多分もうゲームフェイズ1:ティファレトの部屋があったあたり
「……樺島さん、文章読む時、音読しちゃう人ですか……?」
「え!?あ、うん!そうだなあ!俺、そうしてる!」
タヌキに聞かれて、バカは元気に答えた。……バカは、文章を読む時に音読しがちなタイプなのだ!
音読していると、周りの人が『おっ、樺島がなんか難しい文章読んでるぞ……』『おお、今、読み間違えたぞ……』『あっこりゃ意味わかってねえぞ!』と気づいてくれやすいので、バカが事故りにくくなり、結果、労災が減るのだ。
そもそも、声に出すのは大事である。指差し確認と声出しは大事。社訓にもそう書いてある。
「そ、そっか……樺島君はそのタイプ、ね。あははは……うん、まあ、むつさんもそのタイプの可能性は、無い訳じゃ、ないよね……」
「そもそも『リプレイ』で異能の説明書まで読めりゃ、それでいいわけだしな。よし、やってみる価値はあるだろ」
デュオも四郎も乗り気となれば、当然、これはやらないわけにはいかない。
ということで、全員、むつの個室……『ティファレト』の個室へとぞろぞろ移動を開始したのだが……。
「……だが、当然、僕の『リプレイ』では、音声は再現されない」
ふと、海斗がそんなことを言い出した。
「なので……その、この中に、読唇術を使える人は?」
海斗のぎこちない表情を見つめながら、恐らく、バカ以外の全員が思ったことだろう。
『それ、海斗ができるわけじゃないんだ……』と……。
だがここは、悪魔のデスゲーム会場である。変な技能を持った人達が集まりやすいのは当然であって……最初に四郎がちょっと遠慮がちに手を挙げた。
「あんまし自信はねえが……一応、訓練したことはあるぜ。部隊に居た時に、ちょっとだけな」
バカは、『四郎のおっさん!すげえ!かっこいい!』と目を輝かせた!バカにとって、四郎はやっぱり憧れの的である!
「俺は……うーん、あんまり自信、無いな……。訓練してみようと思ったことはあるんだけれど、どうにも難しくて……。声を出さずにやり取りするだけなら、モールス信号とかもあるし、そっちの方が優先順位が高かったものだから」
「そ、そうか……。僕は、デュオがきっとなんとかできるだろうと踏んで提案したんだが……」
「……その、海斗、君、俺のこと何だと思ってる……?」
「……何でもそつなくこなしそうだとは思ってる」
デュオは何とも言えない顔をしていたが……デュオのことだ。海斗の言う通り、『なんでもそつなくこなしそう』だし、実際、練習すればありとあらゆる技術を身に付けられたのだろうが……デュオとはいえども、訓練したこともない技術は身に付けられないのである。
バカは、『そっかぁ、だから訓練って大事なんだよなあ……。デュオですら、訓練しないと技術が身に付かねえんだもんなあ……』とちょっと思って……それからふと、『……もしかして俺、デュオよりも土嚢積むの、上手いかも……!?』と気づいてしまった!そう!この世は適材適所!
……と、バカがふわふわし始めたところで。
「でしたら、私が」
……なんと。
七香が、手を挙げていた!
七香の腕の中で、タヌキが『ええええええええええええ!?』と尻尾をぶわぶわ膨らませてびっくりしている!バカも、目ん玉飛び散るほど驚いた!
七香が!特殊部隊みたいな技能を!持っているなんて!
「……えーと、その、こういう事聞くべきじゃないかもしれないけれど……」
ものすごーく困惑しながら、デュオは七香を見つめて、言葉を探して……。
「……なんで?」
言葉を探した割に、ものすごくシンプルに疑問だけがデュオの口から出てきた。だが仕方がない。誰だってこうなる。『何故七香さんがぁあああああ!?』となっているタヌキぐらいの振れ幅になるか、デュオぐらいの大人しさになるかの違いはあれども、全員が『なんで!?』とは思っている!
「……訓練したことがありますので」
「えっ」
が、七香の返答もやっぱりシンプルであった!
そう!技術は訓練しないと身に付かない!ということは、技術が身についているなら、そりゃ当然訓練したことがあるのである!すごい!この世の真理!
「例えば……懇親会などで人の話し声が無数にある中、適当に目の前の相手に相槌を打って見せながら、遠く離れた誰かの会話を盗み聞きすることができれば、それが有利に働くこともありますので」
七香はしれっとそう答えたが、バカは隣の海斗に『こんしんかいってなんだ!?』と疑問を呈していた。海斗は『パーティーだ。映画で見るタイプの奴だ。つまり、お前にはあんまり縁が無いタイプの場所だ』と教えてくれた!
