Sweat (汗)
「そしたら、ここは危険だからアリスの傍にいてくれって……狩りの時間だって」
「あら。そうなの……私は今、さっきぶつかった少女を探しているの」
ガタンッと、ローカル線が発進した。
「ええ、そんなことはわかるわよ。この駅の車掌に兄のケビンがいるから聞いたのよ。きっと、その少女はヒルズタウンの観光名所に行こうとしているんじゃないかって」
「うん。それなら、きっと景色が良い窓際にいるわね」
アリスはシンクレアの話から推理した。
観光目当てなら景色を見るはずだし、それならば窓際にいるはずだ。
「あら?」
一人だけ真っ白な顔の男がアリスへと音もなく近づいてくる。不思議な事にその男の周りだけこのすし詰め状態の中で乗客がいなかった。いや、円を描くようにその男の周りに人が入れない空間があるのだ。と、突然。
黒き巨大な馬がローカル線の床を突き抜けて現れた。
男は馬に乗ると「その時がもうすぐ来るんだ」と言い残し、電車の窓を突き破り飛び立った。
電車の床は無事だった。どうやら、黒い馬は幽霊のようにあるいはモートのように床を通り抜けたのだろう。だが、車窓は別だった。大きな穴が空き。人々が幾人か外へと落ちていく。それと同時に凄まじい吹雪が車内で荒れくるった。
アリスとシンクレアは悲鳴を上げうずくまった。
「そんなに大きな悲鳴を出さないでください……もう大丈夫ですから」
屈んでいるアリスの肩に誰かが手を置いた。振り向くとオーゼムが一人立っていた。オーゼムの周りにも混雑時の人々は近づけないかのように寄ってこない。そこだけが人の波は来ないのだ。
大きく破れた車窓から逃げ出した人々の波を気にせずに、オーゼムは窓の外へ目をやった。
「もう、大丈夫です。これなら怪我人もいませんね。さて、お嬢さんたち聖痕を持つ少女のところへと行きましょう。そこならもう安全です。何故ならモートくんが先頭車両でゾンビたちを狩っていますので、こちらには寄ってこないのですよ」
屈んで震えていたアリスとシンクレアはホッとして、いつもの表情を取り戻した。
―――
モートは先頭車両で車内一杯のゾンビを狩っていた。
まるで溢れかえるように、皮が剥がれていたり、引きちぎられたりと、真っ黒な身体をしたゾンビが襲ってくるのだ。ある者は腐乱死体。ある者はつい最近まで人間だったかのような白い肌が見え隠れしている。
車窓の外は大雪が血の雨と変わりつつあった。
どうやら、ゾンビは電車に轢かれて死亡した人達なのだろうと、モートは考えた。その証拠にここセントラル駅の近くの共同墓地には、大きな穴が空いた中身のない墓が散乱していた。
ゾンビは墓からも来る。
至って単純なことだった。
だが、モートはそのことに気がついていたのだ。
腐臭で満杯になった車内で、モートは車窓の方へ一時首を向けた。血の雨によって、真っ赤になりだしたそれぞれの車窓を眺めて、少し焦った銀の大鎌を握り直した。
モートは、瞬間的に上方を真横に狩った。五体のゾンビの首が吹っ飛ぶ。
それからモートはそのまま銀の大鎌を斜めに降ろし、三体のゾンビの腹を右肩から裂いていった。
溢れかえるゾンビも徐々にその数が減って来ていた。
モートは額に浮いた汗を片腕で拭うと、このローカル線の運転手に手を振った。今までモートとオーゼムがこっそりと電車を停車しないでくれとお願いしていたのだ。
電車が止まれば、停車した場所の周囲にゾンビが溢れてしまうからだ。
自由を得たゾンビはやはり生命には危険だと思えた。
と、車内の連結部分のドアが開閉の音を発した。




