103.アトは思う。ケルベディウロスたちは会話する。
ケルベディウロスの言葉に、アトは、ただ頷いた。
アトには、何を行うべきで、何を控えるべきなのか、何も分からない。
自分は一体、今、何をするべきなんだろう・・・?
アトはぼんやりと思った。
ケルベディウロスが、語り出していた。
『我輩は、ケルベディウロス』
もし。自分が。
先ほどケルベディウロスが呟いたように、自分の運命が、あの世界の、あの白い人の、像を、壊す事だったのなら・・・?
ケルベディウロスが呼びかけている。
『真なる世界の、大いなる右腕』
もしかして。ケルベディウロスが、『壊して欲しい』と自分に一生懸命に頼んだ“時間を止めている仕掛け”というのが、あのたくさんの像で。
ただ、運命のままに、僕が行ったことで、壊れた・・・僕が壊したなら・・・?
不思議に深く響くケルベディウスの声。
『小さき世界においてはローヌに深くかかわる者』
でも、そんな、運命。そんな酷い運命、僕は・・・。嫌いだ。
それを運命というのは バカげてて・・・。
ケルベディウロスの語り掛けに、反応が出る。
「えっ!?」
バカだなぁ、僕。運命なんて、人の決めた運命なんて、信じないって、思ってたのに。それなのに、こんな事になって、運命なんて言葉を考えてる。
初めの反応は母の声。
「ケルベ!? ケルベディウロスなの!?」
アトは、外からの声を聞きながら、自分の内側で考え続ける。
運命。
運命だと決められているなんて 変だよ。運命だとか、運命じゃないとか、そんなのは関係ない。どこにも運命なんてものは無い。
ただ、自分が出来る中で行った事が 今に繋がっているだけで。
手鏡から、声が大きく届く。それは母の声。自分を心配している母の声。
「どうしてケルベが!?」
今 僕がここにこんな風に居るのは。運命なんかじゃなくて。僕が、そして周りが、それぞれ行動した結果で。
だからこそ。
僕が、することは・・・?
“ちゃんと、謝りましたか? アト様”
傍で告げられたかのように、言葉がアトの耳に蘇った。
アトはハッとした。
昔、キロンとケンカした時に、庭師のサルトから言われた言葉。
ケルベディウロスが、母に応える。
『サリシュ、よく聞くが良い。安心しろ、お前の息子、イシュデン=トータロス=イングスは、今ここに居る』
・・・でも。
でも。違う。まだそうじゃない。そこじゃない。
僕は。
そう、隣にいる、パンデフラデ=トータロス=プラムだって、同じだ。
僕たちは、自分たちが何かをしたのかさえ、分かってないんだ。
「どういうこと!? ケルベ!?」
でも 白い人は僕たちが壊したと思ってて・・・。でも僕たちは、分かってない・・・。
「どうして!? あの子に、アトに・・・何かしたの!?」
説明を しなくちゃ
「ケルベディウロス、だと・・・!? お前は・・・!!」
そして、本当に、何があったのか。自分が何をしたのか。何が起こったのか。
僕は、向き合わなくちゃ。
「クォルツ!! お前が・・・!!」
「うわあぁああっ、ちょ・・・ヤリ!! 止めてってば、怖すぎ、トートセンクっ!!」
***
セフィリアオンデスは、急上昇しようとしたトートセンクの左足首をガシっと掴んだ。
「落ちつけッ!! トートセンク! 空、空、空!」
トートセンクの背後、上空に見るヤリの群れが、また不気味に音を反響させている。
「現実見なよ! 落ち着けってば!! アンタが、ここでヤリ落としたって、相手にも届かないし何にもならないし、それどころか、この場所確実にもうダメになるよ!!」
ていうか、アタシも死ぬよ! 寿命尽きて逝くのはいいけど、断ち切られるのは勘弁!!
石から不思議な深い声が聞こえる。
『エクエウ。真なる世界に残っていたとはな』
ガローン!!
「ギャァ落ち着けってば!!」
耳のすこぶる良いセフィリアオンデスにとって、音の威嚇は大変な脅威だ。
思わず左足首を掴む手に力を入れた。
ら、
ぶーん。
痛かったのだろう、トートセンクは、セフィリアオンデスを振り落とそうとして左足を大きく揺らした。
「うぉ!! おおぉおお」
すでに宙に浮かんでいて、セフィリアオンデスは、振り落とされないようにさらに手に力を込めた。
ぶーん、ぶんぶん。
「おー・・・」
なんか、面白いね、この動き。
「手を離せ、セフィリアオンデス」
「・・・」
中空で、トートセンクとセフィリアオンデスは睨みあう。
そんな中で、あの青い石から、また声がした。先ほどトートセンクが地面に叩きつけてしまったため、少し距離があるが、声はよく届く。
『お前は、真なる世界に干渉した者たちか? セフィリアオンデス』
セフィリアオンデスは、自分を中空から放り出そうとするトートセンクに金茶色の大きな瞳でもってガンをつけつつ、耳を澄ました。
「アンタ、何者?」
『我輩はケルベディウロス。真なる世界に生きる者。お前は、我輩たちを、真なる世界から締め出した者なのか?そのトートセンクというエクエウと手を組んだ』
「・・・えーと・・・」
セフィリアオンデスは考えた。
ケルベディウロスという名は、どこかで聞いた。聞いた覚えがあるのなら、きっと、この世界の“第五世界の鉱石の王”が語った歴史の中で聞いたはずだ。
ということは、きっと、代表的な存在、ある程度力がある者。
そして、このトートセンクの反応からして、敵側の存在なのだろう。
トートセンクが、怒りに震えている。




