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頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム<Ⅱ>  作者: もちもち物質
第六章:覆水を盆に返すバカ
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多分もうゲームフェイズ1:大広間2

 ドアが開いて真っ先に目の前に飛び込んできたのは……むつとヤエと七香の姿だ。

 そして。

「よし!樺島!行け!」

「おう!」

 バカは早速、海斗の指示に従って動き出した。『えっ!?知らない人……!?』と困惑しているヤエに向かって、タックルをかますかの如き勢いで突っ込んでいった。

「小百合さん!こっちだ!」

 そして、その後ろから、デュオが七香に向かって叫んだ。途端、七香は目を見開き、一瞬の迷いの後……すぐ、デュオの元へと駆け出した。

 それを見て焦ったのが、むつ……つまり、燕である。

 燕は、突っ込んでくるバカに意識を集中させ……その手を、突き出した。

「うおっ!?」

 ぐん、と、バカの胸のあたりが横から押される。

 ……七香の異能だ。バカはこれを、知っている。

 が、七香の異能でずっと足止めされるバカではない。それに、燕が使ったそれは、七香が使ったそれよりも幾分、弱かった。

「うおおおおお!」

 バカは雄叫びを上げ、燕が使った異能を弾き飛ばして、ヤエに向かって駆けていく。ヤエは戸惑い、怯え、立ち竦んでいたが……おかげで、バカは即座にヤエを抱き上げることに成功した!

「えっ!?あっ!?」

「ごめんなあ!ちょっと運ぶからぁ!」

 戸惑うヤエが自分の腕の中で身を固くしているのを感じながら、バカは必死に走って海斗達のところまで戻った。……そして。

「お前の相手は俺だ!」

「悪いけど、ヤエちゃんに手出しはさせないわよ!」

 戸惑っている燕の前には、四郎と五右衛門が立ちはだかっている。それぞれに、氷の槍と鋏の手とを携えて、燕が繰り出す七香の異能……見えない手と戦っているのだ!

 が……見えない手は、滅茶苦茶、2人の異能と相性が悪い!

 何せ、見えないのだ!見えない以上、どう防御していいかも分からないし、かといって、燕を即死させてしまうわけにもいかない!

 そして、七香の異能をもろに食らっても大丈夫なのは、バカくらいなものなのだ。今も、燕が操る見えない手が四郎を打ち据え、五右衛門を弾き飛ばしてしまっている!

 ……だが。


「そこまでだ!駒井燕!」

 海斗が、むつのランタンを高々と掲げて、朗々と声を上げていた。

 燕は、はっとして海斗の手を見て……そこにあるランタンを、そこに居るむつを、見た。

「……『彼女』に危害を加えられたくなければ、そのまま、交渉に応じてくれ。さもなくば、僕達は君を殺す以外にやりようがなくなるし、そうなったらきっと、この『彼女』もただでは済まない。……そうだろう?」

 燕は、目を見開いて息を呑んだ。

 ……そして海斗が、ささっ、とバカの背後に逃げ込み、海斗およびむつのランタンを守るように四郎と五右衛門、そして七香までもが並べば、いよいよ劣勢を悟ったらしい。

「……分かった」

 燕は、掠れた声で、そう言った。

「交渉とやらに、応じる」




「……ほんとかぁ!やったー!」

 バカは、ぱーっ!と笑顔になって喜んだ!喜びのあまり、燕と握手しに行きそうになって、『テメェはバカかぁ!?』と四郎に拳骨を食らった!痛い!

 バカが『いてえ!』とゴロンゴロンやっている後ろで、海斗は『やれやれ……』とため息を吐き、そしてデュオが、そっと進み出た。

「さて。えーと、君は『駒井燕』君、っていうことで、いいのかな」

「……ああ」

 燕は、警戒しながらも肯定した。前回は全然お喋りしてくれなかったのにコレである!バカは『ひとじちって、すごい……!』と感動した!

