104.世界を超えた会話
セフィリアオンデスはあきれる思いがした。違和感さえ覚えた。
全く、アンタたちは、何をやっているんだか。
同じ第二の耳で受信可能な声同士のくせに。同じ世界に住んでいる者のくせに。
アンタたちは、自分たちが敵同士にならなかったら、こんな風に、自分たちが住む世界が狂ったり歪んだりしなかったかもしれない、って、ちょっとでも思ったりしないんだろうか? 皆で過ごす事が出来たのかもしれないって、思ってみたことはないんだろうか?
自分が敵と話しているのが不快なのだろう、トートセンクの左足は、今度はガシュッ、ガシュ、と上下に動く。振り落とすつもり満々らしい。
そんな動きで落とされるかっ!
決意しつつ、セフィリアオンデスは石からの声にも答えた。
「えーと、ケルベディウロス。アンタ、この世界に元々いた存在ってことだね? アンタ、きっと誤解してる。私は、助けを求められて、ここに来た。私が来た時には、もうここにはトートセンク一人しかいなかった。他に誰も居なかった。ケルベディウロス。アンタ、生きてたんだね。他にも生きてるんだね? この世界に元々生きていた存在は、生きてるんだね?」
振り落とそうとしていた足のうごきが、止まって、セフィアオンデスは改めてトートセンクの顔を見上げ、見つめた。
トートセンクは無表情だ。
だが、動きを止めたってことは、言葉が耳に入ったって事だ。
だからさ。
セフィリアオンデスは話すように、トートセンクの目をジィと見る。
アンタの力になりたくて・・・つまりは鉱石の王が必死にあんたを思ってるからそうなったんだけど・・・。
だからさ、力になりに、ここに居るんだってば。
アンタが聞きたいくせに上手く言えない事を、私が聞いてやるよ。
私がここにいれる限り、できる力を添えてやるから。
セフィリアオンデスはフィと笑った。
まるで自分は、子どもの傍に居る親のようだ。
笑ったことで力が抜けて、手を離して落下してしまった。
ギャァ。
セフィリアオンデスの落下と同時に、高い声が石から届いた。
『ケルベ・・・! アトロス、傍に居るんでしょ!? 声を聞かせて!』
***
アトは声を出して応じていた。
「母上! 僕・・・います、ここにいます。心配しないでください」
フっと、ケルベディウロスが笑ったような気がした。
『アト! 良かった、無事なのね!? 帰ってこれるの!?』
「はい。でも・・・僕は」
アトは言いよどんだ。
自分が起こしたかもしれない事態に、向かい合いたいと思う。帰ってしまうのは、背を向けて逃げるような気分になる。
でもだからといって、ここから・・・白い世界の人たちと、ちゃんと話ができるだろうか・・・。
『サリシュ』
ケルベディウロスが、母に向かって話していた。
『安心しろ、お前の息子は、すぐそちらに帰す。ゆっくり休みをとらせてやれ』
ブワっと、アトの周りの空気が動いた気がした。見ると、ケルベディウロスの姿が二重に見え、そして、明らかに二つに分かれていた。
「えっ・・・」
『どういうこと・・・ケルベディウロス!』
『帰った息子に詳しくを聞け。我輩も何が起こったのか、詳しくを知りたい。必ず我輩にも伝えて欲しい』
触手に手鏡を持つケルベディウロスが母と会話している。
そして、もう一方のケルベディウロスがアトにだけ聞こえるようにこう言った。
『イシュデン=トータロス=イングス』
「えっ・・・はい・・・」
『サリシュが心配している。まずは帰れ』
「でも、僕は・・・」
『お前は、我輩が言った事を覚えているか?』
「え?」
『お前が世界を救ってくれるなら、我輩はお前を助ける。そのために我輩が居るのだ。お前には今、帰還と休息が必要だ』
一方、もう片方のケルベディウロスは、アトがケルベディロスの元に戻ってきた時の様子を母に話し出している。
そんな中、父の声が聞こえ。
『失礼・・・尋ねるが、そちらに、アトロスが探す女の子は居ないだろうか?』
父だ! アトは耳をそばだてた。声を聞くだけで心強くなる。
『イタ・・・目に砂が・・・イタタ・・・あー、ゴメン、その事なんだけどさ。ダロンじゃない子、こっちにはもう居ないんだ』
金茶色の瞳の人だと思う声がまた入ってきた。
『えっ、あの・・・』
と、戸惑う母の声。
アトがついそちらに注意を向けるのを、ケルベディウロスが再度アトを促した。
『イシュデン=トータロス=アトロス。聞いているか。あちらの通信よりも、お前は自分の体を休めるのだ。それでサリシュも安心する。それに、お前は、また何度でもこちらに来ることが出来る。焦る必要は無い。万全の体制でのぞむべきだ』
アトはまた目の前のケルベディウロスに目を向けた。
「あなたは・・・・」
言いかけて戸惑う。
この目の前の存在は、自分の味方なのだろうか? どうなのだろうか? と、ふと思ったのだ。
アトは口にした。
「あなたは、僕が、あなたの世界を助けることができると思うから、助けてくれるんですね」
『そうだ』
アトは、なんだか、それに少しがっかりしている自分を知った。
目的のために助けるなんて・・・。
無条件に助けてくれるような事を無意識に望んでいたのかもしれない。
それは、甘い子どもじみた考えなのかもしれないけど。
「ケルベディウロスさん」
『なんだ』




