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05.思想つよつよおねえさん(5)

 ***


 そんな事があった翌日。

 何事も無かったかのように寧子の部屋へいつも通り迎えに来たエリアスと共に、研究室へ。いつものルーチンであるし、嫌そうな顔で寧子との世間話に付き合うエリアスも何ら変わりはない。


「おはようございます。体温計ですか? 採血ですか?」


 ここまでくると慣れたものである為、寧子は目の前の医者・アーディに気安くそう訊ねた。が、無味乾燥の彼は首を横に振る。


「連絡がある。……お前達にもだ」


 寧子、エリアス。そして双子の護衛であるイデリナとセオドア。

 双子は事情を知っているのか特にリアクションはない。一方で休み明けのエリアスはと言うと非常に更に眉間に皺を寄せ、不愉快を隠しもしていなかった。


「先生。俺は昨日、体調不良で休みを取っている。あまりハードな話はしないでいて貰いたいが?」

「では問題ないな。予定は3日後だからだ。このメンバーでプシュケー製薬の研究支部へ出張だ。大袈裟には言ったが、車で十分移動できる距離だがな」

「……ああ。成程ね」


 納得を示したエリアスは置いておいて、寧子はこの場にいない彼女についてアーディに尋ねた。


「フリアさんはいいんですか? 頼りになるので、いると安心するんですよね」

「彼女は非常に特殊な立場であり、こういった場に連れ回す事ができない。情報漏洩、コンプライアンス違反……理由は様々だが。あくまで『患者』である君と扱いが同じでないのは留意して貰いたい」

「そうなんですね。残念」

「残念……。残念か……。それは――フリアはその場に居なければ困る、と……?」


 珍しい事に、非常に歯切れも悪くアーディがそう訊ねた。

 途端に漂う不穏な空気。それはあからさまな物ではなかったが、それでもうっすらと肌で感じる程度には異なる温度感だった。

 なので当然、世話になっている身である寧子もまた緊張を以て問いに応じる。何が問題だったのかは分からないが――


「いやその、そんなに深刻な話ではないというか……。残念の部分は言葉の綾とか、社交辞令とか語彙力が無さすぎて他にコメントする言葉がなかっただけですけど……?」

「――そうか。それならばいい」


 ――それならいい、とか言える空気じゃなくない……?

 そうは思ったが、アーディ本人がいいと言っているのだから言及するのも野暮というものだろう。そんなにフリアと患者のセットはよろしくない話だったのか。

 実は廊下でおねえさんと立ち話しているのも、セラフ側から見れば勘弁してほしいとでも思っているのかもしれない。考えてみれば、危険なクリスタル・ダストを撒き散らす花とやらを持ち込んだ小娘と、小娘にそれを渡した不審者という組みあわせだ。

 はっきりとは言わないだけで、相当な迷惑をかけているはず。

 それらを加味すれば、こんな空気にもなる――のだろうか。


 ここで話題を逸らす為か、努めて明るい声音でイデリナが助手の如くアーディへと進言した。


「アーディ先生、プシュケーへ何をしに行くのかの説明がまだです!」


 ふむ、と少しばかり考える素振りを見せたアーディはたっぷり2拍置いたあと重々しく簡単な説明を加えた。


「プシュケー製薬の基本的なデータは自分で調べるように。必要であればエリアスに教えてもらうといい」

「俺? 人選ミスだが、それでも聞く度胸があるのなら好きにしろ、寧子」

「……。プシュケー製薬へ君を連れて行く理由は当然、0%という信じ難い数値のシンクロ値に関する連携と相談だ。毎朝、この部屋でやっている事を別の専門家にも情報提供し解決策を探す為に訪問する。現物がいた方が話がはやいから、君も同行するというそれだけの話だ」

「あっ、しっかり私に関する用事なんですね。ありがとうございます……」

「さて、すぐにとは言わないが何か分かるといいのだがね」


 アーディはやや遠い目をしている。現時点で解決策はまるで思い浮かばないのだろう。医者は大変である。


「もう一度言うが、出発は3日後だ。忘れないように」


 寧子と双子が返事する中、リアスだけが仏頂面で何事かを考えている様子だった。

 彼は彼で何かと気苦労が絶えない上、昨日は体調不良で帰ってしまった。今日は騒動を起こさぬよう、静かに過ごそう。


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