「驚かせてごめんね。えーと……俺は、『宇佐美光』っていうんだけれど……名前くらいは、つぐみから聞いたことが、あったかな」

「宇佐美、光……」

 デュオが自分の名を明かすと、燕は噛みしめるようにその名前を呟いて……そして、ふ、と眉根を寄せた。

「……姉さんの、彼氏か」

「うん。そうだよ」

 デュオが嬉しそうに、そしてとても寂しそうに笑うのを見て、バカは、胸が締め付けられるような思いでいっぱいになる。

 ……『宇佐美光』にとって、自分が『駒井つぐみの彼氏』であるということを確認できるということは、とてもとても大きなことなのだろう。だって今ここに居る光は、ずっとずっと、つぐみのことだけを追いかけて10年もの間、デスゲームに身を投じ続けてきた奴なのだから。だから、これだけで、こんな笑顔になる。

「……一つ、先に聞きたい」

 そんなデュオに、燕は警戒心に満ちた目を向けて、慎重に問いかけた。

「どうぞ。答えられるかは分からないけれど、何でも聞いてほしい」

 デュオは、生まれて初めて会話する『彼女の弟』に対し、丁寧に応える。するとそれが伝わったのか、燕も幾分、緊張を解きつつ……少し考えて、尋ねてきた。

「……俺のことは、元々知ってた?」

「そうだね。まあ、俺、デスゲームにはもう5回も参加してるから。そこらの人間……下手するとそこらの悪魔よりも詳しく、君のこと、知ってるかもね」

 そしてデュオは、さらりと嘘を吐く。……多分これは、『バカの異能を偽装するため』なのだ。

 バカが『やり直し』をしてここまで来たことは、燕にはナイショなのだ。だから、『デュオが元々知っていた』という体で、話が進む。

 ……無茶苦茶なやり方だが、これが無茶苦茶に思えないくらいには、説得力がある。何せ『宇佐美光』は……デスゲーム向かうところ負け無しの、とんでもない人間だからである!悪魔の間でも当然、大人気なはずなのだ!すごい!


「……やっぱり」

「ああ、俺がここに参加してる時点で、君は俺のこと、結構警戒してたのかな。だとしたら、ごめんね。最初っから居なかったから、肩透かしだったよね」

 燕が何かに納得する様子を見せる一方、デュオはやっぱりサラサラと嘘を吐いていく。一方バカは、『ほげえ』となっている!もう、何が嘘で何が本当だったかもよく分かっていない!この場でバカが一番、色々知っているはずなのに!そんな気が、全然しないのは何故だろうか!バカだからか!バカだからです!


「じゃあ、1つ答えたから、1つ教えてほしいんだけれど……君の異能は何かな」

「……『模写』」

 続いて、デュオが聞いてみたら、なんと!燕はアッサリと教えてくれた!

「『模写』……それはつまり、つぐみの『コピー』の異能に似てる、のかな?」

「姉さんみたいに『看破する』異能じゃない。……俺のは、『看破した』異能にしか使えない」

 燕がボロボロと情報を聞かせてくれるものだから、バカはものすごくびっくりした!こんなに話してくれるんだったら、前にもっと話してくれればよかったのに!

「ふーん……となると、つぐみの下位互換、ってことになっちゃうから……となると、『レプリカがオリジナルを超える』ってこともあり得るのかな」

 ……が、デュオがそう言うと、燕は口を噤んでしまう。

 バカが、『おや?』と首を傾げていると……。

「君、嘘を吐けないんだね」

 ……デュオが、そんなことを言った。

「……悪魔だから」

 燕も、そんなことを言った。

「俺みたいな悪魔は、嘘は吐けない。真実を隠すことは許されてるけれど」

「へえ。そういうものなのか。……道理でね。まあ、分かりやすくていいか」

 デュオが『ふーん』とやっている横で、バカは、『そうなのかぁ!』とびっくりしていた!悪魔って嘘つきだと思っていたが……実のところ、全然嘘吐かない奴ららしい!すごい!

 ……が!バカにとっては『嘘は吐かない。だが、真実は隠す!』は、『嘘を吐く!』と同じことなので、バカの困り具合はどうせ同じぐらいである!




