∞:天井裏
そうしてバカは、やり直しにやり直した。
一生懸命、最初の1周目と同じように繰り返そうとした回もあったし、ずっと逆立ちしながら待っていた回もあった。体育座りで歌っていた回もあったし、ひたすら回転し続けていた回もあった。
……が、それらの回全ても、ベッドの上で微動だにしなかった10回目も、やはり燕はむつの中に入っているし、本物のむつは出てこないのであった!
バカはいよいよ、泣いた!
……ということで。
「……樺島。喋ってくれないことには僕は何も分からないんだが」
「俺もわがんない……」
「お前も分かっていないのか。参ったな……」
バカは、海斗にぐすぐすと泣きついている!海斗は海斗で、『ああ、この様子だと既にかなりの回数のやり直しをして、その上で上手くいかなかったか……はたまた、僕が余程惨い死に方をしたかのどちらかだな』などと言いつつ、ぐすぐすやっているバカの背中をぽすぽすと叩いてなだめてくれている。
……そうして背中をぽすぽすやられてちょっと落ち着いてきたバカは、早速、海斗に今までのことを話すのだった。
「成程な……。つまり、何度やっても上手くいかない、と」
「うん……」
しょぼくれたバカが今までのことを説明するのに、一時間以上かかった。つまり何が起きたかというと、バカと海斗はもう最初から諦めて、『なら僕ら、天井裏に居残るか……』と決め込んだ!
本来ならば自分達を乗せて大広間へ向かうはずだったエレベーターを見送って、床に走るラインの光にぼんやりとだけ照らされながら、バカと海斗はお喋りを続けて、そうしてなんとかようやく、今までの状況を海斗に伝えきることができたのである!
「そこまで再現が難しいことをたまたま1周目にやってしまった、ということか?だとすると、それをもう一度やるのはかなり難しい気がするが……」
「そっかぁ……」
情報を得た海斗は、早速、色々と考え始めたらしい。とはいえ、何を考えているのかはバカには分からない。バカなので。
「……駄目だ。よし、これは僕一人の手には余る。もう一回やり直して、陽も連れてきてくれ」
「あ、うん……」
ということで、海斗は『1人より2人の方がマシだろう』という結論に至ったようなのだが……バカは、なんとなくしょんぼりしてしまう。また一時間に及ぶ説明をする羽目になることだし……何より、なんとなく、『やり直し』自体が、嫌になってきてしまった。
……やり直す度に、上手くいかなくなっていくような気がするのだ。どんどん悪い方へ転がっているような気さえしてくる。少なくとも、やり直してもやり直しても、ここ10回分は何も事態が好転していないのだ。
だが。
「……大丈夫だ。諦めるな、樺島」
海斗はそう言って、バカの肩をぽふんと叩いた。
「その……お前が何度もやり直したことは、無駄なことじゃない。『何度やり直しても駄目だった』という情報も、また1つの重要な情報なんだ。それを元にして推理できるものがたくさんある」
「そう、なのか……?」
「ああ。お前が何度も繰り返したおかげで見えるようになるものも、きっとあるだろう。無駄じゃ、ない。意味のあることだ。少なくとも、僕はそう思う。『次』の僕だって、同じように思うだろう」
海斗がバカの顔を覗き込んで、そう教えてくれる。……その言葉を聞いて、海斗の目を見て、バカはなんだか、ちょっとだけ、元気が湧いてきたような気がしてきた。
「その……まだ、頑張れそうか」
「……おう!」
だからバカは、元気に返事をする。
「挫けそうになっても!諦めず!進む!」
「そうだな。お前はキューティーラブリーエンジェル建設の社員なんだから」
社歌の一節を口に出してみれば、海斗は笑って頷いてくれた。……海斗もバイトとはいえキューティーラブリーエンジェル建設に関わる者なので、社歌は歌える。しかも上手である。そう。海斗は案外、歌が上手なのである。バカはそれを知っているが……普段の海斗は恥ずかしがるので、中々歌ってくれない!
「だが……折角だし、もう少し、休憩してからにしたらどうだ」
そんな海斗は、苦笑しつつバカの背をぽすぽす叩いた。
「その、僕は『やり直し』の度にリセットされているようなものだからな、疲労も何も無いが……お前は、ちょっと疲れてるだろ」
「……うん」
バカは海斗の言葉を聞きながら、じんわりと思う。『そっかぁ、俺、疲れてたのかも』と。
後ろ向きになっちゃうのは、疲れがあるからだ。人は、疲れちゃってる時には後ろ向きになるものである。そして、元気になったらまた前を向ける。そういうものなのだ。
「じゃあ、少し雑談でもするか?それとも運動か?できることは限られるだろうが、お前がしたいことをして過ごそう。何がいい?」
「えーと……」
ということで、バカは考えた。考えて……。
「……歌ってほしい!」
「ぼ、僕に、か!?何故!?」
「元気が出るから!」
「何故!?そ、そんなことで元気を出すなこのバカ!」
……ということで、バカは海斗とちょっと押し問答したのだが……結局、海斗はちょっとだけ歌ってくれた。バカはそれを聞いて、なんだか嬉しくなりつつぱちぱちと拍手を送るのだった!
こうして自分のしょうもない我儘を聞いてくれる友達がいるということは、特別な贅沢なのである!
ということで。
「じゃあ……疲れたら、また適度に休め。大丈夫だ。もうひと頑張りだぞ、樺島!」
「うん!」
バカはまた、やり直す。次はまた、始まってすぐ海斗のところに行って……それから、デュオを攫ってくることになるだろう。
ついでに、四郎が居てもいいかもしれない。彼は彼で、悪魔や魂のことに詳しいから。それに……四郎はとりあえず、バカの羽を見せたら付いてきてくれると思われるので!
