プロローグ 驚き
初めての作品投稿です。
少しずつ書こうと思います。
よろしくお願いします!
ある男が浮遊感に包まれ、夢から覚めた。
ゆっくりと意識が浮上し、視界が鮮明になってくる。思考には霞がかかり、体は石のように重たくびくともしないが、どうやら木の上から森を見下ろしているようだ。
あぁなんだ、いつもの夢か。
稀に見る不思議な夢。それは総じて予知夢と呼ばれる内容のものだった。
そこはよく見知った地下迷宮。地下に無いはずの空には、数えきれない星が輝き視界を覆い尽くしていた。月の光は木々の間を縫って森を照らし、地表はキラキラと反射している。雨が降ったわけでも、水辺があるわけでもなく、広大な森の一角に不自然に点在する赤黒い水溜まり。その中央に立つのは見知らぬ人。いや、子供だった。
地面から複数の呻きが湧き出した。
「…、なんて神々しい。」
「し、しし…白い、悪魔…。」
「あぁ、終わりだ…。」
月光に透けた純白の前髪が風にさらわれ、後ろに編まれた長い髪も光を纏って靡いている。少し俯いた顔には影が落ち、表情は窺えない。しかし、不自然に輝く大小2対の瞳だけが強く印象に残る。
あるものには聖画のような神々しさと幸福感を与え、あるものには己の魂を刈りに来た死神を前にした恐怖を与えた。ただ、それを目にした者に共通するのは、指一本動かすことができないこと。
森は沈黙し、立っているのは異様に白い子供のみ。周囲には腰を抜かして震える者、地面に這いつくばる者、気を失って倒れている者、両手では足りない人数が転がり血溜まりを作っている。
なんて美しい。
普通なら血生臭い光景が、柔らかな光と舞う木の葉に包まれ幻想的に見える。
「…面倒事は避けたいけど、ここで逃した方が手間だ。」
風に乗って不機嫌な声が響くと、子供がその金色の瞳を細めて片手を挙げた。
そして、そこで夢は途絶えた。
◇
大陸中央に位置するグラディリス王国の王都は、大きく貴族街と平民街に二分されている。貴族街に入れる平民は、特別な許可印を持つ商家や貴族に招かれた者に限られており、隔てる門には厳重な警備体制が敷かれている。街を分断する壁は分厚く背の高い石壁で、通行には騎士団の管理する門を通過しなければならない。
数箇所設けられた門のひとつ、「赤の門」から目と鼻の先にあるアーデルベリア子爵の屋敷では、長男の誕生を祝う席が設けられ、家族全員で食事を囲んでいた。
10歳までは神の子とされ、真に魂を授かる10歳まで誕生日を祝う習慣はない。生まれてすぐに教会で神に拝謁し、幼子の守護を授かる。10歳になると洗礼で守護を返上し、人の子として魂を授かったことを盛大に祝うのである。
そんな祝いの席の主役である僕、アライアスレン・アーデルベリアは今日10歳になった。
子爵位を持つ父ライド・アーデルベリア子爵の唯一の男児である。
長いテーブルの短辺に座った父は、柔らかな黄味を帯びたブロンドの短髪を後ろに流し、切れ長で空色の涼やかな印象を与える瞳で家族を見渡している。身長は180cmを越える程で、その体格と感情の読み取りにくい話し方から、怖いと言われがちだが、使用人に対しても横暴な態度を取ることはなく、家族に対して特段厳しいということもない。小都市を管理する役目を受けており、通常は王都から離れ、管理する土地で生活している。
普段王都のこの屋敷に住んでいるのは、美人で柔らかな笑みを浮かべる母フィリアネラ、年頃の姉3人、僕、6歳の妹サラスティアだ。
女性5人に囲まれる毎日は、とても賑やかで、しかし気を遣うものだ。
とにかく隙あらば誉める。これに尽きる。
常に些細な変化の見落としも許されない。なんて面倒なんだろう。しかし、姉達の機嫌を損なう方が後々大変な労力を消費する。
これは、基本的にものぐさな僕に、生活の中で身についた防衛能力のようなものだ。その甲斐あってか、姉たちに可愛がられ、妹にはすこぶる慕われている。
しかし、母に関しては微かに心の壁を感じることがある。物心ついた時からずっと疑問に思っていたけれど、僕に対してだけ何かが違うのだ。
そしてその原因は、どうやら僕にあったらしい。
10歳の誕生日の今日、僕が父と母の子どもではないと知らされた。
お読みいただきありがとうございます。
大きく話が動くのは第6,7話あたりからになると思います。
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