ゲームフェイズ2:天井裏2
そうしてバカによる『双子の乙女っていう悪魔がうちの社員食堂でバイトしてるんだけれど』という話が始まった。天井裏にはとっくに到着していたが、まずはこっちである。こっちの話が片付かないことには、燕もむつもないのである!
……何せ、四郎は気が気じゃなかったのだ!『娘が!?悪魔になってるだとぉ!?』と、それはそれは、大混乱であったのである!
人の親としては尤もなことであるが、自分の娘がまさか、悪魔になっているとは思わなかったらしい。
……が、その実、悪魔になってやっていることが『クイズを出そうとしたらモールス信号をやらされた』だの、『連れて行かれて鍋パに参加させられた』だの、『うっかりデスゲームの外に連れ出されて、そのまま旅に出ちゃった。尚、全国ミニストップ巡りだった模様』だの……挙句の果てに、『天使の社食でバイトしている』と来たら、もう、あんぐり開いた口も塞がらないというものである!
「そういう訳で、前のデスゲームの会場から連れてきちゃったからぁ……しばらくは2人で全国のミニストップ巡りしてたみたいなんだけどぉ……お金なくなっちゃったからって、今はうちでバイトしててぇ……」
「そ、そうかよ……おお……」
四郎も、始めこそ興奮と混乱に支配された様子であったが、今は最早、色々と通り越してしまって、『お、おお……』としか言えなくなってしまっている。
そして、それを横で聞いていたデュオは『そうか、あの時の悪魔、四郎さんの娘さんだったのか……』と、呆れ半分、感心半分くらいの顔で居たのだが……こちらも、一応は面識がある相手であるだけに、複雑な心境ではあるらしい。
とはいえ、デュオは四郎よりよっぽど、立ち直るのが早かったが。
「まあ……そういうことなら、四郎さんも『次』の話に前向きになってくれるかな。娘さんが生きていて、しかも、樺島君のところ……えーと、なんだっけ」
「キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部!」
「ああ、うん、それ……ええと、まあ、そこの社食でバイトしてる、となると、まあ、再会の目途が立っている、っていうことだから……」
「再会……」
デュオのとりなしに、四郎は何やら、深く考え込んだ。
「……ああ、いや、すまねえ、なんだか、こう、実感が、湧かなくて……」
「無理もないことだと思う。その、僕は完全に第三者だからな、何を言える立場でもないが……その、心中、お察しする」
四郎はどこか呆然としながらも、じわじわと嬉しそうに……そして同時に、もりもりと困惑しながら、視線を床に彷徨わせている。海斗は『まあ、受け入れるにもしばらくかかるだろう』と頷きながら、四郎の肩をそっと叩いた。
「だがまあ、そういう訳で……四郎さんについては、次回の冒頭、樺島が羽を出しながら『あなたの娘さんはうちの社食でバイトしています』と報告しに行くことになると思うんだが……」
「ま、待て待て待て。アレだな?『やり直し』の話だな?ならもうちょっと……その、もうちょっと考えさせてくれ!多分、俺はなんも知らねえ状況でいきなりそんなこと言われても、受け入れられねえぞ!?」
「そ、それもそうだな……」
海斗は、四郎の肩に置いていた手を、そっとひっこめた。四郎は四郎で、『ああああ……』と頭を抱え始めている!それはそう!
が、バカはバカなので、そんな四郎を見ていたら心配になってきてしまった。
「四郎のおっさん、大丈夫か……?俺、言わない方がよかったか……?」
「な、何言ってやがる!言わない方がよかった、なんてこたぁねえよ!」
四郎は、バカの言葉を聞いてすぐ、弾かれたように顔を上げた。
……そして。
「樺島、ありがとうな」
がし、と、バカの手が握られる。
「へ?え?あ、うん……?」
「こいつはきっと、お前が運んで、繋いでくれた縁だ。おかげで俺は……娘と、再会できるかもしれねえ。まさか娘が悪魔になってるなんざ、思わなかったが……それでもいい。あいつらが生きてて、会えるなら、何だっていい」
四郎はそう言うと、明るい明るい笑みを浮かべて見せてくれた。
「ま、色々と思うところはあるが、それはそれ、だ!今はとにかく、喜ぶしかねえよな!」
「……うん!よかった!」
四郎は笑ってそう言って、『今はさておき』を決めてくれたらしい。なので……バカとしても、『色々、この後も大変そうだよなあ』と思わないでもなかったのだが……今はただ、この不思議な状況を楽しみ、喜ぶことに決めたのだった!
万歳!
