65話 その10
「――ユノさん、僕は貴女に出会えて……新たに生きることの素晴らしさを見つけられました。……ユノさんなら、きっとどんなことでも成せるはずです。もし助けが必要なら……」
そこで言葉を止めると、シャルルさんは僅かに目を閉じてから、言いました。
「……ユノさんに救われたこの命を、全力で楽しませてもらいますね。――またいつか、会いましょう……」
「……シャルルさん」
私の言葉はどこか虚しく、……優しいシャルルさんに届いたはずです。……それでも、歩き去るシャルルさんのことを見つめていると、私の体から不思議な印が宙に出てきて、それが静かに消えていきました。シャルルさんの刻印の力は、たしかに私の命を守ってくれました……。
「――シャルルさん、ありがとうございます! 私も、シャルルさんに出会えて良かったです!」
そう精一杯伝えてみると、シャルルさんも静かに頷いてくれたような気がします。……涙で視界が歪んでしまいますけど、別に最後のお別れではないのです。……そんな雰囲気をシャルルさんから感じただけで、きっと違うはずです。
そう悲しんでいると、少ししてからアヴィさんが来てくれました。
「――主様ぁ! 我は待ちくたびれましたよ!」
「……そうですか」
「なんですかこの可愛い主様は!! ――悲しみ主様です!! やったあ!!」
私のことを見ただけで喜んでくるアヴィさんは、ギュッとしてきたあとに言うのです。
「主様、こいつらはもう直目を覚ますので、軽く契約を結んでおきました! いつも通り退学にさせればいいんですよね!?」
「……はい、そうです」
「なら任せてくださいね!」
そう言うと、アヴィさんは自分の分身を作り出しました。ただ、特になにかするわけでもなく、魔力を流して三人を一斉に起こします。
「おい、凡人共! 魔法具を全て出せ!」
そう言われると、三人とも言われるがままに魔法具を出すのですが、セスオさんが周りを見て言うのです。
「――醜い……! 実に醜いッ!! なぜ幹部の貴女がいながら、こんな畜生共に負けたんだッ!!」
「黄昏が沈み、夜が来る」
「どういうことだ!? 普通じゃねぇか!? クソッ! 俺はまだ……終わらねぇぜ……!」
「うるさいです」
「――なにぃッ……!!」
「まったく、俺も同意見だ」
「あなたも静かにしてください」
「チッ……」
全体的に無駄な会話の多い方々ですけど、アヴィさんが魔法具を壊してくれたので、一応質問だけしておきます。
「あなたの名前を教えてください」
そう言ってみると、女の人はどこか遠くを見つめたまま答えます。
「私はグレイス・トラントゥール。屍の宿屋の店主だよ」
なんとなく適当なことを言ってるだけみたいなので、私はそれは無視しておくのです。ただ、グレイスさんということは、やっぱりかなり不思議な方みたいです。
……たしか、全ての大会に参加しているにも関わらず、試合だけでなく、開会式や閉会式にも参加していない方でしたよね。……なにを目的としていたのか分かりませんけど、『集い』で幹部と言われる方なら、なにをしてもおかしくはありません。
そういうことなので、さらに質問を続けてみます。
「グレイスさんは、『集い』の幹部なんですか?」
「雨が降れば、きっと仲間が増えるだろうね」
「……? アヴィさん? 強制契約はどうしたんですか?」
「――そんなぁ、我は悪くありません! グレイスの中では今の答えが一番正しいものなんですよ! つまり、デフォルトがメシアの人間たちと同じように、通常の理解から外れているんです!」
「……そうでしたか。なら仕方ありませんね」
「因みにグレイスの代わりに答えておきますが、今日ここで襲撃を行ってきたのは、今朝ユッカが主様を誘うのを近くで聞いていたからです!」
「そうなんですね」
一応気になっていたことだったので、アヴィさんが気付いてくれていて助かりました。……ということなので、私は最後に質問しておきます。
「皆さんがこれまでに殺害してきた方の人数を教えてください」
そう言ってみると、アヴィさんは「それ聞く必要ありますか!?」と言っていたのですけど、私は頷いておきました。
「まあいいさ、答えてあげるよ。俺は千三百八十人だ」
「俺はその二倍か。正確に数えていないが、もう二千七百は超えたはずだ」
「仮初はいつでも地より光を映す」
「……はあ、もういいです」
「――可愛い!! 全部我のです!!」
元気に喜ぶアヴィさんは、私の頭をたくさん撫でてきます。そして「もう質問はありませんね?」と聞いてきたので、それにも頷いてみました。すると、次の瞬間には学院の寮の中、私たちの部屋の玄関に転移しているのです。
「……アヴィさん、もう帰ってきてしまいました」
「そうですね! 褒めてください!」
「えと、アヴィさんは偉いです」
そんな感じで撫でてあげると、アヴィさんはニコニコしたままとても大事なことを言ってきました。
「えへへー! 主様、我が見たかぎり『集い』の人間はもう学院にはいませんよ!」
「――? ホントですか?」
「はい! この先増える可能性が僅かにあるとしても、今はたしかにいないはずです!」
「……そうですか。……ようやく、終わったんですね」
なんだか急にですけど、『集い』と『教団』のことが同じ日に……それもこんなに早く終わらせられるとは思いませんでした。シャルルさんの口振りからしても、『教団』にはもう一人いるみたいですけど、きっと変な方ではないはずです。
「アヴィさん? 女性で『教団』の方がいるみたいですけど、誰か分かりますか?」
「はい、分かりますよ!」
「誰ですか?」
「それは秘密にしておきますね!」
「……ダメです」
「なら言ってしまいますよ!? ホントに本人から聞かなくていいんですか!?」
「……やっぱり聞かないでおきます」
なんとなく違う気がしたので、そう言って私は靴を脱いでみました。レンさんはまだ帰ってきていないみたいなので、私は寝室に入ると早速ベッドにぽすっと飛び込んでみます。
……ん~、……もふもふです。
たくさんムギュっとして楽しんでいると、可愛いオルさんと夜空さんが出てきました。そして私の上に乗って遊び始めるので、聞いてみるのです。
「ルアさんは寝ているんですか?」
「はい、すやすやしてます」
「……マスターが無事で安心してた」
「ふふっ、そうなんですね」
私はそう言って微笑むと、お二人には一度下りてもらって魔法を唱えます。
「空間収納魔法」
そう詠唱すると、すぐに収納魔法の空間に繋がる入口ができました。そして可愛いお二人とアヴィさんと一緒に中に入ってみると、前来た時とは少し変わっています。
「見てください。ふわふわです」
そう言うオルさんは、夜空さんと一緒にぱたぱたと歩いていき、床に転がるクッションを見せてきます。
「すごいですね。ふわふわがたくさんあります」
どうやらアヴィさんに作ってもらったみたいで、部屋の中にふわふわなクッションがたくさん置かれているのです。