バカはそう確認して、『よし!』と、気合いを入れる。そうして発光しながら、思った。
……バカがやり直しの果てに元気を失ってしまっていたのを見抜いて励ましてくれた海斗は、やっぱり頭が良くて……そして、優しい良い奴だなあ、と。
……そうして。
「キューティーラブリーエンジェル建設ぅううううう!あぁぁあぁぁあぁああぁああああああ!」
バカのクソデカボイスによる社歌が発せられた、残り時間75分時点。バカは極めて元気よく個室を飛び出すと、羽を、もふん!と出しつつ海斗の部屋へとダイナミックにお邪魔した!尚、今回は羽を出すのに成功したので服は無事である!繰り返す!服は無事である!朗報!
「うわあああああああ!樺島お前もうちょっと大人しく入ってこられなかったのかああああああ!?」
「やったー!海斗だあー!」
そうして海斗はバカの羽で、もふん!とやられて大いに困惑した!それはそうである。バカがバカの羽を丸出しにしている時点で、中々に不思議なのだ!
「じゃ、陽連れてくるな!」
「は!?陽!?何故陽がここに!?」
「あと四郎のおっさんも連れてくる!」
「待て待て待て誰だ四郎というのは!」
困惑する海斗はさておき、バカは元気に飛び立っていく。とりあえず……デュオと四郎を拾ってくるのだ!そして相談だ!海斗がお手上げでバカもお手上げだが……皆で手を上げていたら、多分、ちょっとは楽しいだろうから!
そうして。
「……確かに、海斗、だね……。となると、本当に、彼はつぐみのことを知っているのか……」
「お、おい。俺の娘の居場所を知ってるってのはどういうことだ?同業者だからって、情報の出し惜しみは許さねえぞ!?」
……事情もよく分からないまま、『俺、つぐみの友達!つぐみの弟を助けに来たから協力してくれ!』と連れてこられたデュオと『俺、天使!四郎のおっさんは元天使だって聞いた!あと、四郎のおっさんの娘さんが2人、うちで働いてるから大丈夫だぞ!ところでちょっと来てくれ!』と連れてこられた四郎が集まった。
2人とも、極めて困惑した状態ではあるが、まあ、バカが『やり直し』をしてここに居ることや、『駒井つぐみ』の友達であること、そして、『双子の乙女』の話などをしていくと……ようやく、2人とも『成程、そういうことか』と大雑把に納得してくれたのだった!納得が、早い!ありがたい!
が、皆に情報提供ができたところで、時間切れである。しかしここは学習済みのバカである。『もう大広間行くのやめようぜぇ……』と提案すると、『それもそうだな』と、アッサリ皆の賛同を得られてしまったので、そのままバカ達は個室の外に出て、無人の個室を見送ることにした。行ってらっしゃい!
「さて……結局、謎が多い。多いぞ……」
そうして時間がたっぷり手に入ったところで、全員で頭を抱えることになる。
「そう、だね。樺島君の話を聞いただけだから何とも言えないけれど……考えないといけない一番の謎は、『何故、1周目には燕とむつさんが両方居たのに、2周目以降、燕がむつさんの体に入った状態でしか出てこなくなってしまったのか』ということかな」
「やり直ししても、むつと燕ってのが両方出てくることがねえんだろ?おかしな話じゃねえか、そりゃ」
そう。おかしな話である。バカも『そうだそうだ』と頷いた。このおかしな状況のせいで、バカは10回、やり直しを足しているのである!やっぱりアレはちょっと、大変だった!
「次に謎なのは、『そもそも2周目以降、どのようにして燕は9番アルカナルームへ向かったのか』ということだな……。僕には分からないんだが、この施設自体にそういう仕掛けがある、というわけでは、なさそうだよな……?」
「そう、だね。……俺、これ以外にもいくつかデスゲームに参加したことがあるけれど、基本的に、施設自体に機能が隠されている場合、それは全部、ちゃんと探索したり推理したりすれば誰にでも使えるようになっている。そうじゃなきゃ、『ゲーム』じゃないからね」
「そうか……。となると、僕達が何か見落としている可能性も無くはないが……あまり考えなくてもいいか」
「うん。俺はそう思うよ。多分、悪魔としても、そこで死人が増えたり完全犯罪のトリックが成立しちゃったりするのは面白くない、っていうところじゃないかな」
バカは、ふんふん、と頷いた。どうやら、『エレベーターに隠しコマンドがある!』といったことは考えなくてもいいらしい。バカはそう考えつつ……『ところで、エレベーターがよく分かんねえ動き方したこと、1周目にもあったよなあ……』と、ふとぼんやり思い出した。
「そして……最後の謎だが、『むつさんと燕の異能』だ。どうも、前回の僕達は『人を眠らせる異能』と推測していたらしいが……」
「……まあ、そうとも限らないと思う。確かに、『人を眠らせる異能』なら、辻褄は合うんだけれど、それだと、1つ目と2つ目の謎は異能によるものじゃないことになるし……。それに、どうもやっぱり、燕の異能は『コピー』の類だと思われることだし」
そうしてバカ達は顔を見合わせ、頷き合った。
「……まあ、結局のところ、これらの謎は全て、一つながりなんだろうな」
海斗はそう言って、ちょっと笑う。
「考えてみよう。どれか1つでも分かったなら、きっと、全部が分かるだろうから」
……さあ。
バカには全く分からないであろう話の、始まりである……!




