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バカは静かに混乱していた。だが、それでも状況は変わらない。燕は居ないままだし、バカ含む9人の参加者達が顔を合わせることになり、そして、自己紹介が済んで、それぞれ、チーム分けしながら個室に入っていくことになり……。
「……樺島?どうした?」
「わ、わかんない……なんで、燕、いないんだ……?」
「は?」
……そして、何も事情を知らない海斗が、ぽかん、とした顔で首を傾げるのだった!
ということで。
「……そういう事情だったか。道理でなんだかお前の様子がおかしい、と思ったんだ。やれやれ……」
バカと海斗は『11』のアルカナルームの中に入って、でっかい剣を持っている像をタックルで破壊してからカードを拾い……そうして、今までのことを話した。その結果、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴り、発表フェイズに突入してしまった!バカの説明が下手なばっかりに!
だが仕方がない。このおかしな事態を前にして、バカは他にどうすることもできなかった。1周目と同じように行動したのに、1周目と同じようにならなかった、となったら……バカはもう、どうしていいのか分からないのである!
「僕はな、てっきり、『一周目』なんだろう、と思っていたんだぞ」
「な、なんで!?」
「お前が僕の部屋に突入してこなかったからだ」
海斗の呆れ顔を見つつ、バカは『なんで!?』となっているが、まあつまり、海斗は今回もその前も、ずっと『海斗にとって初めての回』をやっているのだ。ただ、そこにバカが唐突に現れて、『今、何周目!』と教えていくから、『ああ、今は何周目なのか』と分かるだけなのである。
つまり……もしバカが突入してこなかったなら、それは海斗にとっては『樺島が動かないということは、あいつも状況が分かっていないということで、つまり、これは一周目か』ということになるのである!
「俺、何か間違えちゃったのかなあ……。なんで、燕、出てこなかったんだろぉ……」
「……そう言われても、僕には何が何やら分からないんだが……まあ、推理できることは無いわけじゃない、か」
海斗は海斗で、バカがバカな分を一生懸命、考えてくれる。バカが齎した情報だけから推理するのは大変だろうが、それでも。
「まず……真っ先に考えられることがあるとすると、『お前が何か間違えた』ということだな」
「うん……」
海斗の推理一発目から、バカはちょっとしおしおしてしまった。やっぱり、バカはやらかしたのかもしれない!
「行動を完全に再現する、というのは難しいだろう。特に起床時間については、自分で制御しきれるものじゃないし……そもそも、お前の記憶が間違っていて、前回取った行動を再現できていない可能性もある」
「ありそう!」
バカは自分のバカさ加減を心の底から信じているので、これには大いに頷くしかない!バカはやらかしがち!それはそう!
だが、海斗はちょっと気まずそうな顔をして、ふう、とため息を吐いた。
「まあ……僕は、『そもそも、燕の行動はランダム』だという可能性も考えるべきだと思う」
「へ?」
海斗はそれからまたちょっと考えて、それから『よし』と頷いて、バカに問いかける。
「樺島は、『バタフライエフェクト』は知っているか?」
「ばたふりゃ……?」
「……知らないか。うん、いいんだ。ええと……」
バカが『ばたふりゃ……えふぇ……?』と頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべていると、海斗はちょっと額を押さえながら考えて、説明してくれた。
「『アマゾンで蝶が起こした羽ばたきが、いずれテキサスで竜巻を引き起こすかもしれない』というやつだ。ごくごく小さな変化が、その後、予想だにしないような大きな結果を引き起こすことがある、という……例えば、樺島。お前、朝食は何を食べた?」
「え?ご飯とみそ汁と卵焼き!あと鮭焼いたやつと、ほうれん草のおひたし!」
バカは朝食を思い出して、にっこりする。社食の朝食は、とても美味しい。特に、焼き鮭が絶品であった。先輩が手ずから仕込んだ塩鮭は、そこそこ容赦なく塩が入っているのだが、そのしょっぱめの鮭で白飯をばくばくと食べれば、鮭の旨味と米の甘味が塩味でまとまり、とっても幸せなのである!
