向かって、何かを手で動かすようなしぐさをする。
リーン・・・!!
『サリシュ! やめろ! うるさくてかなわん!!』
怒鳴るようにケルベディウロスが文句を言った。
「え? そうなの? あら、ごめんなさい」
サリシュは小首を傾げた。
「うーん、向こうが切れているかどうかなんて、よく分らないわ」
イングスがケルベディウロスに尋ねた。
「どうしますか。セフィリアオンデスさんの声も無い。こちらと会話できる状況ではないのでしょう。私たちも一旦会話をやめて、また明日の晩に話し合ってはどうでしょう」
『ふむ・・・だが、我輩は、お前の話もまだ聞いてはいない。イシュデン=トータロス=イングスよ。お前も話をせず、明日に持ち越すつもりか?』
「・・・・息子アトロスに、話を聞かせると約束しました。息子が眠っているこの時に・・・そして、残りお二人が聞いていない可能性の高いこの状態で、話をする必要があるのでしょうか」
『ふむ。時間は我輩には大いにある。だが、お前たちの時間は非常に少ない。ならばせめて今少し、我輩の疑問には答えてもらおう。今我輩が知りたい事だ。その程度の誠意は見せろ』
それぐらいは仕方がないかもしれない。
「わかりました」
『では、まず一つ』
ケルベディウロスは切り込んだ。
『お前の息子は、なぜ真なる世界に行くことができるようになった?』
「それは・・・」
「それ、ほとんど、話を求めていない? ケルベ」
サリシュはちょっと呆れたようだ。
だが、わかった、と答えた以上、質問には答えるべきだろう、と、イングスは思った。
「それは」
口を開きかけて、少し困る。イングスにとって、とても、途中から抜き出して答えるなどできない話だったからだ。
言葉にするなら、始めから終わりまで。全てを語らなければ、自分は上手く語れないだろう。
「・・・長い話でも、宜しいか?」
イングスは深呼吸をしてから、こう言った。
『構わん』
ケルベディウロスは大仰に応えた。
『我輩の時間など、お前たちには多すぎて手におえないほどたっぷりとある。好きなように使うがいい』