「さて……他にも色々と聞きたいことはあるんだけれど、そっちは何かある?こっちが聞いたから、次はそっちでいいよ」

 続いて、デュオがそう燕に投げかけると、燕は少し考えて……それから、言った。

「……真っ先に『9』の部屋に到達した理由を知りたい。真理奈の魂がそこにあることを、どうして知っていた?」

 ……成程。よくよく考えると、確かに不審である。滅茶苦茶、不審である。燕からしてみたら、自分の素性ならまだしも、デスゲームが始まってからの自分の行動まで全部筒抜け、というのは、流石に不思議だったのだろう。

「ああ……それなら僕の異能を使ったんだ」

 が、そこで海斗が出た。

「僕の異能は『リプレイ』だ。ある程度条件は絞る必要があるが……まあ、その時その場所の光景を映し出すことができる。それを使えば、君が『9』に向かったことは分かった」

 海斗も、さらりと嘘を吐く。とはいえ、デュオのそれと比べると幾分、緊張している様子ではあったが。それでも堂々と。格好良く。バカは拍手したい気持ちでいっぱいになったが、ここで拍手すると嘘がバレちゃうので、拍手の代わりにスクワットしておいた!タヌキが『うわあ』という目でそんなバカを見ていた!

「そう、か……『リプレイ』……盲点だったな」

「生憎、そんなに役立つ異能じゃないんだが。まあ、今回は役に立ってくれた、と言えるだろうな。やれやれ」

 燕がちょっと緊張気味に唇を噛み、俯く。そして海斗は、『やれやれ』と言いつつ、自分の嘘が看破されなかったらしいことにほっとしているようだった!バカには分かる!海斗のあのちょっと尊大にも見えるような顔は、緊張していたのを隠す顔なのだ!




 ……それからも、燕とデュオのお喋りは続いた。

 1つ質問したら1つ答える。そんなお行儀の良いお喋りで、デュオは『俺の異能は無敵時間』『君の情報は、他の悪魔から聞いたり、天使から聞いたり、色々』『どこまで知ってたか、って言われてもね……。元々の情報はあったし、君の異能はさっき七香さんの異能を使ったから分かった』などと喋った。

 一方の燕は、『事前に知っていた参加者の情報もあるが、あんたが姉さんの彼氏だってことは知らなかった』『むつと体を入れ替えたのは、彼女の存在を隠したかったから』『井出亨太?……ああ、俺を殺した気になって浮かれてたのは知ってる。今何してるの?え?工具に、なった……?なにそれ』などと喋ってくれた。

 そして。

「あの、燕ぇ……むつはお前のこと、知らなかったのか?」

 バカが、そう尋ねた。

 すると。

「……さあ。俺は知らない。彼女が何を知ってたかなんて」

 燕はそう言って、ちら、と、海斗の手の中……むつの魂が入ったランタンを見た。だが、ふ、と、申し訳なさそうに目を逸らす。

「……彼女のランタン、返してくれないか」

 そしてそう言って……燕は、ちょっと笑った。

「正体がバレてる以上、これ以上、むつの体を使っている意味は無いから。体、返そうと思って」




 そして。

「……自分の死体を見るのは妙な気分だな」

 天井裏の例の部屋の中、燕は、自分の死体と向き合っている。……妙なかんじである。燕の死体と、むつに入った燕が居て、更に、ランタンに入ったむつの魂があるのだから!

「むつの魂をこっちに」

 そうしてようやく『2人分』が一つの場所に戻った。海斗が注意深く、燕にむつのランタンを渡すと、むつがランタンの中で、ぴょこん!と元気に跳ねた。……それを見て、燕はちょっと笑って……そして、ふ、と、目を伏せた。


 ……それから、燕が何か、ぶつぶつと呟く。声は低く、そして早口なものだから、よく聞き取れない。

 何か、魂を人の体に戻すための呪文か何かかなあ、とバカは首を傾げ……。

 ……その時だった。


 燕が纏っている空気が、逆巻いた。




 だが。

「……成程な」

 その燕の背から胸にかけて、デュオが容赦なく、氷の刃を突き刺していた。

 燕は振り返り、そして、デュオの冷たい目を見て、何か言いたげに、はく、と口を動かし……。


「……さて。これは……厄介だな」

 動かなくなった燕を見つめて、デュオは呟いた。

 ……どうやら今回も上手くいかなかったようだ。

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― 新着の感想 ―
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