「そうか。じゃあ……その鮭が、もう少ししょっぱかったら、もう一杯、ご飯のおかわりをしていたかもしれないよな?」
「うん!」
「となると……もし、お前が今日、デスゲームの解体業務に従事するのではなく、ただ休日を謳歌していた場合……出掛けて、その道中でコンビニに立ち寄って……普段のお前なら『小腹が空いているからソフトクリームを食べよう』となるところが、『お腹いっぱいだからまだ止めておこう』となるかもしれない」
バカは想像してみる。……海斗の話なので、想像しやすかった。バカは『ちょっとお腹空いたからソフトクリーム食べたい!』となることが大いにあるため、それもまた想像しやすかった。
「鮭のしょっぱさが少し違っただけで、お前はご飯を一杯余分におかわりするかもしれない。ご飯を一杯多く食べたお前は、空腹になるまでの時間が少し延びる。空腹にならなかったお前は、出かけた先でソフトクリームを食べなかった。……ソフトクリームを食べなかったことによって、お前の到着時刻が変わる」
そうして海斗の話につられて、バカの想像も続いていく。
「……そうして、待ち合わせ場所には、お前がやたら早く到着する。となると、僕は時間を潰すために書店に入らなくなる。結果、その日、書店で売れるはずだった本が一冊、売れなくなる。……と、まあ、そういう具合だ」
「ほええ……」
バカは心の底から感嘆した。なんというか、色々と腑に落ちたのだ。やっぱり海斗はすごい。バカは海斗にぱちぱちと拍手を送った!
「お前が一回寝がえりを打ったから燕が出てこなくなる、ということはまあ、一応、あり得ることだと思う。勿論、ここまで短い距離で短い時間だと、お前の寝返り一回で何かが決定的に変わるとも思い難いんだが……」
「そっかぁ……うーん、じゃあ、俺、何やっちゃったんだろうなあ……」
とはいえ、どうも、『バタフライエフェクト』が原因だとするには色々と難しいらしい。海斗もこの悩みようなので、バカには荷が重い話である!
「まあ、お前が特に自覚なく何かをやってしまった、ということなら、もうやり直してみてもいいんじゃないか?」
「えっ!?」
バカは、『えっ!?もう!?』とびっくりしたが、海斗は至って真剣に頷いた。
「『何か』があって、燕とむつさんが一緒に居ることになった、ということなら……その『何か』が起こるまでやり直せばいいということになるが」
「そ、そっかぁ……」
「……そして、お前の話を聞く限り、どうも、ここから先へ進むには、燕とむつさんの謎を解き明かすしかなさそうだからな……。なら、何度かやり直してみてもいいんじゃないかと思う」
バカは、『そうだよなあ、お手上げ、って前の海斗も言ってたもんなあ……』と納得した。
海斗がそう言うなら、なんだか早すぎる気もするが、バカはやり直してみるべきなのだろう……。
ということで、バカが発光し始めると。
「次回、もし開始した時に燕とむつさんが両方揃っていなかった場合、すぐやり直していい。それで、10回やってみて駄目だったら、その時はゲーム開始前にまた僕とデュオを集める、ということにしよう」
「うん!分かった!」
海斗はやっぱり、気が利くし頭がいい。『うっかりこのまま放っておくと1000回でも10000回でもやり直ししかねないからな……』とバカのバカさ加減を慮ってちゃんと方針を出してくれたのでバカも安心である。
「じゃあ、まあ、頑張れよ」
「うん!次は燕が出てくるようにがんばる!」
……ということで、バカはやり直しをしてから早々ではあるが、またやり直しをすることになったのであった!
そうしてバカは目を覚まし……かけたので、気合いでまた寝た!
多分、前回は起きるのが早すぎた!だったらなんとかして寝てやるのみ!
「ぐう!」
……ということで、非常に気合の入った二度寝に突入したバカであった。気合いと筋肉があれば二度寝だって余裕なのである!
が、完璧な二度寝を決め込んだバカであったが……いざ、エレベーターが動き、大広間に到着し、喜び勇んで個室の外に出てみれば……。
「……ああん!」
「ど、どうしたんだ樺島」
やっぱり!むつしかいない!勿論、中に燕が入っているむつだ!嗚呼!
