66話 その1
……やさしいです。……もふもふします。
体は優しいなにかに包まれていて、顔にはもふもふが乗っかっています。……すごいです。
「主様が起きましたね!」
「見てもらいます」
「……たくさん作る」
「……我も頑張りました」
「えへへー! 可愛すぎます!」
なんだかすぐ横から穏やかな声が聞こえてくるので、私は少し目を開けてみるのです。
……? なにも見えません。……そうでした。もふもふが乗っかっているのです。
そう気付いてしまった私は、またそのまま少しぼーっとしてから、顔の上に置いてあるもふもふをどかしてみました。すると、可愛い子たちと目が合いました。アヴィさんは優しく三人のことを撫でてくれているのです。
「……おはよう……ございます」
「おはようございます、主様! オル様も夜空様もルア様も、みんな朝から元気です!」
「……そうなんですね。……えらいです」
そう言いながら体を起こそうとすると、レンさんの腕が私のことを優しく抱き締めてくれていたので、私はそれを外して寝ているレンさんのほっぺにキスをしてみました。
そしてベッドから下りてみるのですけど、オルさんと夜空さんがもふもふを持って見せてきます。
「マスター、見てください」
「……作ってみた」
「そうなんですね。とってももふもふです」
お二人が作ったもふもふを触りながらそう言ってみると、ルアさんも小さなもふもふを持って私のことを見てきているのです。
「ルアさんも作ったんですか?」
「……はい、我も作りました」
「そうですか。いい子ですね」
そう言いながら優しく頭を撫でてみると、ルアさんも嬉しそうに微笑んでくれます。そのあとしっかりとオルさんと夜空さんの頭も撫でてあげてから、私は床にもたくさん落ちているもふもふを眺めつつ、アヴィさんの作ってくれた別空間の中に入っていきました。
「主様、起きたばかりなのに自ら来れて偉いです!」
「そんなことありません」
「――!? ほのぼの主様に否定されました! わーい! 我の栄養です!」
「……?」
よく分からないことを言うアヴィさんに首を傾げると、私はルアさんに話し掛けてみます。
「あの、ルアさん。今日は『終天剣エイル』と一緒に頑張ってもらいますね」
「分かりました。……オル、夜空、持っててください」
そう言ってお二人にもふもふを預けると、ルアさんは私の手を握ってきてから魔剣の姿に変わりました。今日はオルさんと夜空さんもやる気のようで、「私も戦います」「……頑張る」と言ってくれていたのですけど、お二人も一緒に戦ってくれると、あまり私の成長に繋がらないみたいなので、戦いには参加せずに応援しててもらうことになりました。
私はオルさんと夜空さんを少しギュッとしてから、ノエルさんの魔剣を出してアヴィさんに言ってみます。
「あの、今日はアヴィさんが補佐してくれるんですよね?」
「はい! 途中まで我が傍から指示して、主様を鍛え上げます! シャーロットには確実に勝てるようにしますよ!」
アヴィさんはそう言ってくれるのですけど、昨日はシャーロットさんの魔法を少し感じられるようになったくらいで、ほとんどなにも成長できていないのです。ホントに今日でシャーロットさんに勝てるようになるのでしょうか……?
そんなことを考えていると、アヴィさんはニコニコしながら言いました。
「――さあ始めますよ! オル様と夜空様は我が戻ってくるまで待っててくださいね!」
「はい、マスターを応援してます」
「……私も」
そう言うお二人は、アヴィさんにもふもふを頭の上に乗せてもらって喜んでいます。ルアさんも光を放ってもふもふを欲しがっているので、私は「ルアさんももふもふしてるので大丈夫です。ギュッとできます」とお話してみました。すると、ルアさんも『良かったです』と嬉しそうに答えてくれるのです。
そしてアヴィさんと一緒に少し離れたあとは、また今日も偽物のシャーロットさんを出してもらいました。
「これまで同様、理で流れを読んだり、時間停止結界を使うのも禁止です! 因みにですが、理は主様の体に負担があるから禁止してます! 基本的には我がその代わりを務めるので、主様も実戦では惜しまず使ってくださいね!」
「はい、そうします」
「――偉すぎます!! ではまず肩慣らしと行きましょうか! 始めは魔法の避け方からです!」
そんな感じでアヴィさんは、短い時間で今日も分かりやすく教えてくれるのでした。
〇
特訓を開始してすぐの頃は昨日と全然変わらなかったのですけど、アヴィさんの指示を聞いていたらかなりいい感じに戦えるようになってきて、最後の方では連勝できているのです。
「主様、もう一戦で終わりに……と言いたいところですが、もう十分勝てるようになったので、今日はここまでです!」
そう言ってもらえたので、私も少し頷くとアヴィさんの元に行ってみました。
「今日でより気配探知の重要性を分かったと思いますが、気配を感じられれば並大抵の理論対象外の魔法は対処できます! 魔法の発動自体は魔力密度の変化からも読み取れる部分ではあるので、慣れてくれば簡単に分かるようになりますよ!」
そんなことを言うアヴィさんに首を横に振ってみると、少しむぐぐとしてしまったのですけど、それでもアヴィさんはすぐにお話を続けてくれます。
「我との特訓はひとまず明日で最後です! なのでまた明日には、主様も今日とは見違えるほど成長してるはずですよ! 頑張りましょうね!」
「分かりました」
早起きして頑張るのは明日でとりあえず最後みたいですけど、その分アヴィさんに手を尽くしてもらいましたし、私もとっても成長できました。……ただ、それも今はいいのです。
人の姿に戻ったルアさんがギュッとしてきたので、『終天剣エイル』を仕舞ってたくさん撫でてみました。オルさんと夜空さんのことも抱き寄せてみるのですけど、時間が経ったからか既にもふもふはなくなっているみたいです。
「マスター、お腹が空きました」
「そうなんですね。私たちのことを待っててくれたんですか?」
「はい、待ってました」
「……私も。……たくさん待ってた」
「ふふっ、偉いです」
そう言ってみると、お二人が頑張ってくれたルアさんのことを撫で始めてくれたので、そのままアヴィさんと一緒に微笑みつつ寝室に戻ってみました。
……んと、こっちのもふもふもなくなってしまいましたね。
床を見ながらそう思っていると、レンさんが話し掛けてきます。
「今日もお疲れ様。特訓はどうだった?」
「いい感じでした。私、シャーロットさんのことを倒せるようになったんです」
「あー、そうなのか……?」
一応大会には出ていたのですけど、レンさんはシャーロットさんのことをあまり覚えていないみたいなので、私は「危険な方だったんです」と軽くお話しておきました。
そしてお腹が空いているのでみんなでダイニングに向かうと、まったりと美味しいごはんを食べ始めるのです。
「主様! これとこれをたくさん食べてくださいね!」
「えと、今日はアヴィさんも作ってくれたんですか?」
「はい! 主様が起きる前に作ってみました!」
「そうなんですね」




