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Greed (強欲)

Greed 2


 ヘレンの今日は滞在中のホテルからクリフタウンへと足を向けることにした。軽くジョギングをして朝食を取り。聖パッセンジャーピジョン大学付属古代図書館の館長と今日の予定を電話で話し、昼食を取ると地図と荷物を持ち出して部屋に鍵を掛けた。

 昨日のジョンの話では、例のグリモワールを借りた人がクリフタウンにいるようだった。その人の仕事は、とあるパン屋だとわかった。

 パン屋の名は「グリーンピース・アンド・スコーン」だ。

 停留所で、エンストをしょっちゅう起こす路面バスには、辟易しているが、ヘレンは早めにクリフタウンへ行きたかった。


 どうしても、忙しい時間帯を避けて閉店時間を過ぎる頃を狙いたかった。

 数十ブロックも先のパン屋まで、辛抱しさえすればそれでいいのだ。

 冬物のブーツを履いていたことに、すぐに後悔した。

 ホワイト・シティではよくあることだが。

 靴の湿り気が、この上なく気になって来たのだ。

 停留所で少し足踏みして待った。

 七つの大罪の記されたグリモワールとは? 本当はグリンピース・アンド・スコーンの誰が持ってきたのだろう? 危険は無いにこしたことはないが。ヘレンは何故か胸騒ぎが治まらなかった。

 雪を被ったバスがノロノロとウエストタウン方面から走って来た。

 ヘレンは瞬時に、モートの警戒した横顔を思い浮かべたが、頭を軽く振ってしっかりとした足取りでバスに乗った。

 滞在しているヒルズタウンのホテルからクリフタウンへと行く途中。バスは周囲の車の流れの中。ノロノロと走るので、ヘレンは居眠りしそうになっていた。

 眠気覚ましに何気なく乗客の声に耳を傾ける。

「なあ、前に話したっけ? 俺がいつも行くパン屋で、不思議と早朝にはドアには決まって蜘蛛の糸が張り巡らされているんだよ。何だか、掃除はもっと早くしないとだよなー」

「ああ、確か聞いたな。その話。あそこのパン屋は美味くて評判なんだがな」

 ヘレンの斜め後ろの席からの会話だ。

「グリーンピース・アンド・スコーンって言ったら、ここ最近は店の売り上げがめっぽう大きくなったって噂を聞いたぜ」

「ああ。今度、俺も立ち寄ってみようかな」

 ヘレンはその時。何とも言えない奇妙な感覚に襲われた。けれども、数分後には、バスに揺られているうちに、その感覚を完全に忘れてしまっていた。

 道中、バスがエンストを六回ほどしてヘレンがうんざりしていると、商店街の中にある「グリンピース・アンド・スコーン」の大きなお店の看板が見えて来た。バスの停留所からヘレンは降りると、商店街の空を覆う天幕に助けられて、乾いたブーツを鳴らしながら、人混みの中で店まで歩いて行った。

 今の時間帯は商店街は人が疎らで、天幕にたまに覗ける穴からは、空には白い月が見え隠れしていた。

 時計を見ると18時だった。

 ヘレンはモートの狩りの日は、いつも白い月が空に浮かぶことを思い出し。心強く思った。「グリーンピース・アンド・スコーン」の正面ドアを開けると、店の人は誰もが陽気な歌を歌うかのような明るい男たちだった。

 こんな時間でもレジに並ぶ人々が大勢いる。

 ヘレンは店の一人に尋ねた。

 ジョン・ムーアから聞いた男の名を……。


 Greed 3


19時30分。

 モートとオーゼムは閉店時間を30分過ぎた「グリーンピース・アンド・スコーン」の店の前にいた。空は美しい白い月が天幕の隙間から輝きを増していた。 

「狩りの時間だ……」

 モートはそう言うと、隣のオーゼムを置いて店に走り出した。

 

Greed 4


「一体! 誰の差し金なんだ!」

 ヘレンは銃を持った男たちによって、地下のパン粉が床に広がった一室で拘束されていた。身動きができないほど、多くの銃が向けられていた。

 その中にはリボルバーやトンプソンマシンガンなどもある。

「知らないわ! ただ、私はグリモワールを図書館へ返してほしいだけなの! 落ち着いて! 本の行方と共にジョン・ムーアという人から聞いただけなの!」

「ギルズのボスの名を知っている奴は、サツか対抗組織の差し金しかいねえんだよ!」

 別の一人が吠えた。

「もう撃ってしまおう! 誰だかわかんねえがその方が早いぜ!」

 ヘレンはただ混乱する心を落ち着かせるようにして、ギュッと目を閉じた。

 瞬間、パーンという破裂音が数発した。

 ヘレンはその轟音に耳を塞いで、うずくまった。

 けれども、ヘレンは痛みもなく。身体に異常は全くなかったように思えた。

 その銃声に、何が起きたのかと恐る恐るゆっくりと目を開けて見上げてみると、視界には首なしの死体が大勢突っ立っていた。

「モート……!?」

 男たちの弾丸はあらぬ方向へと発射されていた。ヘレンの立つ部屋の中央からはほど遠い。後ろの天井近くの壁に複数の弾丸による穴が空いていた。

「ヘレン。もう、大丈夫だよ」

 目の前には、おびただしい血のりのついた銀の大鎌を持ったモートが静かに立っていた。

 ヘレンは感極まってモートに抱き着いた。

「……ああ……モート……」

「あれ? ヘレン? この連中の親玉はここにはいないのかい? あの男たちから何か聞いているかい? 黒い魂が一つ足りないんだ……」

 ヘレンも首なしの男たちのライトに照らされた周囲を見回しては、親玉であるギルズはいなかったと答えた。


 それを聞いて、がっかりとしたモートにヘレンは連れられ部屋の外へと出た。床一面に積もったパン粉には、恐ろしいまでの量の血のりが付着し、突っ立っている死体はそのままにした。

 鉄筋コンクリートの壁が連なる通路をつたうかのように、地下から外へと出ようとしていたヘレンは、何か奇妙な感覚を覚え壁に空いた穴を発見した。穴は深く。深い闇だった。そして、遥か下方へと続いている。

さすがに怖くなってヘレンは傍のモートに聞いてみることにした。

「モート。ここは地下一階だけど……まだ更に地下があるみたい……そこには……きっと……」

「ギルズか?」

 すぐさまモートは大鎌を持ち直し、鉄骨の間にあるその穴を奥へと歩きだして行った。

 ヘレンには遠い声でオーゼムを探してくれとだけ言った。

 ヘレンは奇妙な感覚を持ちながら、オーゼムという人物を探しに一階への階段を探した。


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