「お、おい!本当にどうしたんだ樺島!」
「もっかいがんばる……」
「どういうことだ!?」
ということで、戸惑う海斗を見てちょっぴり寂しさを覚えつつ、バカはまた、やり直しをするのだった!
「……あんまり気合い入れちゃ駄目なのかなあ」
ということで、次のバカは、あんまり気合いを入れず、目が覚めてもベッドの上でゴロゴロしておくことにした。
ごろんごろんごろん、とやっていると、もしかすると、海斗のいうところの『バタフライエフェクト』が発生するかもしれない。バカの寝返りによって、燕の部屋に竜巻でも起こるかもしれないのだ……。
……ということで、そのままごろんごろんやりながら時間を潰したバカは、いざ、大広間に到着し……。
「やっぱりぃ!」
「な、なんだ樺島!何があった!?」
やっぱり中に燕が入っているむつしか居ないのでやり直しである!
「お、おい、樺島!樺島!?さては大分やり直しているんだな!?」
「うん!あと8回ぐらいはやり直すぅ!」
「そ、そうか!頑張れよ!」
発光し始めたバカを見て、海斗はものすごく困惑しながらも応援してくれた。なのでバカは、笑顔で海斗にガッツポーズをしてみせつつ、またやり直した!
またバカは目を覚ました。
「今回もダメだったらどうしよ……」
考えるとしょんぼりしてしまうが、ここはバカの頑張りどころ。頑張らないわけにはいかないので、バカはモニターを確認する。……今回もやっぱり、残り時間は75分程度である。お寝坊できていない!
「寝坊するためにはどうすりゃいいんだろうなあ……あっ、疲れてればいいのか!」
ということで、斜め右上方向の閃きを見せたバカは、早速その場で運動し始めた。
……勿論、やりすぎると個室がぶっ壊れかねないので、控えめに、おしとやかに。ということで、そんなことを気にするバカの運動は、極めて奇妙なものになったのだった……。
そうして運動またはふしぎな踊りで時間を潰したバカは、大広間に到着し……。
「ああーん!まただあ!」
「また!?お、おい樺島!お前、さては1回目じゃないな!?」
……バカは即座に発光した!もう嫌!
……次のバカは、『ちょっと運動したし、寝坊できたんじゃないかなあ』と思いながら、チラッ、と薄目でモニターを見てみた。
が!全く寝坊できていない!さっきと起床時刻が一緒である!バカの運動またはふしぎな踊りの意味は無かった!
「運動が!運動が足りねえんだ!もっと筋肉を!もっと筋肉を!うおおおおおおおお!」
ということで、至極真面目で真っ直ぐなバカは、間違った方向にも当然真っ直ぐであるので、全力で運動し始めた。
……その結果。
「あっやべ」
メキョイ!といい音がして、壁に穴を開けてしまった。
……バカは、壁に開けちゃった穴から、そっと天井裏の様子を見てみる。が、特に誰が居るでもない。ちょっと悲しいが、ほっとしたバカであった。
が、そんなバカの安堵空しく、大広間に付いたらやっぱりむつに入った燕しか居ないのであった!バカは即座に発光し、またもや海斗を困惑させるのであった!
「あんまり運動しちゃ駄目だよな……。ええと、最初と同じかんじに……最初と同じかんじに……」
さて。次のバカは、やっぱり初心に帰って『最初と同じかんじに』いくことにした。
初心忘れるべからず。このゲームが始まった時のバカは、この部屋の中をきょろきょろしたり、色々調べたりしていたではないか!もしかしたら、それこそがむつと燕の両方が揃うために必要なことなのかもしれないのだ!
バカは念入りにドアを調べたり、モニターをつついたり、ベッドをひっくり返したり、自分の異能の説明書をもっしゃもっしゃと食べてみたりしながら過ごし……そして。
「やっぱり!駄目だあああああ!うわああああああああん!」
「おい樺島ァ!光りながら泣くな!」
……また、駄目!
バカは発光しながら、泣いた!
流石のバカも、そろそろ心が折れそうだ!だがまだ5回目!海斗に決めてもらった方針に従い……あと5回くらいは頑張らなければならないのであった!無情!




