第39話 来客です。
絶命洞窟を抜けた先に、太陽が埋まっていた。
赤を明るくして結果的に白になったような、神々しい赤色が土の中から見えている。
おそらく球体をしているのだろう。氷山のように頭だけわずかに見えているので全体の形はわからないが、アシタガタリを突き刺すためだけに掘り起こしたような形が新年に見る初日の出のようになっている。
太陽のように明るいのだけれど、目を潰すような輝き方をしているわけでもなく、体を滅するほどの熱を持っているわけでもない。十分見ることができるし、作業着を着ていても暑くない。
アシタガタリも十分巨大であったが、その下にあるマシュマロも、当たり前だが巨大であった。全体を見たわけではないけれど、それでもわかる。周辺でうごめいているロボットたちの姿もあいまって、そこはひとつの国のようになっていた。
「この部屋……というか空間に名前はないけど、呼びたかったら好きにつけていいよ」
所長だったらなんてつけるかな、とロロロはつぶやく。
そんなつぶやきも聞けるほど、この空間は静かだった。
ロボットがひしめいているのに、強大な炉が今も稼働しているのに、耳元で話す必要もないほどよく聞こえる。
ドーム状に切り抜かれた空間。舗装などなく、地面も天井も土がむき出しになっている。だが魔法で固められているのか、マシュマロにもロボットたちにも土汚れは見られず、土埃も舞っていない。
「アシタガタリが見える通り、この真上が魔王室になってる。直通のエレベーターもあるから、もし迷ったらここにくれば帰ることはできる」
見惚れている試神に向かって、ロロロが言う。
「ロボットたちも大半はここに帰ってくるから、迷ったらその子たちを追ってもいいけど、全員が全員ここを目指してるわけじゃないし、新しい通路を作ろうとしている子もいるから過信は禁物。もう少し魔力の扱い方がわかってくれば、魔力の濃いほうを探していけばここにたどり着くと思う」
魔石もあるので濃い方を探せば必ずわかるというわけではないが、可能性としては一番高いとロロロは思っている。
「言うまでもなく、ここが一番魔力が濃いからさ」
ロロロは話していないが、この地下に魔石を貯める倉庫があり、そこに先ほどまでに追い抜いてきたロボットたちは魔石を保管している。見つけた瞬間から燃やしているわけはなく、それなりの備蓄があり、計画的に魔力を精錬している。
ロロロが試神にそのことを話していないのは、その備蓄庫の詳細をロロロは知らないからだった。
聞いてはいるが、見たことはない。
見に行くにはあまりにリスクが高すぎるのだ。
魔石がどの程度あるのか予想もつかないので、もしかしたら<ダイオード>ですら逃がせないほどの魔力があるかもしれない。
逃がすより貯まるスピードが早ければ、あっけなく死んでしまう。
本音を言えば、ここだって、あまり長居をしたくない空間でもある。
備蓄庫ほどではないせよ、魔王室以上の魔力で満ちているので『ダイオード』がいつキャパオーバーを起こしても不思議ではないのだ。
「創造根底館……というよりアシタガタリの仕事はさ、異球の魔力の調整にあるんだよ」
ぽつりと、ロロロが言った。
「マシュマロで魔石を燃やして、アシタガタリを通して魔力をばらまく。そうすることで魔力が行きわたって、異球の人は魔法を使うことができる。ここはそういうところ。そのための場所。魔力が少なくなれば燃やす量を増やして、逆に多すぎたら減らす。……まあ、その調整はこのロボットとかマシュマロ本体が自動的にやってくれるから、こっちで細かい調整とかはいらないんだけどね」
実際のところ、ロロロも一日にどれだけの魔力が外に出ているのかわかっていない。
アシタガタリから吐き出される白煙は、異常とも思える量ではあるが――。
それを毎日のように吐き出しているのだから、これは正常なのだろうとも思う。
「マシュマロを見回りの中に含めるかは任せるよ。こいつは中身こそ精密部品の塊だけど、実際に動かしてるのは電気でもプログラムでも人力でもない。魔法だよ。魔法で動いてる。魔法が動かしてる。いったいどうやってるのかわからないけど、世界最高峰の魔法使い達がいろいろやってるらしくて、壊れてる箇所は自動修復するから壊れることはないんだって。それをできるだけの魔法が詰め込まれてるし、ここにはどんな致命的な壊れ方をしても修復できるだけの魔力があるから、いわゆる永久機関なんだよね。時間の無駄と思うなら見なくても大丈夫」
それよりも魔石を運ぶロボットとかのほうが先に壊れちゃうから、とロロロが笑った。
「いずれはロボットたちも同じ技術で永久機関になると思うけど、いつになることやら。……異世界人くん?」
「――え、ああ、はい。なんですか?」
「いや、その……大丈夫?」
質問の意味がわからず、試神は首を傾げる。ロロロは逆にそれを見て安心したように息を吐いた。
「なんか急にしゃべらなくなったからさ。もしかして、なにか体に異変が起きたのかと思った」
「いや、大丈夫ですよ。単に……圧倒されてただけです」
アシタガタリを初めてみたときのように、マシュマロを見て、気圧されただけだった。
「いや、ならいいんだ。で、どうする? 今日の目的はこれで果たしちゃったわけだけど……もう少し見ていく?」
「……ああ、そうですね。では、もう少しだけ」
はにかむように試神が言って、ロロロは小さく頷いた。
「じゃあ、あたしは少しこのあたりを見て回るよ。帰りは……そうだね。エレベーター使ってみる?」
試神が「はい」と頷くと、ロロロがエレベーターのある場所まで案内してくれた。あとはこれに乗れば待っているだけで休憩室の近くにつくという。
「休憩室の中にあるわけじゃないから直通ってわけじゃないけど、探せばすぐわかると思う」
「ありがとうございます」
「じゃ、あたしは行くよ。……そうだね、遅くても12時には集合ってことにしとこうか。お昼だしキリがいいでしょ」
携帯を見る。今の時刻は11時になっていた。知らないうちにそんな時間になっていたのか。
「あたしは11:30くらいには休憩室にはいると思う。もちろん先に帰っていてもいいからね」
「わかりました」
ロロロが手を振って、試神たちが来た別の通路に消えていく。改めて見れば、絶命洞窟の道はここにたどり着くと言っていただけあって出入口がいくつも見える。ドーム状になっている箇所にも穴があった。どうやって出入りするのだろうと思っていると、ロボットが一体、その穴から出てきた。穴の大きさもロボット一台分なので、人ではなく、ロボット専用の通路らしい。爪でひっかけているのか魔法なのか、器用に壁を歩いてきたあと、無数のロボットのひとつに混ざってわからなくなってしまった。
「ロボットについてったら、あそこから出る可能性もあるのか……」
さきほどロロロが言っていたことを思い出す。そうなるとやはり魔力の濃さで見つけたほうがよさそうだ。
(……といっても、魔力の濃さなんてよくわからないけど)
これもいつか、経験でわかるのだろうか。
「やっぱり杖……もってくればよかったかなあ」
マシュマロを見上げる。
「わー……なーどー……」
中身を吸い出すように白煙を吐き続けるそれを見て、一種の感動すら覚えた。
それを見るのに必死で、試神は気が付かなかった。
携帯が震え、メールが一通、届いたことに。
来客です。
タタンからの報告。
結局試神は最後まで、それに気が付かなかった。