「……で、まあ、『やり直し』については……分かった。俺にとっても、利のある話だな。うん……」
そうして、一頻り喜んだあとで、四郎は難しい顔でそう頷いてくれた。
「娘が生きてて悪魔になってる、って話が分かった上でこのゲームの悪魔と話をした方がいい。その方が、俺にとっては大きな利になる」
「そうだね。俺もそう思うよ。その方が、悪魔から色々な情報を引き出しやすいだろうし……結果として、四郎さんも、俺達も、得をするだろうから」
デュオもそう言って頷くと、四郎も『だよな』と頷き……それから、む、と渋い顔をした。
「問題は、『駒井燕』が俺の娘達を奪ったのか、ってところだな。あー……その、どうも、今となってみると、アイツじゃなかったんじゃねえか、って気が、してきて、だな……」
……そうして、ちょっと冷静になってきたらしい四郎は、そう言って腕組みをした。
「あのガキ、見たところ『悪魔になってまだちょっとばかし』ってところだろ?昇格試験を受けられる程度には実績があるんだろうが……それにしたって、まだまだできることは限られるように見えるよな」
どうやら、四郎は燕について、色々と思うところがあるようだ。否、新たに思うところが生まれた、ということかもしれないが……。
「……そのことなんだが」
更に、そこで海斗がそっと、手を挙げた。
「その、『時系列』が気になっていて……それによっては、燕は本当に『悪魔になりたてほやほや』なのかもしれない」
「どういうことだ?時系列、ってのは……」
海斗の言葉を聞いた四郎は、首を傾げる。が、デュオは『ああ……まあ、そういうことか』と、何やら勘づいたように、鷹揚に頷いている。
「その、もしかしたら、この話は樺島には聞かせない方がいいかもしれない話なんだが……」
「えっ!?なんでェ!?」
が、バカには何も分からない!海斗が『バカには聞かせない方がいいかもしれない話』と言っていても、その意味が分からない!バカなので!
「……お前の『やり直し』は、どうやらお前がバカだから上手くいっているらしい、ということは知っているな?」
「うん!」
「だからだ」
「どういうことォ!?」
バカは『俺、バカだからわかんねえよぉ!』と頭を抱えて嘆いた!だが、それを見た海斗は『まだ世界は安泰だ』と、ぬるい笑みを浮かべて頷いた……。
「……まあ、この調子なら大丈夫だと思うよ。俺としても、『時系列』については早めに考察したかったから助かる」
「そうか。じゃあ……ええと、早速で悪いが……」
バカが置いてけぼりになっている中、海斗はちょっと咳払いをしてから、デュオに確認し始めた。
「デュオ。あなたは、僕達の時代から、10年ほど先の時代を生きているようだが」
「あー……そうだね。今、俺は29歳だよ。初めてデスゲームに参加した時から、10年が経過したところだ」
デュオがそう答えるのを聞いて、バカは『そっかぁ』とふんふん頷き……。
「そうか。じゃあ、七香さんとタヌキは……」
「俺の時代の人だよ。つまり、君達からしてみると、10年後の人達。……だから、『今』の樺島君や海斗君が探せば、この会場に居る状態から10歳年下のタヌキと七香さんが見つかるんじゃないかな……」
……バカは、おやっ、と思って、想像してみた。
年下の、七香。そして、年下の、タヌキ。
……想像してみたが、想像できない!不思議すぎる!バカは混乱した!
と、バカが混乱していると。
「それから、実はヤエさんについては、俺達とは別の時代を生きている人だっていうことがもう分かっていてね」
「えっ」
なんと。デュオは、既にそこらへんを確認していたらしい!すごい!
「それとなく、彼女が出た大会の年を聞いておいたんだ。そうしたら、まあ、俺にとっては10年前だったから。……ということは、五右衛門さんも、海斗君達と同じ時代から来ているんじゃないかな」
バカは、『よく分かんねえけどデュオはすごい!』ということだけ理解した。時系列だなんだという話には、全く理解が追い付いていない!