「ええええ……社長令嬢って、そういうこともするもんなんですかぁ……?」
「……全員が全員、そうではないでしょうね。でも私は、そうよ」
タヌキはびっくりの塊と化していたが、今はもう、『七香さん、かっこいい……!』と、目を尊敬にキラキラさせながら七香を見つめている。七香はそのタヌキを見てちょっときょとんとすると、ふ、と笑ってタヌキを撫でた。
「ということで、読唇術を使える人1人、ちょっと自信が無いけれどできる人が2人居るから、なんとかなりそうだね」
さて。
何はともあれ、これで舞台は整った。バカは『ヨシ!』とにこにこ満面の笑みである!
「改めて思ったんだけどさあ、アタシ、とんでもないとこに来ちゃったのね……。デスゲームなんか、参加しようと思うもんじゃないわ、これ……」
五右衛門が何とも言えないことを言っているが、バカとしては、ここで皆に会えてよかったので、『参加してくれてありがとう!』という気持ちでいっぱいである。尚、こんな気持ちの奴は少数派である!
そうしてバカ達はティファレトの個室の位置へとやってきた。
「ええと……僕の『リプレイ』が見える位置に七香さんを配置して……デュオと四郎さんにはその横でお願いするとして……」
「あっ!私、結構目がいいので文字が読めないかダメ元で挑む係をやりますね!四郎さんの頭の上で!」
「……まあいいけどよ。おい、これでいいのか?落ちねえか?」
そうして、人員とタヌキのセッティングもある程度定まり……いよいよ、海斗の出番だ。
「ではいくぞ……『リプレイ』!対象はむつさんの個室があった場所!そして時間は……むつさんが異能の説明書を読み始めたところからだ!」
ぼんやりと、海色の光が集まり始める。そうして光は、人の形を作っていって……。むつの形になる。
だが、形だけなのに、それが『むつ本人』であることが、なんとなく分かった。何せ……動きが、むつなのだ!
中身が燕であったらこうはならないだろうと思われるおろおろっぷりで、開いた紙に目を落とし……そして!
「……読み上げてるよぉ!」
「読み上げてやがるぞ!でかした!」
「やっぱりむつさんは樺島さんに似てるところあるのではぁ!?」
むつは!やっぱり!音読する派であった!
そうして七香が真剣な表情で『リプレイ』のむつを見つめ始めたので、バカ達は黙った。七香に集中してもらうためである。
同時に、デュオと四郎も『あんまり自信無いなあ……』という表情ながら、それでも真剣に、仕事を投げ出すことなくじっと読唇術でむつの口パクを見つめ続け……そして。
「文字に書き起こしました。どうぞ」
海斗の『リプレイ』も終了し、七香は1人、静かに文字起こしを行って……そして、綺麗な字で書かれたそれを、皆で覗き込む。
……そこには、驚愕の文章があった!
「あの……ところどころに挿入されている、『わっかんないよぉ!』は、一体……」
「そのまま文字起こししました」
……七香が、憮然とした表情であった。何せ、文章のあちこちに『なにこれぇ!?』『どういうことぉ!?』『誰かもうちょっと詳しく説明してよぉ!』といったむつの悲痛な叫びが混ざっているので!
バカはそんな文章を読みながら、『ああ、むつ……』と、勝手にシンパシーを感じて、いたたまれない気持ちになるのだった!尚、そうして七香の文字起こしを読むバカは当然の如く音読していたので、途中で海斗に『うるさい!静かに読め!』と怒られてしまった!
「……まあ、とりあえず分かった限りのことをまとめると、こうなるかな」
そうして、バカが大人しく腕立て伏せをして待っていたところ、頭脳派達が文字起こしから内容を補完したり七香が読み取れなかった部分を推測したりして、むつの異能の全貌が判明したらしい。
バカも『どれどれ』と覗きに行くと……そこにはいっぱい文字が並んでいたので、バカは頑張って、それらを黙って読むことにした。
『巻き戻し』
・この異能は対象の時を巻き戻すことができる。
・効果範囲は最大で、デスゲーム会場全体に及ぶ。
・手で触れているもの、或いは触れているもの以外の範囲内全てのものを対象とする。
・巻き戻せる時間は、異能を前回使用した時から経過した時間を上限とする。
・魂が悪魔の手に渡ったものについては、時を巻き戻しても魂を体に戻すことはできない。
「……成程な」
それらを読んで、バカが頭の上に『?』マークを大量発生させていると、デュオも海斗も、それどころか五右衛門もヤエも、七香もタヌキも四郎までもが『あー……』と深刻な顔をしており……そして。
「これも、バカじゃないと使えない異能……いや、よく分からないまま使った場合と、色々と詰めて考えた場合とで効果が異なるタイプの異能だ……!」
「えええええええええええええええ!?どういうことぉおおおおおお!?」
海斗が、衝撃的な嘆きを漏らしてくれた!バカは叫んだ!むつの魂は、『えええええええ!?』とばかり、激しく震えている!