「……で、四郎さんは」
「あー……分かんねえが、まあ、娘の年齢と樺島の話を考えると、俺も樺島と同じ時代の人間だ、ってことになるんだろうな」
「そっか。なら丁度よかったね。このデスゲームを出たら、複雑なことは特に何も無いまま、樺島君の伝手で娘さん達に会えると思うよ」
デュオが『よかったね』と笑いかけると、四郎もちょっと笑って……『いや、でも、今更どんな顔して会えばいいんだ……?』と悩み始めてしまった。四郎も大変そうである。バカは他人事かつ理解が及んでいないことながら、『大変だなあ』と頷いた。
「……で、問題の燕とむつさんなんだけれど」
そうして、バカが置いてけぼりになり続けている中、デュオはいよいよ、本題に入ったらしい。
「……正直なところ、彼らもまた、樺島君と同じ時代から来ていると思うよ」
「そ、そうなのか!よく分かんねえけど!」
「うん。ほら、何せ、彼は『駒井つぐみの弟』だからね。……そういう年齢だったよね、彼。あと、むつさんも」
バカは思い出す。……燕の見た目は、まあ、海斗より年下に見えた。つまり、たまよりも年下。たまの弟として不思議の無い年齢である。
「むつさんが燕と同い年で幼馴染だ、っていうことなんだったら、まあ、彼女も、高校生くらいに見えたから……そうなると、彼ら2人も、樺島君の時代の人だよね」
「そ、そうなのかぁ!よく分かんねえけど!」
「……つまり、彼らも時を越えているわけじゃなさそうだ、ということ。だから、四郎さんの娘さんを攫った時、燕はまだ、悪魔になっていなかったと考えられる」
デュオはそう言って四郎に向き直ると、四郎は、『うーむ』と唸りつつ、眉間に皺を寄せた。
「ってえと、つまり……俺が殺さなきゃいけねえ悪魔は、燕じゃねえ、ってことか……?」
「そうだと思うよ。ついでに言うと、ルール説明には『悪魔が参加している』とは書いてあったけれど、四郎さんが知っている情報は、えーと……『四郎さんの娘さん達を奪った悪魔とこのゲームで会える』とかだっけ?」
「正確には、『このデスゲームは悪魔の昇格試験だ』ってこと、『このデスゲームを開催する奴が、俺の妻を殺し、娘を奪った悪魔だ』ってこと、だな……」
四郎はいよいよ、眉間の皺を深くしつつ、ため息を吐いた。
「……燕が悪魔の昇格試験に臨んでた、ってところは間違いねえんだろう。参加者としてやってるんだからな。だが、このデスゲーム自体は、燕がセッティングしたもんじゃねえ、ってことか……」
四郎のため息の中には、『俺は殺さなくていい奴を殺したのかもしれねえ』という後悔も含まれているのかもしれない。バカは、『元気出せよぉ』と四郎の肩をぽふんと叩いた。
「そうだと思うよ。じゃなきゃ、俺をわざわざ連れてこないと思う。……このデスゲーム、俺に『恋人の弟』を殺させるために開催したのかも」
が、更にデュオのそんな話が始まってしまったので、バカは、四郎の肩どころではなくなってしまった!
「今のところ、俺、デスゲームでは負けなしでね。だから、俺をここに、わざわざ時を越えて連れてきた、っていうことなら……『俺が燕を殺す』ってことを期待した悪魔が居てもおかしくなさそうだよね、って話」
「……趣味の悪い話だな」
「そりゃ、悪魔のデスゲームだからね」
デュオの話に、四郎の眉間の皺は更に更に、深くなってしまった!バカは、すっかり置いてけぼりになりつつ、『大変だ!』とあわあわ慌てている。……なので、海斗に『おちつけ』とやられてしまった。やられてしまったので、バカは落ち着いた!
「ということで……まあ、『時系列』はそんなところだと思う。イレギュラーなのは俺の方で……ついでに、このデスゲーム、俺のためにセッティングされてる気はするんだよね、っていうところで」
「成程な……。まあ、『天城』さんを絶望させて魂を食おうとしていたらしい悪魔の話を聞いている以上、僕としても、その案を否定する気は無い。恐らく、このデスゲームの『主人公』は……デュオ、あなたなんだろうな」
デュオと海斗の難しい話が一段落したらしいところで、バカは『話、終わったか!』と海斗に尋ねた。海斗は、『終わったぞ』と教えてくれたので、バカは元気に準備体操を始めた。
「じゃあ、早速探索だな!明かりがあるから楽だよな!」
探索となったら、バカの出番だ。バカにはここしか出番が無い。バカは自分の役割をよく理解しているバカなのだ!
「そうだね。けれどまあ……探索の前に、もうちょっと考えたいかな」
が、まだ考え事が続くらしい、と聞いて、バカはちょっとしょんぼりしてきてしまった!考え事だと、バカの出番じゃない!
「どこに『リプレイ』を使うか、だ。……結局、燕はあんまり情報をくれなかったからね。後は、俺達が考えるしかないみたいだ」
……が、『リプレイ』の話なら、バカは大いに興味がある。
だって……海斗の出番、ということだからだ!




